今と未来を想像し、思いを馳せて 東京芸術劇場「カノン」野上絹代×中島広稀×さとうほなみ 座談会

2020年3月に上演予定だった「カノン」が、1年半の時を経て、いよいよ幕を開ける。2000年にNODA・MAPで初演された「カノン」は、浅間山荘事件をモチーフにした野田秀樹の戯曲で、2015年には演劇系大学共同制作の企画で、学生キャストにより上演された。その演出を手がけたのが野上絹代だ。同公演の好評を受けて2020年、新たなキャストで上演予定だったが、新型コロナウイルスの影響で惜しくも中止に。今回、満を持しての上演となる。

7月下旬、ステージナタリーではキャストの中島広稀とさとうほなみ、そして野上の座談会を実施した。3人は前回のインタビュー(参照:「カノン」野上絹代×渡辺いっけい 対談 / キャスト座談会)を思い出しながら、作品やカンパニーに対する思いを率直に語ってくれた。

取材・文 / 熊井玲撮影 / 川野結李歌

覚悟はしていたけど…ショックだった1年半前の“中止”

──前回は、初日目前で公演中止が決定し、1回だけ無観客で舞台リハーサルが行われました。当時、どのような思いで中止を受け止め、この1年半をどのような気持ちで過ごしてきましたか?

野上絹代 一生懸命稽古して、順調に作品を作り上げていましたが、情勢が情勢だったので、いつ「中止」と言われてもおかしくないなと思っていました。でも実際にそうと決まると、想像していたよりもずっと重く、ズシンとくるものがあって。5年くらい前に上演のお話があり、以来、私はずっと気持ちを温めてきましたから、やっぱりとてもショックでしたね。ただ1回だけ舞台リハーサルをやることになり、中止とわかっていながらも面白いものを作りたくて引き裂かれそうな思いになりながら(笑)、ギリギリまでスタッフと激論を交わして作ったので、結果的にとても良いものができあがったと思います。

それからこの1年半の間に考えたのは、演劇をすること自体が当たり前のことじゃないんだなということ。「じゃあ、自分はどういう気持ちを大切にして舞台を作っていこうか」と考えたとき、こんなふうにみんなで脳みそを突き合わせて話し合いながら1つの舞台を作るなんて、演劇って最高に効率が悪い(笑)っていうことと、それでもなくならない唯一無二のメディアなんだなと思い至って。私はその良さを大事に、舞台を作っていこうと思いました。

左から野上絹代、さとうほなみ、中島広稀。

中島広稀 前回、稽古中からコロナウイルスが流行し始めて、最悪のことを考えてなかったわけではないですが、やはり公演中止となってしまって……。ただ1回だけ舞台リハーサルをやれることになったので、そこで完全燃焼しようと思って臨みました。終わったあと1週間くらいは無気力というか、何も考えない時間があって。でもその後、わりと早い段階で再演をやるという連絡をいただいて、それからは、この作品をどれだけ良くしていけるか、どれだけ違うことができるかをずっと考えていました。

さとうほなみ 本番の数カ月前からフィジカルのお稽古などもやっていたので、結局半年間くらいみんなと一緒にいて、そのまま稽古をやり切ったところで中止が決まって。当時はまだ、中止になる公演がそれほど多くはなかったので、「意外とできるんじゃないかな」と思っていた部分もあり、だから余計にショックが大きかったですね。舞台リハーサルが1回でもできたことはすごく大きかったんですけど、それが終わったあと本当にぽっかり穴が開いてしまって、とりあえず、腹いせに髪を赤く染めてみました。

野上 あははは! あれは腹いせだったんだ? おしゃれだなあと思ってたけど。

さとう 悔しくて!(笑) でも再演すると聞いて絶対にやりたいと思ったし、実際に決まったときには1週間くらい夢に見ました(笑)。どこをどうすれば、さらに良い舞台になるかなって。

「ただいま」という気持ちに

──前回の稽古は非常に活気に満ちていて、お互いがお互いを刺激し合い高め合うような、充実した稽古場でした(参照:稽古場にポジティブな風、カンパニーが一丸となり挑む野上絹代演出「カノン」)。前回と同じメンバーが稽古場に集まって、どんなことを感じましたか?

野上絹代

野上 私自身は、前回よりも良いものを作ろう、面白くしようと思って、新たな気持ちで稽古場に来てますけど、アップとかをしながらみんなの様子を見ていると、「ああ、この人、前もこんなことしてたな」「この人のこの動き、見覚えある!」って、それぞれが持っている個性や強いくせをすごく懐かしく感じて(笑)。そういう部分は今回も大事にしていきたいなと思います。稽古場の雰囲気も、1年半経ってはいるけれど、ジワッと戻ってくるというか。「そうそう、これこれ!」って思いましたね。

中島 なぜかわからないんですけど、今回の稽古前はとても不安な気持ちでいて。でも稽古が始まったら、あれは何だったんだろう?ってくらいの安心感がすぐ戻ってきました。盗賊のメンバーが全員集合したときにも、しっくりくる感じがしてすごくうれしかったです。

さとう 1年半ぶりで久しぶりなんですけど、そんな感じがしなかったです。ただ初日の顔合わせでは私、人見知りしちゃってみんなの顔が見られなくて(笑)。2日目でようやく「ただいま」って気持ちになりました。

「貫禄つきました?」「変わりませんね」

中島広稀

──本作では、牢番の太郎が盗賊のお頭・沙金と出会うことで成長し、沙金もまた、人生の大きなターニングポイントを迎える様が描かれます。昨年は、お二人の稽古場での変化がそのまま役人物と重なり、作品の奥行きを広げているように感じましたが、今回再び役に向き合って、改めて感じたことはありますか?

中島 太郎という役は、愚直でまっすぐな男なんですが、前回はそれを体現することでいっぱいいっぱいになってしまって。頭を使わず、生き方で太郎になろうとしていたところがあったんです。でもこの1年半で、もう少し客観的に太郎を見られるようになって、今回はもう少し頭を使って太郎になろうと思っています。

野上 体当たりだったんだねえ(笑)。

さとう 面白い(笑)。

中島 稽古以外でも太郎でいようとしてたんですよね。今考えるとちょっとおかしいんですけど(笑)。

一同 あははは!

さとう 沙金はパワーワードを持っている女で、盗賊のお頭だし、発言力があるし、色仕掛けもするし、基本的にどっしりしていないと、という先入観を持っていたんです。でも沙金も人間だし女だし……ということをこの1年半で考えるようになって。今回は、沙金が自分を繕っているところとか、ちょっと垣間見える人間臭さみたいなものが出せたらいいなと思っています。

さとうほなみ

──中島さんとさとうさん、お互いの印象で変わったところは?

さとう あの……貫禄つきましたよね?

中島 ついた?

さとう 太郎役を演じてるときは思わないんだけど、中島くんという人自体に貫禄がついたなって

中島 初めて言われました(笑)。

一同 あははは!

中島 (さとうのほうを見て)良い意味で、全然変わらないですよね。オーラというか、人間性が前も今も変わらずあります。

さとう (小さくペコリ)


2021年8月26日更新