Bunkamura 30周年 | 堤真一×ジョナサン・マンビィが語る「民衆の敵」 / 三浦春馬×フィリップ・ブリーンが語る「罪と罰」|今、シアターコクーンだからできること

2019年1月から2月にかけて上演される「罪と罰」で、2度目のタッグを組む三浦春馬とフィリップ・ブリーン。ドストエフスキーの長編小説を原作に、ブリーン自身が上演台本と演出を手がける本作は、自身を“特別な人間”と信じて殺人を犯す、頭脳明晰な貧乏青年ラスコリニコフを軸とした物語だ。10月下旬、稽古開始を控える2人がメールにて、作品への思いと互いの心境を明かした。

mail to… 三浦春馬×フィリップ・ブリーン
三浦春馬×フィリップ・ブリーン

三浦春馬ブリーンさん、稽古の初日まであと1カ月となり、得体の知れない不安と焦燥感がまとわりつき始めました。

フィリップ・ブリーン春馬さん、私もです。しかも私は日本で7週間も暮さなければならないのです!

緊張や不安は自然なことですが、それも何かに役立つものではありません。
お客様は、プロフェッショナルな俳優が非常に難しいことをしている、その姿を観に来るのです。だからお金を払ってチケットを買うのです。
例えば腕を痛めてお医者さんに行ったとき、お医者さんに「ああどうすればいいかわからない! 医学部でもっと勉強しておけばよかった!」なんてパニックを起こしてほしくないですよね。
お医者さんには、これまで訓練してきた通り、落ち着いて仕事してもらい、ただシンプルに「腕が折れていますね。専門の病院に行きなさい」と言ってもらいたいですよね。
春馬さんがしなければならないことも、それと同じ。白衣を羽織り、シンプルに、でも効果的に、鍛錬してきたことを行うだけです。
ただ、作品の中では、たくさんの人たちに頼ることができる、と覚えていてください。私達はみんなで一緒に、舞台に臨むのです。あなたは決して1人ではありません。誰も1人ではありません。
焦りについては、どうすることもできません。ただ“今、ここ”にいることです。すべての可能性がオープンな、この“今”という時間を楽しんでください。そうすればすべての可能性がいつでも開かれていることが分かるでしょう。

三浦春馬最近、とある俳優さんからこんなアドバイスを頂きました。「『罪と罰』の中で感じ取れる宗教観念を勉強するのもいいが、観客はあくまでも日本人なので、知識にとらわれ過ぎず、自分のセリフを大切にしてあげること、集中力を高めること、瞬発力を発揮すること、そして力を込めたり抜いたり、柔軟に対応してご覧なさい」と。

フィリップ・ブリーンとても良いアドバイスをもらいましたね。
私たちは“アイデア(考え、観念)そのものを演じる”ことはできませんが、“アクション(行為、行動)を起こす”ことはできます。問いかけることもできます。
例えばどうしてラスコリニコフは、自分が犯した罪をはっきりと話せないのか?
どうして彼はマルメラードフと友人になり助けることを選択したのか?
どうして彼は罰を受けることを望んだのか?
そしてどのように彼は変わっていくのか?

そして、ラスコリニコフが、なぜこのようなことをするのか、したのかを自分自身に問いかけ、その答えに正直に向き合ってみてください。
自分は、誰かを殺すような状況になり得るだろうか?
自分を止められずに残虐な行為をしてしまう、そんな状況になり得るだろうか?
あるいは赦しが必要だったときはあるだろうか?
この役を演じるということは、自分の中にいる殺人鬼と向き合うことになるのです。

大切なのは、あなたがラスコリニコフという登場人物を、理路整然とまとめようとしないことです。
あなたが演じるのは人間で、人間はけっして理路整然とはしていません。
人間は常にすばらしいものであり、同時にめちゃくちゃにひどいものです。
私が芸術に携わる唯一の理由は、そんな誰しもに共通する人間らしさを思い出させるためであり、私たちは1人じゃないと思い出させるためであり、舞台上で描くのとまったく同じような人生の一面を、誰かが(実人生で)経験してきたことを思い出させるためなのです。
ラスコリニコフが自分の中に抱える矛盾を考えてみてください。
ラスコリニコフは残忍です。そして優しくもあり、執念深くもあり、慈悲深くもあります。
あなたがありのままの姿でいれば、観客はあなたをきっと愛するでしょう。
なぜならあなたは、観客の彼ら自身を演じているわけですから。

三浦春馬稽古に入る前に何か準備したほうがいいことがあればおっしゃってください。

フィリップ・ブリーンとにかくまずは台本を読むこと。もし原作小説のいい日本語訳版があるなら、それも読むこと。そして運動し、正しい食事を摂り、心と身体を良いコンディションに整えてリラックスしてください。新鮮な空気をたっぷり吸ったり、友達と会うことも大切です。だってもうじき、薄暗い稽古場で1日のほとんどの時間を過ごすことなるのですから(笑)。

稽古ではもちろん私も、この作品の歴史的、政治的、知的な世界について説明をしますし、それはきっと春馬さんの助けになると思います。
それに私は、古典の大作戯曲とは、(例えば、ですが)ネイティブアメリカンのドリームキャッチャーのようなものだと思うことがあるんです。ドリームキャッチャーはヨーロッパでもよく売られていて、ほかにはない面白いものだと思いますが、その本当の意味や面白さを理解するためには、ネイティブアメリカンが眠りをどのように考えていたか、それが彼らのテント型の住居であるティーピーのどこに掛けられていたか、などをきちんと理解しなくてはなりません。
あるものの真の美しさや意味を理解するには、その周辺にある文化的な事柄も明らかにしなければならないと思います。

三浦春馬不安や焦燥感はありますが、同時に僕のモチベーションは今、とても高い状態にあります。稽古場で毎日生まれるアイデアと、役どころ、作品への思いを一緒に馳せる悦びに期待で胸があふれています。

フィリップ・ブリーン僕も同じです。俳優の皆さんは、僕が自分の部屋で1人で学ぶよりも、はるかに多くのことを教えてくれるんですよ!
私は、芝居はネックレス作りのようだと思うんです。
ビーズがネックレスになるのは、一番最後の瞬間です。俳優がすべきは、鮮やかに色付けされた(不調な色彩の)ビーズを1つずつ糸に通すこと。そして最後にそれがネックレスになることを信じること。明確に具体的に、そして鮮明に観察すればするほど、そのビーズはより特別で輝くものになると思います。

Bunkamura30周年記念
シアターコクーン・オンレパートリー2018
DISCOVER WORLD THEATRE vol.4「民衆の敵」
2018年11月29日(木)~12月23日(日・祝)
東京都 Bunkamura シアターコクーン
2018年12月27日(木)~30日(日)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
「民衆の敵」
スタッフ / キャスト

作:ヘンリック・イプセン

翻訳:広田敦郎

美術・衣裳:ポール・ウィルス

演出:ジョナサン・マンビィ

出演:堤真一、安蘭けい、谷原章介、大西礼芳、赤楚衛二、外山誠二、大鷹明良、木場勝己、段田安則
内田紳一郎、西原やすあき、本折最強さとし、目次立樹、西山聖了、石綿大夢、四柳智惟、中山侑子、木下智恵、穴田有里、安宅陽子、富山えり子
阿岐之将一、香取新一、島田惇平、竹居正武、寺本一樹、中西南央、石川佳代、滝澤多江、田村律子、中根百合香、林田惠子
池田優斗、大西由馬、松本晴琉、溝口元太
※池田優斗と大西由馬、松本晴琉と溝口元太はWキャスト。

Bunkamura30周年記念
シアターコクーン・オンレパートリー2019
DISCOVER WORLD THEATRE vol.5「罪と罰」
2019年1月9日(水)~2月1日(金)
東京都 Bunkamura シアターコクーン
2019年2月9日(土)~17日(日)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
「罪と罰」
スタッフ / キャスト

原作:フョードル・ドストエフスキー

上演台本・演出:フィリップ・ブリーン

翻訳:木内宏昌

美術・衣裳:マックス・ジョーンズ

出演:三浦春馬、大島優子、南沢奈央、松田慎也
真那胡敬二、冨岡弘、塩田朋子、粟野史浩、瑞木健太郎、深見由真、奥田一平
山路和弘、立石涼子、勝村政信、麻実れい
高本晴香、碓井彩音

ミュージシャン:大熊ワタル(クラリネット)、秦コータロー(アコーディオン)、新倉瞳ほか(チェロ)

フィリップ・ブリーン
イギリス・リバプール出身。グラスゴー・シチズンズシアターにてブレヒトの「アルトロ・ウィの抑え得た興隆」で演出家としてプロデビュー。新作から、古典戯曲、ミュージカル、ジャズキャバレー、コメディまで幅広い分野の作品を演出し、数々の賞を受賞する。またアシスタントディレクター時代も含め、世界各地での上演を経験。主な作品にロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)での演出家デビュー作「ウィンザーの陽気な女房たち」(2012~13 年)、サム・シェパード作「TRUE  WEST~本物の西部」(14年)など。18年は「Shakespeare  in  Love(恋に落ちたシェイクスピア)」を手がけた。日本では「地獄のオルフェウス」(15年)、「欲望という名の電車」(17年)を演出し、高い評価を得ている。
三浦春馬(ミウラハルマ)
2008年に「恋空」で第31回日本アカデミー賞新人俳優賞、14年には「永遠の0」で第38回日本アカデミー賞助演男優賞を受賞。17年、ミュージカル「キンキーブーツ」で第24回読売演劇大賞優秀男優賞と杉村春子賞を受賞。近年の出演作に舞台「地獄のオルフェウス」、大河ドラマ「おんな城主 直虎」、テレビドラマ「オトナ高校」、映画「銀魂2 掟は破るためにこそある」「SUNNY 強い気持ち・強い愛」など。18年は映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」、19年は映画「アイネクライネナハトムジーク」、ブロードウェイミュージカル「キンキーブーツ」再演が控える。

2018年11月26日更新