Bunkamura 30周年「民衆の敵」「罪と罰」 PR

Bunkamura 30周年 | 堤真一×ジョナサン・マンビィが語る「民衆の敵」 / 三浦春馬×フィリップ・ブリーンが語る「罪と罰」|今、シアターコクーンだからできること

2019年に30周年を迎える複合文化施設・Bunkamuraは、7月からの改修工事を終え、11月にリオープンする。その1つ、シアターコクーンで上演される、30周年記念作品の第1弾「民衆の敵」と第2弾「罪と罰」は、16年にスタートした同劇場の「DISCOVER WORLD THEATRE」シリーズの企画で、「民衆の敵」では「るつぼ」(16年)に続き堤真一とジョナサン・マンビィ(演出)が、「罪と罰」では「地獄のオルフェウス」(15年)に続き三浦春馬とフィリップ・ブリーン(演出)が、再びタッグを組む。そこで本特集では、「民衆の敵」と「罪と罰」を入り口に、30年におよぶシアターコクーンの軌跡と今後の展開に迫る。

[堤真一&ジョナサン・マンビィ対談]取材・文 / 熊井玲 撮影 / 宮川舞子
[加藤真規インタビュー]取材 / 市川安紀 文 / 熊井玲 撮影 / 宮川舞子

「民衆の敵」堤真一×ジョナサン・マンビィ 対談

時代にマッチした作品

──「民衆の敵」は、1882年に発表されたノルウェーの作家ヘンリック・イプセンの作品です。温泉の発見に沸くノルウェー南部の海岸町を舞台に、温泉の水質が汚染されていることを知った医師トマス・ストックマンと彼の家族、民衆の対立が描かれます。

左から堤真一、ジョナサン・マンビィ。

堤真一 稽古が始まって数日が経ち、現段階ではジョナサンといろいろな資料を見ながら、イプセンがなぜこういう作品を書いたのか、もしかしたら彼が実際に体験したことをもとに書かれた作品ではないかなどと考えながら、みんなで戯曲を読み込んでいるところです(編集注:取材が行われたのは10月下旬)。

ジョナサン・マンビィ 稽古はとてもエキサイティングで楽しいです。こんなに素晴らしい戯曲を体験できることがまずうれしいですし、この戯曲を日本のお客様がどう感じてくださるか、どういう反応をしてくださるかが非常に興味深いですね。

 「民衆の敵」は社会性が強い作品ですが、ところどころ人間の不完全さなども描かれていて、僕が演じる医師トマス・ストックマンは、正義感がある……いや正義と言うより、ただただ真実を伝えようとしている男だなと。登場人物それぞれが自分たちの正当性を訴えてせめぎ合っているので、ある種のドキュメンタリーのように見えるかもしれません。観客の皆さんには、誰の意見が正しいかということより、この作品から何を感じるか、自分はどの立ち位置にいるかなど、観て判断してほしいなと思います。

ジョナサン・マンビィ

マンビィ “真実”を巡る物語ですが、今は真実なんかどうでもいいと思われてしまっているような時代。またアメリカや日本、ヨーロッパにしても、経済効率を追求するあまり、いまだに環境に対する代償を省みなかったりする時代だとも言えます。本作はそういった政治的なことと、家族の問題にも言及しているので、今の時代にマッチしていると思いますね。

 今から100年以上も前に書かれた作品だとは思えませんよね。真実はたった1つのはずなのに、何も見えてこないことが現実でもある。そういった点でも、今の日本でこの作品が上演できることにいろいろな思いを感じます。

カンパニー全体で作品を立ち上げる

──堤さん演じるトマスは、温泉の水質問題を巡って、市長である実兄のペテル・ストックマン(段田安則)や汚染の原因である製革工場経営者で義父のモルテン・ヒール(外山誠二)、妻のカトリーネ(安蘭けい)、町の有力者である印刷屋のアスラクセン(大鷹明良)らと対立を深めていきます。さらにその背後には民衆たちの存在が黒雲のように迫り、問題を深刻化させます。

堤真一s

 読み合わせをしていると、兄弟や家族、周囲との人間関係が見え、脚本が立ち上がってくる感じがして面白いです。ジョナサンの演出は、みんなが持つべき共通言語や共通認識をしっかり作ったうえで稽古が進んでいくので、「自分の役はどうか」という考え方ではなく、一緒にいる人たちとただ自然に会話をすればいい。役に対して、あまりプレッシャーを感じなくていいんです。プレッシャーを感じるのはセリフの量だけで……(笑)。

マンビィ あははは!(笑) 確かにカンパニー全体を大切にすることは大事だと思っています。特にこの戯曲で、トマスはトマスなりに、自分の家族のことを考えると同時に市民全体のことも考えているので、物語の中心となるのはもちろんメインキャストですが、民衆たちも非常に重要な存在です。今回は若い方からご年配まで、幅広い層の方に、アンサンブルとして集まっていただきました。彼らによって民衆のコミュニティを表現できるのが非常にうれしいです。

 稽古では戯曲をもとにワークショップをやってるんです。全員で稽古場を歩き回って、目が合ったら握手するというものなんですけど、面白いのは、目が合って握手するだけでいいのに、必ずみんなお辞儀してしまうこと(笑)。そういうところは日本人だなって思っておかしいですね。

左から堤真一、ジョナサン・マンビィ。

マンビィ 僕がワークショップを必要だと思っているのにはいくつか理由があるんですが、まず俳優の皆さんに台本から一度離れて、この戯曲の中でどういうアイデアが書かれているかを考えていただくこと、それと俳優さんたちがそれぞれつながりを持っていただくことが大事だと思っています。なので、テキストからいきなり稽古を始めるのではなく、例えば家族の関係性とか力学を表現するためのエクササイズとして、ワークショップをしています。

最後のセリフに感動する

──シリアスなテーマを抱えた本作ですが、堤さんがおっしゃるように、登場人物それぞれが自分の欲望や良心、理性と感情の間で揺れる人間的な不完全さを持っていて、そこが物語をドラマチックに展開させていきます。

マンビィ イプセンはこの戯曲を書いたとき、本作を喜劇と呼ぶべきか悲劇と呼ぶべきか、悩んだそうです。イプセンの作品には人々の日常的な生活とユーモアがきちんと描かれている。リアルな人間がリアルな人生を歩んでいる、そのことがすでに人の興味を掻き立てることではありますが、非常に深刻なテーマを扱ってはいるので安易に喜劇とは言えないのはよくわかります。ある意味、チェーホフと似ているかもしれません。

堤真一

 これは勧善懲悪の話ではないし、僕が演じるトマスも本当の意味でのヒーローではないんですよね。非常に不器用な男で、生活については経済的な観念などがまったくなく、興味もない。でもだからこそ、ある意味ピュアなのかもしれません。正義感から温泉水の汚染を訴えるのではなく、事実だから汚染を訴え、事実だから改善すべきと主張しているので。そして彼自身、この作品を通して変化していくわけです。最初は「汚染は大したことじゃない、改善策を打てばなんでもない」と言っているのだけれど、その改善策を実現するには膨大な金がかかること、もしかしたら温泉に客が二度と来なくなるかもしれないことを学んでいく。同時に彼が怒りをぶつける対象も変わっていって、最初は政治家だったのが、民衆の目を覚まさなきゃいけないというところに向かっていくんです。ただ、現実にいたらトマスは厄介な人ではあるでしょうね(笑)。特に日本人的な感覚で言うと、「もっと和を大切にしよう」とか「バランスを取ろう」という感覚が働く部分がありますから、トマスのように自分が正しいと思うことを主張し続けるのは、なかなか大変なことだろうなと。

マンビィ そうでしょうね。

 またトマスとペテルを兄弟の設定にしているところが、イプセンはさすがだなと思います。段田さん演じるペテルとのシーンを稽古していると、たとえ意見が衝突していたとしても、彼らはお互いの性格をわかっているから徹底的にやり合うという感じではないんです。家族って、例えば親子ゲンカしても次の日はご飯を一緒に食べていたりしますよね(笑)。だから対立しているように見えても、根っこの部分ではつながっていたり、逆にうらやましさから反目したり。トマスは弟なので、兄を見て育っているぶん、自由な部分もあるのだろうと思います。

ジョナサン・マンビィ

マンビィ 真一さんが言う通り、物語のメインとなる2人が兄弟であるというのが素晴らしいと思います。単なる意見の衝突では終わらない。社会的なことと家族のことが折り合うように書かれているところが、巧みですよね。真一さんとは「るつぼ」(2016年)で以前ご一緒していますから、彼が俳優としてどうやって作品に向き合い、どういう道のりをたどって作品を積み上げていくかがわかっていますし、トマスが持っている寛容さとかエネルギーを真一さん自身が持っているので、きっと演じやすいのではないかと思います。

 トマスの最後のセリフがすごくいいんですよね。「世界一強い人間は、なにがあっても一人で立っている人間なんだ──」。言ってる俺が感動してどうするんだっていう(笑)。

マンビィ 私が代わりに泣きますよ!(笑)

本当にものを作るってこういうこと

堤真一

 僕はTPT(編集注:93年にイギリス人演出家のデヴィッド・ルヴォーとプロデューサーの門井均が立ち上げた現代演劇の実験プロジェクト、Theatre Project Tokyoのこと)で海外の方の演出を受けるということから俳優としてのキャリアが始まっているので、ジョナサンとやるうえでの変な緊張感はありません。ジョナサンは今まで経験した演出家の中でも非常に丁寧で、チームとして全員が共通で理解しておくべき事柄を徹底してくれる。いろいろな俳優がいてそれぞれが持っている演劇メソッドもいろいろありますが、それを1つにまとめ上げる力がすごいと思いますね。力技ではなくソフトに、いつの間にかみんなに、作品に対する自分の役割とか共通認識をしっかり持たせていて、そのうえで作品を立ち上げてくれるので、「俺の役はこうだから」ってアピールする必要がまったくない。ものを作るってこういうことだなと思います。今回もそれを感じながらやれていますし、若い人や初めてご一緒する方も多いんですが、大鷹明良さんや木場勝己さん、段田安則さんのようなベテランの方と一緒に作品を作り上げていく作業をできるのがうれしいです。

マンビィ 本当にこのカンパニーの人たちは、僕がこのプロジェクトに懸けるのと同じ情熱を懸けてくださっていて、失敗し得ないカンパニーだなと思っています!

 (笑)。この作品は翻訳劇ではあるけれど、戯曲を読んでいる限り、日本人との感覚のずれを感じないんです。むしろ、世界中どこでも一緒の問題があるんだなって。イプセンの作品は北欧が舞台ですから、気候や地理から来る閉鎖性の影響も大きいと思うので、環境的には日本と似ているのかもしれません。逆に近いと思っているアメリカの現代戯曲のほうが、実は心理的には日本人から遠いかもしれない。だからこの戯曲の中で描かれている感覚が理解できない、というようなことはまったくないです。それにこの作品は、過去にも多くの人たちが演じていているわけですが、僕たちのイメージとしては完全に自分たちが初演という感覚です。それはすごく大事なことだと思います。

マンビィ ロンドンのロイヤル・コート・シアターの創設者でジョージ・ディヴァインという方がいらっしゃるんですが、ロイヤル・コート・シアターは新作戯曲で評価が高い劇場なんですね。彼が言っていたことで僕が大切にしている言葉に「新作戯曲は古典を扱うように、古典戯曲は新作を扱うように」というものがあり、僕もその精神を大事にしています。古典に立ち向かうときは、その戯曲に対して持っている知識などを全部忘れて、新しい目でその戯曲に立ち向かう。それを心がけています。ですので「民衆の敵」についても、まさに今、劇作家が書き下ろした作品という気持ちで、目を見開いて取り組むことを心がけています。

左から堤真一、ジョナサン・マンビィ。
Bunkamura30周年記念
シアターコクーン・オンレパートリー2018
DISCOVER WORLD THEATRE vol.4「民衆の敵」
2018年11月29日(木)~12月23日(日・祝)
東京都 Bunkamura シアターコクーン
2018年12月27日(木)~30日(日)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
「民衆の敵」
スタッフ / キャスト

作:ヘンリック・イプセン

翻訳:広田敦郎

美術・衣裳:ポール・ウィルス

演出:ジョナサン・マンビィ

出演:堤真一、安蘭けい、谷原章介、大西礼芳、赤楚衛二、外山誠二、大鷹明良、木場勝己、段田安則
内田紳一郎、西原やすあき、本折最強さとし、目次立樹、西山聖了、石綿大夢、四柳智惟、中山侑子、木下智恵、穴田有里、安宅陽子、富山えり子
阿岐之将一、香取新一、島田惇平、竹居正武、寺本一樹、中西南央、石川佳代、滝澤多江、田村律子、中根百合香、林田惠子
池田優斗、大西由馬、松本晴琉、溝口元太
※池田優斗と大西由馬、松本晴琉と溝口元太はWキャスト。

Bunkamura30周年記念
シアターコクーン・オンレパートリー2019
DISCOVER WORLD THEATRE vol.5「罪と罰」
2019年1月9日(水)~2月1日(金)
東京都 Bunkamura シアターコクーン
2019年2月9日(土)~17日(日)
大阪府 森ノ宮ピロティホール
「罪と罰」
スタッフ / キャスト

原作:フョードル・ドストエフスキー

上演台本・演出:フィリップ・ブリーン

翻訳:木内宏昌

美術・衣裳:マックス・ジョーンズ

出演:三浦春馬、大島優子、南沢奈央、松田慎也
真那胡敬二、冨岡弘、塩田朋子、粟野史浩、瑞木健太郎、深見由真、奥田一平
山路和弘、立石涼子、勝村政信、麻実れい
高本晴香、碓井彩音

ミュージシャン:大熊ワタル(クラリネット)、秦コータロー(アコーディオン)、新倉瞳ほか(チェロ)

ジョナサン・マンビィ
イギリスのブリストル大学で古典戯曲を学び、卒業後はブリストル・オールド・ヴィック劇場、ロイヤル・ シェイクスピア・カンパニー(RSC)を遍歴。数多の人気演出家のもとで研鑽を積んだのち、演出家として国内外で活動を始める。RSC、ロンドン・グローブ座をはじめ、ウエストエンド、ブロードウェイなど欧米各地で数々のプロダクションを手がけている。2009年には「The Dog in the Manger」にてヘレン・ヘイズ賞最優秀演出賞候補にノミネート。佐藤健・石原さとみ主演「ロミオ&ジュリエット」(12年)の演出で日本に初進出し、16年にDISCOVER WORLD THEATRE vol.1「るつぼ」を手がけた。近年の演出作品にジョナサン・プライス主演「The Merchant of Venice」のほか「Wendy and Peter Pan」「OTHELLO」「ALL THE ANGELS」「KING KONG」「FROZEN」など。イアン・マッケラン主演で17年に上演された「リア王」が、18年に限定公演としてウエストエンドに進出した。
堤真一(ツツミシンイチ)
1964年兵庫県生まれ。87年にNHKドラマ「橋の上においでよ」で主演デビュー。そののち、デヴィッド・ルヴォー、野田秀樹をはじめとする演出家のもとで舞台出演を重ねる。現在は舞台のみならず、舞台、映画、テレビドラマ、CMなどの映像分野でも幅広く活動。近年の主な出演作に舞台「お蘭、登場」「近松心中物語」「るつぼ」「アルカディア」、映画「銀魂2 掟は破るためにこそある」「本能寺ホテル」「土竜の唄 香港狂騒曲」など。声の案内人を務めるNHK「もふもふモフモフ」が放映中である。