博多華丸は鳳蘭おおとりらんの配下に…博多座がつなげる人々の輪

──博多座の25周年を飾る「新生！熱血ブラバン少女。」で、博多華丸さん、元宝塚歌劇団星組トップスターの紅ゆずるさん、子役時代から活躍されている鈴木梨央さんが初共演されます。お互いの印象を教えてください。

紅ゆずる　私は華丸さんと初めてお会いしたとき、「どうも！」というフレンドリーな感じで来られるのかなと想像していたのですが、全然目が合わなくて（笑）。とてもシャイな方なんだと思いました。ただ、記者会見で隣に座らせていただいて、お話しされている様子を見ていたら、目がとてもお綺麗で、きっと純粋な方なんだろうなと思って安心しました。テレビ番組でお見かけする華丸さんは、マルチな才能をお持ちで、お芝居も司会も完璧になさっている。ご一緒させていただける今回の舞台は私にとって勉強になると思い、今から楽しみです。

鈴木梨央　私も、華丸さんのことはCMやテレビドラマで拝見していて、どんな方なんだろうと思っていました。実際にお会いしてみたら、記者会見前に気さくに話しかけてくださったので、お稽古がすごく楽しみになりました。実は私、博多華丸・大吉さんの漫才が大好きで、特に「お会計で揉めたくない」と言い合うコントが好きなんです。いつかお話ししてみたいと思っていたので、お会いすることができてうれしいです。

博多華丸　ええ？ 十代にウケる漫才はしてないよ（笑）。でも、ありがとうございます。さすが、福岡の同郷・吉田羊さんの息がかかっているというか、鍛えられていますね（編集注：鈴木は吉田と清涼飲料水のCMで共演）。僕は紅さんに対しては、「熱血！ブラバン少女。」で鳳蘭さん（元宝塚歌劇団星組トップスター）が校長先生役だったので、「その配下にいるんだぞ」という気持ちがどこかにあって。何かあったら告げ口しようかと（笑）。

左から鈴木梨央、博多華丸、紅ゆずる。

紅　鳳蘭さんは星組の10代目トップスターで、私は20代目トップスターなんです。直系の大先輩ですので、大人しくしておきます（笑）。

華丸　「めんたいぴりり～博多座版～未来永劫編」「羽世保スウィングボーイズ」では大空ゆうひさん（元宝塚歌劇団宙組トップスター）とも共演させていただいて、博多座さんのおかげで、同じ芸能界にいながらもあまり交わることのない皆さんとの共演にも慣れてきました。元タカラジェンヌの方はよくバラエティにも出ていらっしゃるので、身近に感じている部分もあって。特に元男役の方は物事をはっきりと言う方が多いので、僕としては接しやすいんです。

紅ゆずるが考える、“思いの強さ”の表現方法とは

──今回の舞台では、2017年に上演された「熱血！ブラバン少女。」が新たなストーリーで立ち上げられます。「熱血！ブラバン少女。」は福岡に実在し、全国的に知られる精華女子高等学校吹奏楽部のCDを元に作られた作品で、劇中には精華女子高等学校吹奏楽部の皆さんが部員として登場し、演奏を披露されました。「新生！熱血ブラバン少女。」では、ブラスバンドに魅入られた河合葵（鈴木）が、母親・凜々子（紅）を説得して福岡へと移り住み、かつての名門吹奏楽部を再建させようと奮闘する様子が描かれます。華丸さんは、コーチを任される城門輝勝きどてるまさ役。華丸さんの博多弁、紅さんの関西弁でのセリフの応酬もあり、お二人の掛け合いも多くありそうです。

紅　私、コメディが大好きなんです。在団中もトップスター時代はほとんどの作品がコメディだったくらい。そんな私ですが、「新生！熱血ブラバン少女。」ではお客様に新しい一面がお見せできるのでは！と思っています。というのも、今までは、お芝居で綺麗な関西弁を使ってきたのですが、今回は関西弁をどこまで崩してべらんめえ調にできるかがキモになると思っていて。凜々子は城門に対して「嫌い」と言ったり、どぎつい関西弁を使うんです。ただそれは愛情の裏返しで、かつて深い関係にあった城門を意識してしまっている証拠。凜々子の思いの強さを関西弁の崩し具合で表現できたらと思っています。

紅ゆずる

華丸　なんで2人が離れることになったのかよくわからないんですよね。台本にも書いてないですし。でも、だからこそ物語の序盤から吹奏楽部のために協力し合うことができるんだと思います。なので、紅さんとは良い意味で夫婦漫才のような掛け合いができたらと考えているのですが、実は僕の演技プランはまだなくて（笑）。まっさらな状態で演出家の先生に稽古をつけてもらおうと思っています。2017年に「熱血！ブラバン少女。」をやったときの経験を追いかけたいというのもおかしいのですが、当時は本当に出演してくれた高校生や高校生役の子たちと共に成長させてもらったんです。梨央ちゃんを脅すわけじゃないけど、吹奏楽部の皆さんの演奏って本当に（小声で）うまくてやばいの（笑）。稽古で会うにつれ、すごさを目の当たりにするので、こちらも練習したくなるんです。今回も自分が置いていかれないように、俳優としての演技やセリフの良し悪しはさておき、情熱では負けないようにしたいです。

博多華丸

鈴木梨央は好奇心の強さを役に重ねる

──鈴木さんは西北女子学園の廃れた吹奏楽部員に入部する新入生の役です。今回も精華女子高等学校吹奏楽部の皆さんが吹奏楽部員として参加されますが、強豪校のブラスバンドの中に入って演奏されることについて、どのような思いでいますか？

鈴木　まだドキドキ、ヒヤヒヤしていて。私以外の生徒役のみんなも同じことを思っているのですが、私たちが一緒に演奏することが「想像できないよね」と話しています。昨年からトランペットの練習を始めて、時間が空いたら触れるようにしているのですが、私は金管楽器の演奏を今までしたことがなくて、「音が出た」とか「今日はなんで音が出ないんだろう」と、日々いろいろな感情に襲われています。でも、そうやって楽しみながら練習できていることが、うれしいです。

──鈴木さんが演じる葵は、「吹奏楽がやりたい」と言って福岡に移り住み、自分から道を切り拓いていくような女の子です。

鈴木　葵は吹奏楽部に入りたいという強い気持ちがあって、高校1年生ながらに行動力と責任感がある子なのかなと感じています。劇中でコーチや部員を勧誘するシーンがあるのですが、そこでも本人の「吹奏楽をやりたいんだ」という気持ちをうまくぶつけられたらと思っています。それに葵は自分のことだけではなく、周りの人の悩みを聞いたり、より良い環境を作れるように率先して仲間たちを気遣ったり、引っ張っていくことができる存在なんです。

鈴木梨央

──ご自身と共通する部分はありますか？

鈴木　葵は音楽に魅せられ、その思い1つで動いていく強さがあります。私も音楽が好きなので、そこから葵の気持ちに入り込めたら良いなと思います。

──紅さんは凜々子役で母親役に初挑戦されますが、どのような心境ですか？

紅　そうなんです。母親役は初めてなのですが、1つだけ生かせる経験があって。私は小・中学校の頃から宝塚歌劇団に入りたいと思っていたのですが、両親を説得するのが大変だったんです。両親からは「挫折するリスクのほうが高い」と反対されていて。当時の両親の気持ちが、葵に対する凜々子の思いと重なるのではないかなと考えています。また、凜々子は海外で芸術に触れて生きてきた女性で、世界でピアニストとして認められた才能を持ちながらも、葵を産んで育てるためにその職業を離れる覚悟があった。そういう女性としての生き方からも役作りをしていけたらと思っています。

“おかえりなさい”を感じさせてくれる博多座

──今作は、博多座25周年を銘打つ公演となります。華丸さんは、「めんたいぴりり～博多座版～」（2015年）、「熱血！ブラバン少女。」（2017年）、「めんたいぴりり～未来永劫編～」（2019年）、「羽世保スウィングボーイズ」（2021・2022年）と定期的に博多座で座長公演をされていて、ご自身も博多座の舞台に出演することを「車検のようだ」と記者会見でおっしゃっていましたが、どのような思いが積み重なっているのでしょうか。

華丸　「次は悪くても仕方ない」と思えるくらい、博多座には毎回良い思い出ばかりあるんです。いつも“おかえりなさい”を感じさせてくれる劇場で、その期待に応えるために僕らも一生懸命稽古をしますし、初日の幕が開いて、その答え合わせができるのを励みにしています。「羽世保スウィングボーイズ」の明治座公演（2022年）では、開幕直前にコロナで3人くらい欠員が出て、稽古場も代役代役で大変やったんです。せり上がりで「開くな、緞帳！」と思うくらい緊張していて。あれほど緊張することは生涯ないと思いますので、今回は堂々と初日を迎えられるように仕上げていきたいですね。“車検”のように訪れる博多座での座長公演は、僕にとってはご褒美のようなもの。芸人として人気が落ちたら、座長公演はやらせてもらえないですから。公演を任せていただけるということは、自分がこの2・3年をがんばってきたご褒美だと捉え、ありがたく務めさせていただいています。

左から鈴木梨央、紅ゆずる、博多華丸。

──さまざまな劇場に立ってきた紅さんが感じる、博多座の魅力は何ですか？

紅　在団中、博多座の舞台に出演するたびに「退団したら博多に住みたい」と思っていたんです。どこに行っても皆さん優しくて、博多座の中の人も優しい。私がどれだけ着到板に塩を盛っても誰も何もおっしゃらないんですよ。着到板というのは、劇場入りを確認する名札のようなもので、私は先輩方に倣って、そこに塩を盛れば盛るほど良いと思っていたんですね。安全祈願で。でも、着到板の穴に塩がいくら入り込んでも誰も文句をおっしゃらないし、翌日には綺麗に掃除されているんです。

華丸　塩が好きなんですよ、福岡の人は。焼き鳥屋でもタレより塩。好きやから、塩に対しては何も言わんのです。盛るのがタレだったら怒られますよ（笑）。

鈴木　あははは！

紅　博多座は何事にも寛大で優しくて、こだわりもあって、私は大好きです。

鈴木　私は今回の舞台で初めて博多に行くのですが、この取材前にゆずるさんがおっしゃっていた、ごまさばが気になってしまって。さっきから頭の中がごまさばでいっぱいです。

華丸　19歳だよね？ うまいけど、もうちょっと年を取ってからでも（笑）。

──博多座発の「新生！熱血ブラバン少女。」は博多座公演後、大阪・新歌舞伎座でも上演されます。公演へ向けて、改めて意気込みをお聞かせいただけますか？

鈴木　博多座25周年を飾る「新生！ブラバン少女。」の一員になれることがすごくうれしくて。精華女子高等学校の皆さんと一緒に演奏できることが夢のようです。笑いあり、涙あり、驚きがある瞬間を皆さんにお届けできるよう、お稽古をがんばります。

紅　この作品はまさに“博多座が選んだ作品”です。セリフには博多弁もありますし、人情ものなので新歌舞伎座でご覧になる大阪のお客様も絶対にお好きだと思います。作品を作る一員として微力ながらも思いっきり大暴れしたいなと思っています。

華丸　博多座で5回目の座長公演を務めさせていただきますが、「熱血！ブラバン少女。」は、演じていて一番体感が速い作品でした。上演時間が3時間近くある芝居なのに、「もう2幕？ もうこの辺？ もう終わりや」っていうスピード感で。「新生！熱血ブラバン少女。」もきっと、お客様にとってアッという間に終わってしまうほど面白く、全編を通して音楽も楽しめる舞台になると思います。ぜひ、博多座と新歌舞伎座のお客様には期待して待っていていただければと思います！

左から鈴木梨央、博多華丸、紅ゆずる。