「BOAT」藤田貴大×宮沢氷魚×青柳いづみ×豊田エリー×中嶋朋子|プレイハウスの空間に“風景”を描きたい

過去と未来が引っ張り合う

──「BOAT」は2015年初演の「カタチノチガウ」、17年初演の「sheep sleep sharp」の完結編と言われています。両作品共に社会性が反映された、死の影も感じさせる内容で、これまでの藤田作品に比べると過去へのベクトルだけでなく未来へのベクトルも持った作品群でした。「BOAT」は過去2作をさらに更新するようなものとなるのでしょうか?

藤田 そうですね。エリーの役は死を待ってて、朋子さんの役はいなくなった人を待ってる。同じなのは彼女たちを引っ張ってるものがあるってことで、朋子さんは過去に、エリーは死という未来に引っ張られています。過去2作品は未来への突破口を探していたけど、今回は過去と未来、両方の引っ張り合いがあって、どちらも日本語的には「待つ」という言葉になるけれど、待つにもいろいろあるよねってことがやれたら過去2作品とも全然違うことが揺り出されるんじゃないかと思ってて。その土地に残るという決断も、自分が残りたいからと言うよりは誰かを待つためにしている。実はそういう方向性を、僕はやってなかった気がするので、それができたらいいなって。

「BOAT」ビジュアルより、青柳いづみ。(AD:名久井直子、撮影:井上佐由紀)

──青柳さんは「カタチノチガウ」「sheep sleep sharp」の両方に出演されていますが、2作に共通点を感じていましたか?

青柳 そうですね。ほかにも最近新しい作品はいろいろ作っているけれど、藤田くんが自分で「新作」と呼んでいるのはその2作だけ。2作共に“劇場”というものが描かれていて、「BOAT」にもきっとそれはつながっていくのではと思いますが、続きというよりは、今は本当にこの座組で作らなければ、という状況になってきているので、過去2作の次の作品ではありますけど、まったく別の、本当の新作になりそうだなと感じています。

──キャストの皆さんにとっては、いわゆる役作りとは少し違うアプローチになりそうですが、どのように稽古に取り組もうと思っていらっしゃいますか?

中嶋 新しいことを生むために、今回は自分がスーパーフラットな状態でいようと全部を手放しているって感じです。みんなもそんなことを言っていましたけど、いつもは言葉やシチュエーションを(台本や役として)外からもらって作品を作り上げるところ、今回はどうやら自分の中から何かがやってくるという、そういう感じがしていて。そのために全部を手放している。それは新しいです。

ボートを運んだり吊ったり

──藤田さんにとって本作は、「小指の思い出」「ロミオとジュリエット」に続きプレイハウスで3作目の上演となります。藤田作品は空間に合わせた舞台美術が魅力の1つですが、今回はどのような企みを持っていらっしゃいますか?

藤田 「小指の思い出」をやった28歳くらいの自分ってやっぱり意気込んでたなって感じがして(笑)。車をいっぱい用意して空間を埋め尽くす、みたいなことばかり考えてた気がするんだけど、「ロミオとジュリエット」あたりから空白を観せていくことを考え始めて、ここはこんなに広いんだよってことを観せられるようになってきた。空間が埋まることはもうわかってきたから、むしろ今は圧倒的に稽古場が狭くて困りますね(笑)。

──今、稽古場を狭くしている、あの多数のボートがどう使われるのかも気になります。

稽古の様子。(撮影:宮川舞子)

藤田 これまで僕は舞台美術家をつけたことがなくて。今回も、自分でボートを集めたんですが、あのボートを運んだり吊ったりしようかなって思ってます。

宮沢 ボート、めちゃくちゃ重いんです。

豊田 特に氷魚くんが動かすボートは一番重くて。

宮沢 80kgあるボートを山本(直寛)くんと2人で下手から上手に引きずるシーンがあるんですけど、腰に鎖を巻いて引っ張ると腰に食い込んじゃうのでタオルでカバーしてます。

──それは相当重たそうですね。また本作のビジュアルや、藤田さんが「BOAT」についてツイートする際の写真は、すべてモノクロで統一されています。藤田さんの中で本作は、特定の色がないイメージなのでしょうか?

藤田 色についてはビジュアル担当の名久井直子さんと衣裳のsuzuki takayukiさんと話してることなんですけど、ボート自体はカラフルだったり、suzukiさんの衣裳も今回は珍しく色があると思うんです。なので劇場に入るまでのイメージをモノクロにして、劇場で初めて色に出会うことにしたいなと。それと、人物をチラシにすることに僕、めちゃめちゃ抵抗感があったけど、今回は成功してるなと思ってて。この撮影会がまずすごくいい雰囲気だったから、撮影会で思い浮かんだこともけっこうあって。氷魚くん、本当にピンホールカメラで撮影したんですよ。

「BOAT」ビジュアル(AD:名久井直子、撮影:井上佐由紀)

宮沢 そうなんです、120秒くらい瞬きしてないんです。

藤田 瞬きすると顔がぼけちゃうからね。後ろの動きも4つのストップモーションで撮影してて、1時間半くらいかかった。けっこうリアルに稽古っぽかったよね(笑)。

宮沢 そうですね。

藤田さんは挑戦的な人

──宮沢さんは稽古が始まる前のインタビューで「藤田さんは人と出会うことでイメージが湧く人じゃないか」とおっしゃっていました。関係性が深まる中で新たに藤田さんに対して発見したことはありますか?

「BOAT」ビジュアルより、宮沢氷魚。(AD:名久井直子、撮影:井上佐由紀)

宮沢 いや、そのときに持ったイメージと何ひとつ変わってないと思います。初めて会ったときに藤田さんのキャラクターとかが前面に見えたときがあったので、いい意味で印象は変わっていないと思います。

藤田 そうなんだ?

宮沢 ただ、挑戦的な人だなとは思います。稽古でボートを裏返すまでは理解できたんですけど、それを垂直に立ててって言ってるのを聞いたときにヤバいなって。

一同 あはははは!(笑)

宮沢 「やってみて」って藤田さんに言われて、ボートを動かしてた転換担当のメンズは「え? これでいいの?」みたいな顔をしてて(笑)。普通そういう発想はあったとしても実際にはやらないかもしれないじゃないですか。でもとりあえず全部やってみるっていう。そこから生まれてくるものも確かにあるし、面白いなと思いました。

青柳 ここからもっと非人道的になっていくよ。

一同 あはははは!(笑)

青柳 氷魚くんが持ってる藤田くんのイメージも変わっちゃうかも。絶対10秒かかるところを「そこ5秒で動いて!」とか言われるから。

宮沢 それはどうすればいいんですか。

青柳 できるようにする。

宮沢 心しておきます(笑)。

藤田 身体には気を付けてね(笑)。

「BOAT」ビジュアル(AD:名久井直子、撮影:井上佐由紀)
「BOAT」
2018年7月16日(月・祝)~26日(木)
東京都 東京芸術劇場 プレイハウス
「BOAT」

作・演出:藤田貴大

出演:宮沢氷魚、青柳いづみ、豊田エリー、川崎ゆり子、佐々木美奈、長谷川洋子、石井亮介、尾野島慎太朗、辻本達也、中島広隆、波佐谷聡、船津健太、山本直寛、中嶋朋子

藤田貴大(フジタタカヒロ)
マームとジプシー主宰、演劇作家。1985年北海道伊達市生まれ。桜美林大学にて演劇を専攻し、2007年にマームとジプシーを旗揚げ。以降、全作品の作・演出を担当。11年6月から8月にかけて上演された3連作「かえりの合図、まってた食卓、そこ、きっと、しおふる世界。」で第56回岸田國士戯曲賞を26歳で受賞。13年に今日マチ子原作の「cocoon」を舞台化、16年に第23回読売演劇大賞優秀演出家賞を受賞する。オリジナル戯曲のほかに、14年には野田秀樹の「小指の思い出」、15年には寺山修司作「書を捨てよ町へ出よう」、16年には「ロミオとジュリエット」の演出を担当。さらに16年より音楽家・大友良英と福島の中高生と共にミュージカル「タイムライン」を発表しているほか、詩集やエッセイ集なども手がける。18年10月には「書を捨てよ町へ出よう」の再演が控える。
宮沢氷魚(ミヤザワヒオ)
1994年生まれ。MEN’S NON-NO専属モデルとして活躍中。語学も堪能で、日本語と英語のバイリンガル。2017年にTBS「コウノドリ」で俳優デビュー。続けて日本テレビ「トドメの接吻」にもレギュラー出演し、ドラマ3作目のNHK 神奈川地域発「R134/湘南の約束」にて初主演を務めた。藤田貴大演出「BOAT」で初舞台。11月から12月にかけて「2018 PARCO PRODUCE“三島×MISHIMA”『豊饒の海』」への出演が控える。
青柳いづみ(アオヤギイヅミ)
女優。2007年マームとジプシーに参加、08年「三月の5日間」ザルツブルグ公演よりチェルフィッチュに参加。以降両劇団を平行し国内外で活動。近年は演出家・飴屋法水や彫刻家・金氏徹平との活動、音楽家・青葉市子とのユニット、また文筆活動も行う。18 年に川上未映子×マームとジプシー「みえるわ」で小説家・詩人の川上未映子の詩を全10都市11会場で発表した。 18年10月に藤田貴大演出「書を捨てよ町へ出よう」再演への出演が控える。
豊田エリー(トヨタエリー)
1989年生まれ。2002年デビュー後、テレビ・映像を中心に活躍。ドラマ「玉川区役所 OF THE DEAD」「貴族探偵」、映画「ぼくたちと駐在さんの700日 戦争」等に出演。また「kodomoe」(白泉社)創刊号より表紙モデルも務めている。16年に藤田貴大演出「ロミオとジュリエット」で初舞台を踏んだ。
中嶋朋子(ナカジマトモコ)
東京都生まれ。テレビドラマ「北の国から」で22年間にわたり螢役を務める。以後、映画・舞台と活躍の場を広げ、第44回紀伊國屋演劇賞個人賞、第17回読売演劇大賞優秀女優賞ほか受賞暦多数。ナレーション、朗読、執筆活動など幅広く活動。TBSラジオ「文学の扉」でパーソナリティを務める。