2026年最初の公演だからこそ…6人が意気込みを語る
ここからは、6人それぞれのメールインタビューを紹介。「新春浅草歌舞伎」で演じる役のこと、2025年の振り返り、2026年への抱負を聞いた。
中村橋之助
──今回「新春浅草歌舞伎」で演じられるお役について、大事にしたいことを教えてください。
「傾城反魂香」の浮世又平は、幼い頃からいろいろな方の舞台を拝見していて、「いつか絶対やりたい!」と思っていた念願のお役です。父(中村芝翫)も勤めていますが、最後に勤めたのが約30年前ということもあり、今回は(中村)勘九郎の兄に教わります。僕たち歌舞伎役者は先輩から教わる「型」も大切ですが、それと同じように「心」が大切であると僕は考えます。鶴松君のおとくと僕の又平二人の「心」が奇跡を呼び寄せる……そんな夫婦でありたいと思っています。そして、憧れのお役を勤める時はいつも思うことですが、敬意と勤められるうれしさ幸せさを大事に1カ月走り抜けます。
「梶原平三誉石切」の大庭三郎は、役者で魅せるというか、今まで培ってきた下地が空気として出てくるお役だと思います。梶原平三もいつか絶対に勤めたいお役の一つです。高麗屋のおじさま(松本白鸚)が梶原をお勤めになられた際に父が勤めておりますので、父に教わります。
「男女道成寺」の強力は、莟玉くんと左近くんが作る世界の中で、染五郎くんと若手らしく行儀良く勤めたいと思っています。
──2025年を振り返って、どんな1年でしたか?
たくさんの大役や演し物をさせていただけた一年でした。でもそれと同時に同世代の先輩方が歌舞伎座で大役をなさるのを間近で見て、羨ましく、悔しい思いもたくさんしました。この思いを忘れずに、負けずに、「もっと勉強しなきゃ」と思い続ける一年だったなあと。一番うれしかったのは「怪談乳房榎」の磯貝浪江。父が長年やってきた役をさせてもらう機会は今までも大きな喜びでしたが、中でもこの浪江は、(十八代目中村)勘三郎のおじと父がやったものを勘九郎の兄とさせてもらえたというのが、この上ない幸せでした!
──新年の抱負や新しく挑戦したいことなど、2026年に向けての意気込みをお客様にお願いします!
30歳という節目を迎えて、守る存在もできる最初の年となる2026年! 歌舞伎役者として、歌舞伎のために成駒屋のために、最強の三兄弟を目指してより全力に一所懸命に走っていく1年にしたいです! そのスタートとなる「新春浅草歌舞伎を」盛り上げるべく、想いを熱く持って駆け抜けます! 2026年もご声援のほどよろしくお願いいたします!
市川男寅
──今回「新春浅草歌舞伎」で演じられるお役について、大事にしたいことを教えてください。
「梶原平三誉石切」の俣野五郎は、祖父も父も何度も勤めてきた役。しかし自分は前にぐいぐい出るタイプでもなければ、身体つきもがっしりしているわけではありません。幼少期から仮面ライダーのような“かっこよさ”よりも、クレヨンしんちゃんのような“かわいさ”のあるものが好きで、素の自分とは正反対の人物像だと感じています。だからこそ強く・太く・大きくを、より意識して舞台に立ちたいです。「傾城反魂香」の土佐修理之助は一門では曾祖父が79年前に勤めて以来で、父にも祖父にも縁のなかった役。誠実で、真面目で、若々しい修理之助の空気感を丁寧につくっていきたいです。父や祖父とはまた違った“自分の色”をお見せできればと思っています。
──2025年を振り返って、どんな1年でしたか?
2026年新春浅草メンバーに選んでいただいたこと。花形興行はほぼ初めてで、準備や取材など毎日が新鮮です。とはいえ、まだ何も始まっていませんし、今できることは、全力を尽くすこと。2025年に出演している興行を勤めあげ、2026年へ向かっていきたいです。プライベート面では大阪・関西万博です。失われた20年と呼ばれる期間に生まれ、若い時をコロナ禍で過ごした僕たち平成世代にとって、日本がホスト国として開催する国際的イベントは無観客だったことも多く、今回が初めて現地で体感できた大規模イベントでした。
──新年の抱負や新しく挑戦したいことなど、2026年に向けての意気込みをお客様にお願いします!
いただいた機会を大切にしながら、さまざまな役やお仕事を通して経験を重ねていきたいです。一人でも多くの方に“男寅”という存在を知っていただけるよう、そして「この先も観たい」「見守りたい」と思っていただけるように一つひとつを大切にしていきたいです。そしてお芝居はもちろんですが、旅に関するお仕事をしたいです。自分を語る上で外せないですし、代名詞だと思っているので(笑)。僕が旅に出る理由はきっと劇場にいらっしゃる皆様と同じ。日々を抜け出して、知らぬ間に背負っている荷を置いて、まだ見ぬ世界へ飛び込む。すると目の前に広がった景色や価値観、感情を味方にすっと前を向けるのです。
中村莟玉
──今回「新春浅草歌舞伎」で演じられるお役について、大事にしたいことを教えてください。
第1部の「藤娘」は近年あまり出ない、「潮来(いたこ)」で踊らせていただきます。
私の養祖父、六世中村歌右衛門が六世藤間勘十郎先生に新たに依頼し完成させた振付で勤めます。初演の際に、養祖父は衣裳についてもとてもこだわり、舞台稽古から衣裳が変更になったため、初日は開幕前の休憩が1時間もあったそうです。近年頻繁に上演される藤音頭に比べて古風な音曲と振りですが、養祖父が心を込めて残した作品を大切に勤めたいと思います。第2部では「男女道成寺」の白拍子花子を勤めます。「道成寺もの」に自分が挑戦できることになるとは思いもしませんでしたが、近年ご一緒することの多い、尾上左近さんと共に踊らせていただけるのはとてもうれしく、今から楽しみです。華やかな一幕となるように、力を合わせて精いっぱい勤めたいと思います。
──2025年を振り返って、どんな1年でしたか?
2025年は新世代となる「新春浅草歌舞伎」に始まり、いろいろなことに挑戦させていただいた1年でした。歌舞伎座では約12年ぶりの上演となった「仮名手本忠臣蔵」で力弥を勤めたことや、第2作目となる歌舞伎「刀剣乱舞」への参加など、歌舞伎の本公演でも大きな経験をさせていただきました。歌舞伎以外のお仕事では、映像のお芝居に9年ぶりに挑戦させていただきました。新しいことも、これまで積み重ねてきたことも、どちらも学び、見つめ直す時間をいただけた1年でした。
──新年の抱負や新しく挑戦したいことなど、2026年に向けての意気込みをお客様にお願いします!
2026年はどこかのタイミングで久々に海外に行きたいなと思っています。30歳になる前に行っておきたい都市がいくつかあるのですが、果たして行くことができるのか……。二十代最後の1年を公私共に充実した年にするのが一番の目標です!
市川染五郎
──今回「新春浅草歌舞伎」で演じられるお役について、大事にしたいことを教えてください。
主役を勤めさせていただく「梶原平三誉石切」は、時代物作品の真ん中に立つことを常に意識し、作品全体をまとめられるよう心がけて勤めます。また、「傾城反魂香」の雅楽之助と「男女道成寺」強力は、ともに出番は多くはないですが、どちらも作品を引き締める役どころだと思いますので、丁寧に演じたいです。
──2025年を振り返って、どんな1年でしたか?
2025年は、古典では「絵本太功記」の光秀や、「菅原伝授手習鑑」の梅王丸、源蔵、「与話情浮名横櫛」の与三郎、新作では「木挽町のあだ討ち」や、いのうえひでのりさん、野田秀樹さん、三谷幸喜さんという日本の演劇界を代表する方々とご一緒させていただき、濃密な1年となりました。
──新年の抱負や新しく挑戦したいことなど、2026年に向けての意気込みをお客様にお願いします!
これまでと変わらず、目の前のことを一つひとつ丁寧に積み重ねていきたいです。
尾上左近
──今回「新春浅草歌舞伎」で演じられるお役について、大事にしたいことを教えてください。
まずは、「梶原平三誉石切」の梢ですが、この2、3年で女方のお役を多く勤めさせていただきましたが、その中で今年の10月、歌舞伎座「義経千本桜」でお里という娘役をさせていただきました。お姫様の役が多かった中、初めての町娘でした。このお役が身体的にも精神的にも大変でして、最初からずっと出ていて、女方としてのくどきを見せるのがしどころ。その後は裏を向いてずっと蹲り(つくばり。しゃがむこと)、じっとしていないといけない。女方というものは大変なものだと改めて実感したのと同時に、「もっと勉強しなければ」と思った印象的な公演でした。今回勤めさせていただくのもお里と同じ、町娘という役どころで、「新春浅草歌舞伎」という若手の修行の場で、自分が勉強したい役に挑めることはありがたいです。中村時蔵のお兄さんに見ていただきます。
次に「相生獅子」ですが、これは石橋物の中では珍しい女方の毛振りがある舞踊です。後シテだけではなく、姫の踊りの二枚扇など、お正月に相応しい華々しい舞踊で、鶴松さんと踊らせていただけるのはとても楽しみです。
「男女道成寺」は、いつか踊らせていただきたいと思っていた憧れの舞踊です。父も多く踊っているので見てもらいます。山尽くしという鞨鼓(かっこ)の踊りを今回は立廻りにして、より派手に豪快にさせていただこうと思っております。道成寺物は今まであらゆる名人が踊られてきたプレッシャーはありますが、莟玉お兄さんと良いものをつくっていきたいです。
──2025年を振り返って、どんな1年でしたか?
2025年は今までの役者人生のなかでもっとも濃い年だったのではないかと思います。まず、松竹創業百三十周年として歌舞伎座で上演された三大名作に全て出演させていただきました。そのなかで、片岡仁左衛門のお兄さんのもとで多く学ばせていただきました。「仮名手本忠臣蔵」では兄さんの由良之助で一子力弥、「菅原伝授手習鑑」では刈屋姫として娘になり、「義経千本桜」では小金吾でお金を騙し取られ、さまざまな役どころでご一緒させていただき、役の性根、心を教えていただきました。何事にも変えがたい大切な経験をさせていただいたと思っています。また新作にも多く出させていただきまして、7、8月は尾上松也のお兄さん主演、演出の「刀剣乱舞」に出演いたしました。ゲーム原作の歌舞伎は初めてだったのですが、松也のお兄さんに演劇の基礎から教えていただきましたし、本当に楽しく、素敵な座組でした。自分の役者としてのひとつのターニングポイントになったと思いますし、これからこの経験を生かせるように努力していかなければならないと気が引き締まった公演でした。また12月も坂東玉三郎のお兄さんの「火の鳥」、中村獅童のお兄さんの「超歌舞伎」と新作に出演いたします。新作歌舞伎の稽古は自分を見つめ直すきっかけにもなります。古典歌舞伎をやる上でも必ず必要になる純粋な演劇の勉強ですので、今後も古典、新作と両立して勉強していきたいと思っています。
──新年の抱負や新しく挑戦したいことなど、2026年に向けての意気込みをお客様にお願いします!
来年も今年と目指す所は変わらず、役者としての基礎を固めていく1年にしていきたいと思います。来年は五月歌舞伎座、尾上辰之助の名跡を襲名させていただきます。辰之助は憧れの祖父の印象が強い名前です。まずはこの襲名を無事に勤められるよう頑張ります。「新春浅草歌舞伎」の公演中に二十歳の誕生日を迎えるので、役者としても、人としても節目の年にできるよう精進して参りますので、2026年もどうぞよろしくお願いいたします。
中村鶴松
──今回「新春浅草歌舞伎」で演じられるお役について、大事にしたいことを教えてください。
「梶原平三誉石切」は中村屋にとってはあまり縁のない演目で、まさか奴菊平を勤めさせていただくとは思ってもおりませんでした。出番は少ないですが華のある役者さんが勤めているイメージですので、登場しただけでガラッと舞台を明るく出来るような存在感を出せるようにしたいです。
「相生獅子」は以前、七之助の兄とも勤めたことがありますが、前半はとても古風で地力が試される舞踊だと思っております。基礎に忠実に丁寧に踊りたいです。
「傾城反魂香」は子どもの頃から相手役の橋之助さんといつか一緒にやりたいと語り合ってきた長年の夢のお役です。又平への大きな愛、又平の絵に対するリスペクトを大事にし、お客様にも夫婦の愛が大きな壁を乗り越える瞬間に感動していただけたらうれしいです。
──2025年を振り返って、どんな1年でしたか?
2025年はこれまでにないほど充実し、いろいろな経験をさせていただきました。「新春浅草歌舞伎」での大役に始まり、二月猿若祭では中村屋ファミリーでの「文七元結」。6月の博多座では、おそらく人生初めてであろう全演目に出演し、夏は歌舞伎を離れて一人で現代劇に挑戦させていただきました。また9月には二度目となる自主公演を開催させていただき、「仮名手本忠臣蔵」の五、六段目の早野勘平、「雨乞狐」を披露させていただきました。そして11月には三谷かぶきにも出させていただいて……あっという間の一年だったように感じます。
──新年の抱負や新しく挑戦したいことなど、2026年に向けての意気込みをお客様にお願いします!
2026年はなんといっても、今まで名乗ってきた中村鶴松を改め、初代中村舞鶴として幹部披露させていただきます。約20年名乗ってきた名前が変わるという僕の人生においては大きな変化となります。一人でも多くのお客様に中村舞鶴という名前を覚えていただき、愛していただけるよう、精進の1年となると思います!
プロフィール
中村橋之助(ナカムラハシノスケ)
1995年生まれ。成駒屋。中村芝翫の長男。2016年に四代目中村橋之助を襲名。
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中村橋之助 (@hashinosuke_4) | Instagram
市川男寅(イチカワオトラ)
1995年生まれ。滝野屋。市川男女蔵の長男。2003年に七代目市川男寅を名乗り初舞台。
市川男寅/旅好き歌舞伎役者 (@otora_ichikawa) | X
市川男寅|世界遺産検定1級の旅する歌舞伎役者 (@otora_ichikawa) | Instagram
中村莟玉(ナカムラカンギョク)
1996年生まれ。高砂屋。2006年に中村梅玉の部屋子となり、中村梅丸を名乗る。2019年に梅玉の養子となり初代中村莟玉に改名。
中村莟玉(@kangyoku.maruru_official) | Instagram
市川染五郎(イチカワソメゴロウ)
2005年生まれ。高麗屋。松本幸四郎の長男。2009年に四代目松本金太郎を名乗り初舞台。2018年に八代目市川染五郎を襲名。2026年5月から6月にかけて舞台「ハムレット」でタイトルロールを演じる。
市川染五郎/SomegoroVIII (@somegoro_official) | Instagram
尾上左近(オノエサコン)
2006年生まれ。音羽屋。尾上松緑の長男。2014年に三代目尾上左近を名乗り初舞台。2026年5月に三代目尾上辰之助を襲名する。
中村鶴松(ナカムラツルマツ)
1995年生まれ。中村屋。2000年、清水大希の名で初舞台。2005年に十八世中村勘三郎の部屋子になり、二代目中村鶴松を名乗る。2026年2月に中村舞鶴を襲名する。





