劇場に入った瞬間から物語の中へ、日生劇場の魅力
──共演の阿南健治さんは本作に初参加、平田敦子さんは3回目の出演となります。お二人の稽古場での印象を伺えますか?
白石 平田さんは……ちょっともったいないくらい出演シーンが限られていて。でもものすごく存在感があるし、説得力もある演技をされる方ですね。阿南さんは本当に純粋な方。先輩ぶることなくフラットに優しく接してくださるので僕も遠慮なく阿南さんに対して話ができるしお芝居もできます。そういう意味では一緒に作り上げていくという気持ちですね。
南野 お二人ともテレビなどで見ていた大先輩なので、ご一緒させていただける毎日で吸収できることがたくさんあるなあと思っています。稽古初日、平田さんがお隣の席だったんですけど、私がものすごい緊張して座っていたら、「クリアファイルをいっぱい買っちゃったからいる? 好きなの選んでいいよ」って声をかけてくださって(笑)。そういう部分から私の緊張をほぐしてくださってすごくうれしかったです!
──日生劇場という空間についてもお伺いしたいです。1963年に竣工した日生劇場は、まるで劇場全体が舞台美術のような空間になっていて、曲線の壁面を彩るガラスタイルモザイクが印象的です。お二人の劇場に対する印象は?
白石 やっぱり歴史を感じる劇場ですし、行くたびにいい劇場だなと思います。あの独特な壁もすごくいいし、客席に入るだけで物語への没入感がある。例えばディズニーランドでもアトラクションに入る前からワクワクする仕掛けがあると思いますが、日生劇場も客席に入った瞬間から「何かが始まるんだな」っていう感覚が生まれますよね。そこが日生劇場の強みで、無機質なホールでやるのと、お客さんの作品に対する集中力が絶対違うんじゃないかな。ただ日生劇場に対して憧れがありつつも、ミュージカルの劇場、という印象があったので、僕にはあまりご縁がないかなと思っていたのですが、今回出演できてすごく光栄です!
南野 小中学生の頃にミュージカルがすごく好きで、当時は大阪に住んでいたんですけど、東京の劇場をよく調べていたから、日生劇場のことももちろん知っていました。日生劇場は、客席につくまでに小さな階段がいくつもあったり、螺旋階段まであってカッコいいし、ワクワクしますよね。「こういうところに立てたらすごいだろうな」と思っていた劇場だったので、私も今回本当に光栄です!
僕がやるガブにワクワクしてもらいたい
──「あらしのよるに」が発刊して今年で30周年。子供時代の頃に読んだ現在の大人たち、今まさに作品に触れている子供たちと、幅広い世代に愛されている作品ですが、2024年版音楽劇「あらしのよるに」をどのように楽しんでほしいですか?
南野 いろいろな踊りやハーモニー、お芝居の表現に溢れている作品なので、客席に座っていろいろな感覚を楽しんでいただけたらなと思います。ストーリーとしては、種族の違うガブとメイが出会って深い友情が育まれる、というシンプルなものですが、メイとガブはお互いを種族で見るのではなく、最初から同じ生き物や友達として見ていて、そこが素敵だなと思うので、大人の方もお子さんも特別な準備をすることなく作品を楽しんでくださったらなと思います。
白石 僕自身ファミリー向けのお芝居は初めてなんですが、僕としては、客席のお子さんたちを笑わせたいんですよね! ワクワクしてほしいなって。僕はサッカーが好きでよくスタジアムで試合を観たりするんですけど、僕たち大人は、そのクラブの歴史とか今の立ち位置とかチームバランスとか、クラブの背景をわかって観ているから、たとえ0対0の試合でも面白く見られたりするんですけど、子供たちはやっぱり点が入らないとあからさまに面白くない態度をする(笑)。でも確かにエンタテインメントってそうだよなと思う部分があって、今回の作品も原作が間違いなく素晴らしくて、脚本も音楽も良くて、良い作品になるのは間違い無いんだけど、そこで「僕がやる意味ってなんだろうな」と考えたときに、僕がある意味ちょっとはみ出して(笑)、「もうこれはガブじゃないでしょ」って言われるようなアプローチにも挑戦してみたい。原作の世界観を僕がまっとうするというよりは、僕がやるガブにワクワクしてもらいたいなって。なので今回、遊び心はすごく大事にしたいなと思っています。
プロフィール
白石隼也(シライシシュンヤ)
1990年、神奈川県藤沢市生まれ。2007年に「第20回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト」で準グランプリを受賞して芸能界入り。2008年、俳優デビュー。2012年、「仮面ライダーウィザード」で主人公・操真晴人/仮面ライダーウィザード役を演じ、2016年にNetflix配信ドラマ「グッドモーニング・コール」のスピンオフドラマで自身初の監督・脚本・出演を担当。2021年にはWOWOW開局30周年プロジェクト「アクターズ・ショート・フィルム」で監督作品「そそがれ」を制作した。近作にテレビドラマ「蜜と毒」、舞台「ジョン王」(出演)、「The Mysterious Stranger ザ・ミステリアス・ストレンジャー」(脚本・演出・出演)、「マーク・トウェインと不思議な少年」(出演)など。
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南野巴那(ミナミノハナ)
2001年、大阪府生まれ。幼少期からクラシックバレエをはじめ、中学1年生時に、ミュンヘン国際サマーワークショップでドイツにバレエ短期留学。2018年にダンス&ヴォーカルグループ「Re:Complex」にてメジャーデビューし、2019年に卒業。舞台は「Family Dream Live 2023」「スクールアイドルミュージカル」に出演。現在、NHK Eテレ「にほんごであそぼ」のはーな役としてレギュラー出演中。
稽古場を訪れたのは7月下旬。その日は、出演者全員が登場する、物語中盤のシーンから稽古がスタートした。ある嵐の夜、真っ暗闇の中で出会い“ひみつのともだち”になったオオカミのガブとヤギのメイだが、それぞれの種族の仲間たちは、2人の友情を訝しんでいる。ある日、ガブとメイは谷へ繰り出すことにして……。
白石隼也演じるガブと、南野巴那演じるメイが谷へ向かって森を進むシーンで、阿南健治を中心としたオオカミグループと、平田敦子らを中心にしたヤギグループが、ガブとメイを遠巻きに追いかけていく。……と、ダンサー数名がビーズのようなものがついたウチワを鳴らして雨音を表現しながら、ガブとメイの間をすり抜けていった。雨宿りの場所をようやく見つけた二人は、飛石をしてなんとか川を渡り切り、お互いの“温かさ”を発見するのだった。
セリフがほぼない、10分程度のごく短いシーンだが、オオカミとヤギという2つの種族の関係性と、風や雨といった自然の力の強さが、俳優とダンサーたちの身体によってダイナミックに描かれる。その中心で、白石は目線や仕草、声のトーンを細やかに変化させながら、ガブを優しさと愛嬌のあるオオカミとして立ち上げ、南野はよく通る声と身軽な動きで、メイの素直さや明るさ、芯の強さを表現した。
演出の立山ひろみと振付の山田うんは、そのシーンが終わると各グループを回りながら俳優たちの意見を聞き、どうすると動きやすいか、動きが立体的に見えるかなど検討を続けていく。面白かったのは、チームごとの“佇まい”がそれぞれ違ったこと。オオカミチームは立山や山田と話している間も、身体を動かして見せたりストレッチのような仕草をしたりと“動的”に話すのに対して、ヤギチームは(そのシーンの最後の状態である)舞台美術に全員が腰掛けた状態のまま、言葉で“静的”にやりとりを続けた。またどのチームもメンバーが積極的に発言しているのが印象的で、時折賑やかな笑い声に包まれながら、それぞれのアイデアをぶつけ合っていた。
各チームでの協議が進む中、白石と南野は2人で何度も同じ動きの稽古を続けていた。南野の動きを見て白石がアドバイスを加えたり、南野から白石に質問を投げかけたり、2人のイメージを擦り合わせつつ、同時に動きのタイミングも合わせていく。そんな2人のやり取りに最後は立山や山田も加わって、立山は動きの中にあるガブとメイの気持ちを、山田はふとした動作をスムーズに続けるためのテクニックを2人に伝えていった。
「あらしのよるに」としては3度目、白石ガブと南野メイにとっては初となる今回の上演。稽古での2人の印象を立山に問うと、「2人とも声がすごく良いですね」と返答。「白石さんとは最初に優しいガブが作りたいという話をさせていただいたのですが、そのイメージにとても合っていて、柔らかい声の使い方にハッとすることが多いです。南野さんの声は溌剌としていて、メイの強さ、芯のある感じをとてもよく表現していて、輝いている。この2人の声はとても相性が良いと感じています」と手応えを語った。さらに「お芝居の面でも、2人とも互いの演技や芝居作りの呼吸を細やかに受け取って、クリエイションの現場を牽引してくれているので、今はその先がどうなっていくのか、とても楽しみに演出しています」と、本番に向けて力強く期待を語った。
「日生劇場ファミリーフェスティヴァル」とは?
「日生劇場ファミリーフェスティヴァル」は日生劇場の開場30周年を機に、1993年にスタートした企画。演劇やミュージカル、バレエなどを、子供も大人も楽しめる“本格的な上演”で届けることを目指している。今年は、百名ヒロキがアラジン、ルーナ姫を山下裕賀が演じ、7月27・28日に上演された石丸さち子演出の物語付きクラシックコンサート「アラジン・クエスト」、8月3・4日に上演された人形劇団ひとみ座出演のパペット・ファンタジー「ムーミン谷の夏まつり」のほか、8月16日から18日にかけてスターダンサーズ・バレエ団によるバレエ「シンデレラ」と音楽劇「あらしのよるに」の4作品が上演される。