梅田一路プロデューサーとマヂカルラブリー・野田クリスタルさん。

2020年、いつもと違う年 その6 [バックナンバー]

「R-1ぐらんぷり2020」マヂカルラブリー・野田クリスタル×梅田一路氏

前代未聞の無観客大会にゾクゾクした、やりたい放題の“試み優勝”

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新型コロナウイルスの流行で図らずも特別な年になった2020年を、お笑いに携わる人たちと気のおもむくままに振り返るこの連載。1回目ではコロナ禍によってパンツ交換や氷口移しといったおなじみの罰ゲームが封じられた「勇者ああああ」板川侑右プロデューサーとラブレターズ、2回目ではさまざまな公演が“自粛”を余儀なくされる中で、十分な感染対策をしながら「やる」決断をした「劇団かもめんたる」かもめんたる・う大さんと会場で観劇していたかが屋・賀屋さん、3回目ではパーソナリティがコロナに感染し、急遽代役を立てることになったTBSラジオ「JUNK 爆笑問題カーボーイ」の宮嵜守史さんとその代打を務めたウエストランド、4回目ではコロナの感染拡大状況に翻弄されながらも来年の「キングオブコント」へ向けて意欲を燃やす「ZOMMY」のゾフィーとザ・マミィ、公演を手がけるユーロライブ小西朝子さん、5回目ではコロナ禍から目をそらさず工夫を凝らした演出で観客を楽しませた「シソンヌライブ」の面々にインタビューを行い、“笑いを届けること”への思いに耳を傾けてきました。「堅苦しくなく語る」がテーマでもあるので、横道にはみ出した雑談もたっぷりと交えてお届けしています。

最後に登場してもらうのは、史上初となる無観客開催となった「R-1ぐらんぷり2020」で栄光を掴んだマヂカルラブリー・野田クリスタルさんと、関西テレビプロデューサーの梅田一路さん。当時、前代未聞だった「無観客賞レース」の成功の裏側にはどんな苦労があったのでしょうか? 11月25日に行われた「R-1グランプリ2021」やります会見のあと、2人に話を聞きました。

取材・文・撮影 / 狩野有理

野田クリスタル×梅田一路P インタビュー

賞レースは発表会、誰もいない小部屋でやりたい

──「R-1ぐらんぷり2020」が無観客になるというアナウンスを聞いたとき、野田さんはどう思いましたか?

野田クリスタル 正式に知らされる前、都市伝説的に「無観客になるかもしれない」って聞いたんですよ。「まさかそんなことはないと思うけど、そんな話もあるらしい」と周りはざわついていました。実際に無観客になるっていう説明を受けたのは決勝進出者が発表されたときですね。ゾクゾクしました。「なんだ? 今年は」って。

──それはどういうゾクゾクですか? 恐怖?

野田 この試合、どうなるかわからないぞっていうワクワク感です。観客を入れてやっていた予選の出来はもう関係なしに、何が起こるかわからない。未知なる大会への楽しみが勝っている雰囲気でしたね、みんな。

梅田一路 みなさんそんな感じやったんですね(笑)。野田さんは優勝後の会見(参考記事:野田クリスタル「R-1」優勝会見、副賞の冠特番で「ゲーム番組やりたい!」)でも「無観客のほうが逆にやりやすかった」っておっしゃってくれて。

野田 僕、本当はまったく誰もいない小部屋でネタやりたいんですよ。閉ざされた空間でやって、それをモニターとかで見てもらうっていうのが一番いい状態だと思うんですけど、しょうがないですよね。一応、客商売なのでお客様の前でやってます。

「R-1ぐらんぷり2020」決勝戦の様子。(写真提供:関西テレビ)

「R-1ぐらんぷり2020」決勝戦の様子。(写真提供:関西テレビ)

──(笑)。お客さんの反応があって自分もどんどんノッてくるとおっしゃる芸人さんが多いように思いますが。

野田 いや、だから前説とかすげえ苦手で。お客さんを盛り上げる術が脆弱。僕にとって賞レースって自分の考えたものを発表する会なので、できれば密室でやりたいです。

──スベってもダメージを受けないというのはいいかもしれません。

野田 寄席とかだと僕ら目当てじゃないお客さんがちょっとやる気ない感じのときもあるんですけど、それでもなんとか盛り上げないといけないっていうのがどうにも苦手で。賞レースは「はい、どうも」からすぐネタを始めていいじゃないですか。発表会だから。それがいいんです。

「めっちゃ俺ら苦労したのに!」

──無観客開催を決めるまで、テレビ局ではどんなご苦労があったのでしょうか。

梅田 コロナというものがテレビの報道でも取り上げられるようになって、大変なことになっているなとは思っていましたが、3月の決勝戦がまさか無観客になるなんてことは考えもしていませんでしたね。いつもは決勝戦の観覧を230人くらい入れているんですが、2月の中頃から「お客さん、どうする?」っていう議論になりました。今まで観客なしでなんてやったことがなかったですし、賞レースの会場にお客さんがいないなんてありえない。スタジオでファイナリストがネタを演じたときにちゃんと笑いが起きるという環境はなんとかして整えたいという気持ちで、最後の最後までやり方を検討したんですが、いろんな方の意見を総合した結果、感染防止の観点からお客さんを入れることは諦めました。致し方なく、そういう判断になりましたね。だから、決勝が終わってから野田さんが「お客さんがいなくてやりやすかったです」とおっしゃって、「めっちゃ俺ら苦労したのに!」って思いました(笑)。

野田 あはははは(笑)。「助かったー」って思いましたもん。

──もしかしたら野田さんは、通常通り観客ありの大会だったら優勝できていないかもしれない?

野田 いや、全然ありますね。お客さんに伝わっていない笑いもあったと思いますし。あの場にいたのって審査員の方々と関係者だけじゃないですか。だから何をやっても伝わるんです。スタッフさんもずっと「R-1」を見てきた人たちですから、もはやそこにいる全員の目が肥えているというか。楽しくて仕方なかった。やりたい放題でしたね。

「R-1ぐらんぷり2020」決勝戦で「モンスト」こと「モンモンとするぜ!! ストッキング姉さん」をプレイする野田クリスタルさん。(写真提供:関西テレビ)

「R-1ぐらんぷり2020」決勝戦で「モンスト」こと「モンモンとするぜ!! ストッキング姉さん」をプレイする野田クリスタルさん。(写真提供:関西テレビ)

──水を得た魚のように力を発揮した野田さんに対して、やはりこういう環境に慣れていないファイナリストもいたと思います。

野田 そうですね。スタジオにいたのは“裏”の部分も見ている人たちなので、ワタリ119とかはやりづらかったんじゃないかなと思います。ネタを初めて見るお客さんはワタリのパフォーマンスにワクワクするんですけど、今回は仕組みとかスタイルが全部バレているっていう中でやらなきゃいけなかった。ああいう、お客さんありきで構成されて、演出も練られたネタの芸人は大変だったんじゃないですかね。

梅田 ルシファー吉岡さんなど、笑いを重ねていくコントの方も相当やりにくかっただろうなと思います。視聴者の笑い声を想像しながらネタを運んでいかないといけないので。

野田 この大会はウケ量では判断できなかった。だから僕が優勝したし、すゑひろがりず南條や大谷健太さんがファイナルステージに残ったんだと思うんです。この3人って“試み”の3人なんですよ。

──あ、なるほど。スタイルを発明しているような方々。

野田 はい。だから面白さっていうより“試み優勝”だと僕は思ってます。

梅田 あはははは(笑)。僕らとしては、現場で笑いの量を確かめられない分、演者さんがどこへ向けて発信すればいいかをわかりやすくしないといけないなと考えていました。そこで急遽、視聴者のTwitter投票を企画したんです。決勝当日の10日くらい前からTwitter社さんを巻き込んで、システムを作って……。それを審査に加えることで、演者さんにはテレビの向こう側に届けるということをより意識してもらおうと思いました。

──野田さんは視聴者票であるd投票、Twitter投票、共に1位で優勝されましたね(参考記事:マヂカルラブリー・野田クリスタルが「R-1ぐらんぷり2020」優勝)。いち視聴者としては、会場の反応がないことでネタを見ることだけに集中できた気がします。

野田 ジャルジャルさんのYouTubeって真っ白な部屋でお客さんの笑い声一切ない中でコントをやってるんですけど、めちゃめちゃ面白いんですよ。こっちがネタに入り込めるから。「R-1」でもそういう状況を作れていたのかもしれないですね。

無観客ライブと言えば“もう中さん事件”

──イレギュラーな形になった2020年大会、梅田さんの手応えはどうでしたか?

梅田 ファイナリストの方がどう感じられたかっていうのを我々スタッフとしては一番心配していたんですが、野田さんの「やりやすかった」という言葉には救われたところがありますね。

野田 本音ですからね。気を使って言ったわけではなく、マジなんで。

梅田 (笑)。ただ、芸人さんによってはやりにくかったでしょうし、こういう特殊な事態だったとはいえ改善すべきこともあったとは思います。それと、審査員の方にも苦労をおかけした。お客さんの反応がすべてではないにせよ、一つの審査材料にはなっていると思うので。

「R-1ぐらんぷり2020」で優勝した野田クリスタルさん。(写真提供:関西テレビ)

「R-1ぐらんぷり2020」で優勝した野田クリスタルさん。(写真提供:関西テレビ)

──終わったあとは例年以上にお疲れでした?

梅田 ぐったりはしました(笑)。

──この無観客の「R-1」以降、劇場のライブも無観客生配信という形で行われるようになりました。

野田 得意、不得意は人によるんですよ。お客さんを相手に作っている人もいれば、無視してやっている芸人もいるので。ただ、意外にどっちのタイプでも無観客面白いっていうのは発見でしたね。BKB(バイク川崎バイク)なんて、お客さんを煽るネタだから無観客でどうなるんだろうって思っていたんですけど、映像を見るとめちゃくちゃ面白い。無観客の会場を煽ってるんですよ。それと、無観客ライブと言えばあの大事件ですね。“もう中さん事件”。

──「水曜日のダウンタウン」(TBS)で麒麟・川島さんが紹介していましたね。もう中学生さんがお客さん参加型のネタを無観客の会場でいつもどおりにやるという。

野田 あれは伝説です。誰もいない客席込みの光景が笑いを増幅させているというか。ライブって映像で観ると、笑い声が聞こえることによって俯瞰的な目線になっちゃうんですよね。「お客さんが笑っている」っていうことも含めて観ている気がします。

──確かに。没入感は薄れるかもしれませんね。

野田 あと、無観客ライブで楽しかったのはネタ中の乱入ですね。ネタをやっている芸人にガヤを飛ばしたり、ほかの芸人が誰もいない客席で好き放題やるんですよ。それはこういう環境だからこそできたことなので、新鮮で面白かったです。

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