新型コロナウイルスの流行で図らずも特別な年になった2020年を、お笑いに携わる人たちと気のおもむくままに振り返るインタビュー企画。第2回では12月に控える新作公演に向けて稽古中の
劇団かもめんたるは今年7月、第9回公演「君とならどんな夕暮れも怖くない」を6日間にわたって都内で上演しています。周囲のライブが全般的に中止になっていったあの頃、う大さんはどんな思いでいたのでしょうか。しっかりと感染防止対策がとられた会場でこの公演を見届けたという賀屋さんの感想も伺いながら、コロナ禍がもたらしたものについて思いを巡らせます。レアな組み合わせとなった対談をゆるりとご一読ください。
取材・
かもめんたる・岩崎う大×かが屋・賀屋壮也 インタビュー
“新旧コント対談”、ではありません
──今日は新型コロナウイルス禍によって思いがけず特別な年になった2020年がどんな1年だったか考えてみたいと思い、お二人をお呼び立てしました。
かが屋・賀屋壮也 あの……この2人って珍しくないですか?(笑)
かもめんたる・岩崎う大 そうだよね。この組み合わせだからてっきり“新旧コント対談”みたいなテーマなんだと思って、そういう気持ち作りながら自転車こいで来たんですよ。
──すみません、コント対談ではなくて(笑)。劇団かもめんたるの前回の公演「君とならどんな夕暮れも怖くない」を賀屋さんが会場でご覧になっていると聞き、ご感想も交えながらお話しできたらなと。もちろん熱いコント談義を繰り広げていただいてもかまいません。
賀屋 わかりました(笑)。
──こういう形では珍しい組み合わせかもしれませんが、普段の交流はありますよね?
賀屋 はい。よくしていただいていて、劇団かもめんたるの公演も前々回から拝見させてもらっています。今日もそのTシャツを着てきました。最初は確か、ライブでご一緒したんでしたよね?
う大 そうだね。2018年の「さらば青春の光寄席」だったと思う。かが屋の名前を聞くようになった頃にはかもめんたるはあまりライブに出なくなっていて、テレビでかが屋のことを見ていたから“人気芸人”っていう印象があったんだよ。かもめんたるのコントを好きかどうかもわからないし、接し方が難しいなーと思ってた(笑)。
賀屋 めちゃくちゃ好きですよ! お笑いをやる前からずっと「キングオブコント」は見ていましたし、2013年のかもめんたるさんの優勝もよく覚えています。
う大 そっか、まだやってなかったのか。そう思うとステップを登るのがすごく早いよね。
賀屋 早かったと思います、だいぶ。
う大 無駄な時間を過ごしてないよ。
賀屋 だから早すぎた代償を今食らっている感じです(笑)。
う大 全然いいんだよ。そういうふうに思う時期を経験するのもいい回り道だと思う。
賀屋 そうですね。僕も必要な時間だなと思っているんです。
僕は最後まで「やる」と言っておこう
──う大さんは7月の劇団かもめんたるの公演まではどうお過ごしだったんですか?
う大 僕は2月から3月にかけてミュージカル(「ブロードウェイ・ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』Season2」)に出演していたんですが(参考記事:かもめんたる・う大、ミュージカルの金字塔「ウエスト・サイド・ストーリー」出演)、コロナの影響で3分の1ほどを残して公演は中止になったんですよ。これがコロナ禍に関してかなり印象的な出来事でした。その頃はまだニュースで見る話という感じで、コロナが自分に関係があることだとはそこまで思っていなかったんです。むしろ、カンパニーの中で2人くらいインフルエンザにかかってしまって、その代役を立てる準備がけっこう慌ただしかった。そしたらある日突然、2月26日だったと思いますが、急にその日の上演が終わったあとに「みなさん衣装を脱がないでください」とスタッフさんに言われて。みんなで廊下に並んで、なんだろうって言っていたら「この公演は今の回で終わりです」と。
賀屋 え、急にですか?
う大 そう。あまりに突然のことで泣き出しちゃう人もいたんだけど、衣装のまま舞台で記念写真を撮って本当にそれで終わった。そのときは外の状況をあまりわかっていなかったから「ずいぶん早い決断だなー」と思いながら、帰り際にTwitterを開いたら吉本のライブとか軒並み中止が発表されていて、「こりゃ無理か」っていう空気になりましたね。
賀屋 それでも3月の終わり頃まではギリギリやれているライブもありましたよね。4月からは緊急事態宣言が出て完全にできなくなりましたけど。
う大 こんなこと声高に言っていいかわからないけど、僕はラッキーだったというか。ミュージカルは途中で中止になったとはいえ何十回とある公演のうちの3分の2はできたし、3月には客演した玉田企画の「今が、オールタイムベスト」を東京芸術劇場で全公演やりきったんです(参考記事:玉田企画「今が、オールタイムベスト」開幕、玉田真也「相反する感覚描けた」と自信)。で、7月は劇団かもめんたる、9月はシス・カンパニーの「わたしの耳」もかなりの緊迫感を覚えながらですが、無事に上演できた(参考記事:「わたしの耳」開幕、演出のマギー「どや!と全世界に問いたい)。もちろん中止になった単発のイベントとかはありましたけど、何日間かにわたる公演に関してはこの状況ではかなりやれていたほうなんですよね。
──どれも奇跡的なタイミングだったんですね。とはいえ、劇団かもめんたるの「君とならどんな夕暮れも怖くない」が上演されたのは7月21日から26日までで、その頃の東京といえば感染者数が連日増加していて、3連休もあって小池百合子都知事が「外出は控えましょう」と呼びかけている、かなり深刻な状況でした。それでも無事に全公演をやりきったのが個人的にも本当にすごいことだなと思っていまして。
う大 そのときの心境としては、僕は最後まで「やる」と言っておこうって思っていたんですよ。マネージャーとか劇場とか、外側の人たちに「そうは言っても、う大くん、無理だよ」って言われたらしょうがない、諦めるけど、誰かより先に僕が「やめる」とは言わないことにしようって決めていました。決断って何人かですることだけど、でも結局表に出るときはやるかやらないかという1つの判断じゃないですか。だったら僕は最後まで「やる」にしておこうと。そこに強い主張があったわけではないんですけど。
賀屋 会場で観させてもらいましたが、しっかり対策されていて、前2列のお客さんはフェイスシールドをしていました。僕自身、劇場で何かを観るっていうことがこういう世の中になってから久々のことで、まず単純に「人がいる」というのがすごくうれしかったです。
う大 席数は半分にしていたけど、けっこういるなって感じしたよね。
賀屋 そうですね。で、お芝居の内容も今の状況を感じさせるものになっていて、時勢を取り入れるのが早いことに驚きましたし、そういう作品をお客さんたちがフェイスシールドを装着しながら観ているという光景も異様で、すごく印象的でした。
う大 賀屋くんが言ったように、フェイスシールドをしながらこの作品を観ることも含めた1セットの体験だったっていう感想をくれるお客さんもいましたね。
賀屋 こういう時期に観られてよかったなと思いました。
──劇団のみなさんは稽古中、どんな様子でしたか?
う大 日々の感染者数の速報を見て「えー」みたいな反応はしていたと思います。でも稽古はいつも以上に集中していたかもしれません。中止になるときはなるし、もう粛々と。こういうライブとか公演って成果を見せる場でもあるし、当日までの過程が修行でもあるから、人に見せるに値するものができたっていう感覚さえつかめれば最終的にお客さんの前でやれなくても意味がないことではなくて。口に出して伝えたわけではないですけど、みんなおそらくそういうつもりでいつも通りに練習していたと思います。僕が言っていたのは「誰がコロナになっても責めるのはやめましょう」みたいな、普通のことですね(笑)。
賀屋 あはははは(笑)。大事ですね。病気なのに謝らなきゃいけないなんてめちゃくちゃつらいですから。
う大 あとこういう中でやってみて思ったのが、打ち上げとかもできないからみんなすぐ家に帰って、特にやることもないから早く休むわけですよ。だからいつもより、シンプルに調子がよかったなって。
賀屋 めちゃくちゃわかります。僕も肌ツヤよくなってきましたもん。
──きちんと睡眠時間を取れている(笑)。
う大 公演でもないと飲みに行く機会がない人も確かにいるので、次の日もあるのに午前1時とか2時まで飲んじゃうことって今までよくあって。でもそれっておかしなことなんだなって気づきましたね。昔よくプロ野球選手が朝まで飲んで次の日試合に出ていたみたいな豪快エピソードがありましたけど、今聞くと信じられないじゃないですか。役者の世界でも近い将来、そうなるんじゃないでしょうか。「昔、打ち上げっていうものがあってね……」みたいな。「それも最後の日じゃないんだよ。初日とか、次の日に公演があるのに夜中、お酒を飲んでいたんだよ」とか言って。
賀屋 「マジっすか? 現代では考えられない習慣ですね」って(笑)。
う大 そうそう(笑)。っていうような未来があるんじゃないかなと思うくらい、すごくこの作品に真摯に向き合える期間になりましたね。
ゾフィー上田との前説コント、興奮で倍の尺に
──賀屋さんは今年「東京 BABY BOYS 9」「お助け!コントット」(共にテレビ朝日)という2つのコント番組が始動し、また番組から派生したライブも成功して充実ぶりが伺えますが、準備期間中は世の中的にもまだ集まることができなかったと思います。打ち合わせはオンラインで進めていたのでしょうか。
賀屋 そうです。Zoom会議はありがたかったですね。今も会うことはできるんですけどZoom会議を継続していて、助かっています。
──楽ですか?
賀屋 楽ですし、移動時間が省けるから通常ではありえないくらい全員が集まれるんですよ。Zoomでめちゃくちゃコントのことを話し合って、その期間は楽しかったですね。
う大 Zoom会議はいいよね。すぐ解散しても気まずくないのがいい。決めるべきことが決まったらすぐ終われるっていう。
賀屋 そう!(笑) 「じゃ、お疲れさまでした!」でパッと終われるんです。対面だと、決まっても「いいね。あ、いいじゃんいいじゃん。確かにねー……」って、ずるずると会話を延ばしちゃって。
う大 わざわざ来ているし、10分で終わるわけにはいかないっていう心理が働くんだよ。
賀屋 無駄な時間ですよね(笑)。だからと言って別に今生産的な時間を過ごしているわけではないんですけど、1人の時間が増えたのはよかったことの1つです。
う大 ちなみにかが屋は最初から(ネタ作りは)パソコンでしょ?
賀屋 いえ、僕らパソコン一切使ってないです。台本ないんですよ。
う大 え、ないんだ?
賀屋 喫茶店に行って、2人でずっとしゃべって作ります。流れだけはなんとなく書きますけど、言ったほうがいいセリフも反復練習で記憶して。
う大 あのコントでそれはすごいね。
賀屋 できるだけ自然な流れを大事にしたいと思っている2人なので、お決まりにならないようにやってきた方法なんです。そうしようって話し合ったわけではないんですけど。
う大 コントの流れが自然だからこそ、書いて精査しているのかなって思ってた。
賀屋 やりながら「気持ち悪いな」って思ったらやめて、またやってみて、という感じですね。それで今まではよかったんですけど、コント番組をやらせてもらったり、最近は脚本を提供させてもらったりすることもちょくちょく増えてきて、そうなるとやっぱり台本が必要で(笑)。頭で考えたことを書き起こして成立させるっていうのがなかなかうまいこといかなくて苦労しているんですが、訓練するいい機会になっていると思います。
──10月に東京・EX THEATER ROPPONGIで開催された「東京ベイビーボーイズ9 CONTE LIVE」は席を間引かず、満席で上演していました。
賀屋 すごかったです。満員で。まずこういうご時世に開催するっていうテレ朝さんの心意気がありがたかったです。感染対策もバッチリやってもらって。
──会場で拝見しましたが、舞台上のみなさんが本当に楽しそうで。
賀屋 僕とゾフィーの上田さんでやった前説コント、3、4分くらいに収まる予定だったのが、お互いにアドリブ入れまくって7分くらいやってしまったんですよ(笑)。いざ舞台に出たら満員のお客さんにもう震えまくっちゃって。涙声になるくらい。
う大 感激しちゃったんだ。
賀屋 はい(笑)。満席の光景を久しぶりに見て、2人共テンション上がっちゃいました。けっこうウケて、はけるときに上田さんが「素晴らしい、完璧!」って言っていたのを生配信のマイクが拾っちゃって、めちゃくちゃ恥ずかしいオチみたいになっていました。
う大 あはははは(笑)。
──心の声が。
賀屋 狂わされましたね。それくらいうれしかったです。
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