ナタリー PowerPush - 女王蜂

アヴちゃんが明かすバンド再始動の真相

やしちゃん再加入「人生バクチなんやから賭けへん?」

──このタイミングでもう一回始めようと思ったきっかけは?

このままじゃ辞めちゃうなって、(人生とか)いろいろと。女王蜂を設定しないと私ダメだって。それで春ぐらいに、一度復活のタイミングを決めたんですね。人に優しくできるのも、自分のことを消化できるのも、全部バンドありきだったんだなって。「女王蜂ってめっちゃ凶暴なバンドやなあ」って思ってて。でも私、女王蜂なしでも凶暴なんですよ、きっと。マドンナが言っていて「そっかあ」と思ったのは、ステージやバンドは獣で、自分が獣使いなんだって。だから女王蜂は獣で私が獣使いやと思って、ステージは手なずけるべきだと思ってたけど、実は逆で。私が獣で女王蜂が獣使いだったんだ、ということがわかりました。

──やっと気付いたと。

気付いちゃった(笑)。

──最終的に、再始動のタイミングでやしちゃんが再び加わったのはどういう経緯だったんですか?

そのあとたくさんベースの人と会ったり、名だたる人とかでも何人かは女王蜂やりたいって言ってくれたりとかして。でも……やっぱり違ったんですね、すごく。歌えなかった。歌う気になれなかった。なんか吹っ飛べないっていうか、自我をなくせない。無敵感が得られなくて。人を変えれば済む問題やないんやと思って。でも最初、その気持ちは誰にも言えないと思って封じてたけど……。獣使いの話じゃないけど、私も時間を空けていろんなことわかって腑に落ちたことがあったから、やり直すやり直さへんの前に、やしちゃんとまずちょっと話してみようって。それで、バンドやろうって決めた地元のロイヤルホストに呼び出したんですよ、神戸の。でひさしぶりに会って、お互い髪型とかも変わってて、彼女はしっかり働いてて、ちょっとお姉さんになってて。で、会った瞬間涙が止まらなくて、ロイホで泣きながらドリンクバー頼む女、みたいな(笑)。で、「DVD観てどう思った?」「いやあ、すさまじいバンドやってたんやねえ」って話して、「バンドじゃないよね、あれは。すさまじかったよね……。でも、“かったね”じゃないよ。……やしちゃん、帰ってきいへん?」って聞いたんです。「壊れたときの、自分の中にある意味のわからない恐怖感。それってぬぐえた?」って聞いたら「やっぱりぬぐえなくて何カ月間も取り戻せなかったし、今でさえ取り戻せてるかどうかわからないけど、でも毎日積むしか人間は生きていけないから」って。「じゃあさあ、こんだけわかったうえで、またやる音楽って興味ない?」って話したら「そやねえ……」って。で、最終的に話したんは「私らってさあ、まだ若いねんやんな。激若なんやな」って。「若いねんからさあ、人生バクチなんやから賭けへん?」って言ったら、「そう、バクチやんな!」って。人生どうなるかわからへんし、いろんなことが怖い中、戦々恐々として生きていく前に、それでも賭けれる場があるんだから賭けてこうぜ、って。

──なるほど。

女王蜂

やっぱり私たちってアーティストとかなれへんやん、きっとずーっとアーティストとかなれへんよね。獣とか、形容しがたいものとしてがんばって、自分たちに合う容器を自分たちで作って詰め続けて、ああ、容器割れた、ごめんなさい、って接着剤で付けて、ああ、また割れた、くっつけて……の繰り返しかもしれない。ひょっとしたら人の容器を叩きつぶしてしまうこともあるだろうし、容器がなくてびしゃーっと噴き出るときもあるかもしれへんけど、でもずっと、ずっと、本能でやりたいんだと思う。そんなことを2人で話しているときにもう一回無敵感が生まれて。すごくゾクゾクして。「ああ、これは、これはいけるわ。うん、再生誕できるわ!」って。でももう一回始めるときに、やしちゃんが一度抜けてるっていう事実を、人には発表してなかったけど、インタビューで絶対話そうって。バカ正直なんです。

──でもすごくうれしかったでしょう、また3人でやれるっていうのは。

周りの人からよく言われて嫌いだったことがあって、「女王蜂は結局アヴちゃんなんだよ。アヴちゃんが女王蜂なんだよ」って。そのたびに4人のときは4人で女王蜂だし、3人のときは3人で女王蜂だからって言ってたけど、あるとき「あ、そっか。私が女王蜂なんや」って腑に落ちて、それが誉め言葉に変わった。受け止められるようになって、それは自分の中ですごく大きなことで。「そっか、私か」って。なんで前は3人とか4人で女王蜂って言ってたのかと思ったら、かわいい例えになるけど「パワーパフガールズ」とか「セーラームーン」みたいな感じやと思ってたのね。でもやしちゃんが戻ってきたときに思ったのは「今まではパワーパフガールズだったけど、次の女王蜂はアベンジャーズだね」って。アイアンマンもおれば、ハルクもおるし、1人ひとり自我をしっかり持った3人で集まって。で、さらにまた命がけ……っていう表現になると強すぎて引いてしまう人もいるかもしれないけど、ちょっと女王蜂に人生賭けたいんですよっていう美しい人たちがプレイヤーとして集まってきてくれたんで。完全体になれるなって。そう、つい最近入ったスタジオで音を出した瞬間、完全体になれたんですよ。ちょっと肌にアワが立つというか、恐ろしかったですね。「うわあー!」って。もう無敵感しかないです。

進化はやめられへん、エンタテインメントは諦めた

──振り返ってみると「白兵戦」ってそういうとんでもない精神状態だったにもかかわらず、音はどんどん進化していましたよね。ファンクとかジャズのフレーズも入っていたり。そこにまずびっくりしたけど。

そうやねん。進化はやめられへん。不思議なバンドやんね。

──破壊し、浄化し、進化していくのが女王蜂なんでしょうね。だからこそ、これからの活動が楽しみです。

楽しみー。もう2オクターブくらい声出てるようになってるかもしれへんし、足もう1本くらい生えてるかもしれへんし、どうなるんやろう?(笑) 「先なんか見えへんよ。今しかないよ」って思ってたのに「先が楽しみ」って言えるのが……、うん、私自身すごく楽しみです。

──「女王蜂って自分にとってなんだったんだろう?」って休止中に考えたと最初言ってたけど、それに対して何か答えは出ましたか?

考え出すと終わらないし、それを見つける旅なんだな、と。自分が何者だったのか、自分が何をするためにバンドという機関を作ったのか、なんで歌うのか、っていうことがわかって死ねたらな、っていう道がやっとできたっていうか。

──なるほど。

もうエンタテインメントであることを諦めたんです。エンタテインメントっていうものにすごく憧れたし、今もすごく最高だと思う。でもそういうのってアイドルの子たちが命がけでやってくれてるから。一生懸命振り付け覚えて、歌覚えて、身体動かして、で、おうち着いたら寝る前にブログ書いて、ほんとに偉いと思う。それを彼女たちがやってくれてるから、私たちはもっと自分の中に流れてる筋っていうか、川っていうか、それを定点観測みたいにずっと見ていくっていうことをやっていきたいなって。そんな気持ちが初めて生まれて。女王蜂の曲ってなんか懐かしいって言われるのはそういうことなんかな、ってひとつ腑に落ちた。焦らないけど焦燥感は失くさない。できる自信があるから。しっかりとやっていこうっていう決意。やりたいことが見つかったっていう期待感。だから今すごくうれしくて仕方なくて。他の現場を経験したからより女王蜂のありがたさがわかるし、大切にできるなって。幸せやなあ、楽しみやなあ、と思います。

女王蜂
女王蜂 DVD「白兵戦」 / 2013年12月4日発売 / 3900円 / Sony Music Associated Records / AIBL-9299
女王蜂 DVD「白兵戦」 ジャケット
収録曲
  1. 夜曲
  2. イミテヰション
  3. デスコ
  4. 八十年代
  5. ストロベリヰ
  6. 待つ女
  7. 鬼百合
  8. 人魚姫
  9. 火の鳥
  1. バブル
  2. 告げ口
  3. Ψ
  4. 無題
  5. コスモ
  6. 鉄壁
  7. 溺れて
  8. 棘の海
女王蜂(じょおうばち)

2009年神戸にて活動開始。2010年「FUJI ROCK FESTIVAL '10」のROOKIE A GO-GOステージに出演し、その衝撃的なルックスとパフォーマンスでオーディエンスの注目を集めた。2011年3月に初の全国流通盤アルバム「魔女狩り」をリリース。同年9月にはアルバム「孔雀」でソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビューを果たす。収録曲「デスコ」は映画「モテキ」のメインテーマに抜擢されたほか、彼女たち自身も本人役として映画に初出演し話題を呼んだ。2012年5月にギギちゃん(G)が利き腕の長期治療に専念するためバンドを“降板”するも、アヴちゃん(Vo)、やしちゃん(B)、ルリちゃん(Dr)の3人編成に不特定多数の演者を迎える形でバンドは活動を継続。しかし同年12月にバンドは無期限活動休止を発表し、2013年2月のSHIBUYA-AX公演が休止前最後のライブに。このライブの模様はDVD「白兵戦」としてリリースされ、2013年12月に行われたDVD先行上映会の会場にてバンドの再始動が発表された。