KERENMI 蔦谷好位置×アヴちゃん(女王蜂)×RYUHEI(BE:FIRST)鼎談|情熱と衝動が共鳴したコラボ曲「アダルト」

音楽プロデューサー蔦谷好位置のソロプロジェクト・KERENMI(ケレンミ)の新曲「アダルト feat. アヴちゃん from 女王蜂 & RYUHEI from BE:FIRST」が配信リリースされた。

YUKI、ゆず、米津玄師、back number、Official髭男dismなど名だたるアーティストの楽曲を手がけるプロデューサーとして20年近くにわたり活躍を続ける蔦谷。ソロプロジェクトのKERENMIでは毎回多彩なアーティストをフィーチャリングゲストに迎え、プロデュースワークとはひと味異なる独自の世界を展開している。

新曲に参加したのは女王蜂のボーカリストであり、自らも数多くのアーティストに楽曲を提供し、プロデュースなども手がけるアヴちゃんと、BE:FIRSTの最年少メンバーであるRYUHEI。蔦谷はアヴちゃん、RYUHEIそれぞれのパフォーマンスに強い刺激を受けていたという。またRYUHEIはかねてから女王蜂の大ファンで、アヴちゃんとはBE:FIRSTのラジオ番組でも共演を果たした間柄。今回の楽曲は蔦谷が作り上げたトラックに乗せ、アヴちゃんとRYUHEIが共作した歌詞を歌うという、互いの表現したいものを遠慮なくぶつけ合うスタイルで制作された。

3人の個性と衝動が折り重なる「アダルト」はどのようにして完成したのか。音楽ナタリーでは3人の鼎談を行い、楽曲制作のエピソード、それぞれの才能に対する思い、自らが音楽業界の中で感じている使命などについてじっくり語り合ってもらった。

取材・文 / 天野史彬

誰にも見せていない爆弾を作っているような気分

──まず、アヴちゃんとRYUHEIさんをフィーチャリングした今回のKERENMIの新曲「アダルト」の構想はどのように立ち上がったものだったのでしょうか?

蔦谷好位置 メロディのアイデア自体は2年前くらいからあったんです。そのときは「美しいメロディと衝動的な激しさ、混沌としたものを表現できたらな」くらいに考えながら、曲のスケッチを作っていて。で、「次のKERENMIのコラボ相手をどうしようか?」という話をスタッフさんとしているときに、「アヴちゃんとRYUHEIくんはどうですかね?」という話になったんです。そのときに、作りかけていた曲のことを思い出してハッとして。ちなみにアヴちゃんと初めてお会いしたのは、随分前ですよね。

アヴちゃん そうですね、8、9年前くらい。

蔦谷 番組でチラッとお話したくらいだったんだけど、その後も動向は追っていて。一番衝撃だったのは「THE FIRST TAKE」のパフォーマンスを観たとき。「ええっ!?」と思いました。「アダルト」は音域の広い曲だけど、「THE FIRST TAKE」の衝撃があったから「アヴちゃんしかいないな」と。あとRYUHEIくんは、僕、BE:FIRSTの「Milli-Billi」という曲がすごく好きで。

RYUHEI ありがとうございます。

蔦谷 RYUHEIくんのパートの、あの低い声がすごく好きなんです。「こんなに低くて魅力的な声が出て、さらにファルセットもきれいな子なんだ」という印象がありました。「そんな2人と一緒にやるなら」と思って、改めて2年前にあったスケッチに手を加えながら曲を作っていったんです。誰にも見せていない爆弾を作っているような気分でしたね(笑)。そして、お引き受けいただけるかわからない段階でお二人にデモを送ったんですけど、一瞬でアヴちゃんからフルサイズの歌詞が返ってきたんですよ。あれにはビックリしました。それが6月の初旬くらいのことですね。

アヴちゃん 女王蜂のツアーの名古屋公演が終わって、次の日の大阪公演へ向けて移動していたタイミングだったと思います。夜に曲が届いていて、次の日の朝、集合時間までの30分で歌詞は書き切りました。私が書いた部分の歌詞は、そのときの第1稿からほとんど動かしていないです。曲と一緒に、蔦谷さんから「『生きること』に対しての曲にしたい」という言葉も一緒にいただいたんですけど、曲を聴いたら「これが言いたいんだろうな」というものがパッと見えたんです。「アダルト」という曲名も付けさせていただいたんですけど、蔦谷さんが私たちを呼んでまでやりたいこと、今の世に対してやるべきだと思うことが、曲からボコボコと浮き上がっている感じがして。そもそも、私は最近プロデュースをする立場のお仕事が多かったこともあって、何かをもたらしていく、何かを革変していくタイプのお仕事が自分のライフワークとして入ってきていたんです。でも、プロデュースされる側になる機会はそんなになくて。音楽でそれをやることは自分にとっては挑戦だったりするんです。

アヴちゃん(女王蜂)

アヴちゃん(女王蜂)

こんなに早く一緒にやれるときが来た!

アヴちゃん 蔦谷さんとは、前にお会いはしていましたけど、正直そこまでしゃべったことはなかったですよね。

蔦谷 そうですね。

アヴちゃん それでもお互い、ここまで生き残っていて。もちろん、蔦谷さんのほうが生き残っている時間は長いですけどね。「ずっと戦っているんだろうな」とは思っていたんです。そんな人から来たオファーだからこその面白さがあるなと思いました。それに「アヴちゃんとRYUHEIさんで」と言われたときに、「ウケる!」と思っちゃって(笑)。というのも、去年12月にRYUHEIさんが私をラジオにお呼びしてくれて、そのときサシでいろんな話をしたんですけど、その中で「RYUHEIさんがソロアルバムを作るなら、私のプロデュースで1枚作りません?」みたいな話をしていたんです。そのくらい、RYUHEIさんは「いつか一緒に何かやるだろうな」という予感がする相手だった。なので、「こんなに早く一緒にやれるときが来た!」と驚いて(笑)。「これは受けるべきでしょう」と思いました。

RYUHEI 僕は以前から女王蜂をすごく聴いていたんですけど、最近はライブに行かせていただいたり、対談をさせていただいたり、ファンとしては十二分なまでにありがたい機会に恵まれていて。そのうえさらにこんな機会もいただいて……しかも、KERENMIというプロジェクトからのお話だったので「そうきたか!」感はすごくありました。BE:FIRSTはデビューしてから今までずっと走りっぱなしで、その中で新しいお仕事の機会をいただくことも多いんですけど、それでも、自分が一番聴いてきたバンドである女王蜂のアヴちゃんとコラボさせていただけるなんて。お話をいただいてからこれまでKERENMIで出された曲を聴かせていただいたんですけど、「つくる」ということの深さを探っているんだなと感じて。ほかにも蔦谷さんが作り上げてきた音楽もたくさん聴かせていただいたんですけど、プレッシャーを強く感じました。なので、最初にお話をもらったときは不安も大きくて。

アヴちゃん 不安だったんですか? 意外。

RYUHEI マネージャーさんからお話をいただいたあと、2日くらい考えたんです。夜1人で悶々と考えたり、親に相談したりもして(笑)。僕、昼に物事を考え始めると頭が回らなくなっちゃうんですけど、夜にお風呂の中で考えるのだけは好きなんです。それで、お風呂の中でボーッと考えていたら「今行かなきゃどうするんだ?」と思ったんですよね。「1回引いてしまったら、もう戻れないだろう」と気付いた。それに、「このコラボレーションによる刺激も味わってみたい」とも思いましたし。「もっとアーティストとして経験を積みたい」と思う自分がいて、デビューしたときに比べたら少なからず心の厚みは出てきたとは思うけど、それでもまだまだ刺激を食らいたい時期というか。

RYUHEI(BE:FIRST)

RYUHEI(BE:FIRST)

アヴちゃん そこまで悩んでたんですね。二つ返事かと思ってた。

RYUHEI 悩んでいる間「なんで自分は、こんなに女王蜂を聴くんだろう?」というところまで考えたんです。「歌詞が好き」というのは絶対にそうで、そこに包まれている「何か」、アヴちゃんにしか出せないエネルギー……そういうものがあることももちろん感じている。「じゃあ、その奥にあるものはなんなのか?」ということを自分なりに考えてみて。僕、女王蜂の曲では「HALF」が一番好きなんです。「もうカッコつけてくしかないじゃん」という言葉がすごく刺さるんですよね。「なんでこんな言葉が出てくるんだろう?」と不思議だった。「カッコつけてくしかない」と自分で言い切って、なおかつそれをサビの一発目に入れるなんて、僕だったら絶対にできない。しかも、それは猪突猛進しているだけじゃなくて、その中に聴いている自分も入れてくれている感じがするんです。「一緒に突き進んでいこうぜ」という意志を感じて、そこが僕は好きなんだなと思って。

アヴちゃん 私、顔赤くなってないですか? 大丈夫?

蔦谷 レコーディングしているときも、RYUHEIくんの女王蜂愛は漏れ出ていたからね。

RYUHEI ホントですか(笑)。出さないようにしていたんですけど。