ナタリー PowerPush - 女王蜂
アヴちゃんが明かすバンド再始動の真相
2013年2月22日のライブ「白兵戦」を最後に無期限の活動休止に突入した女王蜂。その後バンドは沈黙を守ってきたが、本日12月2日に行われたライブDVD先行上映会の会場にて、メンバーの口から待望の活動再開が発表された。
この発表に先駆け、ナタリーではアヴちゃん(Vo)への独占取材を敢行。女王蜂はなぜ休止せねばならなかったのか。そしてなぜこのタイミングで再始動を果たすのか。これまで謎に包まれていたその真相を余すところなく語ってもらった。
取材・文 / 編集部 撮影 / 岩根愛
やしちゃん脱退「女王蜂が好きだから抜けるんだ」
──まずは、おかえりなさい。
まだライブしてないので「ただいま」という感じはないですけども……ありがたいですね。
──今年2月にSHIBUYA-AXで行われた「白兵戦」から10カ月、長いようで短かった気もしますが、アヴちゃんにとってはどういう時間でしたか?
自分たちがどこまで走ってきたのか、どこまで真摯にバンドを通じて人と向きあおうとしてきたかということを、バンドがお休みになったときに痛感したというか……。私から女王蜂を取ったら何が残るんだろう?と考えさせられましたね。
──女王蜂としての活動はなかったけれど、逆に女王蜂に向き合った時間だったと。
「女王蜂ってなんなんやろう?」とすごく思った。「なんでバンドをやることがこんなに命がけなんだろう?」と。音楽に向かうことが私にとっては痛いというか。全部売ってでもやっちゃうっていうか。でも、それだけ賭けれる場所があるってことは、本当に恵まれてたんだなと思って。
──振り返って、昨年の12月30日に無期限の休止を発表したときのことから聞きたいんですけど。なぜあの時点で休まなければならなかったんでしょうか。
まず、休むって決定した理由は、ベースのやしちゃんが辞めるっていう話があって。辞めるっていうか……やしちゃんが壊れちゃって。もう、ステージに立つっていうこと、音鳴らすっていうこと以外うまくできない。ごはんを食べるとか、自分が存在するためにやることとのバランスが取れなくなってしまって。で、やしちゃんが壊れたらルリちゃんが壊れて、ルリちゃんが壊れたら私が壊れて、私が壊れたらマネージャーが困ってっていう。でもちょうどジョンスぺ(The Jon Spencer Blues Explosion)とツーマンとかいろんなことが決まっていく状況で、その壊れた状態でもステージに立つんだ!ってなってて。そこでドクターストップっていう形で事務所が「休んでみいへん?」って言ってくれたんです。でも当時は本当に「なんでやしちゃん辞めるんよ!?」ってなってました。
──アヴちゃんにとってやしちゃんの存在がそれほど大きかったということですよね。
私は中学のときからやしちゃんと一緒にいて、彼女がいなければ人格形成も変わってただろうなっていうくらいだったので。中学のときにやしちゃんが言ってくれた、すごいカッコいいなって思った話があるんです。私、当時クラスの男の子とうまくいってなくて、ちょっと怖い目にあったりとかもしてて。で、その頃なぜか席替えをするたびにやしちゃんと隣の席になってて、そのときプリントの裏に絵とかポエムを書いて2人で交換したりしてたら、やしちゃんが一言「私さあ、どこかで読んだ言葉で本当その通りだと思ったんだけど、性別ってポテトチップスみたいなもんだと思うの」って。「コンソメパンチのときもあれば梅こんぶ味のときもあるやん」って。「明日お寿司食べるとかカレー食べるとかじゃなくて、もうポテトチップスやと思うねやんか」って言ってて。当時13、14歳くらいの子が「私は性別って~」とか言ってるのが「うわあ、カッコいいわ、この子!」と思って、そのときの無敵感がすごかったんです。で、高校行ってバンドを組んだの。悪ふざけじゃないけど「バンドやらへん?」「えー、バンド!? ウケるー! なんで? バンドとか組んじゃう?」とか話して。「お兄ちゃんのギターある」「えー、チューニングとかどうするん?」とか、「ドラム決めな」「え、ルリちゃん叩ける? 叩いてみる?」とか、2人してロイヤルホストで話してるだけで無敵感が止まらないというか。その一瞬の無敵感を生きる中で、やしちゃんっていう存在がすごく大きくて。もちろん抜けてしまったギギちゃんにもすごく感謝してるけど、女王蜂の始まりは私とやしちゃんとルリちゃんと3人で組んだバンドだったので、その三つ巴の中のひとつが抜けるっていうのは大打撃で。それで「お休みをいただきます」ということになりました。
──やしちゃんは自分で辞めるって決めて言ってきたんですか。
うん。彼女から「辞めたい」って言ってきた。でも最初、彼女は私に向かって言えなくて。私に言ったら私が壊れるってわかってたみたい。だから私に言わずにマネージャーに先に話してて。ライブをするとやっぱりすごい楽しいし、吹っ飛ぶし、無敵感に包まれるけど、でもライブが終わって1人になると……もう1人になれない、1人になるのが怖いっていう状態になってしまって。でも病院行けば治るかっていうと違うし、実家からお母さんが来たりとか彼女なりにいろんな処置をとって。「辞めたい。でも辞めるって……ええっ!? 辞めたら私自身も残らへんし」って彼女なりの葛藤もあって。で、最終的に「辞めます」って言われました。
──もともと3人で始めた女王蜂が、その3人でできなくなるってわかったとき、アヴちゃんは続けられると思った?
ルリちゃんとは「2人になっても絶対女王蜂をやっていこうね」っていう気持ちがあったし、やしちゃんは辞めるときに「壊したくて辞めるわけじゃないんだ」って自分なりの言葉で言ってて。「女王蜂が好きだから、こんな壊れた自分のせいで女王蜂がなくなるのが嫌だから、だから私は抜けるんだ」って猛烈に言われて、彼女なりの誠意もすごく感じたし。でも……やっぱ若いからかなあ? 憎んだっていうか……「なんでよー!?」って。やしちゃんには「ええやん、やれるって。大丈夫やって」ってすごく言った、そのときはね。
- 女王蜂 DVD「白兵戦」 / 2013年12月4日発売 / 3900円 / Sony Music Associated Records / AIBL-9299
- 女王蜂 DVD「白兵戦」 ジャケット
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収録曲
- 夜曲
- 鏡
- イミテヰション
- デスコ
- 八十年代
- ストロベリヰ
- 待つ女
- 鬼百合
- 人魚姫
- 火の鳥
- バブル
- 告げ口
- Ψ
- 無題
- コスモ
- 鉄壁
- 溺れて
- 棘の海
女王蜂(じょおうばち)
2009年神戸にて活動開始。2010年「FUJI ROCK FESTIVAL '10」のROOKIE A GO-GOステージに出演し、その衝撃的なルックスとパフォーマンスでオーディエンスの注目を集めた。2011年3月に初の全国流通盤アルバム「魔女狩り」をリリース。同年9月にはアルバム「孔雀」でソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビューを果たす。収録曲「デスコ」は映画「モテキ」のメインテーマに抜擢されたほか、彼女たち自身も本人役として映画に初出演し話題を呼んだ。2012年5月にギギちゃん(G)が利き腕の長期治療に専念するためバンドを“降板”するも、アヴちゃん(Vo)、やしちゃん(B)、ルリちゃん(Dr)の3人編成に不特定多数の演者を迎える形でバンドは活動を継続。しかし同年12月にバンドは無期限活動休止を発表し、2013年2月のSHIBUYA-AX公演が休止前最後のライブに。このライブの模様はDVD「白兵戦」としてリリースされ、2013年12月に行われたDVD先行上映会の会場にてバンドの再始動が発表された。