ナタリー PowerPush - 女王蜂

アヴちゃんが明かすバンド再始動の真相

女王蜂がないとダメなのは私だった

──やしちゃんが抜けることが決まったそのあとは?

「白兵戦」のDVD観てもらったらわかるけど、どうしようもなく美しくて、どうしようもなくつらくて、ふりしぼって……っていう瞬間を、大根(仁)ちゃんが見事に切り取ってくれて。彼は本当に才能豊かで素晴らしいから。本当にどうしようもなくて、あのステージに携わった全員が終わったあとに涙して、その後やしちゃんもそうやけど、マネージャーも私たちも1~2カ月何もできないっていう精神状態だったときに、いろんな人との巡り合わせとタイミングが合って、新しいプロジェクト(獄門島一家)の話が出てきたりして。でもどうしようもなかったですね、あのときは。女王蜂を休んでわかったのは、私、ごはんとか食べる理由がないと食べれない人なんだなって。あんまりいい話じゃないけど休んですぐ、ちょっと笑えるぐらいすごく痩せちゃって。私、「生きててもいいよ」って伝えるための容器が欲しくて女王蜂を組んだけど、ああ、一番必要としていたのは私だったんだ、女王蜂がないとダメだったのは私だったんだ、っていうことがわかりました。

──そこからどうやって次に向けて始めていったんですか。

女王蜂

ルリちゃんに言われたのは「女王蜂はもうアヴちゃんが背負うしかないから。この人じゃなきゃダメだっていうのはもうないと思うし、とにかく新しいベースの人を探してみよう」って。で、いろんな人とセッションしてみたりとか。男の人でも臆さずに。私たちって初めて組んだバンドが女王蜂やから、「そっか、ベースって誰が弾いても同じじゃないもんね」「弾き方とか人格の問題なんや」ってことがそのときやっとわかってきて。でもやっぱり女王蜂の曲をやってると誰が入っても揺るがないから。休止前の最後のライブを手伝ってくれた長岡亮介さん──長岡キュンって呼んでるんだけど(笑)。彼がすっごい本気でやってくれて、私たちと同じくらいのテンションで臨んでくれたときに「あ、性別関係ないんや」って初めて思った。「本気度やわ、求めてたのは」って。

──いろんなタイプのミュージシャンとやってみて、いろんなことを経験したんですね。

うん、体感しました。「あ、私やりたいことあるわ!」ってわかったんですよ。そう、やりたいことができたの。それまで女王蜂やってるときって、もう決まってるライブに向けて、衣装、曲、テンションとか、そのことしか考えられなくて。でもちょっと「5年以内にやりたいことある」とか「あ、これできるようになりたい」とか、そういう目標ができたんです。ひとつ長い目で見れるものができた。それがうれしかった。今まで人生でなかったから、そんなこと。

──ちょっと大人になったんですね。

うん、大人になったと思う。やっぱり独特なバンドだったんだなって。独特の美意識、決意をもったバンドだったんだって、休んで初めてわかりました。

──初めて客観的に女王蜂を見られたのかもしれないですね。

客観的に見て「うわあ、何? この人たち!?」って(笑)。「白兵戦」の映像を観たときも1曲目から涙が止まりませんでした。実はライブも1曲目が始まった瞬間から袖でずっと泣いてたんです、マネージャーと一緒に。

ジャックナイフで左目を刺して終わろうと思って

──昨年6月のSHIBUYA-AXで、ギギちゃんが抜けて「3人でやっていきます」っていう決意を表明したときは、ファンに気持ちを伝えてましたよね。何度も「ありがとう」と言ったり、「私たちには女王蜂がないと生きていけない」と言ったり。でも「白兵戦」はとにかくストイックで、女優のように女王蜂をまっとうしているように見えました。実際にやってるときはどうでした?

言えへんかったからな、「やしちゃん辞めます」「やしちゃんを送り出す会です」って。私、あの時期はキャパオーバーしてて、最後にジャックナイフで左目を刺して終わるっていう演出を考えてたんです。事務所には「刃が引っ込むおもちゃのジャックナイフで、ブスッと刺して血糊で血まみれになるのをやろうと思って」とか言って、だけど本当は本物のジャックナイフをしのばせておこうって思ってた。でもそういう演出をやろうと思うって事務所に言ったら「それって『ヘルタースケルター』でもうやってるよ」って言われて「ええーっ!?」と思って(笑)。だから、あれが止めてくれたんです。

女王蜂

──思いとどまってくれて本当によかったです。

でも全然怖いと思わなかったっていうか。左目ぐらいいいやん、だって休むんじゃなくて辞めるかもしれへんのやもんって。これで終わるんやったら、このAXで伝説残して、私が左目を失くすことによって支えられる人が絶対いるからって。もう全部飛び超えちゃって、追い詰められてるってことに気付かないくらい……。今でこそ笑い話だけど。

──そこまで張りつめていたと。

頭をぐっとひっかいて、でないともう今にも泣き出しそうで。なんの曲をやってても「これ最後かもしれへんのや」「この曲もうやらへんかも」って。そんな状態でした。

──今、DVDになったライブを客観的に観てみてどうですか?

なんて必死なんだろうって。本能でライブしてた。本当に、目を閉じて歌ってたのは、涙をこらえるしかなくて、ずっと目を閉じて歌ってて。生活が崩壊してたから、ごはんの食べ方が変だったり、眠れなかったりとか……本能でしたね。

──改めて観てもすごいライブだし。この作品で初めて女王蜂のライブを観る人もたくさんいると思うけど「なんなんだ、このバンド!?」って思う人はたくさんいるでしょうね。

「なにあの音楽?」って。バンドなんかなあ? なんなんだろう?って。死ぬまでにわかったらいいなって。

女王蜂 DVD「白兵戦」 / 2013年12月4日発売 / 3900円 / Sony Music Associated Records / AIBL-9299
女王蜂 DVD「白兵戦」 ジャケット
収録曲
  1. 夜曲
  2. イミテヰション
  3. デスコ
  4. 八十年代
  5. ストロベリヰ
  6. 待つ女
  7. 鬼百合
  8. 人魚姫
  9. 火の鳥
  1. バブル
  2. 告げ口
  3. Ψ
  4. 無題
  5. コスモ
  6. 鉄壁
  7. 溺れて
  8. 棘の海
女王蜂(じょおうばち)

2009年神戸にて活動開始。2010年「FUJI ROCK FESTIVAL '10」のROOKIE A GO-GOステージに出演し、その衝撃的なルックスとパフォーマンスでオーディエンスの注目を集めた。2011年3月に初の全国流通盤アルバム「魔女狩り」をリリース。同年9月にはアルバム「孔雀」でソニー・ミュージックアソシエイテッドレコーズよりメジャーデビューを果たす。収録曲「デスコ」は映画「モテキ」のメインテーマに抜擢されたほか、彼女たち自身も本人役として映画に初出演し話題を呼んだ。2012年5月にギギちゃん(G)が利き腕の長期治療に専念するためバンドを“降板”するも、アヴちゃん(Vo)、やしちゃん(B)、ルリちゃん(Dr)の3人編成に不特定多数の演者を迎える形でバンドは活動を継続。しかし同年12月にバンドは無期限活動休止を発表し、2013年2月のSHIBUYA-AX公演が休止前最後のライブに。このライブの模様はDVD「白兵戦」としてリリースされ、2013年12月に行われたDVD先行上映会の会場にてバンドの再始動が発表された。