挫・人間|散漫だっていいじゃない…… ぶれ続けた結果「むしろいい」境地に行き着く

この歳で大人になった自覚を持たないのはヤバいですよ

──続く「大人の事情」は「人間やめますか?」とは真逆で、挫・人間のポップな要素を押し出した曲です。

下川リヲ(Vo, G)

デモではもっと「人間やめますか?」寄りの激しい曲で、歌詞もラップ調だったんですよ。ところが夏目にアレンジをお願いしたらかなりポップになったので、歌詞も丸ごと変えました。

──「大人の事情」はタイトル通り大人になることについて歌った曲ですが、最近下川さんは“大人”について、各所で話題に挙げています。ブログでも友達との会話中「今の若い子」という言葉が自然と出てきたと書いてましたね。

確か僕より下の世代の人がPCを使わない、という話題になって。「じゃあエロゲとかやんないんだね」とか自分で言った瞬間、うわっとなっちゃって……さすがにこの歳で大人になった自覚を持たないのはヤバいと実感しました。「散漫」の収録曲は共通してそういうテーマが込められているかもしれないです。それから、挫・人間は「大人になること」「別れ」みたいな、抗えないものを受け入れつつどうするか、ということを題材にし続けてきたことに気付いたんです。不条理なことは突然起こるものだから、それをどうポジティブに受け入れるかが大事で。それは僕自身、音楽で一番表現したいことですね。

──本作では「さよならベイベー」「大バカもののうた」など、誰かとの別れを扱った曲が多いと感じました。その中の1つ、「オタルの光」はアベさんに向けた楽曲なのかなと思ったんです。トレードマークでもあった「透けた服」というワードが出てきたり、アベさんが北海道ご出身ということもあり。あとは「ヌーヴェルバーグ」もアベさん、お好きでしたよね。

大学で初めて知り合ったとき、「君、ジャン=リュック・ゴダール好き?」って聞いてきたエピソードですね(笑)。誰が聴いても違和感なく聴けるようにしたけど、アベくんと僕の個人的な体験も盛り込まれています。実は「オタクの光」っていう、アベくんへの文句を書きまくった最悪な歌も作ったんですけど、そっちはボツになりました。中和する曲がないから恥ずかしいですね。アベくん本人に聴かれたくない(笑)。

──「さよならベイベー」「大バカもののうた」も、下川さんの体験を反映した曲になるのでしょうか?

「さよならベイベー」はお別れソングですけど、「近づいちゃダメ」「離れなくちゃいけませんよ」とか、コロナ禍でよく聞くようになった言葉から連想して作詞しました。「大バカもののうた」はまさに自分の体験を題材にしています。昔の話になるんですが、好きだった人との関係がうまくいかなくて、結局ダメになったことがあるんです。だいぶ時間が経って振り返ってみたら、「お互い幼かったな」と思って。それを踏まえて、今なら何が言えるか考えながら書きました。

──「大バカもののうた」は「むげんの夏」にも通ずる、センチメンタルな雰囲気の強い曲ですね。アウトロには夏目さんの泣きのギターソロも入っていますし。

めちゃくちゃ泣かせたい雰囲気になってて恥ずかしい(笑)。以前大槻ケンヂさんが筋肉少女帯で「愛の讃歌」をカバーしたとき、ほかのメンバーがあまりにダイナミックなロックサウンドにアレンジして「想像してたのと違う!」と感じたらしくて。まさかこの曲で同じ体験をするとは思わなかったです。

お盆正月大好き!みんないてくれてうれしい

──ほかには「美しい沼」に出てくる「イイコイイコじゃこちらはboringです」という歌詞は、常盤さんの楽曲「IIKO IIKOにご用心」につながるかなと感じたのですが。

下川リヲ(Vo, G)

あれっ、ホントだ。全然意識してませんでした。「IIKO IIKOにご用心」、夏目が作った曲だからあんまり聴いてないんだけどな。

──関係なかったんですね(笑)。そして後半からだいぶ雲行きが怪しくなっていきます。下川サウナパークの惨劇をサンバとデスメタルで表現した「デスサウナ」は夏目さんらしさ全開の曲で、語りパートでは夏目さんが親子、声児さんがギャル、下川さんがサウナパークのマスコットキャラクターをノリノリで演じてたり。

これ全部アドリブですからね。僕が担当したマスコットキャラ、イカれた性格になって自分でも引きましたけど、演じるのは楽しかったですよ。

──そしてこの曲で、事務所の社長に怒られたそうで。

「時間と金使ってわけわかんねえことしやがって」って言われました(笑)。あと最後に入っている「アイオワの風」もふざけすぎちゃって。

──湘南乃風そっくりのサウンドで「お盆正月大好き みんないてくれてうれしい」と言い続ける曲ですね。

これも怒られましたよね。THE BLUE HEARTSみたいに、シンプルな言葉のメッセージソングを作りたかったんですけど……。

存在意義がなくなったらYouTuberになるしかない

──挫・人間は2015年のポッポ(Dr)さん脱退後、5年以上ドラマーはサポートメンバーにして活動を続けてきました。このタイミングで積極的にドラマーを募集しているのは何かきっかけがあったんでしょうか?

下川リヲ(Vo, G)

正式なドラマーはずっと欲しかったんですよ。石島さんがすぐ脱退して気にしている人も多いかもしれないけど、めちゃくちゃウェルカムです。ちゃんとしたバンド編成にならないとまた「デスサウナ」みたいなふざけた曲ができちゃうので、それは避けたい……。

──「散漫」以降の新しいビジョンが見えたとのことでしたが、具体的にどんな内容かはお話しいただけますか?

「えっ?」って思われるかもしれないですけど、もっと静かな曲がやりたくて。さらに人に聴いてもらうことを意識して曲を作ろうかなって思ってますね。それこそ親が聴いても「楽しい」「切ない」と感じてもらえるぐらい、わかりやすい曲が作れるようになりたいです。

──挫・人間はジャンルレスに楽曲を作ってきたので、そちらの方向に振り切ることもできそうですよね。

そうですね。「風のガーランド」の制作が楽しかったので、もっとほかの人に曲提供もしたいです。僕ら存在意義がなくなったら、もうYouTuberぐらいしか生きる道がないので……。やれることはどんどん挑戦しなきゃいけないですね。

公演情報

挫・人間「やるっきゃNIGHT~ママのお金で天城越え~」

2021年8月4日(水)東京都 渋谷CLUB QUATTRO

※購入者は8月11日23:59までアーカイブ映像も視聴可能。

挫・人間(ザニンゲン)
挫・人間
2008年に当時高校生だった下川リヲ(Vo, G)を中心に結成されたロックバンド。2009年に「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞したことで話題を集める。翌2010年に下川の進学に伴い活動拠点を熊本から東京に移し、同年にアベマコト(B, Cho)、2013年に夏目創太(G, Cho)が加入。長年3人体制で活動を展開してきた。2020年3月の5thアルバム「ブラクラ」リリース後にアベがバンドを脱退。同年11月にマジル声児(B, Cho / 中華一番、百獣)とスローセックス石島(Dr / ex. ベッド・イン with パートタイムラバーズ)が新メンバーとして加入し、2021年2月にはバンド史上最大キャパとなる東京・USEN STUDIO COASTでワンマン「挫・人間の人生大冒険」を開催した。しかし4月にはおよそ5カ月で石島が脱退。再び3人体制へと戻り、現在もドラマーを募集している。
下川リヲ(Vo, G)