挫・人間|散漫だっていいじゃない…… ぶれ続けた結果「むしろいい」境地に行き着く

ドラマー脱退、ベーシスト骨折……なぜアルバムは完成した?

──そんなこんなで無事「散漫」がリリースされますが、石島さんが脱退し、声児さんも骨折してリズム隊がいない中、よく完成できましたね……。

下川リヲ(Vo, G)

今までのアルバムは全曲分のデモをストックしてから制作していたんですけど、今回はまず数曲デモを作ってレコーディング、終わったらまた数曲デモを作って、という流れで小分けにしたんです。最初は4人で制作をスタートして、石島さんが抜けたあとは「デスサウナ」「I LOVE YOU」をドラム抜きの打ち込みで仕上げて、なんとか乗り切ったと思ったら声児が骨折しちゃって。

──その頃はまだレコーディングしないといけない曲は残っていたんですか?

「人間やめますか?」「大人の事情」「美しい沼」の3曲ですね。リズム隊がいないとさすがに進められなくなって、「これはもう誰かに頼むしかないぞ」ということで、アベくんにベース、菅大智(※挫・人間の元サポートメンバー)さんにドラムをお願いして。

──結局アベさんも参加することに(笑)。しかもアルバム「OSジャンクション」の頃と同じメンバーに戻ってますね。

そういう意味でもめちゃくちゃ“散漫”なアルバムなんですよね。辞めたメンバーが3人も参加してる。

──キモツさんにはオファーしなかったんでしょうか?

あーそうだった。お願いしようとも思わなかったですね。

──ひどい(笑)。過去のアルバムでは打ち込みの制作をアベさんが担当していましたが、今回はどなたが手がけたんでしょうか?

僕と夏目(創太 / G, Cho)で一緒にやりました。アベくんは病的にがんばる人だったんで、めちゃくちゃ機材を集めて音を作ってくれたんですけど、僕らはそこまでこだわらなかったです。アベくんに任せると、自分の想像しているものとは全然違うものができたんですよ。「それはそれでいいかな」と思ったんですけど、今回は夏目と一緒に好き勝手やりました。

下川リヲ(Vo, G)

“散漫”だからこその挫・人間

──アルバム制作に関わりそうな出来事だと、今年頭に下川さんは事故物件に引っ越しましたよね。このあたりの理由や作品制作への影響についてぜひ教えてください。

ひさしぶりにメンバー編成が大きく変わったので、引っ越しして気分を入れ替えたかったんです。それでせっかくなので、今の事故物件を選びました。玄関に血みたいな液体が付いてたり、隣の部屋からものすごい勢いで壁を叩かれたり、心霊現象みたいなことはたまに起こりますけど、案外大丈夫です。バリバリ曲、書けてますよ。

──その体験を楽曲に生かすこともできますよね。配信シングル曲「やるせな幽霊」はまさに影響があったのかなと思ったのですが。

あっ、それ全然考えてませんでした! 曲にすればよかった……。蛇口ひねったら髪の毛がブワーっと出てきたり、すごい現象が起こったらネタになるんですけど、全然そんなことはなく、ただ住みやすい家に引っ越した人になっちゃいました。でもこれから大変なことが起こるかも。

──気を付けてくださいね……。もう1つ、常盤ゆうさんが今年リリースしたアルバム「風のガーランド」には挫・人間のメンバーが制作に携わっています。「散漫」と「風のガーランド」で区別した部分はありましたか?

先に制作を始めたのは「風のガーランド」だったんですけど、まず1曲、常盤さんに楽曲を提供することになったんです。そこで反応を見たくて、ポップな「むげんの夏」と静かな「成長痛」を作って、両方聴いてもらったら2曲とも採用されて。特に「むげんの夏」は自分でも手応えがあった反面、「挫・人間っぽくないし、こういうの求められてないかな」と思ったんですけど、かなり評判がよくて自信が持てました。当時落ち込んでいたので、この曲がなかったらアルバムが作れなかったかもしれないです。

──先ほども「散漫」という言葉が出てきましたが、このアルバムタイトルを付けた理由はなんだったんでしょう?

挫・人間ってずっと“散漫”なバンドだと思うんですよね。「やりたいことは全部やっちゃえ」みたいなスタンスだから、音楽性に統一感がないし、メンバーの出入りも激しいし。でも、そこがよくも悪くも挫・人間らしさで、「むしろいいかもしれないな」と考えるようになって。そこから「散漫」というタイトルが思い浮かびました。

──下川さんのブログには、「散漫」は「OSジャンクション」「ブラクラ」に続く三部作的な作品になったという記述もありましたね。

3rdアルバム「もょもと」まではリスナーのことをあまり考えてなかったんですけど、4thアルバム「OSジャンクション」からちょっとずつ外に気持ちが向いていって。言葉にするのが難しいんですけど、最近のアルバムはかなり悩みながら制作したので、「散漫」が完成したあと、自分の中で何かが完結したところがあって、次の作品のビジョンが見えた気がします。

──確かに「OSジャンクション」から、アルバムの構成が固まってきた印象を受けました。1曲目にアルバムのイントロとなる短い曲が置かれて、2、3曲目でリード曲になるキャッチーな曲、そこから「童貞トキメキ☆パラダイス」のような振り切った曲を挟んでうまく締める、という流れが徐々に定着しました。“散漫”ではあるけど、挫・人間としてのスタンスはすごくピントが合ってきたのかなって。

なるほど。僕はけっこう飽き性で、「こういう曲がやりたい」と思っても、完成するとすぐにやりたいジャンルが変わってしまうんです。だからこそこういう構成になったんだと思いますし、それは挫・人間を長く続けられた理由にもなるかもしれない。1つのジャンルしかできないバンドだったら、もうやってなかったかも。

下川リヲ(Vo, G)

ふざけんな、バンドのキッザニアじゃねえんだ

──「散漫」の各楽曲についてもぜひ触れていきたいのですが、まず1曲目「I LOVE YOU」はハードなデジロックでありつつ、初期のあぶらだこからの影響も感じさせるサウンドになっていました。

まさにデモは1980年代のハードコアパンク調だったんですけど、夏目にアレンジをお願いしたらこんな感じになって(笑)。レコーディングのときから「こんな曲調にしたい」って僕が言ってたみたいなので、「じゃあいいや」と思ってそのまま仕上げました。

──続く「人間やめますか?」は「ソモサン・セッパ」に通じる、スケール感あふれるサウンドになっています。そこに学校、自問自答など長年下川さんが扱ってきたテーマを盛り込んだ歌詞や語りを組み合わせていて。挫・人間らしさを構成する要素をとにかく詰め込んでますね。

これは夏目がデモを作ってくれました。どう仕上げようか悩んで、個人的にはNUMBER GIRL的な感じにしようと思ったんですけど、全然そんなことにはならず。歌詞はメンバーが辞めていくことを題材にしたら、もう筆が止まりませんでした。

──「メンバーリセマラ失敗じゃねえか」「バンドのキッザニアじゃねえんだ」とか言ってますもんね。でも後半で「これが命をかける戦いであっても わたしたちは一歩も引きません」という語りを挟み、うまくまとめていて。

その部分はもう「檄!帝国華撃団」(ゲーム「サクラ大戦」シリーズの主題歌)みたいなテンションになっちゃって。勢いで押し切りました。

──モチーフとしてNUMBER GIRLの名前が挙がりましたが、ブログでも影響を受けたことを明かしていましたね。挫・人間のデビューライブの1曲目も「IGGY POP FAN CLUB」のコピーだったそうで。

まさに青春です。でも今のメンバーだと僕以外NUMBER GIRLを聴いてないし、「デビューした頃と同じことをやってもなあ」って気持ちもあったんですけど、「人間やめますか?」では思い切ってオマージュできるか挑戦しました。結果めちゃくちゃなサウンドになりましたけど(笑)。