挫・人間が10月4日に3rdフルアルバム「もょもと」をリリースする。
このアルバムは、メンバー曰くバンド結成以来初めてギター、ベース、ドラムの音にこだわって制作したという作品。音楽ナタリーでは下川リヲ(Vo, G)にインタビューを行い、近年のライブや今作で見せる“バンドらしさ”の理由に迫った。
取材・文 / 石橋果奈 撮影 / 草場雄介
一度もやったことないのが“バンド”だった
──6月に行われた挫・人間のワンマンライブを観て「すごくロックバンドらしいな」と思ったんです。特に「人類」(2013年リリースの1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」収録曲)で「オイ! オイ!」とみんなで拳を突き上げる光景には驚きました(参照:人生で一番楽しい!挫・人間、笑顔でチンポジウムの幕閉じる)。
「非現実派宣言」(2016年9月リリースのミニアルバム)を出したときに、周りから「あまりにもバンドっぽくなさすぎる」っていう感想をもらいまして……(参照:挫・人間「非現実派宣言」インタビュー)。
──「テクノ番長」と「☆君☆と☆メ☆タ☆モ☆る☆」なんて、ライブでは楽器を置いて踊ってますし。
あのときはバンドっぽくない内容のほうが面白いと思って作ってたんです。「非現実派宣言」のリリースから1年が経った今、“バンド界の、誰もいないところで戦ってる人たち”になってきてるなって思って。まあそういう感じも、いろんな人と対バンをするうちに武器になっていると思ったし、面白いからよかったんですよ。で、今「一度もやったことないことをやろう」と思って考えたら、それが“バンドらしいこと”だったんですよ(笑)。
──結成から約10年が経って(笑)。
対バンライブとかでほかのバンドを見ると、みんなちゃんと演奏して、ちゃんといいことを言おうとしてるなって思って。挫・人間での活動をしていくうちに、それにだんだんムカついてきたんですよ。だから「テレポート・ミュージック」(2015年8月発売の2ndフルアルバム)のときに初めて“演奏をしない”というやり方をして。
──ライブではメンバーやゲストがラップバトルを繰り広げるヒップホップチューン「下川 VS 世間」のことですね。
そうですそうです。今メインストリームで活躍してるバンドは、きっと“バンドらしいバンド”を聴いて育った人が多いと思うんですけど、そもそも僕はナゴムレコード周りのアーティストが好きで。そう考えるとナゴムのバンドってそんなに演奏してないんですよね(笑)。バンドでありながら、“バンド”の枠組みをどんどん破壊していく感じがすごく好きでした。と言うか僕は、音楽よりゲームやマンガが好きみたいなところがあるし……ただのオタクですから。だからほかのバンドが「カッコいい音を出したい!」っていう思いで音楽をやってるんだとしたら、その人たちと自分は全然目的が違うんだろうなって最近やっとわかったんですよ(笑)。そもそも僕みたいな種類の人間は“ニコニコ動画の中の変わった人”とかになっていくほうが自然だったと思うんです。
──それでも音楽を選んだのはなぜだと思いますか?
十代の頃に感じた言語化できないもどかしい気持ちを形にしてくれたのがバンドだったんだと思います。だから今思うと、バンドをやり始めた理由はわりと真面目だったんですよね。
僕とヤンキーにある“孤独”という共通点
──では「テレポート・ミュージック」で“演奏をしない”という手段を選んだのは自然なことだったんですね。
バンド界的には不良だと思いますけどね。そう思うと僕、十代の頃からある意味グレてるんだろうなと思うんですよ。
──と言うと?
僕はオタクなんでヤンキーから疎まれる側でしたし、ヤンキーってモテるから昔はずっと敵だと思ってたんです。でも自分が私立校に通っていたときのことを思い出したら、その中でヤンキーは1人か2人しかいなかったし、そういう場だとヤンキーのほうが孤独だったんじゃないかなって。結局そこにいる人間のコミュニティの割合でカーストが決まるんじゃないかと思うんですよ。1人だけ強い人間がいても、弱いヤツが大勢で攻めたら強いヤツも弱くなる。パワーバランスが取れなくなるんですよね。そう考えたら僕もヤンキーも“周りから理解されない人”だったし、孤独という共通点があったんです。そういう理解されない人たちがグレて、敵だと思ってたヤツはたまたま筋力があったからヤンキーになっただけなんだろうなって。僕、だから昔からヤンキーマンガが大好きだったんだなって思いました。
──確かに対バンイベントでの挫・人間は異彩を放っていますよね。
そうそう。イベントだと僕らが不良で、さわやかなバンドさんたちに弾圧される側なんですよ(笑)。そういう経験も踏まえて「ヤンキーはヤンキーで孤独なんだろうな」って、ここ1、2年で思い始めたんです。
──下川さんの口から、ヤンキーの気持ちに寄り添うような言葉が出るとは思いませんでした。
ホントですよね。でも、心のどこかではヤンキーも孤独なんだってわかってたと思うんです。それは僕が十代のときに、すでに四十代だった大槻ケンヂ(筋肉少女帯)さんが音楽として出した“答え”を聴いていたから。アングラやサブカル界隈の音楽でもマンガでも、最終的にたどり着くのはハッピーエンドなんですよね。ひねくれたりバッドエンドにしちゃうのは、オーケンさんに教えてもらった答えを知ってる僕からすると、誠実ではないなと思っちゃうと言うか。
──ヤンキーの気持ちまで考えることができるようになったからこそ、最近の挫・人間のライブはハッピーな空気で満ちあふれているんですね。
過激なことをやって、卑屈になって「アイツら殺してやるぜ」みたいなことを言って、単純に人生の状況がよくない人から支持を集めるだけだったら簡単だと思うんです。でもいろんな人に聴いてもらえる状況になった今は……こういうのが中二的だって言われるんですけど(笑)、ファンの人たちの気持ちも抱えてますし。やっぱ僕が音楽を聴いていた十代の頃みたいに、「自分の人生をまるごとそのバンドに委ねちゃう」みたいな人もいるわけじゃないですか。それに対して責任があるんです。やっぱり誠実さを持っていないとその人たちに信頼してもらえないと思うから、ハッピーエンドに向かっている今の僕の姿が「カッコ悪い」と思われたとしても「絶対に大丈夫なんだ」って言いたいんですよね。
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ナゴム的な僕らがメインストリームで暴れてるほうが絶対面白い
- 挫・人間「もょもと」
- 2017年10月4日発売 / redrec / sputniklab inc.
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[CD]
2592円 / RCSP-0084
- 収録曲
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- ハッピーバースデー
- チャーハンたべたい
- 明日、俺はAxSxEになる......
- よくないんです
- eve
- クズとリンゴ
- ココ
- Tee-Poφwy
- おしゃれメロス
- 絶望シネマで臨死
- そばにいられればいいのに
ライブ情報
- 人間「もょもと」インストアイベント
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- 2017年10月4日(水)神奈川県 タワーレコード横浜ビブレ店 イベントスペース START 20:00
- 2017年10月5日(木)東京都 タワーレコード渋谷店 4F イベントスペース START 21:00
- 2017年10月6日(金)東京都 HMVエソラ池袋 イベントスペース START 19:00
- 2017年10月7日(土)大阪府 タワーレコード難波店 5F イベントスペース START 15:00
- 挫・人間ツアー2017~集まれ!隅っコ!移動型 在宅バンド 猛レース~
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- 2017年10月17日(火)香川県 DIME
出演者 挫・人間 / ひめキュンフルーツ缶 - 2017年10月18日(水)広島県 CAVE-BE
出演者 挫・人間 / ペロペロしてやりたいわズ。 - 2017年10月19日(木)愛知県 CLUB UPSET
出演者 挫・人間 / 空きっ腹に酒 - 2017年10月24日(火)北海道 COLONY
出演者 挫・人間 / HANABOBI - 2017年10月26日(木)宮城県 enn 3rd
出演者 挫・人間 / 八十八ヶ所巡礼 - 2017年11月2日(木)静岡県 HAMAMATSU FORCE
出演者 挫・人間 / THE ZUTAZUTAZ / オールドローズ - 2017年11月3日(金・祝)福岡県 UTERO
出演者 挫・人間 / あんどん馬鹿馬 / and more - 2017年11月5日(日)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
※ワンマンライブ - 2017年11月10日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
※ワンマンライブ
- 2017年10月17日(火)香川県 DIME
- 挫・人間(ザニンゲン)
- 下川リヲ(Vo, G)、アベマコト(B, Cho)、夏目創太(G, Cho)からなるロックバンド。2008年、高校生だった下川を中心に熊本で結成され、翌2009年には「閃光ライオット」決勝大会に進出し、特別審査員・夏未エレナ賞を受賞。2010年には下川の進学に伴い、活動の拠点を東京に移し、以来、都内ライブハウスを中心に積極的なライブ活動を展開する。2013年には初の全国流通盤となる、1stフルアルバム「苺苺苺苺苺」を発表する。また2014年には坂本悠花里監督の映画「おばけ」に楽曲提供すると同時に出演を果たし、2015年には「念力が欲しい!!!!!!~念力家族のテーマ」がNHK Eテレのドラマ「念力家族」の主題歌に採用されるなど、ライブハウスシーン以外からも大きな注目を集める。同年8月に2ndフルアルバム「テレポート・ミュージック」を、2016年9月に5曲入りCD「非現実派宣言」を発表。2017年10月4日には3rdフルアルバム「もょもと」をリリースする。