YOUR SONG IS GOOD|“10秒の先”目指して駆け抜けた20年を振り返る

いざメジャーシーンへ

「YSIG 20TH ジャケットコラージュ02」

──2002年3月に7inchアナログ「BIG STOMACH, BIG MOUTH」、8月に1stミニアルバム「COME ON」をリリースしてから、YOUR SONG IS GOODというバンドの名前がライブハウス周辺に広まっていきました。さらに2003年9月にリリースされた7inchアナログ「Super Soul Meetin'」がクボタタケシさんのミックスCDにも収録されたことで、今度はクラブ周辺にまで名前が広がっていった。そのあたりのダイナミズムみたいなものは、バンドとしてはどのように感じていたんですか?

JxJx 面白かったですね。今まで一緒にやったことない人たちとやるっていう新鮮な感じがあって。そこでまた新しい出会いもあったりして。バンドを通して面白いことが次々起こっていくのを体験できて楽しかったです。ただただ楽しいことが増幅していって、ワクワクする感じがありました。

モーリス お客さんに関しても、今自分たちがやってることをわかってて楽しみに来てくれる人たちが増えてるという実感がありました。

1stフルアルバム「YOUR SONG IS GOOD」発表時のアーティスト写真。

──2004年にカクバリズムから1stフルアルバム「YOUR SONG IS GOOD」をリリースして、2005年にはFUJI ROCK FESTIVALに初出演。そして、2006年にはメジャーデビューを果たすなど、その後、大きなトピックが続きます。

JxJx カクバリズムで1stアルバムを出して、バンドが盛り上がってきていた状況で、メジャーレーベル数社から声をかけてもらって。ただ、ここにもまた1つポイントがあるんですけど……我々も気がついたら30歳になっていて。僕はとにかくずっとバンドを続けたいという気持ちがあったんです。ただ30代に突入するタイミングって、人生の中でも大きな転換期みたいなところがあると思うんですよね。

──家庭を持ったり、仕事上でも責任が増えたりしますからね。

JxJx その中で、このままバンドの楽しい状況をキープする方法ってどういうものかなと考えたときに、バンドをさらに動かさないと難しいかなと思ったんですよね。もしかしたら、ちょっとしたきっかけで止まっちゃうかもしれない。だったら、少しでも冒険していったほうがいいんじゃないかという考えから、メジャーを体験したほうがいいと思ったんですよね。ただし、マネージメントはカクバリズムのまま。カクバリズムを辞めるという選択肢はまったくなかった。そんな感じで、社長には相談しました。

──メジャーでは、3枚のフルアルバムと、1枚のミニアルバム、そしてベスト盤もリリースしました。メジャーで活動してみて得たものは、どういうものだったんでしょう?

「FUJI ROCK FESTIVAL 2007」出演時の様子。

モーリス 音源を作るということに関して、それまではけっこうな時間をかけて、のんびり作っていたんです。でもバンドの活動ペース自体は、メジャーに移ってもそんなに大きく変えることはできないんですよ。メンバーにサラリーマンもいるし、基本は土日に活動するバンドだったので。そのままのスタンスでメジャーに行くというやり方を取ったから、単純に忙しくはなりましたよね。その中で、年に1枚アルバムを出すみたいな取り決めもあったりして、ペースがだいぶ変わった。曲作りの濃さとかスピード感というのも、あの時期、一気に極まった感はありますよね。

JxJx 僕は、バンドを続けるっていうのが裏テーマでずっとあったので、売れればメンバー全員がバンド1本で生活できるなと思ってました。なので、とにかく現状より売れなきゃダメだろうなと思いつつ、でもまあ、そんな簡単には売れないわけですよ(笑)。そんな中、締め切りの期日がどんどん迫ってきて……まあ、すごい日々だったですね、今思い返せば。めちゃくちゃ楽しかったですけどね。

──メジャー在籍時はバンドのサウンドもドラスティックに変化していましたよね。

「YSIG 20TH ジャケットコラージュ03」

JxJx はい。いろんなことを試しましたね。

モーリス そういう状況なので頭の回転も異様に速くて。アルバムを出して、ツアーを回って、で、また次のアルバムを考えるという意味では、常に頭の回転を速くしていないといけないから。

──そんな環境下に置かれたことで、バンドの表現の幅というか、可能性みたいなものが思い描いていなかった方向に広がっていった部分もあったんじゃないですか?

モーリス だけど、それはメジャーにいた頃だけに限らず、毎度のことかもしれないですね。さかのぼれば、SCHOOL JACKETSで予想外の方向をよしとしながらグシャッといろんなことをやったのがスタートなんで。そこから培ってきた感覚やいろんな引き出しを共有してるバンドなので、「ライブでもっと盛り上がるには、こういう感じがいいんじゃないか」とかいうときに、みんなで共通してピンとくるスピード感も速いというか。

──なるほど。

3rdフルアルバム「THE ACTION」発表時のアーティスト写真。

モーリス 具体的な例を挙げると、「THE ACTION」(2008年8月リリース)というアルバムを作ったときに、パンキッシュな衝動を新たに取り入れたとか言われたりして。だけど自分たち的には、それこそ「1999年ぐらいのウチらの感じを今の感覚でやってみたら面白そう」みたいな発想から来てた部分も大きくて。

JxJx だから聴いてるリスナーの皆さんは、「何?」ってなるかもしれないんですが、自分たちの中では、「いや、あのときのアレなんですけど」みたいな感じで、いろいろ試行錯誤してきた歴史の中で、引き出しができすぎちゃってたんですよね(笑)。いろんな引き出しを開けては閉めてを、怒涛のように繰り返した時期ではありました。でも、僕らのように友達同士で集まってのんびり始めたバンドが、メジャーフィールドでの活動を30代で経験することができて。すごく濃い時間を過ごさせてもらって、ありがたいなと思います。

カクバリズム復帰

──そしてメジャーを離れて、再び2013年にカクバリズムにレーベル復帰します。

5thフルアルバム「OUT」発表時のアーティスト写真。

JxJx で、さっきの話の続きですが、これまで、いろんな引き出しを開けては閉じてというのを延々やり続けたところがあったので、自分の中ではもうちょっとアウトプットを絞ったほうがいいなと思ったんですよね。

──具体的に言うと、それがジュンくんがDJ活動を活発に行ってきた中で手応えを得たダンスミュージックへの接近だった。

JxJx そうでした。ダンスミュージックのシンプルかつ強力な機能性に、もしかしたらバンドが向かう次のフェイズはそこかもしれないというヒントがありました。自分もメンバーも、それぞれ異なるいろいろな音楽が好きなんですが、それをバンドでアウトプットするときには、これまでと違って1つのベクトルで出そうと。ダンスミュージックは、そこをうまく取りまとめてくれる構造になっているということが体験を通してわかったんですよね。

──そういうジュンくんからのアイデアをバンドサウンドに変換していくうえで、メンバーの中で意識の変化みたいなものはありましたか?

モーリス 具体的に、このタイミングで意識が変わったということはなくて、グラデーション的に意識の変化が続いていった感じですね。今まではアウトプットの幅をすごく広げていて、それこそ開けっ放しみたいな引き出しもたくさんあったんですけど、少しずつ引き出しを整理していったというかね。

4thフルアルバム「B.A.N.D.」ジャケット

──メジャー在籍時では最後のオリジナルアルバムとなった「B.A.N.D.」(2010年3月リリース)のジャケットのように、サウンドのベクトルが、それぞれが思い描く方向に伸びていって。アウトプットを広げるという意味では当時が最高到達点だったんじゃないかと思うんです。あの時期のライブって、ひたすらエネルギーを発散するような感じでしたし。でも、カクバリズムに復帰してからのサウンドは、グツグツ煮え立ってるものをそのままさらけ出すのではなく、一旦フィルターを通しているというか。感触はクールだけど、その中にいろんな煮えたぎってるものが感じられる……そんな印象に変わっていったような気がしていて。

JxJx そうですね。

──その感覚って、近作の2枚のアルバム「OUT」(2013年11月リリース)、「Extended」(2017年5月リリース)にも通じるところではあるんだけど、特に今回の「Sessions」というアルバムで、過去の楽曲が今のバンドのスタイルでリアレンジされたのを聴くことで、ものすごくよくわかる。ダンスミュージック的な方向に向かっていく中で、既存の曲をどう調理していくかというのが、今作のテーマの1つではあったのかなと思うんですが。

JxJx バンドが20周年を迎えたということで、ひさしぶりに野音でワンマンライブをやらせてもらうことが決まって。それに合わせて、現在のそういった自分たちのサウンドをドキュメンタリー的な性質の音源で残せたらいいんじゃないかということになったんです。それが今回の「Sessions」の発端なんですよね。

──なるほど、そういう流れだったんですね。

サイトウ“JxJx”ジュン(Organ, Vo)

JxJx 20年間でいろいろあったんですけど、バンドは続いていて。今のバンドの状態というのを、その時々で僕らのことを見てくれている人にも、ここ最近で僕らのことを知った人たちにも同じようにドキュメンタリー的に伝えるには、最近のライブの感じをうまくパッケージングするのがいいだろうと。これまでの自分たちだったら、慌てて新譜を作るとかやりがちだったんですけど、そこをグッと堪えて、今の状況を一度形に残してみようと。最初はライブ盤を作ろうかってアイデアもありました。ただ、そのライブの空気感と、自分たちが今大事にしてる、細かいニュアンスみたいなものを同時に伝えられるようなもののほうがいいかなと思って。それならスタジオセッション盤みたいな作品が一番いいフォーマットかもしれないねという話になりまして、こういう形になったんです。