YOUR SONG IS GOOD|“10秒の先”目指して駆け抜けた20年を振り返る

一番前にいた男の子がアゴを掻きながら観てた

──今さらですが、バンド名の由来は?

1998年、結成当初のライブの様子。

JxJx とある対バンライブに誘っていただいたときに、高円寺の練習スタジオから西荻のライブハウスに向かう中央線の中で決めました。「YOUR SONG IS GOODで……いっか?」みたいな。それぐらいの軽い気持ちで付けたんですけど、まさかその名前で20年もやり続けるとは思わなかったですね。

──思い付きで決めたバンド名に、いみじくも“SONG”という言葉が入っているのは、今まで語ってくれていたバンドの変遷とも意味がつながってるというか。それまでは曲にもならない、断片的なモチーフみたいなものを演奏していたバンドが、3分ぐらいの尺の曲=SONGとしての表現に向かっていくようになって。そういう音楽的な変化が、無意識のうちにバンド名に現れているような気がして。

JxJx なるほど。まったく思いもよらなかったけど、確かにそうかもしれない(笑)。でも、YOUR SONG IS GOODになってからしばらくは試行錯誤でした。急にちゃんとしようとしたから問題が起こって(笑)。ただ相変わらず、みんなでスタジオに入って、何かしらに挑戦してるのは楽しかったんで。どういう感じがいいんだろうね、みたいなことをずっとやってたんです。

ヨシザワ“モーリス”マサトモ(G)

モーリス スタジオに入るごとに、相当こねくり回してたんで曲のアレンジが様変わりして。ライブに誘われるたび、バンドのその時点での現在形を見せていくっていう。

JxJx 自分たちにとってバシッとくる何かというのを、ずっと探し続けていた感じでしたね。みんなで「今、何聴いてるの?」みたいなことを話して、いろんなアイデアをバンドの音に取り入れて。ただ、各自の興味はどんどん変わりますから、「これだ!」という落としどころを見つけるのが非常に難しくて。

──その後、トロンボーンのハットリ“ショーティ”ヤスヒコくんと、ベースのタカダ“ダータカ”ヒロユキくんが加入して、現在のメンバーがそろって。バンドとして「これはいける!」と思ったのは、どのタイミングだったんですか?

モーリス いや、毎回、「これはいける!」とは思っていたんです。ライブには誘ってもらえてたんで、そこに向けて今のベストの状態で臨もうって。ただ、おそらくライブに誘ってくれたバンドの人たちがイメージしていた音と、実際にライブをやる時点でのバンドの音が変わっちゃってるんですよ。だから対バン相手やお客さんの反応が「え?」みたいな感じだったことは、けっこうありましたね。

サイトウ“JxJx”ジュン(Organ, Vo)

JxJx その最たる例みたいな出来事があったんですけど……FRUITYの頃からの友達のバンドに対バン相手として誘ってもらったときがあって。僕らはFRUITYからSCHOOL JACKETSを経て、もはや全然違うサウンドになってたんですけど、お客さんの中で「あのバンドにいた人たちがひさしぶりに対バンするみたいだよ!」みたいな感じで期待が高まっていて。20000Vだったんですけどチケットもソールドアウトして、会場中が期待に満ちあふれた雰囲気になっていたんですよ。当時、メロコアのシーンはめちゃくちゃ盛り上がってましたからね。でも僕らは、Tortoiseとかに影響を受けたポストロックっぽい音をやろうとして完全にインストバンドになってまして。そんな中、ステージに出て行って、僕がビールケースの上に座ってめちゃくちゃ小さいキーボードを弾きはじめてね。

モーリス 前のバンドでは、ステージで暴れ回ってた人がね。「あれ、FRUITYのジュンくん、歌わなくなっちゃったんだ?」みたいな。一番前にいた男の子がずっとアゴ掻きながら観てたのを覚えてますよ(笑)。

JxJx あれは申し訳なかったですね(笑)。しかも、困ったことに、僕らはそれを自信満々にやってましたね(笑)。ちなみに、そのライブをうちの社長(カクバリズム・角張渉)が観に来てたらしいんですよ。

カクバリズム社長・角張渉との出会い

「YSIG 20TH ジャケットコラージュ01」

──名前が挙がったところで、角張社長との出会いについて、改めて語ってもらってもいいですか?

JxJx はい。僕らはそんな調子で試行錯誤を繰り広げていたんですけど、バンド内でもう1回仕切り直そうみたいな話になって。そこで僕は、楽器をオルガンに替えてみたんですね。サウンドがややこしくなってたんで、もっとシンプルに楽しい感じにしようと思って。その当時、すでにみんな働いていたし。せっかく週に1回集まって練習して、週末にライブをやってるんだから楽しいほうがいいかなと。そうしたら、バンドが改めて楽しくなって、それが今のスタイルの原型みたいになっていったんですよね。

モーリス そうだね。

JxJx すると年下のバンドの人たちに誘われるようになってきたんですよ。で、ある日のライブの終演後に、うちの社長が声をかけてきた。5歳下の若者に声を掛けられるなんて初めてのことだったから、すごく新鮮でしたね。こんなに年の離れた若者が、こんなふうに熱心に声をかけてくれたりするんだと思って。

モーリス 話してる内容もめちゃくちゃで印象に残ってますね。「絶対、フジロック行けますよ!」って(笑)。

JxJx 言われたこっちはポカーンですよ(笑)。彼にしたら最高の誉め言葉だったんでしょうけど、僕らはフジロックとか別世界のものだと思ってるくらいの感じでしたから。

モーリス でも、渉くんはその後本当に、ウチらをフジロックに連れて行ってくれましたからね。

──言ったことをちゃんと実現させたわけで、それもまたすごい話ですよね。

2002年3月17日に東京・下北沢SHELTERで行われた7inchアナログ「BIG STOMACH, BIG MOUTH」レコ発記念ライブのフライヤー。

JxJx そんなきっかけで、5つぐらい下の世代との交流がそこから始まっていくんですけど。で、僕らのバンドの活動的には、だんだん曲の方向性やスタイルもある程度固まってきて、バンドとしてもなんだか面白くなってきたぞっていう状況だったような。それまでは先輩や友達にお世話になっていたんですが、今度は自分たちの場があったらいいなと思うようになってきて。そんな矢先に社長から「音源とか出さないんですか?」と言われて。当時、そろそろ自分たちで出そうかなという方法も考えてはいたんです。ただ、その直前に、FRUITYのコンプリート盤を社長がアビちゃん(我孫子真哉 / ex. 銀杏BOYZ)と一緒にやってたStiffeen Recordsからリリースするという作業をやったんですよ。で、その経験から何か新しいことを始めるときに、もしかしたら下の世代とやってみるのも面白いかもと思ったんです。それで「一緒にやるんだったら、新しいレーベルっていうのを始めてみない?」って話をしたんですよね。それがカクバリズムという形になった。

モーリス YOUR SONG IS GOODは「カクバリズム」という名前のイベントのレギュラーバンドでもあったんで。そんな感じで、シンプルに自分たちのホームが1個作れたという気持ちもあって。