ユアネス|初のアニメ主題歌や坂本真綾への楽曲提供、大きな経験を経てスケールアップしたバンドの1年を振り返る

「BE ALL LIE」に込めたメッセージ

──ここからは新作「BE ALL LIE」について聞かせてください。ジャケットイラストは「ES」に引き続きAofuji Suiさんが担当されています。これは連作のようなイメージで作られたんですか?

「BE ALL LIE」ジャケット

古閑 そのイメージですね。聴いてからのお楽しみな仕掛けがいろいろあるので、ここでお話ができないことも多いんですけど、ちゃんと統一性を持たせた作品にはしたくて。大もとに伝えたい言葉があって、それを砕いて各曲に散らしながら表現している感じです。

──いくつかのキーワードから大きなテーマが見えてくる作りにしてあると。

古閑 そうですね。「BE ALL LIE」の“嘘”だったり、「ES」で扱った“死生観”というコンセプトも含みつつ、1つの大きな母体に導いていけるような作りにしたかった。それは「ES」のリリース前から考えていました。

黒川 前作の時点で、メンバー間でもある程度のイメージは共有してたよね。

田中 うん、ざっくりとはね。翔平が事務所にあるホワイトボードに書き出して、みんなに説明してくれるんです。

古閑 僕の中にあるイメージをバババッと箇条書きしていくという。

──「ES」との関連性や表現の方向性など、ネタバレしすぎない範囲で聞かせてほしいです。

古閑 説明が難しくて恐縮です(笑)。えーと、そうだな……例えば「ES」との関連だと、「二人静」の歌詞に出てくる「萱草(かんぞう)」の花は、前作の「紫苑」との対比になっているんです。紫苑には“忘れないように思い出す”という意味合いがある一方、萱草の別名はワスレグサで“悲しみを忘れる”という花言葉があって、これは「今昔物語」の兄弟の話を引用しているんです。死生観を表現するにあたっては、「ES」のコンセプト“人は花のようである”を受けて、やっぱり花や花言葉を使ってアプローチしてみたくて(参照:ユアネス「ES」インタビュー)。

──確かに、「二人静」も「ヘリオトロープ」も花の名前になっていますね。

古閑 そうなんです。あとは「心の在り処」「二人静」で出てくるポエトリーもユアネスの世界観を表現する手法として浸透してきたと思っているので、それもうまく使いつつ、大きなテーマに向かうような作りにできたかなと。

──“心”もキーワードの1つですか?

古閑 はい。「哀しい時 寂しい時 嬉しい時 楽しい時 どうして 『涙』は溢れちゃうのかな。」と「心の在り処」で書いているんですけど、その涙は心に溜まった感情が形となってあふれ出てきたものなんだよということを、今作を通して伝えられたらいいなと思いました。

──「どうして」は「ヘリオトロープ」でも印象的に使われている言葉で、思い返すと「籠の中に鳥」にも「どうすれば」「どうしたら」という歌詞がありました。こうした自分自身に問うような悩ましい言い回しって、黒川さんの声と本当によく合ってますよね。

黒川 ありがとうございます。なんて言うのかな……セリフに近い歌詞だよね? 問いかける感じの。

古閑 ちょっと役者っぽいテイストなんだろうね。歌詞だけど、セリフとして捉えられるものになっているので、そのまま聴く人の状況に置き換えやすいと思うんです。黒ちゃんの声がそう感じさせてくれる面もすごく大きいんじゃないかな。

他人の作品として聴けるような完成度の高い1枚

──「BE ALL LIE」が完成してみての印象はどうですか?

黒川侑司(Vo, G)

黒川 さっき話に出た「籠の中に鳥」や「躍動」の制作を通して、古閑が経験してきたことが存分に生かされた曲が詰まっている感じがしますね。それこそ、表題曲の「BE ALL LIE」なんかは古くからユアネスを知ってくれてる方が聴いたら、もう別人みたいな仕上がりになったので。例えば転調って今まではほとんどやってこなかったんですよ。どっちかと言うと、嫌いだったよね?

古閑 うん(笑)。必要ないと思っていました。

黒川 でも、今作だと「BE ALL LIE」のサビとか転調がめっちゃ生きてるからね。いちリスナーとして聴いても、楽しめる要素が多いです。

古閑 「躍動」の制作タイミングでいくつかデモを上げていたんですけど、過去の「FGO」楽曲、真綾さんがこれまでリリースされた楽曲をめちゃくちゃ聴き込む時期がありまして。そこで僕が遅ればせながら、転調の魅力に気付いたんですよね。「必要ない」とか思っていた自分が信じられないくらい、完全にハマッてしまったんですよ(笑)。むしろ、転調を軸に作曲するようにさえなって。そのモードで最初に作ったのが「BE ALL LIE」なんです。

──そういった経験が、早くも新作に反映されているんですね。

黒川 古閑はものすごく吸収が早いんですよ。だから、僕らも振り落とされないように必死で。自分が持っているものを絞り出さなきゃという気持ちが作品ごとに高まってますね。今回はコーラスもいろいろ考えてたくさん入れてます。

田中 翔平の指示の出し方からも、僕らに対するリスペクトのようなものが感じられました。例えば「ここはベースが目立ってほしい」みたいに、デモの段階でわかりやすく隙間を空けてくれてたりとか。

小野 ダディ(田中の愛称)の言う通りだと思います。メンバーのポテンシャルを生かそうとしてくれてたよね?

古閑 (恥ずかしそうに、黙って頷く)

黒川田中小野 あははは(笑)

田中雄大(B)

田中 僕と小野ちゃんが実際に演奏した曲は「BE ALL LIE」と「ヘリオトロープ」の2曲だけじゃないですか。で、これまでならレコーディング後は、その2曲のベース音をひたすら確かめる作業をしがちだったけど、今作に関しては自分が弾いたという意識から離れて、客観視できる状態になるまでのスパンが短かった気がします。大げさに言うと、他人の作品として聴けるような。それくらい完成度が高い1枚になったなと。なので、参加していない「二人静」のピアノバージョンを自然と一番再生してたりするんですよね。

──小野さんはどんな手応えがありますか?

小野 これまでの作品も振り幅がすごいと思ってたんですけど、今作は群を抜いているなと(笑)。客観的に見ても、びっくりするポイントが多いですね。黒ちゃんのボーカルって、自分としては「二人静」みたいな落ち着いた曲に合うイメージが強かったので、「BE ALL LIE」のデモを聴いたときには「えっ、こんなカッコいい感じで歌えるんだ!」と驚かされました。

黒川 ありがとう(笑)。ユアネスのダークな曲って、今までは「少年少女をやめてから」くらいだったのかな。でも「BE ALL LIE」はさほど無機質ではなくて、“嘘”という題材のもと、もがく主人公の姿がエモーショナルに浮かんでくるんですよね。で、メロディはちょっと早口だから、言葉を一音一音しっかり歌うことの大切さをより実感させられたところがあります。