ユアネス、バンドの名刺代わりと言える1stフルアルバム「6 case」完成|メンバーインタビュー+6組の表現者からのコメント

ユアネスが12月1日に1stフルアルバム「6 case」をリリースした。

アルバムにはユアネスが自主制作CDのみでリリースした活動初期の楽曲「色の見えない少女」の再録バージョンや、テレビアニメ「イエスタデイをうたって」の主題歌「籠の中に鳥」、坂本真綾に楽曲提供(作曲 / 編曲 / 演奏)した「躍動」のセルフカバーなど彼らのターニングポイントとなった楽曲や、これまでの経験を経て生まれた初のツインボーカル曲「49/51(feat.nemoi)」など全12曲を収録。ユアネスのこれまでとこれからを感じ取ることができる作品に仕上がっている。音楽ナタリーではメンバー4人に、各楽曲の制作エピソード、4人が「バンドにとって名刺代わりの1枚になった」と口をそろえて語るアルバムの魅力について話を聞いた。

また特集の後半には坂本真綾、エンドウアンリ(PELICAN FANCLUB)、尾崎雄貴(BBHF)、吉田喜一(神はサイコロを振らない)、小林親弘、萩原利久といったユアネスと関わりのある面々によるコメントを掲載する。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 映美

1stフルアルバムは名刺代わりのような1枚

──1stフルアルバム「6 case」にはユアネスの原点である過去曲のリアレンジバージョンが入っていたり、これまでの経験を経て生まれた新曲が入っていたりと充実した内容になっていますが、何かテーマはあったのでしょうか?

古閑翔平(G, Programming) 本作が6枚目のCDになるので、アルバムタイトルを今までCDリリースした作品の頭文字をとって「6 case」にしていて。コンセプトとしては、“これまでとこれからのユアネスを見せる”ということを意識していました。結果的に僕らの名刺代わりのような1枚になりましたね。

──自主制作時代の楽曲「色の見えない少女」は、ユアネスのコアな部分が感じられました。

古閑 そうですね。“This is ユアネス”と言える作品を作るにあたって、やはり一番相応しい曲ですし、僕らが初めてミュージックビデオを出した楽曲でもあるので。これを入れなきゃマズイかなと(笑)。

──5年前に作ったんですよね。

古閑 はい。イラストレーターのしらこさんが描かれた「色の見えない少女」というマンガが、ある日Twitterのタイムラインに流れてきまして。それにすごく感動して、マンガと同じタイトルの曲を勝手に作ったんです。後日、しらこさんのTwitterに「マンガのタイトルを僕らの楽曲に使わせてください」とDMしたら、ご了承いただいたうえにMV制作までご一緒できることになって。

黒川侑司(Vo, G) この曲がきっかけで、バンドの中で曲作りの方法が定まったんですよ。というのも、それまではスタジオに入ってセッションに近い感じで作っていたんですけど、どうもうまくいかなくて。「色の見えない少女」はある程度の土台ができて渡されたから、歌唱にしろ古閑の歌詞にしろ、すごい手応えがありました。

田中雄大(B) それ以前は、真っ白な画用紙に何を描けばいいのかわからない状態だったんです。「色の見えない少女」以降、古閑が作る曲の方向性が鮮明になったというか。デモを聴けば「こういう表現をしたいのか」と伝わるようになった。そういう意味でも重要な1曲ですし、この曲なくして今のユアネスはなかったと思います。

──今回、リアレンジをするうえで何がポイントになりました?

古閑 当時の僕らは、技術的にもオリジナルバージョンのBPMが精一杯だったんです。だけど、今ならもう少しスピード感があってもいいなということで、ちょっとだけテンポを上げていて。それによって、より聴きやすくなったと思います。

黒川 前のバージョンもめちゃくちゃ好きなんですよ。若さゆえの荒々しさがあるというか、僕の声も若かったりして(笑)。ただ、それは当時でしか出せない味というか。今回は5年間で身につけた歌唱技術や、ライブで披露するうちに変わった曲の見え方を出せたらと思ってレコーディングに臨みました。

田中 僕はオリジナルを超えるというより、今の自分だからこそのアプローチを入れたいと思って。この曲をきれいに成立させる、その一心で音作りをがんばった結果、さらにいいものができたと思います。

──小野さんに関しては、加入以前の曲なのでアレンジに苦労したんじゃないですか?(※小野は2017年に正式加入)

小野貴寛(Dr) オリジナルのドラムも好きなんですけど、今回はフレーズに自分だからできる動きをちりばめました。あと自分は速いリズムが得意なので、余裕を持って落とせるポイントを見つけてフレーズをきれいにまとめました。

ユアネス

ユアネス

ユアネスに必要なものを掴んだ「凩」

──ユアネスの結成初期を代表する楽曲でいうと「凩」もそうですね。

古閑 「凩」は昔からみんなに聴かれている曲だし、僕らも思い入れが強くて。当時の僕はマスロックやポストロックにハマっていて、「変拍子の曲しか書かない!」というモードだったんです。学生時代はテクニック重視の曲がカッコいいと思っていて、「絶対に4分の4拍子の曲は書かないぞ」みたいな(笑)。

──「わかりやすいのはやらないぞ」と。

古閑 そうですね。でも、その頃に周りの大人から「古閑くんはストレートな曲を書けないの?」と言われて。「いや、俺だって書けるわ」と思って作ったのが「凩」なんです。ストレートな曲を作り始めた原点の曲ですし、今のユアネスのサウンドにシフトするきっかけになった曲ですね。

黒川 古閑から「凩」のデモが送られてきたときに、僕もストレートでわかりやすい曲だなと思ったのを覚えています。それが聴いてくださっている皆さんにも同じような感覚で伝わったのがわかったというか、ユアネスにはこういう曲が必要なんだと思いました。

田中 この曲は、過去に再録バージョンのレコーディングを試みて2度断念しているんです。とにかくライブで幾度もやってきた曲だからか、音源で聴くイメージを自分の中で持てなくて。特別というよりも、そこにいて当たり前のような感覚。自分の中では身内を紹介するつもりで演奏しているので、歌のニュアンスも当時の自分では気付けなかったところを、フルアルバムでいろんな人に聴いてもらえるような一番いい形で残せたのは素敵なことだと思います。

小野 この曲を初めて演奏した頃、僕はユアネスに入りたてでした。当時のユアネスは変拍子のイメージが強かったんですけど、「凩」に関しては本当にさわやかでエネルギッシュな感じがして、叩いていて感情を込めやすいんです。前とフレーズ自体は変えてはいないですけど、リアレンジするにあたって自分らしいドラムを意識しました。

初のアニメ主題歌「籠の中に鳥」で得たもの

──「色の見えない少女」「凩」で過去の雰囲気を味わえる一方、アニメ「イエスタデイをうたって」の主題歌として書き下ろしてバンドの認知度が高まるきっかけとなった「籠の中に鳥」は、今のバンドのモードが感じられる1曲になっています(参照:ユアネス「イエスタデイをうたって」で初のアニメ主題歌担当)。

古閑 既存の作品をもとに曲作りする手法は、わりと昔からやっていたんです。先ほどお話しした通り「色の見えない少女」もそうだし、ほかの楽曲でマンガからインスピレーションを受けて書いたものもあったりして。なので楽曲自体は、わりとスムーズに作ることができました。

──冒頭から懐かしさを感じるサウンドですよね。

古閑 そうなんです。原作の時代設定は携帯電話もない頃なので、温かさのある感じを出そうと思い、ギターに関してはアナログのテープエコーを使いました。昔のテレビから流れてくるような懐かしさのある音で、イントロから一気に楽曲の世界観に引き寄せようと思ったんです。あとは原作のファンへ敬意を示すために、誤解のない言葉選びをして、アニメのどの場面にもハマる歌詞を意識しました。

──楽曲制作を通して学んだことはありますか?

古閑 アレンジ面が一番勉強になりました。agehaspringsの皆さんが手がけた1発目の音源が上がってきたとき、最初は聴き馴染みがないから「なんで、こういうアレンジにしたんだろう」と疑問に思ったんです。だけど、意見を擦り合わせていくにつれて「なるほど。こういう曲に仕上げるために、この音を入れるのか」と理解できたとき、なんだか成長できた気がしました。日本屈指のクリエイターチームであるagehaspringsの玉井健二さん、横山裕章さんと一緒に仕事ができたのは、僕にとって大きな経験でしたね。

小野 この曲によってユアネスに「ボーカルを前に出していく歌モノを作るバンド」というイメージが定着したような気がします。

ユアネス

ユアネス

──昨年11月の「ヘリオトロープ」リリース時に、田中さんは「この曲は古閑が『籠の中に鳥』で得た経験が生きている」と言ってましたね。

田中 そうですね。古閑はそのときそのときで感動した音楽や感銘を受けたアレンジを次の楽曲に反映するんです。「籠の中に鳥」と「ヘリオトロープ」って音色は全然違うんですけど、コードの使い方は「籠の中に鳥」で得たものが詰まっているんですよ。

古閑 間違いないね。「籠の中に鳥」で使ったコード進行が「海外のリスナーにもウケるんだ!」と発見したんです。なので実は「籠の中に鳥」で使ったサビのコード進行は、そのまま「ヘリオトロープ」にも使っているんです。あと坂本真綾さんに楽曲提供をさせていただいた「躍動」も同時に制作をしていて。そのときに転調とかコードワークの勉強をしていたので、これを「ヘリオトロープ」にも生かしてみようと。だからこの曲は「籠の中に鳥」と「躍動」の影響を受けているんです。

──古閑さんは「躍動」を作るまでは転調が好きではなかったとか(参照:ユアネス「BE ALL LIE」インタビュー)。

古閑 安直な転調は好きじゃなかったですね(笑)。ラストサビで強制的に半音だけ上がるとか、ブレイクを入れたら転調するみたいな、誰でもできちゃう転調をするならもうちょっと考えたほうがいいんじゃないかなと。だけど真綾さんの作品は、転調がちりばめられている楽曲が多くて。それで、楽曲提供するからにはほかの作品に埋もれちゃダメだと思ったんです。狙うなら一番を獲りたいので、いろんな曲を聴いてコード進行も全部メモをして。「ここでこういうコード進行を使ったら、真綾さんにも合いそう」とか、いろいろと研究したうえで「躍動」を作りました。

──そう考えると、2020年はコード進行や音楽理論などプロの作曲家としての精度を上げていった時期なんですね。

古閑 そうですね。個人的にプロデューサー業に憧れもあったので、agehaspringsさんや真綾さんとの制作が1人の作家として改めて音楽を勉強するきっかけになりました。

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黒川が歌う「躍動」