ユアネス「VII」特集|俳優・萩原利久と語る、ダークなムード漂う新作ミニアルバム

ユアネスが2ndミニアルバム「VII」をリリースした。

「VII」は数字の7にまつわるさまざまな意味合いとともに、“時間=水”というテーマを掲げて制作された1枚。ユアネスが考える命や人生に対する価値観を、バンドの新たな一面が垣間見えるダークなサウンドで表現した全7曲が収められている。音楽ナタリーでは「VII」の発売を記念し、ユアネスの黒川侑司(Vo, G)と古閑翔平(G, Programming)、そして彼らを活動初期からいちファンとして追いかけている俳優・萩原利久との対談をセッティングした。かねてからメディアやSNSを通してお互いを認知してきたユアネスと萩原だが、直接言葉を交わすのはこれが初。「VII」の制作エピソードはもちろん、バンドと俳優という異なるフィールドで活躍する表現者だからこその共通点などを語ってもらった。

取材・文 / 真貝聡撮影 / 梁瀬玉実
ヘアメイク / ふるかわめぐも(ユアネス)、カスヤユウスケ[ADDICT_CASE](萩原利久)スタイリング / Shinya Tokita(萩原利久)

緊張の初対面

──萩原さんは長年のユアネスファンで、2021年に音楽ナタリーに掲載した「6 case」の特集ではコメントを寄稿されていましたよね(参照:ユアネス「6 case」特集)。しかし会ってお話をするのは今日が初めてだとか。

萩原利久 そうなんです。今、すごく緊張してます。

黒川侑司(Vo, G / ユアネス) ハハハ、緊張しますよね。

萩原 うれしいやら緊張するやらで……頭の中が大変です。

古閑翔平(G, Programming / ユアネス) いやいや、僕らも緊張してます。

左から萩原利久、黒川侑司(Vo, G / ユアネス)、古閑翔平(G, Programming / ユアネス)。

左から萩原利久、黒川侑司(Vo, G / ユアネス)、古閑翔平(G, Programming / ユアネス)。

──萩原さんはどういう経緯でユアネスを知ったんですか?

萩原 2018年ぐらいに、友達から黒川さんがネットに上げていた弾き語りの動画を観せてもらって、歌がうますぎてびっくりしたんです。中でも「ドン・キホーテ」(「Miracle Shopping ~ドン.キホーテのテーマ~」)のカバーが最高で。それまでお店のテーマソングとして聴いていたけど、やっぱりうまい人が歌うとなんでも“歌”になっちゃうんだなと、素人ながらに感動して。

古閑 ありがたいね(拍手しながら)。

黒川 いやあ、生まれてきた甲斐がありました!

萩原 ちょうどその年の3月に1stミニアルバム「Ctrl+Z」がリリースされて。何度も聴きましたし、O-nestでのライブ(「Ctrl+Z Tour 2018」)にも行かせていただいて。

古閑 初めて東京でやったワンマンだ! それ、めちゃくちゃ最初の頃ですよ。

萩原 初期の楽曲で言うと「色の見えない少女」がすごく好きだったんですけど、当時はまだ音源化されていなかったんですよね。YouTubeでしか聴けなかったので、YouTubeとライブを行き来しながら楽しんでいました。それから1stフルアルバムの「6 case」に「色の見えない少女」が収録されて、めちゃくちゃ歓喜したのを覚えています。

──萩原さんはユアネスのどんなところに魅力を感じていますか?

萩原 音楽って日常で耳にする機会が頻繁にあるじゃないですか。テレビを観ていても街を歩いていても、どこかの施設に入っても必ず音楽が流れている。そんな中、ユアネスさんの音楽は初めて聴いても「この曲はなんだろう?」と思わず調べたくなる。それぐらい僕の中で大ヒットしたんです。別に音を聴き分けられるわけでもないんです。「この音が入っている」とかはわからないけど、こんなにも一瞬で心をつかまれるということは、それだけ聴く人の琴線に触れる要素を巧みに組み合わせて、楽曲に昇華されているのかなって。その感動的な音を、耳もそうですけど、全身で感じられるのが魅力というか。皆さんの練りに練られた音楽に、自然と吸い込まれていきました。……とにかく大ファンです!

黒川 こんなことがあっていいんですか!? 僕、日頃からテレビで利久くんのことを観ていて、そんな方にここまで褒めてもらえるなんて、ありがたい限りです。

シンパシーを感じるポイント

古閑 利久くんがユアネスの曲をラジオで紹介してくれていると聞いて、僕も利久くんの活動を意識してチェックするようになったんですよ。僕は歌詞を作るとき、たまにドラマや映画の台詞から引用していて。最近はよく利久くんの出演した作品を観させていただいてます。

萩原 うわ、うれしいです!

黒川 それこそ今、利久くんが「めぐる未来」(読売テレビ・日本テレビ系で放送中のドラマ)で演じている役はユアネスの音楽性と通じるものがあるよね。

古閑 うん、だから刺さるんだよね。僕は記憶や死生観といったテーマが好きで、日頃から人生や自分の命について考えることが多いんです。例えば「生きている中で、利久くんにあと何回会えるんだろう?」と想像しちゃったりする。なので自ずと楽曲のテーマもそっちに寄っていくというか。

古閑翔平(G, Programming / ユアネス)

古閑翔平(G, Programming / ユアネス)

萩原 確かに、ここ最近は記憶をテーマにした作品が続いていて。去年出演した「たとえあなたを忘れても」(2023年10月から12月まで朝日放送で放送されたドラマ)で演じた青木空という人物は“解離性健忘症”で、重ねていた記憶がリセットされて新しく人生をやり直していく。それに対して「めぐる未来」の襷未来は、未来で何が起こるのかを全部知った状態で過去にタイムリープするという、本当に真逆な役なんです。

古閑 そうなんですよね。

萩原 基本的にドラマや映画は、大なり小なり何かを積み重ね続けて、最後に終着するんです。だけど前回の作品は1回リセットしなきゃいけないという、珍しい工程を踏まなきゃいけなかった。役は過去の記憶を覚えていないけど、演じている僕自身は覚えているから、“知ってるのに知らない”というデジャブが行き交う感覚が新鮮でもあり気持ち悪さもあって。逆に今回は自分だけが“知ってる”状態で過去に戻って、また違う種類のデジャブを体験する。そういう役に触れていると、古閑さんがおっしゃった「あと何回会えるんだろう?」と考えたりするんですよね。特に僕らの仕事は短期間で特定の人に会って、作品が終わった瞬間にみんな散り散りになる。それで次にいつ会うかわからないし、会わないかもしれないというのを繰り返す。そういう点でユアネスさんにシンパシーを感じてるから、自分の中でヒットしているのかもしれないです。今、惹かれている理由の1つがわかった気がします。

萩原利久が気になる、ユアネスの楽曲制作

萩原 ユアネスの楽曲はどうやって作られているんですか?

古閑 僕は歌詞よりも曲から先に考えることが多くて。街中を歩いてるときとかに浮かんできたメロディをその場でスマホに録音して、家に帰って濾過していく。そうやって溜め込んだ素材を、1カ月ごとに何回も聴くんですよ。これはちょっと違うかもと思ったものから削除していって、残った選りすぐりのメロディに、コードや伴奏を付けて形にしていきます。

萩原 おお、それは自分にはない日常です。歌詞はどう作っていくんですか?

古閑 曲にタイトルを付けて、そこからどういう歌詞が合うのか考えて、イメージを箇条書きでバーっと書き出して。そこから「韻辞典」を使うんですよ。

萩原 「韻辞典」?

古閑 ラッパーの人がよく使うサイトで、めちゃくちゃ面白いんです。例えば「あいしてる」と5文字打ち込んだら、それに対して韻を踏んだワードがズラーっと出てくるんです。その中から使えそうな言葉を引っ張ってきて、歌詞の展開を考えて組み立てていきます。

萩原 僕の勝手なイメージでは、まず大まかな歌詞があって、それに音を付けてブラッシュアップをして、最後にタイトルを付ける真逆の流れを想像していました。

萩原利久

萩原利久

古閑 歌詞を先に書く人と、メロディが先の人っていう二大派閥があって。どちらを優先するのかは、人によって違いますね。僕と黒川でも曲の作り方が違うんです。

黒川 僕はどちらかを先に作るんじゃなくて、音と歌が同時に浮かんできて、最後にタイトルですね。ちなみに「色の見えない少女」のメロディを作ったのは僕です!(ドヤ顔で)

一同 ハハハハ!

黒川 そうやって共作するパターンもありますね。最近は今言ったような方法で、古閑が鼻歌で全部作ることがほとんどで。

萩原 一緒に曲を作るとなったら、どうやるんですか?

古閑 わりとわかってくれているんですよ。「最後は古閑がきれいに整えてくれるだろう」って。

黒川 そうそう!

古閑 僕もその体で制作を進めるので、黒川の書いてくる歌詞が80%とか90%の状態でもいいし、逆に120%詰めてもらっても、最終的には僕が100%にする。最初から歌詞を共作することもあるんですけど「1番は俺が書きたいから、2番のサビから書いて」というふうに道筋を立てることが多いですね。

黒川 今回の「VII」で言うと、「ECG (feat.RINO)」と「人生の時間割」の歌詞はその流れで作りました。例えば「元気」「明るい」みたいな箇条書きのメモがあって、そこに当てハマるであろうワードを自分なりに書いて、最後は古閑に整理してもらう。基本的にユアネスの曲は古閑が書いているから、最後は彼のまとめた言葉でマスタリングしたほうが、よりユアネスっぽい言葉遣いになるんです。

黒川侑司(Vo, G / ユアネス)

黒川侑司(Vo, G / ユアネス)

「VII」で描きたかったもの

萩原 僕の場合、基本的に台本に書かれた台詞をもとにお芝居をするので、ゼロイチをしたことがないんです。

黒川 アドリブはないですか?

萩原 あります。ただ、すでに書かれた台詞の延長にアドリブを入れていくので、イチをどれだけ大きくできるかの作業なんです。だから何もないところからイチを生み出す人のことを本当にリスペクトしています。俳優でも監督をやってみたい人とか、自分で脚本を書いたりする人もいる中、僕は今のところそういう欲がないんです。どこからアイデアが湧くのかわからないというか、あんまりピンとこなくて。今回のアルバムは、どのように作られたんですか?

古閑 テーマとしては、“時間=水”という言葉だけが最初にあって。ジャケットの女の子のイラストで表現しているんですけど、人間が容器に入れられていて、時間が経つにつれて水が注ぎ込まれていく。その水が満タンになることによって寿命が来て、それぞれの命が終わるイメージなんですね。例えば「命の容量」で描いた「水の入ったカプセルの中で自らしゃがみ込んでしまう人」というのは、「まだ本当の寿命じゃないのに自殺してしまう」という意味も込めていて。生きていくうえで立ち続けていられなくなることって誰しもあって。そんなとき、楽しいことや誰か思う気持ちがあるからこそ立ち続けていられる。それを表現しようと思ってこのミニアルバムを作りましたね。

萩原 そうなんですね。古閑さんのお話を聞いて今すごく納得できましたけど、僕の日常ではそういう発想に結びつかなくて。

黒川 いや、僕もないです(笑)。僕はこのバンドしかやったことないのでわからないですけど、ここまで緻密に考えている人は少ない気がしますね。ミュージシャン仲間と作品のコンセプトの話をしても、明るいとか楽しいとか、そういうわかりやすいテーマが多い。特に今回はテーマ自体がちょっとヘビーで大切に描かなきゃいけない分、ちゃんと緻密に考えてるんだなと感心しました。

左から古閑翔平(G, Programming / ユアネス)、萩原利久、黒川侑司(Vo, G / ユアネス)。

左から古閑翔平(G, Programming / ユアネス)、萩原利久、黒川侑司(Vo, G / ユアネス)。

──ヘビーとおっしゃいましたが、別の言葉に置き換えると“リアリティ”なのかもしれないですよね。「VII」では大人になることで感じるノスタルジーさや、命の終わりについて描かれている。リアルから目を背けて人生を美化して歌うこともできるだろうけど、ちゃんと向き合って楽曲に昇華するからこそ、本当の意味で生きる希望を感じられるというか。

黒川 特に「命の容量」はテーマもそうですけど、その中で選ばれた言葉や並べられた単語を歌う立場として、少しでもぼやけてはいけないと思いました。誰が聴いてもしっかり伝わるように、魂を削って大切に歌いましたね。

古閑 「命の容量」は実家に帰ったときに書いたんですけど、家族とひさびさに会って感じた「みんなに長生きしてほしいな」という気持ちが強く出た曲なんです。でも人間には終わりが来る。誰かが亡くなると悲しい気持ちに引っ張られてしまうけど、そこでしゃがみ込んでしまうのはよくない。なので「命の容量」は、少しでも立ち上がるきっかけになったり、「あなたのことを忘れずに生き続ける」という前向きな気持ちにつながってくれたらと思って書きました。