TVアニメ「イエスタデイをうたって」 藤原佳幸監督×古屋遙(宣伝プロデュース)×ユアネス・古閑翔平(主題歌)インタビュー|人の“揺らぎ”を鮮やかに描き出す、不朽の青春群像劇

冬目景が1998年にビジネスジャンプでスタートさせ、グランドジャンプ(ともに集英社)に移籍後2015年まで連載した「イエスタデイをうたって」。大学を卒業したものの、コンビニのバイトをしながら生き方を模索する青年・陸生、カラスを連れた不思議な少女・晴、陸生の大学の同級生・榀子、榀子に思いを寄せる少年・浪の4人を軸に描く青春群像劇だ。アニメ化を手がけたのは、原作の大ファンであり、アニメ「NEW GAME!」などで知られる藤原佳幸監督。クオリティの高いアニメーションはもちろん、オープニングがなく、エンディング主題歌が1クールに3曲用意されるなど、異例の試みでも話題を呼んだ。

コミックナタリーでは藤原監督に加え、エンディングの仕掛け人である古屋遙プロデューサー、そして第1弾主題歌「籠の中に鳥」の作詞・作曲を手がけたユアネスの古閑翔平にインタビュー。最終話を控えた今だからこそ明かせる制作秘話を語ってもらった。

取材・文 / 柳川春香

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オンエアのたびに原作を読み返す

──藤原監督はもともと原作の大ファンでいらっしゃるということで、非常に気合いを入れて臨まれた作品だったかと思いますが、最終回の放送を目前に控えた今、どのようなお気持ちですか。

冬目景「イエスタデイをうたって」11巻

藤原佳幸 まず、11話まで観てくださった方は「あと1話で終わるの?」って思っているんじゃないかなと(笑)。でも個人的には、うまくお話を畳めたんじゃないかと思います。尺が決まっている以上、より大事なところを優先していく形で最終話を組み立てていったんですが、シナリオの段階から冬目景先生に「こういうパターンと、こういうパターンがあります」「どの感情を大事にしましょうか」って相談しながら詰めていって。やるだけのことはやったと思いますが、やっぱり緊張しますね。

──ご覧になった方が満足いく最終回かどうか、という。

藤原 はい。普段はオンエアが始まってからも制作が続いているので、緊張している暇もないんですが、「イエスタデイをうたって」は去年のうちに全話納品が終わっていたんです。なのでオンエアをフラットな気持ちで観られるんですが、毎週「もしかしたら別のパターンもあったかも」と思っては、原作本を開いて「これで大丈夫、取りこぼしはないはず」って確認して、安心するっていう(笑)。オンエアしている最中にこんなに原作を読み返したことはないです。

──藤原監督と動画工房のタッグというと「プラスティック・メモリーズ」や「NEW GAME!」、「GJ部」など、アニメらしいタッチの作品が印象的だったので、リアル寄りの作品である「イエスタデイをうたって」を手がけるというのは意外でした。そもそも原作自体、アニメ化が難しそうな作品ですし。

藤原 動画工房に企画書をいただいたときは「今アニメ化するの!?」って、一瞬時が止まりました(笑)。僕としては原作も大好きですし、こういうドラマ性の強い作品をやらせてもらえる機会はなかなかないと思っていたので、チャンスだと思って立候補させていただきました。

──古屋プロデューサーも原作の大ファンなんですよね。

古屋遙 はい。私、名前が遙なので「ハル」って呼ばれていたことも影響しているのかもしれませんが、読んでいる当時は晴ちゃんの思い詰めてしまうところや、ライバルがいても好きでいるのをやめられなかったりするところに、すごく共感していました。日々の悩みや恋愛におけるリアルな心情が描かれていて、大好きな作品です。今はいち視聴者としても、昔の煮え切らない恋愛をしていた自分を思い出して、過去通ってきた道をもう一度通り直すような、苦しい思いをしながら観ています(笑)。ご覧になった方からも「しんどい、苦しい、でも観ちゃう」という声をたくさんいただいていて、同じように通ってきた道を振り返るような気持ちで観ている人も少なくないんだろうなと思います。

藤原 「晴ちゃんを見ていて苦しい」っていう感想は、そう言われるだろうなとは思っていました。前半で陸生と晴の関係というか、冬目先生のラブコメ的な楽しい部分を描写しすぎると、榀子とのエピソードが明らかに邪魔になってしまうと思ったので、陸生は晴と気楽な仲ではあるけど、自分でも自分の気持ちがよくわかっていない……というような、その匙加減には気を付けて描いていったんですが。でも客観的に見ると、ひどいことしてるなって思います(笑)。そのぶん晴ちゃんの一途さが際立つんですけどね。

──逆に古閑さんは、今回主題歌のお話をきっかけに原作を読まれたとのことですが、今26歳ですよね。作品の舞台が2000年前後ということで、わかりやすいところでは携帯電話が登場しなかったり、今とは違う時代の様子が感じられる作品だと思うんですが、新鮮に見える部分はありましたか?

古閑翔平 恋愛の面でいうと、例えば僕らが小学生の頃って、好きな子と話そうと思ったら、一緒に帰ったり、別のクラスだったら会いにいったりしなきゃいけなかったので、それと同じ状況が大人にも起こっていたんだな、というのが新鮮でした。子供と同じステージに大人もいるというか。逆に、陸生たちを見ていて「こういう人、いるな」っていうのはすごく思いますし、それぞれのキャラクターに出ている人間らしい部分は、時代に関係なく共感できる部分だと思います。

──ちなみにユアネスは初めてのアニメ主題歌でしたが、古閑さんは普段からアニメはご覧になりますか?

古閑 けっこう観ますね。僕はアニメに限らず、小説や映画も含めて、リアリティのある作品、異次元的なものよりは自分たちに近い世界の、共感できるものに惹かれるところがあって。そういう物語に共感して、悲しんだりしたいんですよね。それが自分の中でのクリエイティブにもつながっていくんです。なので「イエスタデイをうたって」もすごく好みの作品でしたし、「すごく大事に曲を作らなきゃいけない」と思っていました。

“創作物”への解釈が狭かったことに気付かされた

──リアリティという点だと、例えば陸生の働くコンビニの棚とか、背景美術もすごく丁寧に描き込まれているんですが、観ていてうるさく感じないですよね。

藤原 それは美術監督のセンスですね。特に色味のバランスがうまいと思いました。冬目先生の描く世界って、フィルターを1枚かませたような、彩度の低い世界観だと思うんです。その中で統一してもらいつつ、キャラクターには少しだけライトが当たっているようなバランスが、うまくハマったんじゃないかと思います。

──特に気に入っている背景はありますか?

藤原 やっぱり2話の桜ですね。冒頭の桜もそうですし、陸生と榀子がブランコで会うシーンも、榀子が晴とベンチで対峙するシーンも、すごくきれいに仕上げてもらったなと思っています。それぞれ桜に合わせて空の色味なんかも調節してもらっているんですよ。

古閑 僕も桜のシーンはすごく好きです。主題歌を作らせていただくにあたって、まずアニメの6話まで観させてもらったんですが、その中でも一番心が惹かれたシーンだったので、曲にもすごく表れていると思います。景色としての美しさだけじゃなく、悲しいときに見る桜と、心が晴れやかなときに見る桜とで、違う見え方をする。そういうところもアニメの映像から感じられると思ったので、どうにか音楽でも表現したいなと思っていました。

──また演出面では、キャラクターの視線の細かな芝居だったり、手だけ、足だけといったカットが非常に印象に使われてるように思いました。

藤原 目や手を使った演出は、自分も作っていて楽しいところです。自信がない人って視線が定まらないんですよね。陸生の落ち着かないといけないと思いながらも落ち着かないところを視線で表したり、でも覚悟を決めなきゃいけないときは手にぐっと力を入れたり、重心がちょっと後ろに下がるところは足を映したり……といったことをやっていました。

──細部に注目してもう1回観返したくなりますね。では、ご自身の手でアニメ化されたことで、再発見した魅力というのはありますか?

藤原 冬目先生と直接お話ができて、答え合わせができたというのも大きかったんですが、何より、創作物というものに対する自分の解釈が狭かったな、と気付かされました。創作物ってストーリーがあって、そこで起こる心境の変化があって、そこでこういうセリフを言うから、このキャラクターはこんな人間性である……というのが決まっていく、そのために物語を組み立てたりセリフを厳選したりするものだと思っていたんですが、冬目先生の場合はもっと深くキャラクターが生きている。例えば榀子が東京に戻ってきた理由を考えたときに、湧くんの存在から逃げたかったのか、陸生への思いがまだあったのかということを、最初は原作のセリフを読み込んで分析したんです。でも実際はもっとフラットな目線というか、地方に住んでいる人が東京へ出てくることに、それほど大きな理由がなくてもいいんじゃないか、ちょっとした憧れでも来るよねっていう。作中の出来事だけじゃなくて、実際にその時代に生きている人たちの感覚がベースにあるんだ、と捉えることで、冬目先生の描くキャラクターの血の通った感じが、すっきり消化できました。