音楽ナタリー PowerPush - 吉澤嘉代子

少女時代の終わり

テルミンが人魂みたい

──横山さん編曲の1曲目「ストッキング」のあと、既発曲の「未成年の主張」を含めて3曲連続で石崎さんの編曲が並んでいます。ここはまさに遊び心、マニア心をくすぐるゾーンというか。2曲目の「逃飛行少女」は石崎さんの得意とする1960年代的な音像に少しニューウェイヴ風の味付けがされていて。

私の中では言葉遊びの曲ですね。田舎の女の子が外の世界に出たがるという曲なんですけど……。

──この田舎の風景は吉澤さん自身の原風景ではないですよね。

吉澤嘉代子

はい。ベッドタウンで育ったので(笑)。でも逃げ出したい願望は子供の頃に強くあって……近所に銭湯があったんですけど、15歳までにその銭湯の煙突に登って死にたいなと思ってたんです。そのときのことを思いながら書いたから、フィクションの中にノンフィクションも入ってるんですよね。

──逃げ出したい少女を書く上で、自分の過去の気持ちや思い出をフィードバックさせたと。

はい。「愛犬」というのも実際に飼っていた犬で、レコーディングの少し前に死んじゃったんですけど、テルミンのウイーンって音がずっと浮遊してるのが、人魂みたいに聞こえて。そのことは光さんに話したわけではなかったんですけど、なんとなくリンクしてていいなって思いました。

──3曲目「未成年の主張」はインディーズでリリースされた最初のミニアルバム「魔女図鑑」からの1曲です。ソングライター、シンガーとしての吉澤さんの個性をはっきり打ち出した、代表曲の1つだと思うのですが。

そうですね。私の音楽活動はこの曲から始まったので、「ストッキング」と「逃飛行少女」がこのアルバムの序章で、ここから本編が始まるイメージですね、自分の中では。

向井秀徳の影響、綾小路翔の参加

──続く「ブルーベリーシガレット」は昨年秋のワンマンでも歌ってましたよね。サングラスをかけて不良になりきって(笑)。

ディレクターにレイバンのサングラスを借りて。うふふふふ(笑)。ツッパリに恋したマジメな女の子の歌なので……自分が一番やらなさそうなことがやりたくて。

──そもそもなぜこういうモチーフの曲を書こうと?

吉澤嘉代子

今日は曲を書こう、と思ったときに駄菓子のブルーベリーシガレットが手元にあって。子供の頃よくあれで峰不二子ごっことかをしてたので、そこから不良みたいなイメージにつながって……大人しくてあまりしゃべれないような女の子が不良の男の子に憧れるっていうストーリーが浮かんで、わりとすぐにパッパッと書けました。ライブで初めて新曲を歌うとき、歌詞に意味がありすぎる曲だと言葉が入ってくるのが難しいと思ったので、今回のアルバムの曲では一番わかりやすいかなと思って、この間のワンマンではこの曲を選びました。

──アクセントの過剰な節回しや巻き舌など、こういう遊び心のある曲では、吉澤さんのシンガーとしてのポテンシャルがものすごく発揮されるなと思いました。

歌い方は向井秀徳さんの影響が存分に入りましたね。少し前に、向井さんが私の曲を聴いてくれているって噂を聞いてご挨拶をしに行ったんです。そのときに観た向井さんのライブがすごくよくて。もともとは「こ↑う↓そく(高速)」って歌う予定はなくて、もっと自由に歌ってみようと思ったときにパッと出たのがこれだったんですけど、たぶん向井さんの影響ですね。向井さん、ありがとうございます(笑)。

──さらにこの曲では氣志團の綾小路翔さんが参加して、セリフとコーラスでより不良度を高めています。綾小路さんの参加は何がきっかけで?

「綾小路さんがやってくれたらイメージ的にハマるよね」って冗談で話してたんです。でもダメもとで本当にお願いしてみようということになって。お手紙を書いてお願いしたら、快く引き受けてくださいました。すごく優しい方で。

──綾小路さんももともと吉澤さんの音楽に興味を持ってたんですよね。

「musicるTV」で取り上げられたときにコメントをくださっていて(参照:吉澤嘉代子の新曲で憧れの不良“綾小路センパイ”大活躍)。いろいろたくらんでいるのが素敵だなあと思うので、また機会があったらお願いしたいです。

今回どうしても形にしておきたかったテーマ

──「ブルーベリーシガレット」もすごいですが、次の「なかよしグルーヴ」もなかなかの問題作ですね。

この曲はだいぶ前から構想はあったんです。思春期の女子のグループいじめの曲、っていう。女の子なら少なからずどちらかの当事者を体験していると思うんですよ。でも、みんななんとなく忘れちゃうのかフタをしちゃうのか、私の知る限りでは誰もこのテーマを曲にしていなかったので、これは私がやらなきゃって。「なかよしグループ」ってすごく怖い言葉だなと思っていたので、そこから悪口のグルーヴが渦巻いてる感じを想像して、グルーヴだからファンク調で、ラップも入れた“なんちゃってファンク”にしてみました。歌詞もすぐにある程度浮かんでたんですけど、いざちゃんと書こうとすると心にグサグサ刺さって、なかなか進まかったんです。

──それがようやく形になったと。

吉澤嘉代子

少女時代をテーマにしたフルアルバムを作る中で、このテーマはどうしても形にしておきたかったので。間に合ってよかったです。シュールなものにはしたくなくて、クスクスッと笑えて、最後はグサッと刺さるようなものを目指しました。ラップも絶対ユルくならないように、って何回もレコーディングしました。難しいですね、ラップ(笑)。

──ソングライター吉澤さんの特長として、言葉の譜割や乗せ方がすごくうまいなと思うんです。「チクチクジュクジュク」とか、単に「チクチク」の繰り返しではないことで言葉にもグルーヴが生まれているし、細かく考えられているなあと。

……あんまり考えてないんです(笑)。

──はははは(笑)。テーマもいいし吉澤さんならではの特長もたくさん詰まっているので、この曲もリードトラック的な扱いでどんどん世に広まってほしい曲だなと思いました。

前にアイドルに曲を書きたいって言いましたけど(参照:吉澤嘉代子「幻倶楽部」インタビュー P4「ヘンな曲だけ欲しい人がいたらぜひ」 )、この曲はどちらかと言うとアイドルに歌ってほしかったんです。かわいい女の子たちが歌ってるといいなって。

──続く6曲目の「キルキルキルミ」にはフォーキーな印象を受けました。

これは明るいメロディに暗い歌詞を乗せたいと考えたときに、高校生の頃に書いた曲を思い出して。それは自分への罰として前髪を切るというテーマの曲だったんですけど、メロディは忘れたのにそのテーマだけはよく覚えていたんです。自分の体を傷付けなくとも、どこかでバランスを取るために自分を貶めてしまうところが人間にはあるんじゃないか、と思って書いた曲ですね。お化粧を落とさないで寝てしまう夜が続いたとき、わざとそうしている自分に気付いたことがあって。それって自分で気付かない範囲で、自分に罰を与えてるんだと思うんです。

──そのテーマで、重くなることなくサラッと歌ってるのがいいなと思ったんですけど、明るいメロディで暗いことを歌うという狙い通りだったんですね。

はい。演奏は「目の焦点が合ってない感じで」とお願いしました(笑)。

1stフルアルバム「箒星図鑑」 / 2015年3月4日発売 / 3000円 / e-stretch RECORDS / CRCP-40399
1stフルアルバム「箒星図鑑」
収録曲
  1. ストッキング
  2. 逃飛行少女
  3. 未成年の主張
  4. ブルーベリーシガレット
  5. なかよしグルーヴ
  6. キルキルキルミ
  7. 美少女
  8. チョベリグ
  9. ケケケ
  10. シーラカンス通り
  11. 泣き虫ジュゴン
  12. 23歳
吉澤嘉代子 箒星ツアー'15
2015年5月9日(土)岡山県 MO:GLA
OPEN 17:30 / START 18:00
2015年5月10日(日)福岡県 Gate's 7
OPEN 17:30 / START 18:00
2015年5月12日(火)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
2015年5月15日(金)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
2015年5月16日(土)東京都 赤坂BLITZ
OPEN 17:00 / START 18:00
料金:3800円(全公演共通・ドリンク代別)
一般発売:2015年3月21日(土)
「箒星図鑑」CD購入者チケット先行受付:2015年3月4日(水)12:00~3月12日(木)18:00
「箒星図鑑」発売記念イベント
2015年3月4日(水)東京都 タワーレコード渋谷店 1F店内イベントスペース
START 19:30
2015年3月7日(土)東京都 タワーレコード秋葉原店 7F店内イベントスペース
START 14:00
2015年3月8日(日)埼玉県 タワ-レコ-ド浦和店 浦和PARCO 1F正面入口
START 14:00
2015年3月8日(日)埼玉県 HMV大宮アルシェ店 店内イベントスペース
START 18:00
2015年3月15日(日)愛知県 タワーレコード名古屋近鉄パッセ店 9Fイベントスペース
START 13:00
2015年3月15日(日)愛知県 HMV栄 イベントスペース
START 17:00
2015年3月28日(土)大阪府 タワ-レコ-ド難波店 5Fイベントスペ-ス
START 19:00
2015年4月5日(日)東京都 dues新宿
START 17:00
2015年4月5日(日)東京都 ヴィレッジヴァンガード下北沢店
START 21:00

※各イベントの詳細はこちらから

吉澤嘉代子(ヨシザワカヨコ)

吉澤嘉代子

1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街で育ち、16歳から作詞作曲を始める。2010年11月にヤマハ主催のコンテスト「"The 4th Music Revolution" JAPAN FINAL」に出場し、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2013年6月にインディーズ1stミニアルバム「魔女図鑑」でCDデビューを果たす。同年11月には東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGEにて初のワンマンライブ「吉澤嘉代子 ファーストワンマンショウ ~夢で逢えたってしょうがないでSHOW~」を開催。翌12月より「魔女、旅に出る。」と銘打ったライブハウスツアーで各地を回った。日本クラウン、ヤマハミュージックアーティスト、ヤマハミュージックパブリッシングの3社が合同で設立した新レーベル「e-stretch RECORDS」の第1弾アーティストとして、2014年5月にミニアルバム「変身少女」でメジャーデビュー。同年10月にメジャー第2弾ミニアルバム「幻倶楽部」を発表した。2015年3月に1stフルアルバム「箒星図鑑」をリリース。5月には5都市を回るライブツアー「吉澤嘉代子 箒星ツアー'15」を行う。