口をふさいでフガフガ

──次の「ちょっとちょうだい」はまた違った残酷さ、不気味さがあって。

「ちょっとちょうだい」って言葉がふと気になった夜があって。みんな「ちょっとちょうだい」って普通に使っているけど、すごく怖さを感じたんですよね。そこからふくらませた曲なんですけど、これはわりとスッとできましたね。タイトルを思い浮かべてパーッと歌詞を書いたらそこにメロディがくっついてきたので。

──言葉になってない歌詞が2カ所ありますよね。これは単語で意味を限定したくなかったから？

いや、これは言葉は決まっていて、歌うときに口をふさいでフガフガって歌ったんですけど……。

──えっ、なぜ？

山口百恵さんの「美・サイレント」を聴いたときに衝撃を受けて、私もやりたい！って思ったんです。歌詞って小説と違って文字数にすごく制限があるのに、なんで言わないんだろうって。

──なるほど、「美・サイレント」オマージュと言われれば確かにそうなんですけど、そんなアナログな手法で録ったんですね（笑）。ライブでやるときはどうするんですか？

どうしようかなと思って。どうしましょうか？ 口をふさぐか、歌詞を歌うか……面白いほうをやります（笑）。この曲を作るのは本当に楽しかったですね。自分とは違うものになれる快感がすごくあって。

──歌の中なら化け猫にだってなれる。終盤は化け猫のコーラスがすごいことになっていますけど。

このコーラスはもともと入ってなかったんですよ。構想としてはあったんだけど、レコーディングはバタバタだったので。仮歌を録るときにアレンジャーのsugarbeansさんに「実はこういうコーラスを入れたいんですけど」って伝えて。普通こんな土壇場で言っても断られると思うんですけど、sugarbeansさんは「いいよ、やってみて」って言ってくれて。私にとってこれが初コーラスなんです。今まで自分でコーラスを付けたことがなくて。コーラスを付けたうちに入らないかもしれないですけど（笑）。

「めちゃくちゃに滑稽な歌詞ができたー！」って

──そして最後が「がらんどう」。この曲は物語ではなく個人の心情を歌った曲にも受け取れるのですが、あくまで設定ありきの物語なんですか？

この曲もやっぱり「がらんどう」というタイトルを先に決めて作ったんですけど、「ナッシング ナッシング がらんどう」なんて私の中では「めちゃくちゃに滑稽な歌詞ができたー！」って感じで（笑）。このダサい感じが出したくて、滑稽さやユーモアを入れて作りました。

──曲調もシリアスだしエモいと思うんですよ。もっともエモいところで「ナッシング ナッシング」が来るから、滑稽な感じは全然しなかったです。

しなかったですか？ よかった（笑）。

──少し前に、この歌詞の一部をTwitterに書いた上で「久しぶりに号泣しながら書いてる」ってつぶやいてましたよね。あれは？

号泣しながら書いてたのは新しい別の曲なんですよ。「ケケケ」のPVを出したあとでみんなどう思ってるかなって気になって、このタイミングでちゃんとした歌詞を出しておこうと思って（笑）。

──ちゃんとした歌詞（笑）。今回の作品は特に曲ごとに異なる表情があるので、1曲だけを切り取るのと全体を楽しむのとではまた意味合いが違ってくると思うんですよね。「ケケケ」あっての「がらんどう」というか。

そうですね。好きな曲ばかりなので、早く全曲聴いてもらいたいです。

ヘンな曲だけ欲しい人がいたらぜひ

──インディーズ時代を含めてここまで3作品ができましたけど、号泣しながら書いているという新曲も含め、もう次の作品のアイデアもいくつか浮かんでいるんですか？

はい。こうしたい、ああしたいというのは考えてますね。

──吉澤さんの場合、ソロアーティストとしてだけじゃなく、強烈な個性を持った作家としても今後どんどん注目を集めそうな気がします。もし作家として仕事を依頼されるようなことがあったらどうします？

前に一度お願いされたことがあったんですけど、ヘンな曲しか作れなかったんですよ（笑）。普通の曲を作ろうと思ったら私らしさがまったく失われちゃうし、すごく難しくて……。ヘンな曲だけ欲しい人がいたらぜひやりたいです（笑）。実は「美少女」も「ケケケ」も、誰かアイドルの人が歌ってくれたらなと思って書いた曲なんです。ももクロさんみたいな方たちが「ケケケ」を歌ったらいいだろうなあって。

──歌手と作家の側面を自分の中で分業している作り方なんて、そもそも作家向きですよね。

私は自分の言葉で作れるなら、自分で歌わなくてもいいと思っているので。

──ボーカリストとしての個性も強いし、例えば東京スカパラダイスオーケストラのフィーチャリングゲストで、スーツ姿の男たちに囲まれて歌ってもすごくはまると思うんですよ。

あはは（笑）。これからもっといろんなことができたらうれしいですね。