作詞:山田義孝 カウンセリング:吉田結威
──物語を読み上げるような語り口の楽曲「おとぎ話」の作詞が吉田さんで驚きました。これまでの流れでいうと、こういう曲は山田さんが得意とする形かなと思っていたので。
吉田 「おとぎ話」の詞はこれまでにないパターンの作り方をしたものです。実は最初、山田が作詞作曲をして、アレンジまで進んでいたんですよ。ただ歌詞のブラッシュアップに山田が苦戦していて、完成まではしていなかった。で、制作する中でいきなり僕の中に歌詞のイメージが湧いてきて。ひと晩で「おとぎ話」の歌詞を書き上げて山田に見せたんです。こういうパターンってこれまであまりなくて「ここまで積み上げてきた曲を横取りするみたいになっちゃうな」と思っていたんですけど、山田には「今までの詞はしっくりきてなかったから、こっちのほうがいいと思う」と言ってもらえて。
山田 歌詞を見せてもらったときビックリしたんですよ。それまで作っていたものとは全然違う視点から語られたものだから、「どこからこういう言葉が出てきたの?」って。でもそれが2人組でよかったと思う瞬間なんですよね。
吉田 だから“作詞:吉田結威”と書いてありますけど、そこまでの長い過程を考えるとそれでいいのかもけっこう悩んだんです。実際、すべての曲の作詞作曲が吉田山田名義でいいんじゃないかと思ったくらい。お互いに書く言葉のどこかしらに、必ずお互いが関わっていますから。
山田 逆に“作詞:吉田山田”となっていても、どっちかの思いが強く出ている曲もあるからね。
吉田 「笑える」とか特にそうですね。「笑える」の場合は“作詞:山田義孝 / カウンセリング:吉田結威”みたいに書くのが一番適切だと思います(笑)。山田が書いてきた歌詞を読む僕の仕事って、カウンセリングみたいなものなんですよ。山田が作ってきたものに対して「これってどういうこと?」「言いたいことはわかるけど、違う言い方をするとどうなる?」みたいに会話を重ねていくことで歌詞としての姿が見えてくるというか。「一緒に歌詞を作ろう」みたいな気持ちじゃなくて、「今の山田が何を表現したいのか、紐解きたい!」みたいな思いが強くなる。もしかしたら歪な形に見えるかもしれないんですけど、それでいいと思ってるんです。デュオだからって2人が同じように同じくらいがんばらなきゃいけないわけじゃなくて、2人ががんばれるところをがんばればいい。それでバランスが取れているのが一番だと思います。
──アルバムを締めくくるのが「種」という楽曲です。この曲でも明確に未来が歌われていて、これからも歌い続けようとする吉田山田の姿が重ねられるものだと感じました。
山田 “花を咲かせて終わる”じゃないのが僕ららしいですよね(笑)。本当は10周年で花を咲かせるのが一番美しいと思うんですけど、僕らはまだ種なんですよ。変に背伸びをせず、「まだここがスタートだ」と思って、種が芽吹くことを祈っている。なんだか今の気持ちとすごくリンクする曲なんですよね。
吉田 曲を書いているときは、「種」をアルバムの最後に置こうとは考えていなかったんです。でもアレンジでストリングスを入れて、歌を入れてみたら、「証命」よりも「種」のほうが希望を強く歌っている歌だということに気付いて。最後は自分たちが描く、現実の中にある手の届く理想を歌って終わりたかったから、3部作の最後の曲にふさわしいと思ったんです。
いい誕生日会みたいな1日
──11月30日には東京・中野サンプラザホールで「大感謝祭」と題したワンマンライブが開催されます。どんな1日になりそうですか?
吉田 きっとあっという間に終わっちゃうんでしょうね(笑)。今回はリハーサル観覧券をアルバムの特典としてプレゼントしていますから、リハーサルからファンと接する機会がありますし、これまで吉田山田に関わってきたいろんな方がライブを観に来てくださいますから、僕ら2人はあまり肩に力を入れずに「おかげさまで10周年を迎えられました」と感謝を伝える場にしようと思っています。
山田 今までの感謝を伝えるのはもちろんありつつ、新たな始まりを期待できる時間にしたいですね。「ここからの吉田山田が楽しみだね」と思わせるのが一番の贈り物だと思うんです。最近よく思うのは、僕は人に何かを教えられる人間ではないということで、僕みたいな人間は一生懸命やるしかないんですよ。だから「大感謝祭」でも一生懸命やってる姿を見せるだけだなって。
吉田 いい誕生日会みたいな1日になると思います(笑)。「誰かが祝われていて楽しそう」じゃなくて、お互いがハッピーになれるような思いを伝え合う場になったらいいなあ。
──「大感謝祭」以降の吉田山田がどうなるか、お二人にはどんなビジョンが見えているんですか?
吉田 ここ1年、「大感謝祭」以降のことをあえて考えないようにしていたんです。それくらい“完結”という節目を意識していたので、なかなかそれ以降のことには考えが回らなくて。でもアルバムを作り上げてみて僕らが感じたのは「音楽を続けたい」という思いと、「音楽ってシンプルに楽しいものだな」ということで。カラオケボックスで楽しくなっちゃって30分延長しちゃう感じに近いのかな(笑)。10周年以前、10周年以降ってわかりやすく分かれることはなくて、これまでやってきたことをしっかり続けていくのが僕らの11年目以降なんだと思います。山田の結婚のこともあって、きっといい意味で変化はあってそれを楽しみながら、2人で歩んでいければいいなと思っています。
山田 10年もやってきてようやく気付いたんですけど、やっぱり年齢を重ねたり、立場が変わってきたりすると視点が変わってくるんですよ。いつも歌のメモを録り溜めているんですけど、最近のメモには今まで出てこなかった言葉が出てきていて。自分自身がどういう人間に変化していくのかすごく興味があります。それが吉田山田の変化にもつながると思うから、これからがすごく楽しみですね。
ツアー情報
- 吉田山田10周年記念「大感謝祭」
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2019年11月30日(土) 東京都 中野サンプラザホール OPEN 16:30 / START 17:30