音楽ナタリー Power Push - 米津玄師

桐山零と自分を重ねて

2016年は大阪・ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの開園15周年記念企画「やり過ぎコラボ」へのイラストでの参加、ルーヴル美術館特別展「ルーヴル No.9~漫画、9番目の芸術~」の公式イメージソングとイラストを制作、映画「何者」の主題歌を中田ヤスタカと共作するなど、多岐にわたる才能を大いに発揮した米津玄師。

そんな彼が2017年の第1弾シングルとして発表するのは、テレビアニメ「3月のライオン」のエンディング曲として書き下ろされたナンバーを表題曲とする「orion」だ。この楽曲で、秘めた思いや人間の根底に流れる生々しい感情を美しい音楽へと昇華した米津。制作の過程では、将棋に人生を賭ける主人公・桐山零と自身がリンクする部分が多かったようだ。

取材・文 / 神崎圭 撮影 / 中野敬久

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マンガの中の景色が僕の日常だった

──「orion」は、羽海野チカの同名マンガを原作とするテレビアニメ「3月のライオン」のエンディング曲として制作されました。原作は読まれていたんですか?

はい。このマンガは東京の月島が舞台なんです。実は僕も月島に住んでいたことがあり、その頃にこのマンガを読み始めました。偶然コンビニで見つけて。マンガの中の景色が僕の日常で、「あ、この川も橋も見たことがあるぞ」って。そんなこともあって、自分の中では前から特別な作品だったんです。

──過去の羽海野作品も読んでいたんですか?

もともと「ハチミツとクローバー」が大好きだったので、コンビニで見つけたときも「ハチクロの人の新しい作品なんだ」と手に取った記憶があります。だから今回のお話をいただいたときは本当にうれしかったですね。

──そうだったんですね。「3月のライオン」にはどんな印象を持ちましたか?

「ハチクロ」を読んだときもそうでしたが、繊細なマンガだと思いました。柔らかい雰囲気の中にコメディ要素がありつつ、ひたすらキラキラしている感じとか。でもそのキラキラの合間を縫うように、繊細な心の機微をひとつ残らず表現してやろうという気概を感じる作品で。羽海野先生のものすごく真摯な人間性が現れていると思いました。

──「癒し系のほのぼのした感じだな」と思って読み進めると、実はすごく泥臭い人間ドラマが描かれているのがこの作品の魅力でもありますよね。そしてそれは米津さんの音楽にも通じると感じます。

ありがとうございます。「orion」は、主人公の桐山零くんをイメージしながら作りました。マンガを読んでいるときも、零くんと自分が似ていると感じる部分が多々あって。だからこそこの楽曲を作ることは感慨深いものがありましたね。

零くんの人間性や感覚はなんだか見覚えがあった

──どういったテーマで制作を進めていったのですか?

米津玄師

まず、「そもそもアニメのテーマソングを作るにはどうしたらいいのか?」ってことを考えました。そして、物語が最初にあるわけだから「じゃあそのストーリーを下から支えよう」と。それをするためには、「3月のライオン」を自分の中で咀嚼し直し、自分のフィルターを通して再構築することが必要でした。そうすると、零くんの立場で曲を作るのが、自分の中で一番しっくりくる行為で。零くんが将棋を通して1つの世界を切り拓いていく様が、音楽を作っている自分とリンクしている部分がすごくあって、彼の人間性や感覚もなんだか見覚えがあった(笑)。作品の持つ柔らかさとある種のソリッドな部分をうまく表現するには、自分が零くんを媒介する必要があったんです。

──これまでの作品は1からご自身のイマジネーションで作られものが多かったと思いますが、今回はあらかじめ曲の主人公がいる。その点に関してはいかがでしたか?

零くんをイメージしながら作ってはいますが、彼でありつつ、やっぱり僕自身なんですよね。イメージはするけど当然僕は零くんじゃないから、彼が考えていることの本質はわからない。自分の口から出てくる言葉は、最終的には僕の言葉でしかなくって。でもそれってとても自然なことですよね。だから難しい作業だったかと言われると、そもそも歌詞を書くことはすごく難しい作業だから……そういった点ではいつも通りでしたね。

──楽曲に関してはいかがでしょう。ストリングスも力強く、タイトル通り寒い冬の日に夜空を見上げたくなるようなナンバーに仕上がっていると感じます。

ありがとうございます。曲に関しては季節柄「冬の曲を作ろう」と思いました。冬って凛としたイメージがありますよね。そして空気が乾燥しているから星がよく見える。曲を作り始めたときにまず「自分の記憶の中にある冬ってなんだろう」と考えたんです。そうしたら、子供の頃夜空を見上げたらすごく星がキレイに見えて、その中にオリオン座を見つけたことを真っ先に思い出したんです。そのキラリと光るオリオン座は、僕の星座についての原体験。自分の中ですごく衝撃的な出来事だったんでめちゃくちゃ記憶に残っているんです。だから「冬」というキーワードで頭の中を探っていったとき、真っ先に浮かんだこの「オリオン座」をモチーフにして制作を進めました。

ニューシングル「orion」 2017年2月15日発売 / Sony Music Records
オリオン盤 / 通常盤ジャケット
オリオン盤 [CD] 1836円 / SRCL-9313 クリアシート+ハードカバー仕様
通常盤 [CD] 1296円 / SRCL-9316
ライオン盤 [CD+DVD] 1836円 / SRCL-9314~5 紙ジャケット仕様
CD収録曲
  1. orion
  2. ララバイさよなら
  3. 翡翠の狼
ライオン盤DVD収録内容
  • 「3月のライオン」第2クール エンディング ノンクレジットムービー
全形態共通・初回盤特典

7月14日(金)、15日(土)に東京・東京国際フォーラム ホールAで行われるワンマン公演「米津玄師 2017 LIVE / RESCUE」 チケット最速先行応募券

応募期間
2月14日(火)12:00~2月19日(日)23:59

米津玄師(ヨネヅケンシ)

男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にVocaloid楽曲を投稿し、総合2位の「マトリョシカ」をはじめ数々のヒット曲を連作。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でメジャーデビュー。2014年4月に米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表し、6月には初ライブのワンマン公演を東京・UNITで開催した。2015年8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」で野外フェス初出演を果たす。10月にはアルバム「Bremen」をリリースし、2016年1月からワンマンツアー「米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊」を実施した。またルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」の公式イメージソングとして、新曲「ナンバーナイン」を書き下ろし、同年9月に両A面シングルとして「LOSER / ナンバーナイン」をリリース。10月には中田ヤスタカとタッグを組み、映画「何者」の主題歌「NANIMONO (feat. 米津玄師)」を発表、12月には初の単行本「かいじゅうずかん」を発売した。2017年2月15日にテレビアニメ「3月のライオン」のエンディングテーマを表題曲とする「orion」をリリースする。