音楽ナタリー Power Push - 米津玄師
自己否定から生まれた新たな挑戦
「自分は今東京に住んでいる」ということ
──「amen」についても聞きたいんですが、これは先程語っていただいたように、「ナンバーナイン」と「LOSER」ができた上で、狙いどころも設けずにストレートに作った曲ということ?
はい。
──これはダークだけれど、ちゃんと表現としてのエッジとポピュラリティを持っている曲だと思うんです。これはどういう感じで作っていったんですか?
この曲の取っ掛かりになったのは、本当になんのことはないことで。普段なんとなくYouTubeで音楽を聴きながら、その流れている音楽に対して勝手にメロディを付けるようなことを日常的にやっているんですけれど、その中でこの曲のサビの1行目の歌詞とメロディが一発で出てきて。「これはいいな」って思って広げていったら自然とこうなったという感じです。俺自身、おそらく自分が作ってきた中で一番暗い曲になったなと思うんですけど。そこには何らかの反発みたいなものはあったかもしれないですね。
──反発というと?
「Bremen」を作ったことによって、ポップになったとか、明るくなったということをよく言われるようになったんです。それは間違いないし、そう言われるであろうことは予想しながら作ってはいたんですけど、根がヒネくれ者なので「こういう曲も作れますよ」みたいなことはあったかもしれないです。
──この曲では歌詞の中に「東京はフラスコの中の風景」とありますね。「ナンバーナイン」と同じく「東京」という言葉がある。
今までは、あえてそういう言葉を使ってこなかったんですね。それは自分が歌詞に書いているのが想像の中にある風景だったし、空想の中の出来事を歌詞に書いてたっていうのがあったから、「東京」のように具体的な地名や特定の場所を指す言葉は使いたくなかったんです。でも実際、自分は今東京に住んでいるし、自分が住んでる社会がそこにあって。そういうものと関わって生きていかなきゃいけないわけじゃないですか。昔はそういうのが「面倒くさいな」「嫌だな」って思ってて、空想の中に逃げ込むことしか考えてなかったんですけど。自分が今ここにいるいということを、ちゃんと出していかなきゃなっていうのは今は思ってますね。
──10月5日には映画「何者」の主題歌として中田ヤスタカさんとコラボレーションした新曲「NANIMONO」もリリースされます(参照:中田ヤスタカ×米津玄師の映画主題歌、サントラ盤と2枚組でCDリリース)。中田ヤスタカさんの楽曲に作詞とボーカルで参加したというのは、どういう体験でした?
すごく新鮮でした。自分が作った曲じゃないものに言葉を当てて、それを歌うというのは本当に初めての経験だったので。楽しかったですね。
──中田ヤスタカさんのスタンス、クリエイター、ミュージシャンとしてのあり方に刺激を受ける部分はありました?
まず、自分と全然作り方が違うことが判明したので、「ああ、全然違うんだな、こんな作り方もあるんだな」って思いましたね。自分とは違う部分もあったし「なるほどな」と納得する部分もあった。やっぱり、すごい人だなと思いました。
どこでもいいから遠くに行きたい
──「LOSER」でのダンスもそうだし、中田ヤスタカさんとのコラボレーションもそうだし、今年は自分の領域で作品を完成させるだけでなく、今までにやっていないことにどんどん挑戦していますよね。そういう意識は明確にあったということ?
ありました。もう、どんどん開いていきたいと思ってますね。とにかく、どこでもいいから遠くに行きたいという感覚が昔からずっと強くあって。自分がどういう素質の人間であって、何が得意で何が苦手なのかとか、そういうのってけっこう小学生くらいで決まっちゃうものじゃないですか。自分の中にもそういうのがちゃんとあって。「自分はこういう人間なんだな」っていうのはよくわかってるつもりではいるんですけど、そういうものから一歩でも遠くに行きたい。特に最近は、自分と真逆のところにあるものに対する興味だけで動いてる感じがすごくあります。さっきも歌詞に「東京」という言葉があるという話がありましたけれど、それも、今まで空想の中の出来事だけで物事を完結させてきたのがダルいと思うようになってきた、というのもあって。ある種の自己否定っていうか、そういうことなのかなとも思います。
──この先の可能性は大きく広がっていますよね。というか、本当にどこへ行くか、どうなるかわからないようになってきていると思うんです。というのも、最初にライブを始めたときは、このまま歌も楽器もうまくなって、ステージ度胸も付いて、バンド編成で武道館だろうって予想していたんです。でも今は、実際にやりたいと思うかどうかは別として、ひょっとしたら米津さんが10人くらいの黒スーツのダンサーを従えてセンターで歌って踊ってるかもしれない、という可能性すらある(笑)。
そうですね(笑)。なんだろう、全部イヤだなと思うんですよ。自分みたいな人間もイヤだし、自分の真逆にいる人間もイヤだなと思う……。極論を言うと、俺、何もやりたくないんですよね。音楽もやりたくないし、ダンスもやりたくないし、絵も描きたくないです。もう、なんとなく部屋でTwitterを見て、どこの誰とも知らないツイキャスとかニコ生とかやってる人の、なんとなくやってる様を眺めながら1年も2年も経って、そのまま死んでいけたらいいなと思ってるんです。でも実際、そうもいかないし……。
──まあ、実際にそうだったらこの作品はできあがっていないですよね。
うん。なんと言うか、どこにもカテゴライズされたくないと思うんですよね。自分はロック畑の人間であって、周りからも、よくある前髪が長い典型的なロックバンドの人みたいな見られ方をしてるなとも思うんです。そういうのがイヤだと思ったりもするし、でも実際にそういう人間だからそういうところから逃げられないっていうところもあるし。自分の中にあるものとその反対側にあるもの、俺はそれを全部信用したくないんですよ。自分のことも嫌いだし、自分のことを好きでいてくれる人のことも嫌いだと思っちゃう瞬間もあるし……何もかもイヤな感じがすごいんですよ。
──なるほど。
何もかもイヤだから、もうなんでもかんでもやってやろうっていう、自暴自棄みたいな感じになってるところがあって。
──とても強力な自己嫌悪と同族嫌悪みたいなものが、逆に自分を駆り立てるエンジンのような働きをしている、ということ?
そうですね。何かを語るためには「自分がここにいる」っていう立脚点がなきゃいけないわけじゃないですか。自分がその場所に立っているからこそ、自分の意思みたいなものがちゃんと言えるわけであって。でも、俺はもうそこに立ちたくないんですよ。そうじゃなくて、ただひたすらふわふわ浮いていたいんです。
──米津玄師っていうキャラクターとそのイメージが確立してきたからこそ、そこに安住したくない、という?
はい。何にでも染まれる軟体動物みたいな、アメーバみたいな存在でありたいなっていうのはすごく思いますね。紐解いていけば米津玄師という人間はいるのかもしれないけれど、もう何者でもないっていう。アバターみたいな存在でいたいんですよね。いくらでも着せ替えができますよ、みたいな。そういう感じですね。
- 両A面シングル「LOSER / ナンバーナイン」/ 2016年9月28日発売 / Sony Music Records
- LOSER盤 [CD+グッズ] / 2106円 / SRCL-9191~2
- ナンバーナイン盤 [CD+DVD+グッズ] / 1944円 / SRCL-9193~4
- 通常盤 [CD] / 1296円 / SRCL-9195
CD収録曲
- LOSER
- ナンバーナイン
- amen
ナンバーナイン盤 DVD収録内容
- 「LOSER」ミュージックビデオ
- 「ナンバーナイン」ミュージックビデオ
- 中田ヤスタカ 新作CD「NANIMONO EP / 何者(オリジナル・サウンドトラック)」
- 2016年10月5日発売 / [2CD] 2160円 / Warner Music Japan / unBORDE / WPCL-12472~3
DISC 1 NANIMONO EP
- NANIMONO (feat. 米津玄師)
- NANIMONO (feat. 米津玄師) -extended mix-
- NANIMONO (feat. 米津玄師) -Danny L Harle remix-
- NANIMONO (feat. 米津玄師) -TeddyLoid remix-
- NANIMONO (feat. 米津玄師) -banvox remix-
DISC 2 何者(オリジナル・サウンドトラック)
- 就活スタート
- 3人の出会い
- 拓人の想い
- 就活対策本部結成
- 何者のテーマ
- ギンジとのやりとり
- ルームシェア
- 瑞月のお母さんの話
- 何者~モンタージュ~
- グルディス
- 光太郎の本音
- 何者劇場
- 拓人と瑞月
米津玄師 2016 TOUR / はうる
- 2016年11月23日(水・祝)東京都 豊洲PIT
- 2016年11月28日(月)愛知県 Zepp Nagoya
- 2016年11月29日(火)大阪府 Zepp Namba
- 2016年12月2日(金)宮城県 仙台PIT
- 2016年12月8日(木)東京都 Zepp Tokyo
米津玄師(ヨネヅケンシ)
男性シンガーソングライター。2009年より「ハチ」という名義でニコニコ動画にボーカロイド楽曲を投稿し、代表曲「マトリョシカ」の再生回数は800万回を、「パンダヒーロー」の再生回数は400万回を超える人気楽曲となる。2012年5月に本名の米津玄師として初のアルバム「diorama」を発表。全楽曲の作詞、作曲、編曲、ミックスを1人で手がけているほか、アルバムジャケットやブックレット掲載のイラスト、アニメーションでできたビデオクリップも自身の手によるもの。マルチな才能を有するクリエイターとして注目を集めている。2013年5月、シングル「サンタマリア」でユニバーサルシグマよりメジャーデビュー。同年10月にメジャー2ndシングル「MAD HEAD LOVE / ポッピンアパシー」、ハチ時代のアルバム「花束と水葬」「OFFICIAL ORANGE」の再発盤をリリースした。2014年4月、米津玄師名義としては2枚目のアルバム「YANKEE」を発表。同年6月には初ライブとなるワンマン公演を東京・UNITで開催した。2015年1月にシングル「Flowerwall」をリリース。4月には全国ツアー「米津玄師 2015 TOUR / 花ゆり落ちる」を開催し、10公演を行った。同年8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015」で野外フェス初出演を果たす。9月にシングル「アンビリーバーズ」を発表。10月にはアルバム「Bremen」をリリースし、2016年1月からワンマンツアー「米津玄師 2016 TOUR / 音楽隊」を実施した。ルーヴル美術館特別展「ルーヴルNo.9 ~漫画、9番目の芸術~」の公式イメージソングとして、新曲「ナンバーナイン」を書き下ろし、同年9月に両A面シングルとして「LOSER / ナンバーナイン」をリリース。10月には中田ヤスタカとタッグを組み、映画「何者」の主題歌「NANIMONO (feat. 米津玄師)」を発表する。