安田レイ|弱さもダークサイドもさらけ出す“本当の私”

安田レイが約4年ぶりとなるニューアルバム「Re:I」を3月18日にリリースした。

テレビアニメ「夏目友人帳 陸」エンディングテーマ「きみのうた」や、ドラマ「モトカレマニア」のオープニングテーマ「アシンメトリー」など、この4年間でリリースされてきたタイアップソングの数々に新録曲4編を加えた全12曲を収録した本作。自身が作詞・作曲を手がけた「赤信号」と「Re:I」では、これまで心の中に押し隠してきた自らの弱さや闇の部分を赤裸々に書きつづったことで、より人間らしい深みのある表現を手にすることに成功している。

さまざまな悩みを抱え、一度は音楽を辞めることさえも考えたという彼女が、未来に進むために生み出した決意の1枚。そこに込めた思いを本人に聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 塚原孝顕

自分の殻を破れた

──フルアルバムは実に4年ぶりのリリースとなりますね。完成した今の気持ちから聞かせてください。

安田レイ

まだまだ進行形ではあるけど、1つ自分の殻を破れたような、すごく冒険させてもらえたアルバムになりました。私は今まで自分の弱さやダメな部分、あとは心の中にあるちょっとダークな部分を隠しながら生きてきたところがあったんですけど、2020年はそれを出していきたいなと思っていて。その思いをアルバムにぶつけて、しっかり表現できたかなと思います。なので、自分の小さな世界から飛び出すような今の私の気持ちの動きを早くみんなに感じてほしいです。同時に、今までの私を愛してくれていた人たちはどう思うのかなという怖さも数%あったりするんですけどね。嫌われちゃったらどうしよう、みたいな(笑)。

──デビュー以来、安田さんには明るくてキラキラしたイメージがありましたからね。

うん、そうだと思います。昼と夜だったら完全に昼。安田レイと言えば、太陽が似合う姿をみんな想像するはず。でも、月が浮かぶ静かな夜のような自分もいるし、不安に押しつぶされそうになっている自分も当然いるんです。今まではずっと隠してきていたわけですけど(笑)。

──ソロデビューから今年で丸7年。それだけのキャリアを重ねてきた今、パブリックイメージとは違った自分を隠していることがつらくなってきたということなんでしょうか?

あははは(笑)。はっきり言ってしまえば、そういう気持ちはめちゃくちゃあると思います。対外的な見られ方に対して、「ホントは違う自分もいるのにな」と思いながらも、がんばってみんなの思い描く安田レイ像に寄せていた部分がありましたからね。もちろん元気で明るい私も嘘ではないんですけど、隠していた別の自分も私にとっては大事なものではあるから、そこも見せられるようになったらいいなとはずっと思っていて。そのほうがアーティストとしてもっと深みのある表現ができるようになる気がしていたから。なので今回は自分で作った2曲に関して、そこを思い切り出してみることにしたんですよね。

安田レイ

理想は強さと弱さを持ち合わせた歌声

──その2曲に関しては、のちほどじっくり話していただこうと思います。その前に、本作は4年分の歴史が詰まった作品だと思いますので、その間の成長や変化みたいな部分についてまず伺いたいんですよね。収録曲の中では2016年11月に配信リリースされた「Classy」がもっとも過去の曲になります。

「Classy」は、アルバムの流れで聴いていると声が若いんです。今聴くとちょっと恥ずかしい(笑)。そう感じられるのは、この数年の間にいろんな楽曲を歌い、ライブの場数を踏み、たくさんのインスピレーションを受け取ったことで自分なりの成長があったからなのかなとは思います。楽曲ごとに毎回、さまざまなチャレンジをさせてもらってもきましたからね。歌い方も曲によって意識的に変えられるようになったと思います。

──デビュー当時は感覚で歌っていたけど、最近はサウンドに寄り添った表現をしっかり意識してレコーディングに臨むようになった、と「Sunny」リリース時のインタビューでおっしゃっていましたよね(参照:安田レイ「Sunny」インタビュー)。そこは今も変わらずですか?

そうですね。前から自分の感覚を大事にはしているんですけど、今まで以上にしっかり考えてから歌うようになっていると思います。本番のレコーディング前には、1人で街の貸しスタジオにこもって何回も歌うんです。で、それをスマホに録音したものを聴いて、「この表現はちょっと違うかな」「ここはもうちょっと音に当ててみようかな」とか、細かく考えていって。最適な表現を見つけるために、楽曲に向き合う時間は以前よりもずっと長くなっていると思いますね。

安田レイ

──だからだと思いますが、最近の楽曲に響いている安田さんの歌声はものすごい存在感を放っているんですよね。シンガーとしての成長が著しいというか。

私自身、存在感のある歌声に惹かれるタイプなので、そう言っていただけるのはすごくうれしい(笑)。声質がちょっと変わってきたかなというのは、周囲の方から言われることも多いですし、自分自身でも感じているところではあって。それはたぶん自分でピアノを弾きながら曲作りをすることが増えたから、単純に1日の中で歌う時間も以前より格段に増えたことが関係しているんだと思うんですよね。それによって、デビュー当時の自分と比べると、シンガーとしての土台がしっかりしてきたのかもしれないですね。歌うことがもっともっと楽しくなってきました。

──今の安田さんが思い描いている歌に関しての理想像ってどんなものなんですか?

常々、理想像は更新されているんですけど、今の自分としては強さと弱さ、どっちも持ち合わせている歌声に憧れていますね。パワーのある曲を全力で歌える一方で、繊細な曲を壊れる寸前くらいの弱さで表現もできる。そんなアーティストになりたいですね。

──このアルバムを聴かせていただくと、その理想はすでに手に入れているような気もしますけどね。

えー、ホントですか? あ、でも「アシンメトリー」を歌ったときに、自分の理想としている歌声にちょっとだけ近付けたかなという感覚はありましたね。私はけっこう“ニュアンスフェチ”なところがあって(笑)、ほかのアーティストの曲を聴くときにもニュアンスにすごく耳を傾けるんですよ。「このちょっと漏れた息の感じが素敵だな」とか。「アシンメトリー」はアップテンポな曲ですけど、自分なりのいいニュアンスが出せたような気がします。