YOASOBIの5年間=異変
──ここからは、「超現実」で印象的だった演出についてそれぞれお話を聞かせてください。まずはなんと言っても、冒頭でLEDを切り裂くように登場した、巨大なモンスターの手。大迫力の演出に度肝を抜かれました。
Ayase オープニングは一番大事ですし、「超現実」には“驚き”が絶対に必要だと考えていました。現実だと思っていた空間からあり得ない事態が発生していくさまを、最初にしっかり表現したかった。LEDパネルが横に割れるなんて誰も思わないだろうし、そこから実物の手が出てくることも予想ができないだろうと。この5年間を振り返って一番しっくりくるワードが“異変”だったので、その象徴としてモンスターを据えました。
──冒頭からオーディエンスのざわつきがすごかったです。最初に「セブンティーン」「祝福」「怪物」「UNDEAD」という激しい楽曲をノンストップで披露するパートは、ikuraさんも勇ましいモードで、何度も観客を煽っていましたね。
ikura はい。「超現実に身を置いたikuraがモンスターとともに出てきたぞ。これがYOASOBIの経験した超現実だぞ」という思いで歌っていました。演出によっても気持ちが掻き立てられましたし、そこに込められた意味合いもずっと頭の中にありましたね。
──お二人がステージのとても高い位置に登場したことにも驚きました。
Ayase 7mくらいの高さでしたね。あれも“驚き”につながると思ったのと、お客さんの目線より高い位置から始めることで、オープニング感が出せると考えました。
ikura ドームにはこれまでゲストで2回立たせてもらいましたが、あの高さから客席を見たことはなかったので新鮮でした。まるで球体の真ん中にいるみたいで。
──そして、ステージを左右に活用した演出も印象的でした。上手には小さなビル群のセットを配置し、ikuraさんがそこを歩くとまるで巨大化したように見えるという錯視の感覚が面白かったですし、下手には自動販売機やベンチ、街灯が配置されていましたね。
Ayase それも“超現実”の表現の1つで。リアルではikuraよりも小さなビルが並んでいるけれど、映像でモニターに映し出されると、すごく大きいikuraがいるかのように見える。ちょっと脳がバグるような感じをイメージしました。
ikura 違和感のある演出だからこそ歌はポップに届けたいな、と思いながら歌っていて、すごくいい感じになったと思います。
Ayase 普通は外に置いてある自販機やベンチがドームの中にある。そこでも違和感を表現しました。個人的に、和風なものや侍などのいわゆる記号的な日本や東京っぽさではなく、リアルでありのままの東京を見せたいという思いがあって、あのセットにはそうした思いも込めていました。
当時のAyaseと今のikuraが共存した2DKのセット
──中盤のパートでは、お二人の5年の歴史を感じました。現在から過去へさかのぼっていく形でプライベート感のある映像が上映されたあと、AyaseさんがYOASOBI結成初期まで居候していたという、2人の妹さんと暮らした2DKの部屋を再現したセットがセンターステージに現れましたね。まずオフショット映像ですが、普段の活動の中でのふとした瞬間が切り取られていて、親近感を覚えました。
Ayase スタッフが普段から撮り溜めてくれていたので、意外とたくさんオフショットが集まって(笑)。あまり見せたことがない僕らの素のムードはファンの方には喜んでもらえるはずだし、初めてYOASOBIを観る人にも、僕たちがどんな人間なのかわかってもらえるだろうと。
ikura 最初の大阪公演のゲネプロで、私が「YOASOBI史上最高の夜!」って浮かれて話している映像の音声がドーム中に響き渡ったときは、「これ、お見せして大丈夫かな?」と思いました(笑)。でも素であればあるほどパーソナルな部分を知ってもらえて、そのあとの部屋のパートでいい味が出るなって。プライベート感満載で恥ずかしい場面もあったけど、全部さらけ出そうという思いでした。
──部屋のセットは、家具なども当時の再現にこだわったんですか?
Ayase そうですね。写真も残していなかったけど、記憶を探りながら、ほぼ雰囲気は再現できたと思います。
──Ayaseさんはこたつに入り、PCに向かって曲作りをするような演技をしていましたね。
Ayase あれは「インターステラー」方式ですね。曲作りをしている過去の自分がその場にいて、ikuraとはお互いを認知していない。当時のAyaseと今のikuraが同じ空間に存在しているという違和感を表現しました。実際にikuraはあの家に来たことがないし、ステイホーム期間で1つの場所に集まって一緒に何かを作ることもなかった。その状態の表現にもなっているし、Ayaseの曲作りの様子を見てもらう場にもなったかなと思います。
ikura 私はAyaseさんのことを気にせず、お部屋をフラフラと歩きながら歌っていました。冷蔵庫の中にカメラがあって覗き込むように見えるなど、スタッフさんがいろんな仕掛けを作ってくれたんです。先ほど話したビルのシーンでも、ビルの間からikuraが急に見てくるようなドキッと感が追求されていたり。肉眼で演者を見る以外の楽しみ方をすごく研究してくれましたね。
──ファイナルの「あの夢をなぞって」「三原色」では、Tatsuya(Crossfaith / Dr)さん、田口悟(RED in BLUE / G)さんも加わり、歴代のバンドメンバーが集結するというサプライズがありました。あの瞬間はどんな心境でしたか?
Ayase それはもう、エモかったです。YOASOBIの5年間を見てもらううえで、2人は欠かせないメンバーですし。個人的にはしょっちゅう会っているんですけどね。「ツバメ」ではミドリーズに登場してもらいましたが、今まで一緒に音楽を作り上げてきた人たちと一緒にステージに立つことは、5周年記念として絶対にやりたかったことでした。