マカロニえんぴつ|ひさびさのライブハウスツアーをWOWOWで生中継 音楽を心から楽しみ、ユートピアへ誘う

大事なのは自分たちがエキサイトすること

──はっとりさんは常々、ライブを“会話”と表現されてきたと思うんです。ここ最近のライブでは、どういった“会話”がなされていると感じていますか?

はっとり(Vo, G)

はっとり ひさしく、“会話”というより“語りかけ”に近い感じにはなっていますよね。お客さんが声を発することができないので、そういう物理的な変化はあります。でも、じゃあ「キャッチボールがドッジボールになったのか?」というと、そういうわけでもなく。表情での訴えかけ、目と目の会話が増えたような気がします。でも、これは俺らの変化というよりは、お客さん側の変化ですね。ライブが日常的なことではなくなっているぶん、お客さんは「次、いつライブに来ることができるかわからない」という心境でライブに来ているから、もどかしさを抱えていると思うんですよ。だからこそ、「より貪欲に、この時間を過ごそう」という気持ちになっているし、そういうお客さんの変化をキャッチせねばっていう、ある種の責任感が生まれたのは確かです。しっかり顔を見て、「見えてるよ」ということを伝えなきゃいけない。

──お客さんの変化を受け止める側として、今の自分たちにどういった変化を、あるいは不変性を実感していますか?

はっとり 「いつ辞めてもいい」なんて言えないくらい多くの人との関わりが今、このバンドの後ろにはあって、そういう人たちにのびのびやらせてもらっている以上、僕ら自身ものびのびバンドをやらないと面目が立たないんですよ。誰かのためにっていうよりは、僕ら自身がマカロニえんぴつにのめり込まないとなっていう気持ちが強い。なので今は、より自分のためにバンドをやっていると思います、僕は。もう、自己中心的にやっていいんじゃないかと思ってる。今までは誰かのためにっていう気持ちがちらついたりした時期もあったんです。くすぶっていた時期、全然売れていなかった時期に。音楽に没頭できずに、迷いがあるとそういう気持ちにもなってしまうんですよね。「自分が間違っているんじゃないか?」って迷いが生じると、途端に「誰かのために、あなたのために」と言い出しちゃうもので。実際、俺もそんなことを言っていたし(笑)。あの頃の俺の気持ちは間違っていなかったのかもしれないけど、今の自分に言わせると、それは本質が見えていない状態。活動を続けた結果、誰かのためになるという話であって、きっかけは自分のためでいいんじゃないかと思うんですよ。だって、音楽ってエキサイトすることだし、そのエキサイトを封じ込めてセールスや理論のような能書きを優先して「売れる曲を作ろう」とか言っている時点で、自分を楽しませてあげられていないわけでしょ。

田辺 そりゃ、そうだよね。

はっとり 売れるため、人のため、J-ROCK界のため(笑)……そんなことを言ったところで、本質を見抜いていないと思う。一番大事な、「自分をエキサイトさせる」っていう部分を見失っちゃっているから。そういうのも商業音楽のやり方としてまっとうなものなのかもしれないけど、今の俺からすると、余計なことを考えすぎているなって思うんです。だって、「あなたたちはコロナ禍でも関係なく、突っ走ってください」と言われて突っ走った2020年だったんですよ、僕らにとっては。

──はい。

はっとり 結果として、のびのびと作った「hope」(2020年4月発売)というアルバムが、いろんな人に届いて(参照:マカロニえんぴつ「hope」特集 はっとり(Vo, G)×奥田民生対談)。「ああ、これでいいんだ」と思えたんです。「このコロナ禍で、僕らばっかりすみません」じゃない。「できるんだったら、やります!」という気持ちだったんですよ。「もっと楽しみます!」っていうスタンスで突っ走ってきたし、「それでよかったんだ」って今、思えているから。なので、バンドに対する意識は変わっていないようで、変わっているのかもしれないですね。根本にある「音楽が好き、音楽が楽しい」っていう気持ちはDTMで作曲を始めた頃と変わらない。でも、モチベーションであったり、このバンドに対する思いは日々変わっていると思います。

──なるほど。

はっとり まあ、今はこうやって世間的に調子いい感じで活動させてもらっているからこそ、余裕が生まれているのかもしれないですけどね。冷静でいられているし、焦りがない。時間はないけど、気持ちに余裕はあるから。自分の立場も変われば見える景色も変わるもので、この冷静さは4、5年前にはなかったものだから。

うまくいかないことも愛おしい

田辺 最近の音楽制作も、「誰かの期待に応えなきゃ」とか、そんなこと考えてやっていないもんね。俺らが一番楽しいと思うこと、俺らが一番カッコいいと思うことをやろうっていう意識になってる。

はっとり そうそう。カッコよくて笑っちゃうような瞬間がいいんだよね(笑)。カッコいいってダサいことだから。ハードロックにおいて“ダサい”は褒め言葉だからね。「本気でやっているんだ」っていうカッコよさ。

田辺由明(G, Cho)

田辺 レコーディングでも、笑っている時間が本当に多いですよ、最近は(笑)。

はっとり 楽しいから、「何かやらかすんじゃないか」と思って、ずっとスマホで動画回したりしているんです(笑)。音楽の本質ってこういうことだよなって思うんですよね。ヒーヒー言いながらやるもんじゃないと思う。苦労して音楽をやることが美徳になってしまうのはよくないですよね。聴いている人を現実に引き戻すようなことをやる必要はないんだから。音楽はユートピアだと思うし、ロックは、人間の悲哀を歌っていればいいと思う。夢想家が歌を歌うべきだと思うんですよ。

──面白いですよね、悲哀の歌がユートピアを作るというのは。音楽のとても不思議な効能だと思います。

はっとり それは、音が乗っかっているからでしょうね。音が希望の一面を付け加えてくれるから、どうしようもなく暗い言葉の羅列だったとしても、Cメジャーのキーでメロディが付いたら、「なんとなく報われるじゃん、この歌詞の主人公も」と思える。それがどうしてそうなるのかっていうのは、俺も知りたいです(笑)。音楽のすごいところだと思う。でも、だからこそ、暗い言葉を歌詞には詰め込んだほうがいいんですよね。明るいメロディに明るい歌詞を乗せるのはもったいない。その明るいメロディで、何かを助けてあげないと。そうじゃないと、メロディも乗っかりがいがないでしょうね。「こんな普通の歌詞に乗っちゃったよ!」って(笑)。

──制作現場の雰囲気のよさは、高野さんや長谷川さんも感じられていますか?

長谷川 感じてますね。

高野 なんというか、笑いのレベルが……。

はっとり 日々、下がってる?(笑)

高野 すぐ笑っちゃうんですよ。この間も、ふざけるような歌い方をはっとりがしていて。

はっとり 「表情を付けている」と言えよ!(笑)……でも今、そういう面白い曲を作っているんですよ。面白い音も入れたりね。

高野 そういう曲ができると、「楽しかったな、次はもっと楽しいレコーディングしたいな」と考えるようになるし。

──今、すごくいいムードなんですね、マカロニえんぴつは。

はっとり 俺は常に今が最高だと思ってます。もちろん失ってきたものもあると思うけど、キリがないんですよ、「あの時のほうがよかった」なんて言っても。「昨日のライブのほうが声出たな」とか、そんなこと言っていてもキリがない。だから、「今がよければいい」と思うようにしています。声が出てないときの自分もすごく好きです、今は。そういう声ならではのよさもあるから。だって、ずっと調子がいい人間なんていないですよ。人間、どっかのタイミングでは不調だったりするので、マイナスなものを基準値のゼロにまで持っていくのってキツい。だったら、俺はもうどんな状況でも「マイナスなものなんてない」と思うようにしています。うまくいかないことも多いし、イライラすることも多いけど、「そういうことも愛おしいじゃん」っていうモチベーションにしていこうと思っています。楽しもうとしないと沈んじゃう世の中になってきているのでね。マカロニえんぴつを楽しもうと、日々、言い聞かせてますよ。