WOWOW「HI-FIVE」特集|Kroiが語る、アーバンスポーツ&ストリートカルチャーへの憧れとシンパシー (2/2)

先人の作品に影響を受けて現代の音楽へと再構築

──冒頭で皆さんがおっしゃっていたように、「NEXT HI-FIVE」はアーバンスポーツやストリートカルチャーの歴史を年代ごとに紹介する内容となっています。ご覧になって、自分たちの音楽性はこの時代のカルチャーに影響を受けているなと感じる場面はありましたか?

内田 うーん、どうだろう。質問の答えになっているかわからないですが、Kroiのサウンドは「80'sっぽい」と言われることが多いですね。自分たちではそんなに狙っているわけでもないけど、例えば80'sのディスコとかそういう要素がサウンドに内包されていると、人から言われて気付くことはあります。自分ではどちらかというと、70’sのファンクからヒップホップへと移行する転換期の音楽が好きなんですけどね。

──ParliamentやFunkadelicなど、いわゆるPファンクと呼ばれる音楽や、アフリカ・バンバータ周辺の音楽ですね。

長谷部 例えば90年代に活躍したアーティストも、自分たちより前の世代の音楽に影響を受けつつ進化していたと思うんですよ。それに楽器や機材、技術の進歩が次の音楽を生み出すきっかけになることも、どの時代にだってあるじゃないですか。それを踏まえると、今は手札が増えた分だけいろんなジャンル、年代の音楽を再構築しやすい状況になったのかなと思います。

長谷部悠生(G)

長谷部悠生(G)

 それに僕たちは90年代生まれなので、それ以前の音楽やカルチャーについてはネットなどで得た情報しかない。正直リアルタイムでどんな感じだったのかはわからないんですよね。だからこそ、その時代への羨望というか憧れの気持ちは強いです。今じゃ考えられないようなギラッギラの衣装を着たファンクミュージシャンとか、えげつないくらいギチギチにオーディエンスが集まった会場でのメタルバンドの演奏とか、音楽とファッション、アティテュードが今よりも密接に結び付いていたのかなと想像したりして。

──益田さんはどうでしょう。好きな年代やジャンルってありますか?

益田 もちろんヒップホップは好きなんですけど、俺は“ブルースおじさん”でもあるので(笑)、古い音楽もめちゃくちゃ好きなんですよ。例えばブギウギとかは場末の酒場の片隅で生まれた音楽ですし、ヒップホップとの共通点を無理やり考えてみると、小さなコミュニティで発展していった音楽ということなのかなと。ヒップホップもストリートから生まれた音楽ですし。

千葉 ブギウギ、いいよね。俺もめちゃめちゃ好きで弾いていたので、多かれ少なかれKroiの音楽にも取り入れられていると思う。

千葉大樹(Key)

千葉大樹(Key)

“正装”でジャンルやコミュニティに対するリスペクトを表明

──好きな音楽のファッションを取り入れることもありますか?

益田 それで言ったら悠生が一番インパクトのある服を着ていますよ。今日はまだおとなしめのスタイルだけど、すんげえ格好するときもある(笑)。

長谷部 今日はハードロックにインスパイアされていますけど、年代で言うと1860年代くらいの西部開拓時代のファッションに一番ハマっているんですよ。

益田 ガチのカウボーイみたいな格好で普通に現れるもんね(笑)。

長谷部 西部劇のファッションとか参考にしています。テンガロンハットとかウエスタンブーツとか、ちょっと高いけど最高ですね。音楽もめちゃくちゃいいんですよ。一昨年亡くなったエンニオ・モリコーネの作品なども聴き直しています。

千葉 やはりそれぞれの音楽には“正装”じゃないですけど、密接に結び付いているファッションがあると思うんですよね。おそらくそれは、今よりも昔の方がより明白にあった気がしていて。例えばヒップホップをやるなら、ヒップホップの“正装”を身に纏うことは、そのジャンルやコミュニティに対するリスペクトを表明することだと思います。

内田 好きな音楽のファッションを取り入れるという意味では、俺は高校生の頃とかFranz Ferdinandが大好きだったので、ちょっとUKっぽいファッションを取り入れたりもしていました。

内田怜央(Vo)

内田怜央(Vo)

──エディ・スリマン全盛の頃、スキニーパンツにレザージャケットやテーラードジャケットを合わせるような感じですね。

内田 そうです。そのあとにファンクに目覚めてどんどん格好も変になっていきましたけど。そうやって好きなものをいろいろと掛け合わせつつ、今のスタイルができあがったのだなと。振り返ってみて改めて思いますね。

──そういう意味でKroiのファッションは、さまざまなジャンルを取り入れるその音楽性ともリンクしていますよね。

 そう思います。結成当時から「好きなものを好きなように着る」ということは決めていますし、5人それぞれがキャラクターも好きな服のスタイルも全然違いますね。ちなみに俺はミリタリー系の格好とか、デッドストックのものが好きです。今着ているジャケットも、国鉄時代の作業員が着ていたものなんです。

Kroi

Kroi

この時代に鳴らす意味を意識した「Correction」

──今回、ムービーで起用されたKroiの楽曲「Correction」についてもお聞かせください。この曲はどのようにしてできあがったのでしょうか。

内田 懐かしさと新しさの融合というか、自分たちが好きな昔の音楽的要素を取り入れつつ、今この時代に鳴らすことへの自覚を持って演奏しました。特にシンセって時代を象徴するサウンドですし、逆に言えばシンセの使い方1つで時代感を出せると思うんですよ。そのあたりを意識しながら千葉さんに音作りをしてもらっています。イメージしたのはZappとか、あるいはプリンス的なミネアポリスサウンド。もともとKroiは「ルーツを大事にする」ということをテーマに掲げているのですが、今回は歌詞にもその思いを詰め込みました。

長谷部 ギターはイントロのメインリフを弾いています。いつもフィルターというエフェクトを使って面白いサウンドを作ることが多いのですが、ちょうどこの曲を制作している時期は、自分の作るギターサウンドがちょっと固まりすぎちゃって窮屈に感じていて。千葉さんからも「イントロでおもろいギターサウンドを入れて」と言われたのもあり、今回は新しいフィルターを導入しています。イントロ以外の部分は怜央が言ったように、Zappやプリンス、あとはJamiroquaiなどを念頭に入れつつ楽曲に寄り添った音色で弾きました。

益田 ドラムはディスコっぽいダンサブルな感じと、アシッドジャズのクールなテイストを意識しています。曲の雰囲気からして、あまりキックが重くないほうがいいのかなとも思いました。

 全体的にビンテージなサウンドだったので、そこにあえてハイファイなサウンドやフレージングをベースで入れたらどうなるかを僕は考えましたね。怜央からもらったデモにはスラップを基調としたベースフレーズが入っていたのですが、それをさらに細かく譜割りして、ベースを始めたばかりの若い人たちが「弾いてみたい」と思って挑戦したくなるような、若干難易度の高いフレーズを目指しています(笑)。尺も短いので、その中にどれだけアイデアを詰め込めるかということも意識しました。

内田 最後、千葉さんのミックスが素晴らしかったよね。

千葉 曲を作ってプリプロを仕上げている段階では、「80'sっぽく仕上げよう」とか「ローファイにしよう」みたいな意識はなくて。むしろ上モノのシンセやギターが懐かしい感じだったので、全体の音像は今っぽくしようと思ったくらいなんですよ。でも、ミックスダウンでそれこそIncognitoのアルバム「Tomorrow's New Dream」(2019年発売)あたりをリファレンスにしてみても、なかなかうまく近付かなくて。「こりゃ無理だわ」と開き直ってビンテージの渋い音像を目指しました(笑)。でも今回のムービーを観たらめちゃくちゃハマっていたのでよかったです。

Kroi

Kroi

ライブ情報

Kroi Live Tour 2022 "Survive"

  • 2022年4月23日(土)大阪府 BIGCAT
  • 2022年5月25日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

Kroi(クロイ)

R&B、ファンク、ソウル、ロック、ヒップホップなど、あらゆる音楽ジャンルからの影響を昇華した音楽性を提示する5人組バンド。2018年2月にInstagramを通じて結成し、同年10月に1stシングル「Suck a Lemmon」をリリースする。2019年夏には「SUMMER SONIC 2019」に出演。同年12月に2ndシングル「Fire Brain」をリリースし、2020年5月に5曲入りの音源「hub」を発売した。2021年1月に6曲入りの音源「STRUCTURE DECK」をリリース。6月にはポニーキャニオン内のレーベル・IRORI Recordsからメジャー1stアルバム「LENS」を発表した。2022年5月に国際ファッション専門職大学の2022年度CMソング「Pixie」を配信リリース。また4月から東阪ツアー「Kroi Live Tour 2022 "Survive"」を開催。東京公演はKroiにとって史上最大規模となる東京・Zepp DiverCity(TOKYO)で行われる。