muque「Design」インタビュー|互いへの信頼で集結した4人、多彩な音楽性を武器に福岡から全国へ快進撃

福岡在住の4人組バンドmuqueが11月22日に新作EP「Design」を配信リリースした。

muqueはAsakura(Vo, G)、Lenon(B)、takachi(Dr, Track Make)、Kenichi(G)の4人が2022年5月に結成したバンド。それぞれ異なるバンドで活動していた4人は互いの音楽性やスタンスにシンパシーを抱いてmuqueを結成し、1カ月後の6月には早くも1stシングル「escape」を配信リリースした。その後もハイペースで新曲を発表しており、今年の春からはライブ活動も精力的に行っている。

シティポップやギターロックなど多彩なジャンルを取り入れて「時代をパッケージングすること」にこだわった音作り、Asakuraが独自の視点から描く歌詞が評価を集め、徐々に注目度を高めているmuque。音楽ナタリーでは新作のリリースを前にした4人にインタビューし、バンド結成の経緯やmuqueの音楽に対する思い、新作収録曲の聴きどころなどについて語ってもらった。

取材・文 / 天野史彬

バンドはボーカルが一番大事

──muqueはメンバーそれぞれが別のバンドで活動していたところ、Lenonさんが中心となり、昨年結成されたんですよね?

Lenon(B) そうですね。最初に僕がAsakuraとtakachiに声をかけたんです。そもそも大学のサークルが一緒だった2人なんですけど、Asakuraとサークルでコピバンをやったときに「この人と一緒にバンドをやったら売れるんじゃないか」という勝手な想像が僕の中にあって(笑)。takachiについては、takachiとKenichiが一緒にやっていたバンドにサポートで入らせてもらったとき、そのアレンジ能力に驚いたんです。それで、一緒にやりたいと思っていて。

──Lenonさんからすると、前からその才能に目を付けていた2人に声をかけたという感じだったんですね。

Lenon 僕は高校生の頃から「音楽をやっていきたい」という思いはあったんですけど、「1人ではできないな」とも思っていたんです。だから誰かと一緒にやりたいという気持ちがありました。

左からtakachi(Dr, Track make)、Asakura(Vo, G)、Lenon(B)、Kenichi(G)。

左からtakachi(Dr, Track make)、Asakura(Vo, G)、Lenon(B)、Kenichi(G)。

──Asakuraさんとtakachiさんは、Lenonさんに誘われたとき、どのような思いがありましたか?

takachi(Dr, Track Make) Lenonから電話がかかってきたときに、僕が最初に言ったのが「ボーカル次第」ということでした。Lenonと一緒にやりたいという思いはあるけど、ちゃんと僕が魅力を感じることのできるボーカルがいないと一緒にはできない。それをLenonに伝えたら「Asakuraを誘おうと思う」と言われたので、「それならいいよ」と。

──takachiさんも、Asakuraさんのボーカリストとしての魅力を感じていたんですね。

takachi 歌唱力を認めていたし、僕らのいたサークルにはいろんな種類の音楽をやっている人たちがいたんですけど、Asakuraはそんな中で、いわゆる邦楽っぽくない難しい曲も歌いこなしていたんです。その姿を見ていたのが大きかったです。僕の作るトラックは洋楽っぽかったりするけど、「Asakuraなら合うんじゃないか?」と感じました。

──曲を聴く限り、takachiさんはビートミュージックなどさまざまなジャンルの音楽に興味があるのだと推測しますが、それでも「ボーカル次第」という言葉が第一声に出てくるくらい、ボーカルに重きを置いているんですね。

takachi ボーカルが一番大事だと思います。自分の感覚の根本的な部分なんですけど、多くの人が「いい」と思うものを純粋に「いい」と思うタイプなんです。ヒットしている音楽の共通点って、「ボーカリストに魅力がある」ということだと思うんですよね。

──なるほど。AsakuraさんはLenonさんに声をかけられたとき、どんな気持ちでしたか?

Asakura(Vo, G) 私も最初に電話をもらったときは「誰とやるの?」と聞いたんです。それで「takachiを誘おうと思う」と言われて。私もtakachiのことをサークルで見ていたんですけど、たぶんLenonが私に抱いてくれた気持ちと同じ気持ちを、私はtakachiに抱いていたと思います。

──「この人と一緒に音楽をやったら成功するのでは?」という。

Asakura そのtakachiが一緒と言われたので、「じゃあ、やりたいかも」と思いました。takachiの作る曲は私が高校生の頃とかに聴いていた洋楽に近い音数の少ないサウンドだったし、心にくるものがあって。最終的に「ここでがんばりたいな」と思いました。

──Asakuraさんにとって、歌はずっと身近にあるものなんですか?

Asakura 小学生の頃からどこでも歌うような子でしたね。中学生くらいになると周りから「いい声してるよね」と言われるようになって、その頃から歌うということに対して意識し始めました。もともと、自分の気持ちを言葉にするのが苦手で。でも、歌だったら大きな声を出せるなと思っていたんです。「歌う=本心を出す」という感覚がずっと自分の中にはあります。

Asakura(Vo, G)

Asakura(Vo, G)

「escape」ができて「この4人でいこう!」と決まった

──そしてKenichiさんが加入して今の編成になったわけですけど、先ほどのお話によると、Kenichiさんとtakachiさんは以前から一緒にバンドをやっていたんですね。

takachi そのバンドの頃から、僕とKenichiの2人でディスカッションをしながら曲を作っていたんです。Kenichiのギターフレーズは面白いし、僕のイメージも汲み取って音で再現してくれるし、Kenichiがいることで、ほかのトラックメイカーにはないロック感やエモーショナルさがオリジナリティとして出せるし、僕としては「Kenichiが必要だ」という気持ちがあったんですよね。それで「muqueにも入ってくれませんか?」と声をかけました。最初はサポートという話だったんですけど、曲ができていくにつれて、「これはいけるんじゃないか?」って。

──Kenichiさんとtakachiさんは、もともとどんなバンドをやっていたんですか?

Kenichi(G) ちょっとミクスチャーの入ったラウド系のバンドで。今の音楽性とは全然違うんですけど(笑)。

──takachiさんからmuqueに誘われたときは、まずどう思いましたか?

Kenichi 僕もぼんやりと「takachiと一緒に新しいことをやりたいな」とは思っていたんです。最初は軽い気持ちでサポートから、という感じで曲を一緒に作ってみたんですけど、最初に出した「escape」という曲ができたときにビビッとくるものがあって。「これは面白い景色が見えるんじゃないか?」という感覚がありました。曲が完成していく中で、心情も変化していった感じですね。

takachi きっと全員がそう感じたと思う。みんな、このバンドをやっていくことに対して最初は半信半疑ではあったと思うんですよね。でも、楽曲ができていくにつれて化学反応が起こっていって。「escape」ができたタイミングで、「この4人でいこう!」と、みんなの中で決まったったんじゃないかなと思います。

──Kenichiさんは、もともとやっていたラウドロック的なものとは作る音楽も変わっていったと思うんですけど、そこにはどんな思いがありましたか?

Kenichi まさか自分がこういう音楽をやるとは思っていなかったんですけど(笑)、その急カーブ感が、逆に自分の中で「面白いな」と思えましたね。こうやってガッツリとラウド系から今のようなポップスに移行するタイプの人って、ほかにはあまりいないと思うし。あとは何より、takachiとやり取りをするのが単純に楽しかったので。一応、僕のほうが先輩なんですけど、takachiはあまり後輩感がなくて、どちらかというと弟に近い感覚なんです。本当に身内みたいな感じ(笑)。なんでも話せるし。

Kenichi(G)

Kenichi(G)

──takachiさんは、Kenichiさんと一緒にラウドロックをやっていたところから今のようなポップスへと作る音楽が変化したのは、どういった意識の変化があったのでしょうか?

takachi 以前からポップなバンドはやってみたかったんです。前のバンドが解散したタイミングでAsakuraというオールラウンダーなボーカリストと一緒に演ることになってその気持ちが加速した感じです。

──ルーツとしてもポップスが大きいんですか?

takachi いや、ルーツはロックなんです。ただ、海外のロックアーティストがどんどんとポップアルバムを出しいてた時期があって、そういう人たちからの影響が大きかったです。例えば、Bring Me the HorizonやSleeping with Sirens、日本で言うとONE OK ROCKとか。ドラムが打ち込みの曲がアルバムに入っていて、「これ、どうやってライブでやるんだろう?」と思っていたら、ライブではめっちゃバシバシにドラムを叩いていたりする。それがカッコいいな、自分もそういう曲を作りたいなと思ったんですよね。ライブに囚われずに、音源は音源でまったくドラムの入っていない曲を作って、でもライブでは激しく叩く、みたいな。そういうところまでイメージしながら曲を作るのが楽しいんです。

「今」の時代を音楽にパッケージングする

──muqueの楽曲の前提となるトラックはすべてtakachiさんが作っているということですけど、トラック作りの段階で大事にされていることはありますか?

takachi 時代とともに変わり続ける音楽であることですね。「今」の時代をちゃんと音楽にパッケージングすること。だから、muqueが来年どんな音楽をやっているのかは、自分でもわからない。

──時代とともに変化するものを求めるのはなぜでしょう?

takachi 「今」が好きだし、「時代」というものが好きなんです。それは音楽だけじゃなくて、ファッションとかもそう。例えば今の僕らが作っている音楽を10年後に聴き返せば、2023年のことを思い出せる気がする。僕はそういう音楽を作りたいし、だからこそ、その時代、そのときの雰囲気や景色を入れた音楽を作ることを大事にしています。それに、僕の好きなアーティストも音楽性が変わり続ける人たちなんです。新譜が出ると「そうきたか!」と思わされたり、好きなアパレルブランドでも、新しいコレクションを見て「次はこんな感じなんだ」と驚かされたり。そういう体験が好きなんです。だからmuqueも、「muqueっぽいよね」と言われるものを出し続けるのではなくて、「muque、次はこんなことするんだ!」と思われるものを出していきたい。

──今、takachiさんがおっしゃった感覚は、3人も共感している部分ですか?

Kenichi 個人的には、共感というより納得という感じですね。僕自身はどちらかというと自分の好きなものを貫いてきた人間なんですけど、去年muqueを結成したタイミングをきっかけに、視野や考え方が変わっていった感じがします。

Lenon 僕もKenichiと一緒で共感よりは納得という感じなんですけど、takachiが何を考えているのかもっと知りたい、という気持ちもありますね。takachiがやりたいと思うことをもっと共有したいし、感じたいし。

Asakura 私は、takachiと同じようにファッションを追いかけるのも好きだし、ファッションを追いかけるのは音楽を追いかけることと似ているな、と思っていて。特に今の若い人にとって、音楽はファッションみたいなものでもあると思うんです。それなら、今の時代の流れを取り入れたものを作っていきたいと思います。