Wakana|“瞬間”にフォーカスした2ndアルバムで示す、ソロシンガーとしての表現力

Wakanaが2月26日に2ndアルバム「magic moment」を発売した。

1stアルバム「Wakana」から約11カ月でリリースされる本作は、昨年11月発売の5曲入りCD「アキノサクラ EP」と、同年12月に東阪で開催されたワンマンライブ「Wakana Winter Special Live 2019 ~瞬き~」の世界観を意識して制作されたフルアルバム。11曲中7曲をWakana自身が作詞しており、日常の中のさまざまな“moment”をリアルに切り取っている。

音楽ナタリーでは、ソロデビュー2年目に突入したWakanaにインタビューを実施。これまで以上に幅広いサウンドアプローチが試みられたアルバム制作のエピソードと共に、その過程で得たというシンガーとしての変化について話を聞いた。

取材・文 /もりひでゆき 撮影 / 斎藤大嗣 ヘアメイク / 丹羽寛和(maroonbrand)

自分の声と深く向き合うように

──2月でソロデビューからちょうど1年が経ちましたね。

はい。この1年で本当にいろいろなことを経験させてもらいました。自分にはわからないことがまだまだたくさんあるんだなということにも気付けましたし、自分がやりたいことを突き詰めていく面白さを改めて実感できたところもあって。「Wakana」(2019年3月リリースの1stアルバム)は、あのタイミングで自分にできることを詰め込んで作り上げたんですけど、それを経たことで自分の声に対してもっともっと深く向き合うようにもなったんです。ざっくりと自分の声をとらえるのではなく、「Wakanaはこういう声を持っているんだな」ということをしっかり自覚しなきゃいけないんだなって。

──ご自身の声に深く向き合うことで何か見えてくるものはありましたか?

Wakana

自分がまだ持っていないものが見えてきたのはもちろん、今まではあまり認めてあげられていなかった自分の声に対して、「あ、こういう声も実はいいのかもしれないな」って思えるようになったところもありました。私にはKalafinaで培ってきた10年間があって、そこが自分のベースになっていることは間違いない。なので、それを踏まえたうえで皆さんが求めてくださる声を届けていかなきゃいけないとずっと思っていたんですけど、ソロとしてはまだできないことがあるのは当然だし、もっと模索していくべきだということを実感できたんです。そういう気持ちになれたことで、自分が求めるべき目標もだんだん明確になってきたような気もするんですよね。

──今のWakanaさんが思い描く目標ってどんなものなんでしょうか?

私の中にはもちろん目標はあるんですけど……言わないでおくほうが好きなんですよね(笑)。

──あははは(笑)。目標を公言するのではなく、心に秘めた状態で実現させていきたいタイプなんですね。

そうなんだと思います。「今年中に5kg痩せます!」「100万円貯めます!」とか大々的に言って実行できる人は純粋に尊敬できるんですけど、私の場合は絶対無理なんですよ(笑)。それにけっこう優柔不断だから目標が変わっていく可能性もあるので、明言してしまったがゆえに、それを期待してくれる人を裏切りたくないなっていう気持ちもあるので。

──まあでも、今のWakanaさんがどんな目標を立てているのかはわからずとも、今回のアルバムを聴けばシンガーとして進化していることは明白です。その目標に向けてしっかり前進していることを感じられると思うんです。

あー、うれしいです。昨年の私は、改めて自分の声の持ち味に気付いたうえで、それをいろいろ変化させていきたいなと思っていたんですよね。さまざまなタイプの曲を通して、「自分はどんな声が欲しいのかな?」「どんな表現がしたいのかな?」ということを模索していくっていう。だから、今回のアルバムには今の私のやりたいことがしっかりと込められているんです。歌い方はもちろん、詞に関しても。

さまざまな瞬間を音楽に変える

──アルバムのリリースが発表されたとき、「昨年は2020年に向けてどういう音楽を届けようか考えながら制作を続けてきた」といったコメントを出されていましたよね。今のWakanaさんが届けようと思った音楽とはどんなものだったんでしょう?

聴いてくださる方の心に寄り沿うことこそが、音楽のあるべき姿なんじゃないかなと思いました。「あ、この人はわかってくれている」「この歌はわかってくれているんだ」って思えるような音楽に私自身惹かれますからね。ただ、少し前の私はそうやって聴き手の心に寄り添った音楽をやっている方を見ると、ちょっとヘコんでしまっていたんです。「あ、こんなに素晴らしい曲がもう世の中にあるんだったら、私には何もできないな」みたいな感じで。

──なるほど。そういう音楽を自分でもやりたいという思いがあるのにもかかわらず。

そうそう。うらやましいなって思いつつ、どこかあきらめてしまっていたんですよね。でも、昨年11月にリリースした「アキノサクラ EP」と今回のアルバムの制作の中で、そこに挑戦してみることにしたんです。やっぱり、それこそが今の自分の届けたい音楽だなと思ったから。

──これまでのWakanaさんはある種、ファンタジー的な美しい世界観の中で現実とリンクする感情を歌うのが得意な方だったと思うんですよ。でも「アキノサクラ EP」から引き続き、今回のアルバムでは日常をリアルに切り取った曲がすごく多くなっている印象があって。

うん、まさにその通りですね。人は1つひとつの瞬間をつなぎ合わせて生きているので、その瞬間を曲としてフォーカスしてあげると何が見えてくるのかということにすごく興味があったんですよ。全部の瞬間を音楽に変えられたら絶対楽しいだろうなとも思ったし。だからこそ今おっしゃったように、今回の曲たちは全部がリアルだと思うんです。私が感じるさまざまな瞬間を音楽に変えて、それがアルバムタイトルにもなっている「magic moment」という言葉につながっていきました。