和楽器バンドインタビュー|いくつもの“自分との戦い”を乗り越えた先にたどり着いた意欲作「I vs I」を語る (2/2)

生きていると誰しもが抱えてしまう悲しみに寄り添いながら、最後は前向きになれる

──「I vs I」というタイトルにちなんで、制作の中で“自分との戦い”を感じたエピソードを教えていただけますか?

鈴華 私はたくさんありますね。もちろんコロナ禍での戦いもあったし、自分のことで言えば、「宵ノ花」を制作している時期と長期療養が重なっていたんですよ。この曲はタイアップ(ゲームアプリ「真・戦国炎舞-KIZNA-」オープニングテーマ)のテーマに沿って書き下ろしたんですが、戦いよりも、気高さ、芯の強さをメインにしていて。ストーリー、作家としての自分、療養している自分の状況がリンクしている感覚がありましたね。もう1つ、自分の状況とリンクしているのは9曲目の「そして、まほろぼ」。インタールード(7曲目「Interlude ~Starlight~」)以降はアルバムの雰囲気がガラッと変わるんですよ。“戦いのあとの世界”というイメージなんですが、メンバーと話す中で「バラード系が必要だね」という話になって、最後に書き下ろしたのが「そして、まほろば」なんです。私自身、昨年末に近しい人の死を経験して、一方では新しい命も誕生して。その中で感じたことを言葉にしておきたいという気持ちもありました。生きていると誰しもが抱えてしまう悲しみに寄り添いながら、最後は前向きになれる、前に進んでいける曲になったと思います。

和楽器バンド「I vs I」初回限定“vs”盤ジャケット

和楽器バンド「I vs I」初回限定“vs”盤ジャケット

町屋 僕はアレンジを担当することが多いんですが、そこは経験の積み重ねも大きいし、そんなに悩むことはなかったです。今回はギターを弾くのが大変でしたね。左手の小指が腱鞘炎になって、しばらく小指を使わないで弾いてたんですよ。ただ、「まほろば」のギターソロはどうしても小指が必要で。4日に分けて、なんとかレコーディングしました。「まほろば」はアレンジ的にもかなり挑戦しましたね。基本的には4拍子なんですけど、サビのロングトーンに乗せたときに「ちょっと窮屈かな」と思って、6/8拍子に変えたんです。ドラマティックな展開になりましたね。

──なるほど。いぶくろさんはいかがですか?

いぶくろ 今回のアルバムは箏のフレーズを作曲者が指定してくることもけっこうあって。「宵ノ花」もそうだったんですけど、指定されたフレーズがすごく難しかったんです。普段は親指、人差し指、中指の3本に爪をはめて弾くのですが、左手も使わないと演奏できないんですよ。もちろん箏らしい軽やかさも必要なので、かなり大変でしたね。そういう挑戦を重ねる中で、自分の引き出しが増えていくのを感じました。今回のレコーディングでも、演奏者としての幅を広げられたんじゃないかなと。

──ボーナストラックの「名作ジャーニー」では、いぶくろさんが作詞を担当しています。

いぶくろ 作詞はひさびさでしたね。デモの段階ではゆう子さんの仮歌詞が入っていたんですけど、ちょっとクセが強めというか(笑)、僕が表現したい世界観とは明らかに違ってたんですよ。タイアップ(NHK Eテレ「あはれ!名作くん」)も踏まえて、子供たちが将来、大きくなったときに「あの歌詞って、このことだったのか」と謎解きができるような歌詞にしたいと思って。ガリレオ・ガリレイの地動説、アインシュタインの相対性理論、あとは古典や童話などのイメージも加えています。

和楽器バンドにしかできないことはなんだろう?

──黒流さんは、制作の中で“自分との戦い”を感じたエピソードはありますか?

黒流 僕の場合、バンドサウンドの中で和太鼓を演奏すること自体が常に戦いなんです。このバンドにおける存在意義みたいなものを結成のときからずっと意識しているので。変化した部分としては、チューニングですね。以前はまったくチューニングせずに演奏していたんですけど、その違和感が持ち味になっていたと思っていて。その後、まっちー(町屋)がサウンドプロデュースをすることになって、和太鼓の音程を変えて、より楽曲に合うようなやり方を模索し始めました。例えば「生命のアリア」などはそれがうまくいった楽曲だと思います。さっきも話に出ていましたけど「Starlight」はアルバム用にミックスし直して、和楽器の音がさらに際立ちましたし。

黒流

黒流

──和太鼓がアグレッシブな要素を担っている曲も多いですよね。

黒流 全体的に戦っているイメージですね。この楽器は、肉体を鍛えていないと演奏できないので。僕は和太鼓の音だけではなく「は!」「さっ!」といった掛け声を入れることがあるんですが、まっちーは僕の掛け声を音源として持っているんですよ。でも山葵は持ってないから、デモを作るたびに「ここに掛け声を入れてください」とデータを送ってくるんです。家で「はっ!」って声を上げて録音するんですけど、かなり響くので、近所迷惑になってないか心配です(笑)。

山葵 (笑)。僕も曲によっていろいろな戦いがありましたけど、一番はボーナストラック「星の如く」のレコーディングですね。すとぷりの皆さんに提供させていただいた楽曲のセルフカバーなんですが、間奏の尺を伸ばして「和楽器バンドらしい要素を詰め込んだらどうだろう?」と提案したんです。それが採用になって、町屋さんに「好きなようにリズムを叩いて」と言われて。いろいろなパターンを試す中で、「このフレーズはカッコいいけど、技術的に難しいな」というものを避け、いい感じで叩けるリズムを選んだんですよ。その数日後に「そして、まほろば」のリズム録りがあったんですけど、町屋さんのアレンジを聴くと、「星の如く」で使わなかった難しいリズムが入っていて。「できねえって言ったじゃん」と思ったんですが(笑)、結局、戦いからは逃げられないんだなと覚悟を決めて叩きました。やっぱり逃げちゃダメですね(笑)。

──アルバム本編の最後を飾る「BRAVE」も山葵さんの楽曲ですね。

山葵 はい。これまでの戦いを振り返りながら、前に進めるような曲にしたくて。ライブでファンの皆さんと合唱する光景をイメージしながら作った曲ですね。2000年にリリースしたアルバム「TOKYO SINGING」の最後に入っている「Singin' for…」も僕が作らせてもらったんですけど、あのときは「コロナをみんなで乗り越えたときに一緒に歌いたい」という願いを込めていたんです。それから3年経って、それぞれの戦いの中で、ようやく先の兆しが見えてきて。この前のファンクラブ限定ライブでひさびさに声出しができたんですが、「Singin' for…」を初めて一緒に歌って、ようやく完成したという実感があったんです。「BRAVE」も早く皆さんと歌いたいですし、「僕たちは一緒に乗り越えてきた」という思いを共有しながら一緒に音楽を作り上げていきたいですね。

山葵

山葵

──やはりコロナ禍を乗り越えてきたことが、一番の戦いだったと。

蜷川 そうだと思います。声出しができない状況の中、いろいろな工夫をしながらライブを重ねてきたので。この3年間は「和楽器バンドをどうやって世間の人たちに受け入れてもらうか」「その中で自分が果たす役割とは?」ということを深く考えるようになったんですよね。「ボカロ三昧2」で今のトレンドを取り入れたり、「Starlight」で新しい挑戦をする中で、「和楽器バンドにしかできないことはなんだろう?」と改めて向き合ったり。今回のアルバムには、その成果がしっかり出ていると思うんですよ。ちょっと離れてしまったファンの方だったり、今まで和楽器バンドのことを知らなった方、海外のリスナーの方々にも「こんなにカッコいいことをやっているバンドがいるんだな」と気付いてもらいたいし、このアルバムを皮切りに自分たちらしいことをブレずに続けていきたいですね。

蜷川べに

蜷川べに

──まずは7月末に始まる全国ツアー「和楽器バンド Japan Tour 2023 I vs I」ですね。

鈴華 この前、ひさしぶりに声出しOKのライブをやったときに、「以前もこの風景を味わっているはずなのに、まったく違う感動がある」と感じたんです。声出しできない状況に慣れて、「これでもいける」と思っていたんだけど、「一緒に歌えるって、こんなに素晴らしいんだ」と。我々のステージは観客の皆さんと一緒に作り上げるものだなと改めて感じたし、アルバムのツアーでも和楽器バンドとにしかできないエンタテインメントをお見せしたいですね。

──アルバムの楽曲がライブでどう表現されるのかも楽しみです。

鈴華 ありがとうございます。アルバムの曲は全部やろうと思っていますが、私たちのライブは1曲も知らなくても楽しめると思うんですよ。演出やステージングにも力を入れていますし、今まで通り、お年寄りからお子さんまで楽しめるライブにしたいなと。ぜひ参加してほしいですね。

公演情報

和楽器バンド Japan Tour 2023 I vs I

  • 2023年7月29日(土)千葉県 市川市文化会館
  • 2023年8月13日(日)埼玉県 大宮ソニックシティ 大ホール
  • 2023年9月2日(土)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2023年9月7日(木)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2023年9月18日(月・祝)広島県 上野学園ホール
  • 2023年10月1日(日)茨城県 水戸市民会館 グロービスホール
  • 2023年10月7日(土)大阪府 オリックス劇場
  • 2023年10月9日(月・祝)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2023年10月29日(日)福岡県 福岡サンパレス ホテル&ホール

プロフィール

和楽器バンド(ワガッキバンド)

ボーカル、箏、尺八、津軽三味線、和太鼓、ギター、ベース、ドラムからなる8人組バンド。個々にプロとしてアーティスト活動するメンバーが、ニコニコ動画にアップした“演奏してみた”動画などを通じて集合し、2014年4月にボーカロイド曲のカバー集「ボカロ三昧」をリリースした。2015年9月にはオリジナル曲を中心とした2ndアルバム「八奏絵巻」を発売。2016年1月に初の東京・日本武道館での単独公演「和楽器バンド大新年会2016」を即日完売で成功させ、同年3月にはアメリカ・テキサス州オースティンで開催された世界最大級のフェスティバル「SXSW 2016」にも出演した。2019年6月にユニバーサルミュージックへの移籍を発表。2020年2月には、大阪・大阪城ホールで行われたオーケストラとの共演ライブ「Premium Symphonic Night Vol.2」で、グラミー受賞アーティストEvanescenceのエイミー・リーと共演し、ワールドクラスのパフォーマンスを披露。2020年2月末、3月1日に東京・両国国技館で開催予定だった「大新年会2021」がコロナ禍により中止となるも、8月に神奈川・横浜アリーナで各日5000人を動員する2日間の有観客公演を敢行した。2022年8月にボカロ曲カバー集の第2弾となる「ボカロ三昧2」を発表。2023年7月に約3年ぶりオリジナルアルバム「I vs I」をリリースした。