和楽器バンド|我々はあくまでロックバンド、おとなしくなるつもりはない

和楽器バンドが10月14日にニューアルバム「TOKYO SINGING」をリリースした。

東京・両国国技館で開催予定だった恒例のライブイベント「大新年会 2020 両国国技館 2days〜天球の架け橋〜」が新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止となるも、8月に神奈川・横浜アリーナで各日5000人を動員した2日間の有観客公演「真夏の大新年会 2020 横浜アリーナ ~天球の架け橋~」を敢行し、無事成功させた和楽器バンド。コロナ禍により活動が制限される中、じっくり制作したというニューアルバムは「"原点回帰”が裏テーマ」というメンバーのコメント通り、豪華絢爛なロックナンバーを中心にした作品に仕上がっている。

音楽ナタリーでは、メンバーの町屋(G, Vo)、亜沙(B)、蜷川べに(津軽三味線)にインタビュー。「TOKYO SINGING」の制作、バンドに対する根本的なスタンスなどを率直に語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 森好弘

無理して和楽器を打ち出しているわけではない

──ニューアルバム「TOKYO SINGING」が完成しました。コロナ禍の中の制作はどうでした?

町屋(G, Vo)

町屋(G, Vo) 2月までは大阪城ホールのライブ(「和楽器バンドPremium Symphonic Night Vol.2 ~ライブ&オーケストラ~ in 大阪城ホール2020」)だったり、いろいろと動きがあったんですよ。でも、2月29日、3月1日に両国国技館で開催を予定していた「大新年会」という節目のライブはゲネの段階で中止になり、その後さらにコロナ禍が深刻化して、自粛を余儀なくされて……。ただ、アルバムを出すことは決まってたから制作は進めてたんですよね。

蜷川べに(津軽三味線) メンバーのZoom会議もやりましたね。

町屋 3、4回くらいはやったかな。今回はじっくり制作に取り組む時間があったから、メンバーそれぞれが自分と向き合いながら、やりたいことを形にしていった感じです。

──ほぼ新曲ですよね、今作は。

町屋 去年リリースした「REACT」に収録されている「Ignite」以外は。これまでのアルバムはタイアップ曲がいくつかあって、半分くらいは収録曲が決まっていることが多かったんですけどね。自粛期間中に作った曲も多いし、歌詞の内容を含めて、今の状況だからこそできたアルバムだと思いますね。

蜷川 すごくいい曲がそろいましたね。今の時代に立ち向かっていく勇気、諦めない気持ちを世間の皆さんにお伝えできる曲もあって。

亜沙(B) これまではライブだったり、ほかのことをやりながら制作を進めていたんですけど、自粛期間はほかにやることがなかったから、制作に集中できたんですよね。持っているエネルギーをすべて制作に注ぎ込んだし、濃いアルバムになったんじゃないかな。「オトノエ」(2018年4月発売のアルバム)からは基本的に町屋さんが編曲をやっていて、エンジニアを含めて、チーム全体にノウハウが蓄積されてきた。さらに深い作品になってきてると思いますね。

──アルバム全体の方向性やテーマについては?

亜沙(B)

亜沙 それはユニバーサルのスタッフからの提案で決めたんですよ。“TOKYO”を打ち出そうというのも、もともとは僕らのアイデアではなくて。移籍したばかりだし、ここは新しい意見を取り入れてみようと(笑)。

町屋 そうだね(笑)。“和楽器バンドが今、TOKYOから発信する”というのがざっくりしたテーマで、そこから曲を集めて、選曲して。先行配信曲の「Singin' for...」から「TOKYO SINGING」というアルバムのタイトルが決まったんです。それに合わせて、だんだんと全体のイメージを形作った感じですね。

亜沙 TOKYOというテーマ自体も悪くなかったしね。

町屋 うん。グローバルな活動を視野に入れて“TOKYO”を打ち出したいという意図もあって。ただ、メンバーとしてはまったく意識してないんですよね。基本的にはメンバーそれぞれが「これがいい」と思う楽曲を作っているだけなので。

──“グローバルな展開”は、バンドのコンセプトに入っていない?

町屋 和楽器バンドの編成が、たまたま海外で注目されやすかっただけというか。日本の伝統的な楽器と洋楽器のバンド編成を組み合わせているから、そのハイブリッドな感じが日本っぽいというのはあると思うけど、僕らにとってはすごく自然な形なんですよ。彼女(蜷川)もグローバルな活動をしたくてバンドに入っているわけではないだろうし。

蜷川 そうですね。たまたまバンドのメンバーに津軽三味線、尺八、和太鼓の演奏者がいるというだけで、気持ち的にはフェアなので。無理して和楽器を打ち出しているわけではないです。

町屋 海外の公演で和楽器を聴かせてほしいというリクエストは多いし、それには応えますけど、あくまでもバンドとしてやってるので。

──楽曲を制作するときも、和楽器バンドのパブリックイメージや和楽器を押し出すことは考えない?

亜沙 バンドのために曲を作るときは考えますよ、もちろん。オリジナルアルバムも4作目だし、津軽三味線や尺八の音色、特徴などもわかってきて、ある程度は和楽器の使い方を想像しながら作ってますからね。ただ、あまり決め込みすぎないようにはしてます。町屋さんもそうだと思うけど、アレンジはそれぞれのパートのメンバーに任せたほうがいいと思うんですよ。軸になるフレーズは入れるけど、それ以外は自由にやってもらうというか。これは個人的な考えですけど、作曲者がすべて決め込むんだったら、もうそれでいいじゃないですか。

──バンドである必要がなくなる、と?

亜沙 はい。今は打ち込みの音源も進化してるから、混ぜてもわからないだろうし(笑)。

蜷川べに(津軽三味線)

蜷川 以前、アレンジャーさんを入れて、決め決めの状態で制作したこともあったよね。

亜沙 あったあった。

町屋 2曲くらいやったけど、あまりよくなかったんですよ。和楽器の“らしさ”が出てなかったし、「微妙だね」って。

亜沙 打ち込みでフレーズは作れるけど、演奏者に任せたほうがいい部分は絶対にあって。

町屋 そうじゃないとつまらないしね(笑)。フレージング、演奏の癖にメンバーの個性が出るし、振り幅を決めて、その中で好きなようにやってもらう感じです。