ビッケブランカの4thアルバム「FATE」がリリースされた。
フジテレビ系ドラマ「竜の道 二つの顔の復讐者」オープニング曲としてオンエアされた「ミラージュ」、王道のJ-POPバラード「ポニーテイル」、さらには配信EP「HEY」「BYE」の収録曲なども網羅した本作は「出会い、別れ、運命」をテーマに、ビッケブランカの奔放なポップセンスがこれまで以上に発揮された作品となった。
「タレント揃いのアルバムになりました」と今作の仕上がりに自信を見せるビッケブランカに、アルバムの制作プロセスを語ってもらった。
取材・文 / 森朋之撮影 / YURIE PEPE
“目立つヤツ”が勢ぞろい
──ニューアルバム「FATE」が完成しました。前作「Devil」(2020年3月リリース)から1年半のインターバルなので、コロナ禍の中で制作された作品ということになりますね。
そうですね。ふと気付けばこんなにいい曲作ってあったんだ?みたいな感じです(笑)。シングルとしてリリースした曲やEP(「HEY」「BYE」)の収録曲も入っているんですけど、“目立つヤツ”が勢ぞろいというか。「主役はオレですけど!」みたいな曲ばかりだなと思いますね。
──いいキャラぞろいですよね、ホントに。アルバム制作の起点となった曲はあるんですか?
それで言うと「ポニーテイル」(2021年3月リリース)の存在が大きいですね。思い切り素直なJ-POPなんですけど、この曲ができたことでアルバムに向けて走り出せた気がして。アルバム全体の曲作りにも影響を与えているし、「ポニーテイル」があることで、「蒼天のヴァンパイア」や「Death Dance」みたいな攻めたサウンドの曲も作れたのかなと。
──「ポニーテイル」は切ない恋心を描いたミディアムバラード。まさにJ-POPの王道と呼ぶべき楽曲ですが、制作時からJ-POPらしさを意識していたんですか?
「J-POPを作るぞ!」という気持ちがあったというより、この曲を作ってた時期にめっちゃJ-POPを聴いていたんですよ。どんでん返しを繰り返すような曲に疲れて、おだやかに聴けるJ-POPがいいなと。たまたまそういうモードのときに作ったから、自然にJ-POPらしい曲になったということだと思います。心地よくて、安らげて、まっすぐに歌を伝えられる曲。まあ、もともとポップスが好きですからね。SMAPだったり、“キング・オブ・ポップ”のマイケル・ジャクソンだったり。どこまでいってもそこは変わらないんだと思います。
出会いも別れも、全部が運命でしょ
──アルバムに先駆けて3曲ずつを収めた配信作「HEY」と「BYE」をリリースされました。「出会い、高揚感」をテーマにした「HEY」からは「蒼天のヴァンパイア」「Death Dance」、「別れ、哀愁感」をテーマにした「BYE」からは「夢醒めSunset」「Divided」「Little Summer - Standalone」が収録されています。
もともとはアルバムだけリリースする予定だったんですけど、それだと今までと同じだなと思ってしまって。これまでに3枚アルバムを出したんですが、僕自身もスタッフも「アルバムにもいい曲がたくさんあるのに、どうしてもリード曲やシングルが聴かれがちだよね」という感じがあって。なるべく全曲にフォーカスするためにはどうしたらいいだろう?と話している中で、「アルバムに先行して、EPを出すのはどうだろう」というアイデアが出てきたんです。
──「どの曲もいいんだから、聴いてもらいたい」というのが出発点だったんですね。
曲を作っている人はみんなそう思ってるでしょうけど、思ってるだけではなく具体的にやってみたという感じです。3曲をまとめてストーリー性を持たせればEPとして成り立つし、面白そうだなと。そのアイデアが出てきたのが6月の頭で、「HEY」のリリースが7月、「BYE」のリリースが8月だったので、いきなり制作が大変になったんですよ(笑)。自分のアイデアで自分の首を締めた状態でしたけど、ヒーヒー言いながら作るのも楽しかったし、やってよかったと思います。
──「出会い」と「別れ」をテーマにしたのはどうしてですか?
アルバム自体も明るいだけ、ユルいだけの作品にはならないだろうと予想していたので、EPも楽しげな「HEY」と寂しげな「BYE」に分けてみようと。アルバムのタイトルが「FATE」なので、「出会いも別れも、全部が運命でしょ」ということですね。まずは「HEY」の3曲、次に「BYE」の3曲を聴いてもらって、アルバムも聴いてもらって。「聴いて!」って言えるタイミングが3回もあってうれしいし、曲も喜んでると思いますよ。ちゃんと全曲が注目されるはずなので。
ほかの人と違ったとしても、
美しく澄んで、まっすぐな存在でいたい
──アルバムのタイトル曲「FATE」はミュージカルのような構成の楽曲で、めちゃくちゃドラマティックですね。
この曲、すごく不思議なんですよ。最初にミックスした段階では、「ちょっと攻めた曲」くらいの印象だったんですけど、LAのジョシュ(・カンビー)にミックスし直してもらったら「これがリード曲だ!」って。ジョシュのおかげで、チームの全員がこの曲のポテンシャルに気付けたし、ミックスって大事なんだなと改めて思いましたね。
──具体的にはどう変わったんですか?
それがわからないんですよ。1つひとつの音が生き生きしていて、歌がガツンと聴こえて。単にボリュームを上げたわけではないし、「どうやったの?」って聞くためだけにLAに行きたいくらいです(笑)。「君の手で僕に火を通して」という歌詞があるんですけど、まさにそんな感じ。曲に息を吹き込んでもらったし、ジョシュに頼んでよかったです。それも巡り合わせですね。
──運命ですね、まさに。日本語の響きを生かした歌詞も印象的でした。
日本っぽいというか、和服を着てるイメージですね。「棘が目を掠めた」とか、際どくて戦慄するような言葉もけっこう入っていて。最初は「よだか」というタイトルだったんです、実は。
──「羽ば猛よ よだか 上がれ よだか」という歌詞もあって。これは宮沢賢治の「よだかの星」がモチーフなんですよね?
そうですね。めっちゃ好きな作品なんです。
──「よだかの星」はいろいろな解釈が可能な物語ですが、ビッケさん自身はどう捉えていますか?
初めて読んだのは小さいときだったんですけど、ほかの人と違ったとしても、美しく澄んで、まっすぐな存在でいたいというか。“よだか”はいろんなことに苦しみながらも、1つの場所に向かい続けるじゃないですか。その姿は寂しく見えるかもしれないけど、最終的には一番輝けるんだっていう……最初はそんな感じだったかな。
──子供ながらに共感した?
そうですね。ちょうどその頃、「みにくいアヒルの子」とかも親に薦められて読んでいたんですよ。たぶん、「コイツはちょっと独特みたいだから、それを後ろめたく思わないようにしてあげたい」と思ったんじゃないですかね(笑)。その擦り込みは成功でしたね。
──人と違うことを肯定できるって、すごく大事ですよね。
うん。違っていいに決まってるんだけど、子供はまだ何もわからないから「違っていいんだよ」と言ってあげたほうがいいと思うんです。僕は生意気な子供だったし、学校でもいっぱい怒られていたんですけど、「でも、まだ何もわからないから、とりあえず大人の話は聞こう」みたいな葛藤もあって。ただ、大人になってみて思うのは「小学校のときの、あの先生が言ってたことは全部間違ってた」ということですね(笑)。
──(笑)。でも「人と違う」って、音楽家としては最高じゃないですか。
そうですね。僕が恵まれていたのは、周りと違うことをやっても、周囲から“杭を打たれる”ようなことがなかったんです。周りも面白がっていたし、「あいつ、またヘンなことやってる」と盛り立ててくれて。両親の教育のおかげもあって、人と違うことに引け目を感じなかったのも大きいですね。照れもまったくなくて、「こっちに来い! 俺の曲を聴け!」という感じだったので(笑)。もちろん、否定的なことを言われたり、笑われたこともありましたけど、ぜんぜん気にしてなかったです。成功しているミュージシャンのドキュメンタリーを見ると、みんな必ず人からバカにされた経験があるんですよね。なのでイヤなことがあっても、「よかった、俺も成功したミュージシャンと同じだ」って(笑)。
──素晴らしい。「FATE」の構成もすごくユニークだし、ビッケさんらしさが詰まっていると思います。
かなり遊んでますね。鳥の鳴き声も入ってるんですけど、人によっては馬の鳴き声や人の叫び声に聴こえるみたいで。その人の心の状況によって変わるんでしょうね。
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“文化の転換期”なんだと思います、今は