ビッケブランカ|“運命”に導かれ歌う 欠落から幸運へ向かう10曲のストーリー

“文化の転換期”なんだと思います、今は

ビッケブランカ

──EDMのテイストを取り入れた「蒼天のヴァンパイア」「Death Dance」も、アルバムの軸になっていると思います。

こういうサウンドは作っていて楽しいし、1人でアガってますね。完全にそっち方面に寄せてしまうと真似事の域を出ないと思ったので、日本的なテイストを混ぜてみたという感じです。

──以前はポップスとEDM、方向性を2つに分けて、別のプロジェクトで活動するプランもありましたよね?

そう、完全に分けようとしてたんですよ。海外でEDM、日本でポップスをやって、2つのプロジェクトを同時に走らせようとしたんだけど、コロナの影響でそれができなくなっちゃった。だからEDMのほうがJ-POPに近寄って、「退屈だから混ぜてくれよ」みたいな感じかな(笑)。どちらの曲もうまく混ぜられたと思うし、この前、フェスでやってみたらめちゃくちゃ盛り上がりましたね。バンド系のフェスのお客さんって、DJが爆音を鳴らしてダンサーが踊っている光景はなじみがないかもしれないけど、(EDM系フェスの)「ULTRA」や「SENSATION」ではそれが当たり前じゃないですか。僕は両方とも知っているので、2つの要素を混ぜることができるんだと思います。あと、「蒼天のヴァンパイア」は生ドラムの音でビルドアップしてるんですよ。だからロックフェスのお客さんも盛り上がりやすいんだと思います。

──もう1つのポイントは、歌モノとして成立していることだと思います。これはアルバム全体を通して言えることですが、歌がより引き立っていて、ビッケブランカさんのシンガーとしての魅力がこれまで以上に出ている印象がありました。

確かに歌はしっかり出てますね。ただそれは、ミックスで歌を立たせるという“時代”なんだと思います。今はスマホやパソコンで音楽を聴くことがほとんどだし、例えば1990年代と同じようなミックスだと「歌詞が全然聴き取れないよ」ってことになっちゃう。サザンオールスターズが1978年に「勝手にシンドバッド」でデビューしたとき、歌詞が聴き取れないからテレビに歌詞テロップが出るようになったという逸話がありますけど、ミックスを変えることもそれと同じような“文化の転換期”なんだと思います、今は。それはいいか悪いかではなくて、時代に則しているか則してないかの話かなと。

「悪女」へのアンサーソング

──「オオカミなら」の振り切ったJ-POP感もいいですね。

そうですよね。「ポニーテイル」で味をしめて、「もっとやってやろう」と作ったところはあります、正直。ちょっとふざけてるところもあるけど(笑)、自分が聴いてうれしい気持ちになるんだから、アルバムに入れてもいいだろうと。この曲の歌詞は、自分の中では中島みゆきさんの「悪女」へのアンサーソングなんです。母親が「悪女」が大好きで、僕も子供の頃から「この気持ち、わかるな」と思っていて。その男版ですね、「オオカミなら」は。

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──「悪女」は悪女のフリをする女性を描いた曲ですが、「オオカミなら」は、オオカミみたいな悪い男になりきれない男性が主人公。

そう、悪いやつに全然なれないんですよ。煮え切らないし、男らしく突き進むこともできなくて……つまり僕のことですね(笑)。アレンジは「ポニーテイル」と同じく本間昭光さんにやってもらいました。「全部盛りのJ-POPでお願いします!」とお伝えしたんですけど、テンションコードの使い方、ゲートリバーブやコーラスのかけ方とか、J-POPのセオリーが詰まってますね。ほぼ打ち込みなんですが、ベースだけ生なのも面白くて。根岸孝旨さんに弾いてもらったんですけど、機械みたいに正確なのにしっかりグルーヴがあって、最先端のAIかと思いました。

──サウンドメイクやミックスを含めて、2021年におけるJ-POPの最適解みたいな曲ですね。

そうかも。J-POPのセオリーを踏襲しつつ、今の音楽としてどう返り咲けるか?ということも考えていたので。J-POPは中島みゆきさんやユーミン(松任谷由実)が土壌を作ってくれたと思ってるんですよ。自分たちはその土地を使って、また違う芽を出していかないと。

──そしてアルバムの最後を飾る「天」は、華やかなストリングスが響くポップチューンです。「その時で止まってる」「帰る場所はわかってる」という歌詞にはやはり、この1年半の思いが込められているんでしょうか?

「今の状況を歌ってるんだろうな」と思う人もいるだろうし、その解釈もうれしいです。この曲は「そうですね」という共感の言葉で始まるんですけど、みんなが感じていることに対して、「僕もそう思ってた」と言いたくて。あとはもう、それぞれの希望に向かって走り続けるだけなので。

──1人ひとりが自分の希望に向かって突き進む。リード曲「FATE」のテーマともつながっていますね、それは。

あえてつなげようと思ってたわけではないですけど、同じ人間が作ってるから、自然と結びついたところもあると思います。設楽博臣(G)さん、沖山優司(B)さん、佐野康夫(Dr)さんといったミュージシャンの皆さんの演奏、渡辺省二郎さんのミックスもすごくて、生楽器を生かしながら、今のデバイスで聴いても負けない音になってると思います。

ビッケブランカ
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そこらへんのポジティブ野郎とは質が違いますよ!

──映像付きの形態には3月28日に中野サンプラザで行われた「Devil Tour "Promised"」の映像が収録されていますが、このライブがかなり過酷だったとか……?

そうなんですよ! 東名阪ツアーだったんですけど、すべて2部制で、ほとんど休憩もなく合計4時間くらい歌い続けて。スタッフに「2部制にすると赤字がちょっと減るんだよね……」と言われて「だったらやりますよ!」と言ったんですけど、めちゃくちゃ大変でしたね(笑)。1人で歌いまくって……収録されているライブは最後の公演だから、ホントに限界だったんです。最後のほうなんて、「俺、なんで歌えてるんだろう?」と思ってましたから(笑)。アドレナリンやらドーパミンやらが出てたんでしょうけど、自ら過酷な状況に飛び込むのも好きなので。マゾヒスティックなところもあるんでしょうね、たぶん。あのライブをやり遂げた経験はホントにデカいです。今後、どんなに大きい会場でも、どんなに大勢のライブでも楽勝ですね!

──素晴らしい。ビッケさん、いつもホントにポジティブですよね。

そうですね(笑)。実はめちゃくちゃネガティブな2年間があって、その時期に全ネガティブを使い切ったんですよ。デビュー前の話なんですけど、誰も信じられなくて、めちゃくちゃ自信があった自分の能力も疑うようになっちゃって。その2年間で、「ネガティブな状態ではいいものが生まれない」ということがわかったというか。信じられなくても人と一緒にやらないといけないことにも気付いたし、そこですべてを清算できたんです。本で学んだことや人に言われたことではなく、経験ではっきりと理解できたことが大きかったのかなと。だからそこらへんのポジティブ野郎とは質が違いますよ!(笑)

──(笑)。アルバム「FATE」には、イントロの「Lack」、アウトロの「Luck」が収められています。“欠落”から“幸運”へのストーリーは、ビッケさん自身の前向きな姿勢につながっているのかもしれないですね。この1年半もずっとポジティブでした?

ビッケブランカ

退屈は退屈でしたけどね。ツアーもできなくなったし、お客さんに直接伝える機会が減ってしまったので。ただ、気持ちが落ちることはまったくなくて。病んじゃって曲が作れなくなる人もいたけど、僕はそんなことなかったし、「この荒波、乗れるやん!」みたいな感じでした(笑)。「FATE」というタイトルにも絡んでくるんですけど、すべての瞬間に意味があると思うんですよ。退屈な時期も、だるい時期も、昔のことを回顧するときにも意味があるんだろうなと……ちなみに「Lack」と「Luck」の関係性は、中学生のときに気付いたんです。まったく同じ発音なのに、意味が真逆じゃん!って。あのとき見つけたことが、回り回ってこのアルバムのイントロとアウトロに使われたということですね。

──“すべての瞬間に意味がある”を証明するようなエピソードですね。アルバムリリース後は、全国ツアー「FATE TOUR 2147」が控えています。ライブのビジョンはもうできていますか?

いや、全然(笑)。まずはフラッシュアイデアを出して、それをどう組み合わせるか考えてるところです。アルバムを出したあとのリアクションによっても変わってきますからね。みんなが好きな曲もそうですけど、リリースすると必ず想定外のことが起きるので、それを基準にしてツアーの準備に取りかかろうと思ってます。めちゃくちゃ楽しみですね!

ツアー情報

ビッケブランカ「FATE TOUR 2147」
  • 2021年9月24日(金)福岡県 福岡市民会館
  • 2021年10月1日(金)北海道 札幌市教育文化会館
  • 2021年10月15日(金)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)
  • 2021年10月17日(日)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2021年10月30日(土)大阪府 フェスティバルホール
ビッケブランカ
ビッケブランカ
愛知県出身の男性シンガーソングライター。2014年10月に1stミニアルバム「ツベルクリン」をリリースし、2015年8月には2ndミニアルバム「GOOD LUCK」を発表。2016年10月にミニアルバム「Slave of Love」でavex traxよりメジャーデビューした。2017年7月に1stフルアルバム「FEARLESS」をリリース後、8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」や「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO」といった大型フェスに出演。2018年には4月にメジャー1stシングル「ウララ」を、11月には2ndアルバム「wizard」を発売した。2019年6月に、SpotifyのCMソングとして話題を集めた「Ca Va?」を表題曲とする3rdシングルをリリース。2020年3月に3rdアルバム「Devil」、同年8月にはドラマ「竜の道 二つの顔の復讐者」オープニング曲として起用された4thシングル「ミラージュ」を発表した。2021年3月に、シングル「ポニーテイル」を発表。9月に4thアルバム「FATE」をリリース。同作を携えたツアー「FATE TOUR 2147」を開催する。