ビッケブランカ|ビッケが素直になった理由 とんだ林蘭と語るアートワーク秘話も

ビッケブランカが3月17日にニューシングル「ポニーテイル」をリリースした。

近年「Ca Va?」や「Shekebon!」など、複雑かつ緻密な構成の楽曲でリスナーを驚かせてきたビッケブランカだが、新曲「ポニーテイル」は、“春”をテーマにした純然たるポップナンバー。「染めたてのポニーテイル」に揺れる淡い恋心を、ビッケはまっすぐに歌い上げている。

これまでの音楽制作の方向性から道を外れ、ビッケが“素直なJ-POP”を歌うに至った理由とは?音楽ナタリーではビッケにインタビューし、その理由を聞いた。また特集の後半には、今作のアートディレクションを担当したアーティスト・とんだ林蘭とビッケの対談を掲載。「ポニーテイル」のビジュアル制作について、2人に語ってもらった。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ 撮影 / 曽我美芽

ビッケブランカ インタビュー

この曲はね、非常に素直ですよ!

──「ポニーテイル」、とても素直なポップスですよね。

ビッケブランカ

最近トリッキーな音楽を聴くのに疲れる感覚があるんですよ。これまでは自分の曲においても人の曲においても、聴いていて驚かされるような音楽が好きでした。だけど、ずっと家にいるからやりたいこともやれないし、大変なのに退屈だし……という中で「音楽を聴いているときまで心を揺さぶられたくない」と思うようになってきて。家にこもっている間はずっと優しい曲ばかり聴いていたし、それはつまり自分が今そういう曲を求めているということだから、「たぶん次に書く曲はそういうふうになるんだろうなあ」と予想しながら生活していて。案の定、今の自分の日常感覚にすごく近い曲ができました。

──今の自分がリスナーとして求めているものも踏まえて、素直にアウトプットした結果がこの曲だったと。

そうですね。だから素直です。この曲はね、非常に素直ですよ!

──さまざまなジャンルを自身の楽曲に取り入れてきた経験を経て、原点に帰ってきた感覚もありますか?

ありますね。僕はそのときにハマっているジャンルの要素が新曲に色濃く出るタイプなんです。ファンクもやったし、ラップがめっちゃ入っている曲もやったし、EDMもやったし、ゴスペルの曲もある。いろいろなジャンルの曲を作るけど、取って付けた感じにならないように、制作期間中はどっぷりとそのジャンルにハマって。そうやっていろいろな音楽を知ってから、子供の頃によく聴いていたポップス……SMAPやモーニング娘。、マイケル・ジャクソンのような音楽に戻ってきた感じはします。ピカソに例えるのもおこがましいですけど、風景画を完璧に描けるようになって、「ゲルニカ」のような大作を描いて、いろいろな絵を描けるようになったあとだからこそ、一筆書きのような鳩を描くことに価値がある、みたいな。やっぱり芸術をやっているからにはそんな境地に行けたらいいですよね。

夏目、ちょっと遠回しじゃね?

──ポニーテールをモチーフにした曲は古今東西ありますが、「染めたての」という修飾語がこの曲らしいポイントだと感じました。サビの歌詞はどのようなイメージで書きましたか?

ビッケブランカ

すごく昔の記憶で「いいなあ」と思った風景だったんですけど……めっちゃ天気のいい日で、部活帰りのポニーテールが揺れているんですよ。部活帰りといっても卒業が近くて、髪を染めてもいい時期に入った頃。だから何回も染めているわけではなく今回が初染め。で、初めて染めたその髪の毛が本人もお気に入りなんだろうな、みたいな。そういう人が自分の“左斜め前”にいるようなイメージでしたね。左斜め前ね!

──そうだったんですね。個人的には就活のために黒染めした人を想像していました。

ああ、そういう解釈もあるんでしょうね。イメージの素となるものは自分の記憶の中から引っ張り出したんですけど、この歌に関しては、出てくる人の年齢や顔、関係性を定めていないんです。

──いろいろ解釈ができるような余白があるのもJ-POP的と言えそうですね。

そうやって言ってもらえるとうれしいですね。多面性があるということなので。

──それと、ビッケさんの曲で「ずっと」「いつまでも」「永遠に」といった言葉がこれだけ出てくるのは珍しい気がしました。

今までは「永遠に」という言葉を使わずにどうやって「永遠に」と言おうか、みたいなことを考えていたんです。そういう考え方になったのは、中学の先生が「夏目漱石は『好きです』と言わずに『月が綺麗ですね』と言うんだぞ」と教えてくれたからで。僕はそれを聞いて「夏目、カッケー!」と思ったから、そういう表現はカッコいいものである、いいものであるという考えのもと生きてきたけど、「好きですって言ったほうがよくね?」「夏目、ちょっと遠回しじゃね?」と思うようになってきた(笑)。きっと先生は日本語の奥ゆかしさを伝えるためにその話をしたんだと思うし、それはそれでわかるんですよ。だけど、そこまでの手練れじゃない僕からすると、レベルが高く感じられるんですよね。

──「月が綺麗ですね」と言われたときに「好きです」と言われていることに気付ける人がどれだけいるのか、と。

そうそう。伝わらなかったら意味がないんですよ。今は「回りくどい表現が美しいと思い込んでいるけど、そんなことはないんじゃないかな?」「ハッキリ伝えたほうがいいじゃん」「素直に歌うほうがいいじゃん」というモードなんですよね。だから「凝り過ぎず」「わかりやすく」「綺麗なオブラートに包まないように」というテーマで歌詞を書きました。