ビッケブランカ|ビッケが素直になった理由 とんだ林蘭と語るアートワーク秘話も

自分の後ろに道ができているとも思っていないし、自分の前にも道があるとは思っていない

──実際にこれだけ素直な曲を書いてみて、いかがでしたか?

童心に帰れました。恋愛って大人になってからもするけれど、大人になるといろいろなしがらみが生まれて「ヤキモチをやく」とか「浮気をする」みたいに、お互いが取る行動に名前が付き始め……どんどん複雑化していくと思うんです。だから恋愛をすればするほど、結局「初恋のヤスヨちゃんが一番好き!」という気持ちになる(笑)。なので今回、当たり前の言葉を当たり前に歌うことで、自分の中にずっとあった「あのときの気持ちこそが本物だ」「これこそが一番美しいものだ」という思いを作品にできた感じがします。

──ピュアなものが一番美しいとわかっていても、人としても音楽家としても積み重ねてきた年月があり、身に付けた知識や考え、固定観念もある中で、童心に帰ることって難しくありませんでしたか?

ビッケブランカ

普通に考えたら難しいと思います。でも僕には“積み上げている”という感覚がなくて。僕は人生の目的を定めていないし、過去の記憶は大切にするけど、自分の軌跡を意識する必要はないかなと思っています。その時々でいいと思うことをやっているだけだから、自分の後ろに道ができているとも思っていないし、自分の前にも道があるとは思っていない。だから童心に帰れたのかもしれないですね。

──なお、この曲の編曲を担当した本間昭光さんとは付き合いが長いんですよね?

そう、意外と長いんですよ。だけど一緒に制作するのは初めてでした。今回は「せっかくストレートに歌っているから、リスナーに歌詞を全部聴いてほしい」という思いがあり、初めてボーカルディレクションもしてもらって。それがすごく新鮮だったんですよ。いつもは自分で判断しているんですけど、「もう少しはっきり発音して」みたいな指示をいただけるので、こんなにも楽になるんだ!と。

──そうなんですね。

「どっちにしよう?」と迷うことが1つもありませんでしたからね。僕が「本間さんがいいと思うほうでいいですよ」と言えたのは、本間さんには昔からお世話になっていて、僕も本間さんが作る音楽をいいと思っていて……という信頼があるからなんです。それがだいぶよかったし、いい方向に転がった自信もあります。

本当の涙じゃコンタクトは潤わない

ビッケブランカ

──カップリングの「天」はBメロで転調したり、2番サビ前にドロップのような展開があったりと、「ポニーテイル」よりひねりの効いた構成です。

しかも2番のAメロから間奏に行きますからね。「天」は「ポニーテイル」と違って2年前ぐらいからある曲なので、構成で遊んでいる感じがします。歌詞は……2番がいきなり「そうですね」から始まるのがすごく好きで。

──そこから始まるコンタクトの話もロマンチックでした。

「涙と同じ成分」「潤う!」みたいな広告の目薬っていっぱいあるじゃないですか。だけど本当に悲しくて出てきた涙って塩分濃度がすごいから、コンタクトが一瞬でパキパキになるんですよね。だから、本当の涙じゃコンタクトは潤わない。涙はむしろコンタクトを壊すんです。

──それは調べて知ったんですか?

いや、これは実際に経験して知ったことですね。「天」は1つの別れを描いた曲なんですよ。言葉は素直だけどアイデアは詰まっていて、すごくいいバランスで仕上がったなあと思っています。

ひさしぶりすぎて間違えて絶望

──今作のCD+Blu-ray盤、CD+DVD盤、French Link(ファンクラブ)限定盤には、ライブ映像が収められたディスクが付属しています。こちらにも収録されている昨年12月開催のライブ「Billboard Special Live」は、2020年唯一の有観客ワンマンでした。

このライブで「まっしろ」というバラードを歌ったんです。イントロをすげー大切に弾いている曲なんですけど、ひさしぶりすぎて間違えて絶望しました(笑)。そんなこともありましたけど、ライブは楽しかったです。

──アレンジや編成をあえて“ビルボード仕様”にせず、普段と同じバンド形態でやっていたのも新鮮でした。

ビルボードでPaul Reed Smithのギターを思いっきり歪ませるっていうね(笑)。でもそれは、ビルボードでライブをしたことがないから、何も考えずバンドでやっちゃっただけで。こんな大きい音を出すんじゃなくて、もっといい雰囲気でやればよかったなあってあとから思いました(笑)。でもそういうステージの雰囲気と合致していない感じ、「それでもやっちゃう!」というテンションも面白おかしくて。すごく楽しかったです。