ビッケブランカ|揺らめく音の向こうに見つけた自分の本質

ビッケブランカが8月19日にニューシングル「ミラージュ」をリリースした。

玉木宏が主演し、主人公の双子の兄弟役を高橋一生が務めるカンテレ・フジテレビ系ドラマ「竜の道 二つの顔の復讐者」のオープニングテーマとして書き下ろされた表題曲「ミラージュ」は、復讐劇を軸にしたドラマの世界観ともリンクした、エモーショナルなミディアムナンバー。さらに、3月にリリースされた3rdアルバム「Devil」の収録曲である「Shekebon!」も再収録され、ビッケブランカの幅広いポップセンスを体感できるシングルに仕上がっている。

コロナ禍には「自由に動ける時間ができたから、どんどん曲を作っていた」と話すビッケブランカ。今回のインタビューではシングル「ミラージュ」の制作プロセスを軸に、現在の創作モード、アーティストとしての今後のビジョンなどについても語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 山崎玲士

“どマイナー”の曲は最近なかった

──ちょうど3rdアルバム「Devil」がリリースされた3月上旬から世の中が一変してしまって。ビッケブランカさんがリスペクトを表明しているミーカの来日公演もキャンセルになってしまいましたね。

残念ですよね。ジョナス・ブルーが僕のラジオ番組(FM802「MUSIC FREAKS」)に来てくれるはずだったんですけど、彼の来日公演も中止になっちゃった。またいつか来てくれると思っていますけどね。

──ビッケブランカさんのアルバムツアー「Tour de Devil 2020」も延期になって。日々の生活も大きく変わりましたよね?

ツアーが延期になったのはもちろん残念でしたけど、それ以外のところはそんなに変わってないんですよ、実は。その前からあまり人には会ってなかったし、好きなオンラインゲームは自粛中もやれるし(笑)。確かに時間はかなりあったので、ずっと曲を作ってましたね。4月以降だけで4曲くらい作ったんですけど、好き放題、楽しくやってました。

──そして8月19日にニューシングル「ミラージュ」がリリースされます。ドラマ「竜の道 二つの顔の復讐者」のオープニングテーマですね。

完全にドラマのために書き下ろした曲ですね。ちょうど「Devil」のツアーリハーサルをやっていた時期だったんですけど、ドラマの台本を読んで、主人公たちの気持ちを自分の中に入れて、一気に書きました。勢いのまま作り切った曲です。最近、こういうシリアスな曲はあまり書いてなかったので、ドラマのオープニングの話をいただけてよかったです。

──昨年5月発売のシングル「Ca Va?」のインパクトが大きかったこともありますが、ここ最近はポップに振り切ってるイメージもありますからね。

曲のバリエーションはだいぶ変遷してるんですよ。曲を作り始めたばかりの頃は、ゆったりしたマイナー調の曲が多かった。それがある程度書けるようになってくると、テンポの速い踊れる曲を作り出して。そのスタイルを続ける人もいるんですけど、僕はもう一度ミドルテンポの曲に戻ってきて、そこからさらにいろんなタイプの曲を作ってきました。今はそのときの気分でやってるんですけど、「ミラージュ」のような“どマイナー”の曲は最近なかったんですよ。ドラマに引っ張ってもらった感じです。

──ドラマの台本の印象はどうだったんですか? かなりシリアスな内容なのかなと。

復讐劇ですからね。確かにシリアスなんだけど、プロデューサーの米田孝さんに「ユーモアの要素はあるんですか?」と聞いてみたら「あります」と。シリアスなドラマであっても、クスッと笑える場面があるかどうかで、印象はかなり違うじゃないですか。そういう部分もあるということだったから、だったら歌詞には言葉遊びを入れようかなと。そうやって対話しながら作っていきました。

──ドラマの世界観ともしっかりリンクさせながら制作したと。

はい。自分の感情を乗せようなんて1%も思っていないです。ドラマの台本を読んで大枠を理解すれば、共感するのかしないのかは自分の根っこのところで自然に決まりますから。それを踏まえて曲を書くことで、自分の感情や言葉は勝手に出てくるんですよ。意図して「ドラマのこの部分とあそこの部分を連結させて、ここに自分のメッセージを込めて」みたいなことはまったくやってないです。

ビッケブランカ

個性みたいなものはほっといても出る

──「ミラージュ」という曲名も自然に浮かんできた?

それも巡り合わせですね。「ミラージュ」の制作の時期にたまたまアナログシンセを買って、その音の印象から“蜃気楼”という言葉が出てきたんです。見えてるけど手が届かない、みたいなイメージですよね。

──アナログシンセに興味を持ったのはどうしてなんですか?

きっかけはOrbital(1990年代のUKクラブシーンで活躍したテクノユニット)ですね。Spotifyで関連アーティストをたどっているうちにOrbitalを知って、「インストでこれだけの世界観を作れるのはすごいな」と思ってYouTubeで検索したら、彼らのスタジオの様子を撮影した動画があったんです。アナログシンセのツマミを手でいじりながら音を作っているのを見て、「俺もやってみよう」と。

ビッケブランカ

──それが「ミラージュ」の憂いのあるサウンドにつながった?

そうですね。手でツマミを触りながら音を作ると、どうしても不安定になるんですけど、それが人間味につながっていく気がして。「これは面白いな」と思いました。ただ、レコーディングのあとすぐに返品しちゃったんですよ。家で操作してたら、いきなりビビーッってノイズが鳴り始めて。どうやら不具合があったみたいで。かなり古いビンテージ機材だし、そういうこともありますよね(笑)。

──一期一会ですね(笑)。

それも巡り合わせです。どの曲もそうなんですよ。そのときに興味のあるサウンド、手にした楽器……あとは直前に食べたごはんの糖質が、どう体内を巡ったかもそう(笑)。自分でもどういう曲になるかわからないし、面白いです。「ミラージュ」ができあがったときは、歌詞の面でも音作りにしても「自分にはこんな引き出しがあったんだな」と思って。こういうマイナー調で激しい曲って、意外と自分の本質かもなとも思いましたね。

──なるほど。ドラマの制作サイドの反応はどうでした?

一発OKでした! 今までのタイアップ系の曲、すべて一発OKをもらってるんですよ。あるアニメの主題歌を作らせてもらったときなんて、逆に「もっとビッケブランカさんらしい曲にしてもらっても大丈夫です」と言われたこともあって。最初に「ギターロックで」というオファーをもらったからギターをバンバン出した曲を作ったんです。そうしたら「ここまで寄り添ってくれるなんて、すごい。完全に信頼したので、もっとピアノを使ったビッケブランカさんらしい曲で大丈夫です」と。

──タイアップ楽曲を制作するときは、完全に映像作品に寄り添うと。

そうです。どれだけ寄り添っても自分らしさは必ず出るっていう自信があるんですよ。ドラマ、アニメのことを意識して作ったとしても、ミュージシャンとしていままで培ってきたもの、本などから吸収した知識などは絶対に乗っかるので。「どうやって自分らしさを出そうか?」という葛藤はまったくないです。個性みたいなものはほっといても出るし、日々磨いてますからね。