ビッケブランカ|悪魔になる覚悟 ありのまま解放した3rdアルバム

ビッケブランカが3月4日に3rdアルバム「Devil」をリリースした。

2018年11月発表の「wizard」以来のアルバムとなる今作には、ビッケの新たな代表曲となったSpotifyのテレビCMソング「Ca Va?」、アニメ「ブラッククローバー」のオープニングテーマ「Black Catcher」といったタイアップ曲や、インディーズ時代の名曲「TARA」の新ミックスバージョン、リード曲となったダンスチューン「Shekebon!」など、バラエティ豊かな11曲が収録されている。音楽ナタリーでは、渾身の1枚に詰め込んだ思いをビッケ本人に聞いた。

取材・文 / 内本順一 撮影 / 山崎玲士

曲作りの簡素化

──制作はスムーズに進みましたか?

はい。1stアルバム「FEARLESS」、2ndアルバム「wizard」と違って、シングルをたくさん出していたので。「wizard」は「アルバムを作ろう!」ということで曲を書いていったけど、今回はシングル曲を並べて、足りない部分を埋めていくという作り方だったから、まあスムーズでしたね。

──全11曲の中で初めにシングルリリースされたのは2019年4月の「Lucky Ending」。この曲が今作のスタート地点ということになるわけですね。

そうですね。そこから約1年かけて仕上げたアルバムって感じです。

──この1年の気分が反映されたアルバムになっていると思いますか?

思います。この1年で曲作りの簡素化が進んでいるんですよ。例えば「Ca Va?」にしても「白熊」にしても、もっと音を入れようと思えば余地はいくらでもある。それを埋めていくのがJ-POPなのかなと思うけど、最近の自分はむしろ抜くことがほとんどで。その代わり、入れる音の1つひとつは強くするっていう考え方なんです。そうすると必然的にメロディも歌詞もシンプルで強くなきゃならない。なぜならたくさんの音でごまかすことができないから。っていうのが、ここ1年くらいの自分の流行りとしてありましたね。

──J-POPの主流では、ここぞというところでドラマチックなストリングスが入ってきたりもするけど、その逆をいっている。

そうですね。別に反発したいわけではないですけど、自分はもうそういう盛り盛りの曲を聴いていられなくなってきたというか。飽き飽きしてるんですよ。せっかくメロディと歌詞に注力して作っても、そこにいろんな音が乗っかると邪魔だなと感じてしまう。「なんとかだからー」と歌うとして、その「らー」の息がふっと途切れるところに魂を込めても、そこに盛り上げるようなバイオリンが被さると、魂が消えちゃうわけです。そういうのをなくして、最低限の音と歌を際立たせるために余計なものはナシっていう。Carpentersくらい音は少なくていいんです。カレン(・カーペンター)の歌を聴かせるためだけに音がある、みたいな。

──なるほど。そのあたりを意識しながら曲を作っていった。

意識してというより、自然とそうなりましたね。「Lucky Ending」しかり「白熊」しかり。でも、一方で凝ったアレンジが好きな自分もいるわけですよ。そっちの欲求はEDMのほうで出す。あと「Black Catcher」のようなロックもその部分を担ってますね。そうやって自分の中で住み分けができつつあります。

ビッケブランカ

“Ca Va?システム”の発明

──前作「wizard」には「キロン」「Smash(Right This Way)」とEDM的なアプローチの曲が入っていましたが、今作に収録されている「Save This Love」「Heal Me」の2曲はさらにそれを押し進めたものになっていますね。

アルバムには世界基準のダンスミュージックを必ず入れたいんです。なので、その2曲は相当注力して作りました。前作のときよりノウハウがわかった分だけ、より遊べるようになった。遊べるようになったといえば、「Shekebon!」も「Ca Va?」が多くの人に受け入れられたから作れた曲なんですよ。「Ca Va?」はふざけて作った曲だったんですけど……というか本気でふざけて作ったらうまくいった曲だったんですけど、あの曲作りのスタイルを1回きりで終わらせるのはもったいないなと思って。実はあれはいい発明だったんじゃないかと思えて、その枠組みで何かやれないかなと作ったのが「Shekebon!」だったんです。

──常識的な曲展開のあり方に捉われることなく、自由度を重視して作る。

そう。でも、そういう自由度の高い曲を作って入れられるのは、「Avalanche」のように芯を食ったいい曲が書けているからでもあって。「Avalanche」は「THUNDERBOLT」「Great Squall」と続いた“自然の力3部作”の最後を締める曲ですけど、こういう曲をアルバムの最後に置くことで、すべてよしとなるってところはありますね。

──確かにそうですね。それにしても、やっぱり「Ca Va?」はビッケの中での発明というか、1つの新しい扉を開けた曲だったんですね。

偶然ですけどね。それを教えてくれたのはライブに来てくれるお客さんだったんです。

──というと?

ライブで演奏して、あの曲構成だからこそ生まれる一体感があるということを教えてもらった。この曲がライブでここまで化けるんだって驚いたというか。正直、作ったときはあんなふうに盛り上がる曲になるとはまったく思っていなくて。

──会心の1曲ができたというふうに思ったわけではなかったんですか?

「笑えるでしょ?」くらいの感じだったんですよ。だからお客さんの熱い反応によって初めて、“Ca Va?システム”が発明だったと思えたんです。

──そうなんですね。

それと「まっしろ」でビッケブランカを広く知ってもらえたあとに「Ca Va?」を出したことで、いろんなことをやれるということを示せたのもよかった。ヘタしたら信頼を失う結果にもなりかねないじゃないですか。「まっしろ」で知った人が「Ca Va?」を聴いたら、「なんだ、美メロ系シンガーソングライターじゃないんだ」ってなるでしょ?(笑) 続けてバラードを出していたら美メロ系ピアノマンとしての信頼を得ることができただろうけど、俺はその道を選択しなかった。得られる信頼がどの程度のもので、そのあとにどれだけの不自由があるんだろうと考えたら、バリエーションを示したほうがいいだろうと思ったんです。