曲にふさわしい見せ方、出し方を
──先程話していた「世界基準のダンスミュージック」という部分についてですが、それは自分の表現したいこととして常にあるわけですか?
あります。今一番伸ばしたいのがその部分かもしれない。
──リスナーとして、そういうものが好きだから?
それもあるけど、海外に行く機会が増えたことが大きいですね。アニメのタイアップで海外の人と触れ合う機会が増えたし、中国で公演したりもするようになった。そうすると、いかにこの島国・日本がもったいないことをしているかという感覚になるんですよ。日本から1歩出ると、言語に関係なくいろんな国の音楽が当たり前に流れていて、ものすごく開かれている。例えばオランダ人の作ったダンスミュージックをアメリカ人がパーティで聴くなんて普通にあるし。でも日本のポップミュージックは日本のものとしてしか存在できないようなところがどうしてもあって。アニメの日本語の曲が海外で聴かれることはあっても、それはあくまでも日本のものとして聴かれているわけだから。
──“日本人がやっている”という前提なしに聴かれるようになるのが理想だと。
そう。せっかく音楽という世界に広げられるものをやっているのに、日本でしかしゃべられていない言語を選んで、それだけでやる意味がどれだけあるのかと。もちろん日本の人たちのためにも歌うけど、1億人じゃなくて10億人に向けて歌うものがあってもいいじゃないかと思っていて。なので、そういった方面に向けてもちゃんと精度を上げていきたいんですよ。
──言葉だけじゃなく、サウンドも。
もちろん、サウンドメイキング含めて。
──それをやっているのが「Save This Love」と「Heal Me」ですが、日本語楽曲と分断された印象はなく、いいバランス、いい流れで1つのアルバムの中に共存していますよね。
そう言ってもらえるのはありがたいんですけど、日本の歌も世界基準の歌も同時に真剣に作っていく中で、混在させるのはもったいないなという感覚も実は最近出てきていて。ビッケブランカ1人にその2つを担わせるのは、ちょっとどうなんだろうというか、「より信頼をなくすぜ?」って気持ちもあってね。それで、近い将来、ビッケブランカとは別の音楽性のものをSpotify上に誕生させようと企んでいるんです。日本語のポップスを歌うビッケブランカと、英語でダンスミュージックをやるもう一人のキャラクターを同時に存在させる。日本の曲が入り得ないSpotifyのプレイリストとか、海外でやるEDMのフェスとかには、そっちの名義で出ていくことになるわけです。
──それはとても大胆な試みですね。
それも信頼を得るためなんですよ。例えばビッケブランカの「Save This Love」をたまたま聴いていい曲だと思ってくれた海外の人がいたとして、その人がほかのビッケブランカの曲も聴いてみようと思って「かたうた」を聴いたら、「なんだこれ? 俺の好きなEDMのアーティストじゃないんかい!?」となると思う。そうしたら、それ以上聴こうとは思わないですよね。だから、海外のリスナーの嗜好性と自分が作りたいと思う世界標準のダンスミュージックの垣根を取っ払うためにも、そのジャンルに特化した見せ方をして、こいつは面白いダンスミュージックを作るやつだという信頼を得ていく。
──その発想は、日本で英語のダンスミュージックをやることの窮屈さから出てきたんですか?
いや、そういう閉塞感からというよりは、この曲たちをリスナーががんばって理解しようとする英語のダンスミュージックとして存在させるのはもったいないという気持ちからですね。
──確かにアルバムを聴く人の中には、普段英語の曲は聴かないしダンスミュージックに親しんでいないからという理由で、その2曲を飛ばす人もいるかもしれない。
その可能性は大いにあると思うんです。だから曲にふさわしい見せ方、出し方をしたいんです。
悪魔になる覚悟
──ところで、アルバムタイトルはなぜ「Devil」に?
いや、なんか最近、ちょっと俺の性格が悪くなっていると(笑)。
──(笑)。誰が言っているんですか?
風の噂でね。わがままになってきてると、そういう噂がありまして。でも自分としてはそんなんじゃなくて、こう、どんどんレベルが上がってきてる感覚なわけですよ。挑戦しなきゃならないハードルも高くなってきているし、敬意を持てるアーティストの方たちとようやく横並びに立てるレベルにまで来たという実感もある。最近はその中で楽しむことができているんです。今までは対バンとかでもそういうメンタリティにはならなかったんですけどね。でもそうなるとまた負けん気の強い俺としては、10組いたらその中で一番いいライブをしたいと思うわけですよ。ってなってくると、生半可なことをしていたら負ける。負けないためには自分の歌唱も曲作りもライブの作り方もメンタルの作り方も、相当研ぎ澄ましていかないと。より精度を高めていく必要があるわけです。そうなると、周りのボヤーンとした意見とかヌルい進捗とかが気になり始めて、それを忌憚なく言うと「酷い」と言われる。でも俺としては筋が通ってるから。
──現状維持じゃダメなんだと。
そう、チームとしてね。バックバンドも含めてですよ。みんなで一丸となって、1つレベルを上げようぜ!ってタイミングに来てるから、俺は必然的に心を鬼にして言うわけです。そうすると「キツい」って言われる。「悪魔だ」みたいな(笑)。
──だったら悪魔でかまわないと。
そういうことです。そのくらいの覚悟でいるってことですね。曲作りに関しても、“普通にいい曲”みたいなのはもう慣れてきちゃってて。それは言葉の選び方もそう。例えば「白熊」で「君が悲しいのは誰のせい 僕がこらしめてあげよう」と歌っている。昔の「Echo」って曲で「君がどんなに辛くても ぜんぶ引き受けよう」って歌ってましたけど、今は「君を悲しませたやつを俺は許さんぜ」というふうに、ちょっと攻撃的になっているというか。そういう変化もあるわけです。で、さっき言った「Save This Love」と「Heal Me」は日本のポップスの表現からかけ離れたもので、かけ離れきれたという満足感もある。歌詞もサウンドもだいぶ攻めることができたので。もうね、思ったことを調整せずに、ありのまま出すっていう。
──少し荒っぽい悪い子に見られるかもしれないけど、おとなしくいい子に収まる気なんてさらさらないってことですね。「俺はもっと自我を解放するからな」という宣言的な。
そうそう、その感じ。タガを外してる感じっすね。それを「Devil」って言葉で表したんです。
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やっぱり実体験は強いっすよ