やっぱり実体験は強いっすよ
──では、改めて収録曲について聞いていきます。まずイントロダクション的な「Devil」。
アルバムタイトルを決めて、そのあとに作りました。ここはいつもアルバム名を決めてから作る場所なんで。
──マイケル・ジャクソンの「Thriller」的な笑い声が響きつつ、オチもある。
「Devil」ってことで怖いと思われたらイヤじゃないですか。だから、雰囲気作ってデビルになりきっているけど、隣から「うるさい」って言われたら面白いかなと(笑)。
──2曲目は「Shekebon!」です。
さっき言った通り、“Ca Va?システム”でもう1回曲を作ってみたらどうなるだろう?という実験的な曲ですね。昔はいかに琴線に引っかかるメロディを書けるかってことを考えながら作っていた。でもいろんな音楽を聴くようになって、テクニックも持って、今は「♪シェキボンボン・シェキボンボン・シェキボンボン・シェキシェキシェキシェキ」ってだけでよしとしちゃってるんですよ。1つのコード感とメロディを当てただけでも十分なんです。遊べる要素があるとつい遊んでいろいろとやりたくなっちゃうものですけど、そんなにいろんなことしなくても十分面白い。
──歌詞の中では「ああ、僕ら、好き勝手夢を描いていけるから」というフレーズがいいですね。「描いていけるかな」ではなく「描いていけるから」と言い切るところが、ビッケらしい。
言い切りたいんですよ。自分が自然とそういう言葉を選べる精神性でよかったなと思いますね。
──4曲目は「TARA」のリミックス。2015年の2ndミニアルバム「GOOD LUCK」に入っていた曲で、自分はビッケブランカのバラードの中でも屈指の名曲だとずっと思っていて。
ありがたいです。自分もそうなんですよ。でもライブではもうずっとやっていなくて。今度やるとしたら、過去の曲として聴いてもらうより、このアルバムに入れたうえで歌ったほうがきっと価値が出るだろうってことで入れました。ライブでやりたいから入れたっていうのが一番正直なところですね。
──この切なさに満ちたメロディと歌に加え、情景描写の優れた歌詞が素晴らしいです。
実体験から書いたんですけどね。やっぱり実体験は強いっすよ。想像で書く歌詞では敵わないものがありますね。そのときの状況、環境、自分の成熟度とか、いろんなことが混ざって出てくるものだから。
──「急ぐ恋人には サファイアの街が そっと肩を抱くよ」なんて、なかなか書けないと思います。
うん。「Bad Boy Love」みたいに寓話を細かく書くことはあったけど、実体験から情景を描くことはあまりやってこなくて。自分の思い出の中の花火が少し窓を震わせる描写とかは、やっぱりそのときにしか書けないものですからね。過去の曲は過去の曲として「新曲で勝負しろ」と言う人もいるけど、「人間、こんな奇跡みたいな曲を10曲も書けるハズないんだから、だったらその1曲をこうやって大切にしてもいいんじゃない?」と改めて思いました。
英語だと惜しげもなく歌える
──6曲目は「かたうた」ですが、とうとうアルバムに入れちゃいましたね。
入れちゃいましたね(笑)。いや、人気高すぎて、この曲。
──ライブのアンコールでリクエストを求めると、必ず誰かが「かたうた」と言いますもんね。10月のZepp Tokyoのワンマンでも歌っていたし。
そう。なんかしゃくなんですよ。スランプだった頃にリハビリで作ったこの曲が一番好きと言われるのが(笑)。「だったらちょっとポテンシャル見せてみろよ、かたうた」ってことで入れました。音源化してもそんなにいいって言われるものなのか?って。
──特に楽器を加えたりせず、ライブでやっている通りのピアノ弾き語りで。
これはだって、これしかないですから。飾り付けるほど寒くなる気がする。ちゃんと作り込んだりしたらダメなんです、この曲は。どこか欠落させとかないと。だから歌詞も(歌詞カードに)載せません。
──7曲目は「Black Catcher」。テレビアニメ「ブラッククローバー」オープニングテーマの「Black Rover」との連続性が明確にあるロックナンバーですね。
そうです。俺の大好きな連続性(笑)。
──思えば「Black Rover」によって開かれた扉というのも確実にありましたよね。
海外の人はあの曲で知ってくれましたからね。海外に向けてのプロモーションをしていなかったし、YouTubeにもアップしていなかったのに、それでもSpotifyで1700万再生回ったという。で、その再生のほとんどがアメリカ。なので今回も連続性がありつつ、クオリティの高い曲を作りました。「ブラッククローバー」の製作委員会も前の曲で俺を信頼してくれているから、自由にやらせてもらえました。
──そこから「Save This Love」、そして「Heal Me」と続きます。さっき話してもらった通り“世界基準のダンスミュージック”ということですが、バンドサウンドでこれをやるという発想は最初からなかったんですか?
なかったです。「Save This Love」はトラックとメロディを同時に、このために考えた。「Heal Me」もそうです。
──そういう作り方をすると、出てくる歌詞も変わってきたりするんですか?
「Save This Love」はこういう曲調なので、憂いを帯びた英語詞になるわけですよ。しかも英語詞だと自分の語彙が少ない分、シンプルな歌詞になる。日本語のときとはだいぶ表現が変わりますね。
──日本語だと恥ずかしくて言えないようなことも言えちゃうっていうところがありそうですね。
そうなんですよ。これを日本語で歌うとなるとだいぶつらいと思うけど、英語だと惜しげもなく歌える。英語詞は歌いやすいですね。オレの発話にも合うので、一気に表現力のあるやつみたいになる(笑)。だから歌い回しが変わります。「Heal Me」も英語であるゆえに表現豊かに歌えていると思う。
──10曲目は「白熊」。この曲は展開が多くどんどん変化していくし、カントリーロック調のギターから美麗なストリングスまでけっこういろんな楽器が代わるがわる入ってくるけど、全体を通しての印象としてはごちゃごちゃした感じがまったくない。むしろ流れるように進んでいく。そのあたりは意識してのことですか?
たぶん言葉に力があるから、そういうふうに聞こえるんじゃないですかね。確かにバンドのグルーヴが前に出るようにとかストリングスが目立つようにとかはしなかったので、ごちゃごちゃした感じにはなってないんですけど、それに加えて「上等だ」といった強い言葉が前に出るから、そっちのほうが印象に残るというベストな聞こえ方になってるんだと思います。
信念のもとに歌い切ることができた
──そして最後の曲が「Avalanche」。さっき話していたように“自然の力3部作”の最後を飾る曲です。
「Great Squall」が完成したときから、次のアルバムの最後の曲は何をテーマにしようかと考えてました(笑)。ここは自然の力を借りて心底エモいことを言える枠だし、その曲がいいものになればアルバムは全部OKになるという確信があったので。そういう“超信頼枠”という感じです。「まっしろ」「Winter Beat」「白熊」と、冬の曲にいいと言ってもらえるものが多いので、冬か雪をテーマにしようと思って、冬の大自然の力と言えば吹雪か雪崩だってことで、雪崩をテーマにこの曲を書いたんです。
──そうやって大自然の力を借りることで、内に秘めていた自分の本心……本当は何を言いたいのかが溢れてきた感じなのかなと、この曲を聴いて思いました。
書きながら自分の思いに気付く感じでしたね。22、23歳の自分を思っているんですよ。事務所にも入らずに大学を辞めて、一番宙ぶらりんだった2年間の自分。今では美談のように「曲作りばっかしてました」とか言ってるけど、実際に寝る間も惜しんでやってたか?というと、週に一度は麻雀してるんです。目的持ってやってるふうに見せながら、気を抜いてる時間も絶対にあるわけで。そういう自分が嫌になったりもしてたんですけどね。でも「一生懸命やってる」と言いながら、心の中では「本当にやりきれてるのかな?」「実際はそうじゃない。最低だな」と思ってる人って、たくさんいると思うんですよ。
──そうですね。
そんな人たちに対して、「見てくれよ、俺を」と言えるギリギリのラインに立てたことをようやく自負できるようになった。やっとその人たちを後押しできる。今なら雪崩のように誰かを巻き込んで、夢を見ている人たちに「幸あれ」と言うことができる。ちゃんと自分が存在しているから、言葉も強くなる。自分とみんなの感覚は一緒だという、その信念のもとに歌い切ることができたので、これはすげえ価値のある曲だと思うんです。
──アルバムの最後に思いをしっかり言い切る、こういうエモーショナルな曲が1曲だけあるというのがいいですね。
はい。この1曲に全部つぎ込みましたからね。
本当の意味でのスタートライン
──さて、そんなアルバムを携えて、4月にはツアー「Tour de Devil 2020」がスタートします。初のホールワンマンも含まれていますが、なんだかようやくビッケのスケール感に見合った会場でできるようになったんだなと感慨深いです。
あはははは(笑)。
──2015年に初のワンマンを渋谷TAKE OFF 7で観たとき、この男の声の大きさはホールでこそ生きるものだなと感じたんです。今ではZeppレベルの会場をいっぱいにするようになったけど、それでももっと大きいところのほうが合うはずだと思っていました。自分でもそんなふうに思うことはありました?
そうですね。今言われてTAKE OFF7のときのことを思い出しましたけど、正直「このサイズじゃ何もできないな」と思ったんですよ。あれから4年半経って、ようやく自分の理想とする形でライブができるようになったという思いは確かにありますね。「THUNDERBOLT」のような曲も、ホールでなら曲本来の姿で披露できる。ようやくここまできたなって感じです。だから、曲を本来の形で表現できるという意味では、このツアーが本当の意味でのスタートラインだとも言えるわけで。逆に言えば、そのサイズのハコでやってうまくいかなかったとしたら、それは自分の練りの甘さにほかならない。万全のパフォーマンスができる環境があるわけですからね。サイズのせいにできないだけに、相当集中しなきゃダメだし。だからがんばろうって思います。すごい楽しみですよ。
──バンド感も回を追うごとに増しているし。
うん。バックバンドもサポートというよりバンドになってますね。個人個人がそれぞれでレベルアップしてくれているから、グルーヴがいい感じに高まっている。誰一人、今のままでいいと思っているメンバーがいないというのは、かなり心強いです。
──どうですか。ここまで来るのは自分的には早かったのか、遅かったのか。
まあでも、マイペースにやっていただけですよ。大きな目標を掲げずに自然にやってきてこうなったから、よかったかなと。その中で「まっしろ」があって「Ca Va?」があって。それは聴いてくれた人たちのおかげですからね。だからホント、そのことを絶対に忘れないようにしてやっていかなきゃなと思っています。
ライブ情報
- Tour de Devil 2020
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- 2020年4月3日(金)宮城県 Rensa
- 2020年4月12日(日)石川県 金沢EIGHT HALL
- 2020年4月18日(土)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2020年4月29日(水・祝)大阪府 オリックス劇場
- 2020年5月1日(金)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
- 2020年5月3日(日・祝)広島県 広島CLUB QUATTRO
- 2020年5月4日(月・祝)福岡県 DRUM LOGOS
- 2020年5月9日(土)東京都 中野サンプラザホール