ビッケブランカが11月21日に2ndアルバム「wizard」をリリースした。
切なくも美しいバラード「まっしろ」が日本テレビ系ドラマ「獣になれない私たち」挿入歌として使われ、注目度が高まっているビッケブランカ。彼が2017年7月の「FEARLESS」ぶりに発表したアルバム作品にはローファイなロック「Buntline Special」からエレクトロなサウンドアプローチで新境地を切り開いている曲、ヒットポテンシャルに満ちたポップソング「Winter Beat」まで、前作にも増してカラフルに彩られた楽曲の数々が収録された。
このアルバムは、はたしてどのように生まれたのか。ビッケブランカに話を聞いた。
取材・文 / 内本順一 撮影 / 須田卓馬
四季を完結させるためには冬の曲を作らないと
──「wizard」、いい曲ばかりでした。ご自身も今作で1stアルバムを超えられたという実感を持てているのでは?
前作もそうでしたけど、何も考えず自由に作っていっただけなので。“超えた”というのは、あんまり。1つの独立した作品として考えて「ああ、今の自分はこれなんだな」って感じです。
──曲はどんどんできていったんですか? それとも多少難航したところもあった?
限られた時間の中でどれだけ密度の高いことをやれるかっていう駆け引きは自分の中ではありました。ただ「早めの段階で冬の歌を仕上げてしまおう」と考えていたので、「Winter Beat」と「まっしろ」は夏の間にもう書き上げていたんですよ。その2曲にしっかり時間をかけて「できた! 最高!」って気持ちになったので、そのあとにほかの曲に取りかかった。最高の2曲ができたので、ほかの曲ではもっと自分の嗜好性を強く入れてもいいなと思いながら作っていきました。
──冬の歌を作ろうということを早い段階から決めていたわけなんですね。
今年は春の曲(「ウララ」)で始まって、そこから夏の曲(「夏の夢」)へと続いたので。あと秋の曲はもうあるから(「秋の香り」)、四季を完結させるためには冬の曲を作らないとな、と思って。
圧倒的な多様性の正義
──イントロダクション的な表題曲「Wizard」で始まり、冬向きのキラキラしたポップソング「Winter Beat」が来て、バラードの「まっしろ」へと続いていく。この頭3曲でもうグッと心をつかまれてしまうのですが、ご自身も「Winter Beat」と「まっしろ」ができた段階で「よし、これでいける!」という確信が持てたのでは?
そうですね、それはありました。あとはこの曲順ですよね。僕だけの考えだったら、この並び順にはしていなくて。「Winter Beat」のあと、僕なら「ウララ」かなんかを持ってきてたと思う。アップテンポの曲が来たら、さらにアップテンポの曲をいくつか続けないと気持ちが収まらないっていうのはライブでも感じていましたから。でも制作のスタッフから「本当に推し曲と言えるものをしっかり前に持ってこよう」とアドバイスをもらって。アップテンポな曲のあとにいきなりバラードが来てデコボコするけど確かにそのほうが強い印象を与えられるんじゃないかと僕も思って、やったことがなかったんですが、振り切ってそうしてみたんです。それが見事に的中したかなと。
──大正解だと思います。
よかったあ。安心しました(笑)。
──1stアルバム「FEARLESS」は攻めた感じのコアな曲とオーソドックスなポップスがいいバランスで同居していましたよね。今回もまたじっくり聴かせるバラードがある一方、賑やかなロックナンバー「Buntline Special」やエレクトロっぽいアプローチの「キロン」みたいな曲もあって、その塩梅が非常にいいなと。初めからそのあたりは意識して作っていたんですか?
いや、作っていきながらですね。「Winter Beat」と「まっしろ」ができて、既発曲もこのくらい入って……というのが見えてきたときに「あ、これならロックでふざけることができる余地があるな」とか、「これまでビッケブランカとしてはやらないと言ってたEDMっぽいこともやる余地があるな」と思って、そういうのも作ってみた。だから、状況を見ながらって感じでした。で、ほぼ全曲できあがったくらいの段階でアルバム名を「wizard」にしようと。
──そのアルバム名について聞きますが、なぜ「wizard」に?
作り始めの頃に思っていたのが、2枚目だからビッケブランカの頭文字の「V」を2つくっつけて「W」で始まるタイトルにしたら面白いだろうなと。誰も気付かんだろうけど笑える、みたいな気持ちがなんとなくあって。で、いろんなタイプの曲ができあがっていく中で、今回もまた多様でジャンルレスだけど、そういう“つかみどころのなさ”は正義なんだと言いたくなった。そこにこそ価値があるって自分で思いたいと言うか。圧倒的な多様性の正義。それを示す言葉がないかな?と探しているときに、「wizard」って言葉を見つけたんです。「魔法使い」って意味で、形容詞として「魔法の」って言うときも使う言葉で。あと別の意味として「天才」を示す言葉でもあるらしいんですよ。それもなんかいいなと思って(笑)。「genius」だとアレだけど、「wizard」くらいだったらちょうどいいかと。
──なるほど。さすがに自分で「genius」と言うのは控えたと(笑)。
そんなヤツの音楽、誰も聴きたくないですよね(笑)。
──ちなみに、表題曲「Wizard」のナレーションで「男のくせに魔女を名乗ってるやつがいるんだってさ」というくだりがあるでしょう。
はい。wizardというのは男の魔法使い。でも“こいつ”は自分のことをwitch(=魔女)と言ってるわけです。男なのに。
──つまり、ジェンダーレスであるということもここで匂わせている。
そう。そこはちょっと意識的に入れたところがありますね。男のくせに魔女。LGBTという言葉が最近よく使われますけど、まあそういう捉え方もできるし。僕は女性のような声で歌ったりっていうこともしてきてますからね。
──そんなこの1曲目「Wizard」がまず大きな物語の序章として非常にいい役割を果たしていますよね。1stアルバムの1曲目「FEARLESS」は「スター・ウォーズ」のような宇宙規模の物語のイントロダクションにふさわしい“大げさ感”があったけど、今回は童話っぽい始まりと言うか。
おとなしいと言うか、優しい感じですよね。前回の始まりは語りとサウンドだけでしたけど、今回は歌も歌ってる。すごく気に入ってるんですよ、この曲。wizardって言葉に引っ張られてできた曲なんですけどね。でもその言葉を引っ張ってきたのは、アルバムのほかの曲たちっていう。「Wizard」が最後にできた曲なんです。
1年の集大成っていうところに価値を見出した
──今作には「ウララ」「Black Rover」「夏の夢」「WALK」と既発曲が4曲入っています。それによってアルバム全体を組み立てるのが難しくなった面はありましたか? それとも組み立てやすくなった?
どちらかと言えば、組み立てづらいところはありました。「Winter Beat」と「まっしろ」が冬の曲なので、そこに春の曲(「ウララ」)と夏の曲(「夏の夢」)をどう入れ込んだら違和感がないかなと初めは考えて。でも考え方を変えて、この1年の集大成っていうところに価値を見出したら、別になんの違和感もないじゃないかと思えた。無理に話をつなげなくても平気だなってところに着地できたんです。
──なるほど。結果的にちゃんと季節が順に巡っていくのを感じられる構成になってますよね。冬に出るアルバムだから冬の曲が続いて、5曲目「ウララ」で春がきて、ロック曲が続く中で夏のような明るさを帯びてきて、8曲目「夏の夢」で夏になって。
そうですね。で、「キロン」とか「Smash」とか後半の曲でまたなんとなく秋から冬の色を帯びていく。曲を作る中で季節の巡りを考えたりはしてないんですけど、こうして並べたことで自然と四季に沿ったという感じですね。
──ところでジャケット写真にはどうして王冠が登場するんですか?
「まっしろ」のジャケット写真で王冠を被ったから、それに引っ張られて。ずっと王冠を被ってみたいなと思ってたんです。
──それはどうして?
僕の好きなゲイのミュージシャンって、みんな王冠を被ってるんです。エルトン・ジョンも、フレディ・マーキュリーも、ミーカも。だから僕もいつかと思っていて、ここでそのタイミングが来たなと思えたので。
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もう「こぼれちゃうー!」みたいな感じ