ビッケブランカの曲で初めてのこと
──「夏の夢」を挟んで、9曲目は「キロン」。アディショナルアレンジメントとプログラミングをAViA(カルテット.)さんが手掛けていますね。
AViAさんは名古屋で活動している人で、愛知県のラッパーたちとコラボレーションしている曲があるんですけど、それを聴いたら何よりトラックがものすごくカッコよくて、知り合いを通じて知り合って。本当に深く音楽を理解していてプログラミングもできる人だったので、協力してもらったんです。「Lights Out」は1人で完結できるものの最高レベルを目指して自分でプログラミングをしたんですけど、「キロン」はもう1個上のレベルに曲を持っていきたかったので、バックバンドの力を借りるみたいにAViAさんの力を借りた。アレンジは僕がして、音を全部差し替えてもらったんです。次の「Smash(Right This Way)」もそう。ずっとEDMとかエレクトロのシーンで生きてる人だから、どうやったら深みのあるキックの音になるかとか、全部わかってるんですよ。
──なるほど。それゆえ、エレクトロなサウンドが本当に耳に心地いい。
そうですね。僕は3年前くらいからこういうジャンル……EDMとかエレクトロが好きになったんですけど、以前のEDMとかってもうちょっと下品だったと思うんです。サビになったらわかりやすくジャーンって鳴るような。でも、ある時期以降のはもうちょっと抑えめになって、オシャレになってますよね。メロディとも自然に融合していると言うか。それで、これならビッケブランカとしてもできるなと思って。だから「キロン」は音サビがメインになっているんです。それによって実はビッケブランカの曲で初めてのことが起きているんですけど、わかります?
──なんだろう……。
繰り返しがないんですよ、この曲。今までの僕の曲にはサビで同じ言葉を2回言わない曲が1つもありません。必ず何かの言葉を繰り返している。でもこの曲はただの1つの文章。音サビがメインになった構成なので、言葉を繰り返す必要がなかった。この様式は、そういう意味で僕にとって新しかったですね。
──なるほど。続く「Smash(Right This Way)」もAViAさんとがっつり組んでますが、こっちは完全な英語曲ですね。
ちゃんと添削もしてもらった英語の歌詞で、サウンドはAViAさんの力を借りて、本気で世界基準の曲を目指し作ってみました。世界的にいいとされるエレクトロミュージックは、やっぱりメロディもいいものなんですよ。だから当然そこも意識しつつ。
──アヴィーチーなんてまさにそうでしたもんね。
そう! アヴィーチーはその頂点だと思っていて、メロディが素晴らしい。彼がシンガーソングライターだったとしてもいい結果を出してたと思う。その頂を目指して作った曲ですね。
──そういう意味でこの曲にしても「キロン」にしても、エレクトロを用いていながらオーガニックであるという。新境地ではあるけど、決して奇をてらってはいない。
はい。ちゃんと歌ものでありたいので。
命を燃やして、一生懸命生きなきゃってことですね
──この曲のあとに「WALK (long ver.)」が来て、最後は「Great Squall」。「FEARLESS」収録の「THUNDERBOLT」に匹敵する壮大な曲で、アンセム感もありますね。
いろんな曲でいろんなことを散々やったあと、最後は天災に力を借りる傾向が自分の中にあるってことがわかりました(笑)。雷とか豪雨とか、自分ではコントロールできないものに頼る。どうですか、このスケール感! ドラムのタム回しがこの曲の特徴で、それによって壮大感を出しました。ミックスも「壮大でありたいから、ローの部分を聴きやすくしないで、ブウォーンって音のままでいかせてくれ」って言って。で、歌詞はそれに引っ張られるようにできていって「キバに落ちたガゼルより 飢えたチーターは長く苦しむと言う」というフレーズも出てきて。ガゼルのほうがかわいそうだと言うけど、本当はどっちがかわいそうなんだってことですよ。そういう事実が世界にたくさんあるんだっていう要素を並べることで、ファクトをメッセージに変えるというやり方をここではしていて。
──そのうえで「本当のこと教えよう」と歌い、最後には「命がけだ」とズバっと言う。それはつまり、ビッケが命がけでポップスという大海原を越えて行こうとするその覚悟の表明のようにも思えるわけで。
はい。命を燃やして、一生懸命生きなきゃってことですね。音楽業界にいる1人のミュージシャンとしてではなく、1人の人間の心情としてこのことを言いたかったんです。
──今まさにそういうモードなんですか?
なんなんでしょうね。今目の前の壁を打ち破りたいとかそういうことではなくて、もともと自分に染み付いてるんでしょうね、そういう感じが。
これ本心で言ってることですから。完璧に書いておいてください(笑)
──「Great Squall」、さらにはこのアルバムができあがった今、自分の進むべき道みたいものが以前よりも明確に見えてきたところはありますか?
うーん。どうですかねえ。僕、「FEARLESS」ができたときのインタビューで、10年後の話ってしましたよね?
──してましたね。
10年後にもしもまだ音楽を続けているとしたら、もっと力を抜いてアコースティックだけでやってると思うって。ベン・フォールズが初めの頃はバンドでガーっとやってたけど、歳を取って静かに歌うようになった、あの感じみたいに……って言ったと思うんですけど。
──今は?
今はよくわからなくなりました。で、わからなくていいんだって完全に確信してるところがありますね。起きたことによって変わっていくんだから、目標を定めれば定めるほどやれることを狭めてしまうことにもなる。だから今は水のようにいられたらいいんだろうなと思ってます。これからどんなことが起こるんだろう、どんな曲が生まれるんだろう、っていうことしかないですね。
──「こういう売れ方をしたい」とか「こういう場所でライブをしたい」とか、そういった具体的な目標はあまり持たないと。
“売れる”っていうことの定義って人によっていろいろあると思うんですけど、前にタモリさんがどこかでこんなふうに言ってたんです。「自分にできることのちょっと上の仕事が来続けることを売れるって言うんだ」って。それを聞いたとき「ああ、その通りだな」って思って。2年前の自分にできることは、ガッキーのドラマの挿入歌を歌うことではなかった。でも着実に自分のできることのレベルが上がっていって、ありがたいことに今はいろいろなお話をいただけるようにもなった。
──“着実に”ってところが肝心なんですね。
そうです。着実にやれることをやっていって、その中で僕に協力してくれる人がどんどん増えていってる。だから僕はそういうたくさんの人の中心で動くのにふさわしい人間、価値のある人間でいなきゃってことをひたすら思ってます。もちろん音楽を向上させることを大前提として、ですよ。これ本心で言ってることですから。完璧に書いておいてください(笑)。
──了解です!(笑) それにしても今年はシングル「ウララ」に始まり、映画やドラマの主題歌、挿入歌があり、そしてこのアルバムに見事着地してと、本当に充実の1年になりましたね。
はい。ホントに充実してたっす。また来年はどういうふうになっていくのか。わからないから楽しみだし、決めないほうがいい結果につながるんだろうなって、そう思うんですよね。
- ライブ情報
LIVE WIZARD TOUR 2019 -
- 2019年1月12日(土)宮城県 darwin
- 2019年1月14日(月・祝)北海道 札幌PENNY LANE24
- 2019年1月19日(土)福岡県 DRUM LOGOS
- 2019年1月20日(日)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2019年1月25日(金)愛知県 DIAMOND HALL
- 2019年1月26日(土)大阪府 BIGCAT
- 2019年2月10日(日)東京都 Zepp Tokyo
- ビッケブランカ
- 愛知県出身の男性シンガーソングライター。美麗なファルセットボイスとピアノが紡ぎ出すポップチューンを武器に各地のイベントなどに出場し話題を集める。2014年10月に1stミニアルバム「ツベルクリン」を発売し、2015年8月には2ndミニアルバム「GOOD LUCK」を発表。2016年10月にミニアルバム「Slave of Love」でavex traxよりメジャーデビューを果たす。2017年1月にワンマンツアーを行い、各公演のチケットはソールドアウトに。7月に1stフルアルバム「FEARLESS」をリリースし、8月には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017」や「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2017 in EZO」といった大型フェスに出演した。9月からワンマンツアー「FEARLESS TOUR 2017」を行い、2018年には4月にメジャー1stシングル「ウララ」を発表。8月に2ndシングル「夏の夢 / WALK」をリリースした。11月には2ndアルバム「wizard」を発売した。