Vaundyが初アニメタイアップ「王様ランキング」オープニングテーマに込めた願い (2/2)

「アニメの主題歌もできます」

──ちなみに、「裸の勇者」はCDとしては約2年ぶりのリリースになりますね。

そうなんですよ。「strobo」以来で、しかもEPという。

──率直な疑問として、配信リリースされた曲と未発表のタイアップ曲だけでアルバムが出せるくらいの曲がすでにあると思うんですけれど。

あります(笑)。でも、今アルバム出しても全部が詰まったものになっちゃって、結局ミックスジュース的なものになるだけだなと思っちゃって。「strobo」もそれに近かったんですけど、あのマルチ性のある内容は名刺代わりとしてはバッチリだったんです。ただ、ここからはどうもそうはいかないぞと思っていたので、今回は「アニメの主題歌もできます」と示せるCDにしようと思って。聴いていただいたらわかると思うんですけど、「HERO」も「二人話」もアニメやマンガの主題歌っぽさを意識して作りました。

──「HERO」はどういうふうに作った曲なんですか?

「HERO」は、僕が好きなマンガを読んでいるときに作った曲で。だから勝手にイメージして主題歌を書いた感じ(笑)。敵のキャラクターたちが主人公になるところを読んでいるときに「そうだよな、ヒーローに対してそう思っているよな」っていう、悪者たちの葛藤みたいなのが見えて。ちょっと悲しそうにしているアンチヒーローたちの話を、「HERO」というタイトルで作ったんです。「二人話」はゲームのキャラクターソングとして書き下ろしていて、戦う少年の話で、悲哀を持ったキャラクターだったから、それのキャラソンとして「二人話」を書いたんです。「HERO」も「二人話」も、想像している絵が全部“2D”だったんですね。その2曲を出せるのはここしかないタイミングだと思ったので、このCDに入れて。「裸の勇者」に未発表曲を2曲足すことによって、Vaundyの新しい一面を見せるEPになったという。アルバムもいずれ出ると思うんですけど、とりあえず「Vaundyはこういうこともできるから聴いてみてよ」という感じ。

──「おもかげ -self cover-」はmilet×Aimer×幾田りら名義でリリースされた曲のセルフカバーですが、これに関してはどうでしょう?

これは実験に近いですね。Vaundyとしても形にしておいたほうがいいだろうと思って。ただ原曲そのままのオケで歌うのは違うなと思ったんです。あれは、miletさん、Aimerさん、幾田りらさんのものだし、あの状態でキラキラしてるから、もっと新しい角度で面白いことをしようと思って挑戦したサウンドになっています。僕、昔から小田和正さんを聴いていて。ああいうクラシックポップが好きなんです。山下達郎さんのサウンドもそうだし、海外だと80年代のヒューイ・ルイスとかもそうなんですけれど、The Beatlesを経て「売れる音楽ってなんだろう」と追求してきた人たちが作っているポップスって、すごく美しいなと思う。「おもかげ -self cover-」はそれをもう1回僕がやったらどうなるのかなという実験の場でもある曲です。こういう曲はもっとこれから出していくと思います。

Vaundy第2フェーズへ

──楽曲制作についての話をいろいろ聞いてきたんですが、ライブに関してはどうでしょうか。昨年以降、ライブの場数を重ねてきたことで、Vaundyとしてのアーティスト性やクリエイティブは変わってきましたか?

けっこう変わりましたね。曲を作るときに、バンドメンバーと一緒にやってカッコよくなるかを考えるようになりました。「まずメンバーを喜ばせたい」「プレイしていて楽しいなと思ってもらえるような曲にしたい」ということも脳裏によぎるようになったし。音源とは全然違うものを作るというコンセプトでライブをやっているので、バンドメンバーが探求したくなるような曲がいいなと考えたりもします。もちろんポップスを作るということも考えるし、タイアップが多いので映像に合わせた音楽を書かなきゃとも考えるし。考えることがとにかく増えている感じです。

──なるほど。全方位を見るようになった。

うん、全部ですね。僕以外を楽しませることをちゃんとクリエイティブに含めるようになったのは大きいかもしれない。それこそ「東京フラッシュ」とか「不可幸力」の時期は、まず自分を楽しませないとダメだと思っていたんです。自分が楽しくないものは出さないと決めていた。最初の頃は自分を前向きにするために、自分のことを好きになるために音楽をやっていた。でも、今はそれに加えて、ちゃんとほかの人が聴いても面白いし、ちゃんと結果に結び付いて、みんなが僕を好きでいてくれて、ここからの成長が楽しみに思ってもらえるような音楽を作っていきたいと思うようになりました。

──最初の頃は自分を好きになるために音楽をやっていた、というのは?

もともと、自分のことが好きじゃなかったんです。人も好きじゃなくて。誰のことも信用できないし、すごい怒りんぼで、すぐキレてたんですよね。自分なんてすごくないと思っていた。自分の将来を考えたときに歌が得意だったこともあって音楽をやるようになって。僕にとってはもの作りがトイレに行くのと同じぐらい生活の一部だったんです。癒しだったし、それをすることが自己表現につながっていた。前は自分を好きになるために曲を作っていたので、人のことを考えている余裕なんてなかったんです。自分のモヤモヤをちゃんと形にしてアウトプットするために曲を書いていたから「不可幸力」みたいに最後のサビでそのモヤモヤを解決するものが多い。今はその頃とは全然違いますね。Vaundyの第2フェーズに入っていると思います。

人生100年じゃ足りない

──この先に関してはどうでしょう? それこそ10年先ぐらいまで見据えて、やれること、やりたいことがたくさんある感じなのでは?

10年どころじゃないですね。何十年も先まで考えています。やりたいことがいっぱいありすぎて、人生100年じゃ足りないくらい。僕、いつか映画監督になりたいんです。でも好きな映画を作るためには自分で投資しないといけないし、そのためにはもっとがんばらなきゃなとか。最近は、自分でやるより人に託したり、そのために自分が教えたりするのも面白いと思っていて。新しいアーティストを育てるための場所を作ったりすることもやってみたいですね。

──教えることにも興味が広がっているんですね。

そうですね。僕は今も音楽塾ヴォイスに通ってますし、まだまだ僕自身学ぶことがあると思っているけれど、マルチアートとしてのポップスをちゃんと教えてくれる学校や場所がないと思っていて。それを突き詰めて、僕自身も勉強をしながら、もの作りにおいて、並列で考えることの大切さを教えることをやってみたいなって。

──Vaundyさんとしては、音楽というのはあくまでチャンネルの1つなんですね。

僕にとって音楽というのは、“並列”のうちの1つのクリエイティブでしかないと思っているんです。スマートフォンがある時点でそうじゃないですか。写真が撮れて、録音ができて、動画も撮影できる。これが普通になっている時点で、もの作りする人たちは絵も描けなきゃいけないし、動画も作れなきゃいけないと思います。僕も映像を作りますし、そのための音楽として曲を作っているところがある。たまたま音楽のほうが得意だったからここ2、3年は音楽をちゃんとやってきたけれど、写真や映像もそれと同じレベルまで引き上げていこうと思って勉強しています。

──確かに、Vaundyさんのような制作環境やメディア環境があることが当たり前に育ってきたデジタルネイティブの世代からすると、いろんな分野の表現をある程度自分でやれるというのが今後は普通のことになっていくかもしれないですね。ただ、そのうえでチームで共同作業のクリエイティブをしていくための価値観や方法論みたいなものを教える人はまだいないかもしれない。

だから、俺がやりたいんです。第一人者になりたい。教えられたら面白いなって最近思ってます。でも、そんな暇は全然ない。

──ははははは!

それが一番大きいですね。僕はDTMはデザインだと思っているんです。デザインとしての音楽、デザインとしての映像、デザインとしてのビジュアルというふうに考えると全部一緒なので。マルチデザイン科を作りたいし、その分野がもっと広まれば日本のアート全体のクオリティもさらに上がると思っていて。例えばイラストレーターやアニメーターが普通に音楽を作れるようになったら、アニメのクオリティもさらに上がると思うんです。そうすれば自然と利益が出るようになって、もっと面白いことをしても大丈夫な世の中になっていく。だから僕はマルチアートをもっと進めていくべきだと考えているんです。それを体現するためにがんばっている感じです。

Vaundy

──本当にやりたいこと、やらなきゃいけないことがいっぱいありますね。

時間が全然足りないですね。だからどんどん次のことを考えていて。僕はまだ勉強する側なので、いろんなことを見て全力でインプットしてるところでもありますし。例えばMVの制作現場で「このカメラの何mmのレンズ使っているんだ」みたいに確認したり、「スタッフさんとはこうしゃべるんだ」とか「こうやって役者さんとコミュニケーション取るといい感じになるんだ」というのを見てたり。あとは、こんなお菓子が置いてあるんだ、とか。

──そんなところまで見てるんですね。

「こういうの出すと現場の人たちが和むんだな」とか、そういうところも勉強してます。アーティストというよりはクリエイターに近いのかもと最近は思いますね。この先はこのマルチアートが世界に通じるものだと示したいし、世界規模にしていきたい。Vaundyの作品をグローバル化していくのが、僕にとっての生きる意義だし、やらなきゃいけないことだと思っているので。ビルボードチャートにも乗りたいし、カンヌに作品を出したりもしたい。生き急いでるのかもしれないけれど、やりたいことがいろいろありすぎて、ずっと時間が足りない状態です。

ライブ情報

Vaundy one man live tour at 日本武道館

  • 2022年9月8日(木)東京都 日本武道館
  • 2022年9月9日(金)東京都 日本武道館

プロフィール

Vaundy(バウンディ)

作詞作曲、楽曲のアレンジ、アートワークデザイン、映像制作のセルフプロデュースなども自身で担当する現役大学生・21歳のマルチアーティスト。2019年6月にYouTubeに楽曲を投稿し始める。2019年11月に1stシングル「東京フラッシュ」、2020年1月に2ndシングル「不可幸力」を配信リリース。以降もコンスタントに楽曲を発表し、音源やミュージックビデオがSNSを中心に大きな話題となる。2020年5月に1stアルバム「strobo」、2020年11月に初のアナログ盤「strobo+」を発表。そのほかラウヴのグローバルリミックスアルバム「~how I'm feeling~(the extras)」に参加するなど、日本のみならず海外に向けての活動も積極的に行っている。2022年2月にテレビアニメ「王様ランキング」の第2クールオープニングテーマ「裸の勇者」を収録した新作をリリース。9月には初の東京・日本武道館公演を控えている。