Vaundyが初アニメタイアップ「王様ランキング」オープニングテーマに込めた願い

Vaundyが新作CD「裸の勇者」をリリースした。

2020年5月にデビューアルバム「strobo」を発表して以降、2021年には「花占い」をはじめ数々のドラマやCMのタイアップ曲を手がけ、計7曲を配信リリースしたVaundy。中でも11月に発表した「踊り子」は小松菜奈が出演したミュージックビデオも話題となりスマッシュヒットとなった。そんな彼の新作は、現在放送中のテレビアニメ「王様ランキング」第2クールオープニングテーマとして書き下ろされた表題曲に加え、未発表曲2曲とmilet × Aimer × 幾田りら名義で発表された「おもかげ(produced by Vaundy)」のセルフカバー「おもかげ -self cover-」を収録した意欲作となっている。

旺盛に活動を繰り広げ、今や音楽シーンの新世代を代表する存在になったVaundyだが、この「裸の勇者」が初のアニメタイアップとなる。音楽ナタリーでは「裸の勇者」のリリースに合わせてVaundyにインタビュー。新作の制作背景だけでなく、アニメを愛して育ったルーツから、アニソンへの強い思い入れ、音楽にとどまらないクリエイティブ全般へのみなぎる意志、将来の壮大な野望まで、21歳のマルチアーティストの実像をたっぷり言葉にしてもらった。

取材・文 / 柴那典

「これ、絶対跳ねる」確信を持って世に放った「踊り子」

──去年からたくさんのタイアップが続いていて、まずシンプルにいい曲が次々と出てくるなあと思ってます。

ありがとうございます。

──アルバム「strobo」以降の活動を振り返って、どんな実感がありますか?

勉強に近い感じはありますね。気持ち的には「大学生の間はいただいた仕事を全部やりたい」というスタンスです。だから、去年はアウトプットがあの量になったんです。僕、型に合わせて自分をハメていくのが好きなんですよね。自分の中にあるいろんなピースから好きな形を選んで枠の中に入れてみる。それがタイアップとアーティストの関係だと思っていて。それを研究してきた感じです。最初は「こんな感じかな?」って考えながら1つのタイアップに対していろんな曲を作っていたんですけど、最近は以前よりジャストなものを出せるようになったと感じていて。そういう意味では、自分の成長を少しずつ感じてはいますね。

──昨年11月には「踊り子」という曲もリリースされましたが、あの曲は特に大きな反響を巻き起こしましたよね。そこにも手応えはありましたか?

僕としては、「これがみんなにいいと言ってもらえたら、何か変わってくるだろうな」とは思ってました。J-POPの方向性も変わってくる気がするくらいに思っていて。あの曲は一昨年くらいに作った曲で、たまたまベースの練習をしているときに思い付いたんです。適当に歌っているときにメロディが自然な形で出てきたので「これ、絶対跳ねる」と直感して。「不可幸力」とか「東京フラッシュ」、「napori」を作ったときも同じ感覚だったんですけど、メロディが浮かんでから完成するまでの速さが僕の中では曲のよさの基準になっているんです。「踊り子」は僕が全部の楽器を弾いてDTMで作って、1、2日ですぐに完成した。僕の中では一番いい曲だと思っていたんで「どこで出そう?」と思っていたところ、結果いいタイミングで出せた。10年後も残る、すごくいい作品になったと思います。

──「踊り子」が受け入れられたことで可能性が広がった感じがあったんですね。

ありましたね。これが受け入れられるなら、やれることが増えるぞと思ってました。それがちゃんと評価されたので、これから出てくる曲も変わってくるかもしれない。それこそ、これからこういう曲を出す人ももっと出てくるだろうし。今まで「踊り子」のような曲がなかったわけではないですが、うまくポップスに昇華できたのかなとは思ってますね。ただ、今はもっと進化できると思ってますし、どんどん次のことを考えてます。

売れるってカッコいいことなんだぜ

──新曲の「裸の勇者」は「王様ランキング」のオープニングテーマとして書き下ろされた曲ですが、Vaundyさんは前々からアニメのテーマ曲を書きたいということをいろんな場で言ってましたよね。

そうですね。僕、小学校の頃からジブリが大好きだったし、中学校の頃にはアニメのイベントに行ったり、グッズを買ったりしている男の子だったんですよ。そのときからアニメの仕事をしたいと思ってて。中学生のときは歌える声優になろうと思っていたんです。その頃に「どうやらインターネットで歌を発表できるぞ」ということを知って、中学2年生から歌い手の活動を始めて。そこから高校2年生ぐらいまで歌い手をやって、そのあとに曲を作るようになった。それであるとき、人の曲を歌うより自分の曲を歌ったほうがいいという思考になったんですね。そういうこともあって、僕の中のもの作りの根底にはアニメがあるんです。

──アニメというカルチャー自体から大きな影響を受けてきた。

そうですね。だから、ただのアニソンじゃなく、映像に準じたアニソンが好きだし、今回はそれを書いたつもりでいます。

──「裸の勇者」を聴いて、アニソンらしいアニソンというものを解釈したうえでVaundyなりにアップデートしているような感じがしました。

アニソンって、ノンジャンルなんですよ。ロックもヒップホップもメタルも、いろんなジャンルの音楽がある。で、それ以外のところにポップスというカルチャーがある。アニソンには日本の魅力がたっぷり詰まっているんですよね。だから、そこをもっとポップス化できないかなっていうことを昔から思っていて。やっぱりアニメありきのものなので、どうしても一般の人からはどこかで「アニソンだよね」と一線を引かれてしまう可能性がある。そういう状況の中で僕がどうするべきかを考えていたんですけれど、今回、いいタイミングで「王様ランキング」のオープニングテーマを作らせていただくことになったんで、Vaundyを通してアニソンをポップスにしようと思ったんです。誰が聴いてもカッコよくて、でもちゃんとアニソンで……アニメを観てから曲を聴いても、曲を聴いてからアニメを観ても味が濃くなるような曲にしようと気合いを入れて作ったのが「裸の勇者」です。

──アニソンをポップス化する、というのは?

大衆化するということですね。ポップスというのは面白いジャンルだと思うんです。大衆向けのものを作るというのは、僕の理念の中にある大きなテーマで。大衆受けするって、マイナスに取られることもありますけど、それはマイナスじゃないんだよ、すごいことなんだっていうのを体現しようと思っているんですよね。とても研究し甲斐があるし、それがちゃんと数字になってお金になる。お金が絡むのは汚いってみんな錯覚するんですけれど、僕はそれはすごいことだと思うんです。売れるってカッコいいことなんだぜと思ってもらえるようなアーティストになりたいですね。

アニメファンの人たちが喜ぶ存在になれたら

──いろんなアニソンを聴いて研究してきたと思うんですけれど、どんなところにアニソンらしさやアニソンならではの魅力を感じますか?

魅力はやっぱり絵が絶対に付いて回ることですね。僕、そもそも映像と音楽は絶対に切り離せないと思ってるんです。だからアニメには音楽が必要だと思うし、音楽にも絵が必要だから、その型にはめて作る。普段は曲に合わせて映像を作るんですけど、今回は絵に合わせて曲を作っていったんです。それはめちゃめちゃ勉強になったし、楽しかったですね。あとはアニメの制作陣とのチームワークも必要ですよね。アニメを作っている製作陣に「この曲、カッコいい! 俺たちもカッコいい絵を作るわ」という気にどれだけさせられるかというか。そういうワクワクがリスナーや視聴者に伝わっていく。そこがアニソンの面白さではありますね。

──この曲のミュージックビデオは「王様ランキング」の本編映像を使ったものになっていますが、サビの「愛してしまったんだ」のところでストップ&ゴーになる瞬間とか、曲の抑揚がアニメの絵の動きとシンクロするように作られている。このあたりも、アニソンと日本のロックが作ってきた疾走感やカッコよさのポイントだと思います。

そうですね。僕は、日本の音楽の面白いところって、ある程度硬い音でわりと全部の音が棒状なんですけれど、そこにボーカルで緩急を付けていくところにあると思ってるんです。歌謡に対してのストイックさがすごいと思う。海外の音楽は別のうまさなんですよ。リズムとか打楽器から始まった音楽が主流で、例えばアメリカでメインストリームのラップとか、リズムからカッコよさが生まれているんですよね。でも日本の音楽はそうじゃなくて、リズムがない音から始まる音楽。だから、のぺーっとしているように聞こえると言う人もいるし、海外の音楽のほうがグルーヴがあると批判する人もいて。でも、僕としてはその中間に面白い部分があるはずだと思っているんです。歌謡とリズムを使った面白いものを追求していくと、海外の人には真似できない音楽が作れると思う。そのいい感じのバランスみたいなものが、アニソンと邦ロックにはあると思います。

──特にゼロ年代以降、ロックバンドのカッコよさとアニメの絵が動くときの気持ちよさの焦点がびしっと合っているようなアニソンがたくさん生まれてきましたよね。そういうものを小さな頃からルーツとして聴いて育ってきたというのが、Vaundyさんにとっては何より大きかった。

そうですね。僕はアニメ好きなのでそのことは知ってると自負しているし、誰よりもカッコいいアニソンを作れる自信があった。自分がもともといた場所で考えていたことがやっと使えると思って、本気で向き合いました。あと、初めて手がけるアニソンが「王様ランキング」でよかったと思います。それでもやっぱり緊張はしたし、King Gnuが第1クールのオープニングだったからプレッシャーはすごかったですけどね。「第1期のほうがよかった」って絶対に言われると思いながら、でも負けないように真逆を行ってやろうっていうのも込めて、疾走感で攻めた。物語の展開が激しくなったり、キャラクターたちのぶつかり合いが激しくなったりしていくので、そこに合わせてこういう曲になった。それが功を奏したのか、みんな受け入れてくれてよかったです。いい形で出せてうれしいですね。

──アニソンのカッコよさを示せる楽曲になった、と。

「アニソンをVaundyに頼めばカッコよくしてくれる」と思ってもらえるくらいの第一歩にしたいと思ってましたね。もちろん「王様ランキング」のおかげでいろんな人が認知してくれたと思うんですけど、もともとそういう場所にいたので、もっとアニソンをやりたい。「このアニメの主題歌をVaundyがやってくれたらめっちゃいいよね」と言ってもらえるような、アニメファンの人たちが喜ぶ存在になれたらうれしいです。