なんでこんなに歌うの楽しいんやろ?
──「One stroke for freedom」の歌詞には「やってきたことの歴史と同じくらい 何をやらなかったかを大切にしたい」という言葉もありますね。
うん。それを、何をやってきたかと同じくらい大切にしていきたいなと思う。
──同じくこの曲の歌詞の中には、「才能だけじゃ努力に勝てない 努力なんかじゃ楽しむ奴には勝てない」という一節もあります。一般的によく使われるのは「努力に勝る天才なし」という言葉で、とかく努力することの重要さが強調されがちですけど、つらい努力を重ねても、それを楽しみながらやれている誰かには敵わない。それは体験的に身をもって感じていることですか?
うん。今の自分たちは楽しんでやれているということだけじゃなく、ほかのアーティストに対して自分がそう感じてきた、という過去もあるんです。10年ぐらい前に日本武道館でMr.Bigを観たときに、初めの5曲ぐらいは普通に楽しかったんですけど、途中から次元の違いみたいなものを感じさせられたんですね。ポール・ギルバートのギターのすごさとかも、努力や練習の賜物というより、もう楽しくて楽しくて仕方なくてこうなってるんだろうな、と思えて。当時、いろんなことについて努力しながらスキルを上げていこうと懸命になってた自分としては、そこに気付いた瞬間、彼らの存在をすごく遠く感じてしまって、あのハードなロックを聴きながら僕は涙を流してたんです。今ももちろん努力はしてますけど、楽しいという気持ちが年々深まってきて、「なんでこんなに歌うの楽しいんやろ?」ってマジで不思議に思うくらい歌うことにハマってるんですよね。それもこの2年間、時間がありすぎたことで、追求する時間がたくさんあったからでもあって。19歳ぐらいからボーカルを始めてるんですけど、正直、わりと自信なく歌ってた時期もけっこうあったんですね、これまでは。でも今は、自信があります。すげえ好きですね、自分の歌が。
──自信が付いた理由は、技術面での具体的なことではなく、楽しんで気持ちよく歌えているかどうかみたいなところにあったんでしょうか?
いや、もちろん技術的なものもあります。結局、歌いたいように歌えるようになってくると、どんどん楽しくなってくる。そうなってくるともっと聴かせたくなるというか。コロナ禍の最初の頃、時間が空き過ぎて「じゃあちょっと歌の練習でもしてみようかな?」ってことになって、YouTubeに上がってる歌唱法の動画とかを70本ぐらい観たりしてたんですよ。自分に合うものと合わないものを見極めながら「あ、これは確かに歌いやすくなるかも」というのを見つけながら、今まで自分が得てきた声帯の知識みたいなものを足していったりして。めちゃくちゃ面白かったんですよね、それが。ちょっとしたことでこんなにうまくなるんやって思えたりもしたし。他人が聴いてもわからないかもしれないけど、自分ではめちゃめちゃ違いがわかるんですよ。正直、自分の声に飽きかけてきてたところがあったんです。ただ、今も声の周波数としては同じままなんだけど、そこでの力の抜き方というか声帯の使い方1つで聴き心地が自分の中でよくなってきていて。なんか好きになってるんです、あんなにも聴き飽きてた自分の声が(笑)。
──どの曲のどの部分とは指摘しにくいんですけど、今作では低域にあたる部分での声の響き方が違ってきているように感じました。
そう、間違いなくそこなんです。低いところで歌うのがめっちゃ苦手やったんです。でも、そこでの声の聞こえ方が違ってきていて。そういうのがもう楽しくて。1つひとつの武器が磨かれてきてるというのが。
「あの日」という言葉が指す日
──ところで、今回のアルバムに関する基本的なことをここまで聞かずにいました。「30」というタイトルが付けられていますが、この数字は何を意味しているんですか?
えーっと、結成からこのアルバムのリリース日までの日数が7869日で、各桁の数字を足していくと30になるんです。まさに自分たちの経てきた20年間は、30年目に向けてのもの、というか。そういう意味でも30という数字がいいなと思って。
──30年に向けての新たなスタート地点、みたいな捉え方もできるわけですね。
もう30年どころか、ずっと延々とやっていくと心に決めてますけどね。
──その「30」の完成に至るまでに先行シングルのリリースなども重ねられてきましたが、そうした曲たちも含め、「これができたときにアルバムとしての作品像が見えた」という瞬間があったとすれば、それはどの曲でしょうか?
それは、やっぱり「EN」ですね。そもそもは完全にライブをイメージして作った曲で。1年前のアリーナツアーに向けて準備していた頃、「メッセージを発信するならMCではなくてやっぱ音楽で」と思って、当時の環境で自分が感じてたものを歌にしたんです。だからすごく形になるのが早かった。確か、8時間ぐらいでできちゃいましたね。ただ、メンバーに聴かせるときは「ここからもうちょっと歌詞もブラッシュアップしていくつもりだし、もっと変わっていくはずだから」とか言い訳してた記憶があります(笑)。というのも僕自身、この楽曲を音源にするのは難しいかなと思ってたんで。
──あくまでライブでメッセージを伝えるためのものだったからこそ、ということですね? とはいえ、メッセージばかりではなくメロディ自体もすごく印象的で、2020年末のライブで初めて聴いたとき以来、ずっと耳から離れずにいたんですが、「これはメロディから作った曲なのかな?」と感じていました。それぐらい、ふと口をついて自然に出てきたメロディという印象があって(「EN」は2020年12月に行われたアリーナツアー「UVERworld ARENA LIVE 2020」で初披露された)。
うん、うん。実際そういう感じでしたね、あのサビのメロディは。
──近年のシングルの曲などでは、トラックの面白さや音像の今日性みたいなものが重視される傾向が強まってきていて、カッコいいトラックにどんな印象的なメロディを乗せるか、みたいな作り方になってきていたように思うんです。それに対してこれは、ちょっと逆の作り方でもあったのかな、と感じさせられました。
今にして思えば前作の「UNSER」を作った当時、「この次のアルバムはどうなりそうですか?」という質問をされて、僕は「UNSER」をもっとブラッシュアップした感じの、さらにサウンドを重視したものでいいと思うと言ってたんです。で、さらにその次のアルバムは言葉を重視したものになるだろうと。でも、そのときに克ちゃん(克哉 / G)がふと「次のアルバムは、その半分ずつがいいんじゃない?」と言ってきて、「そうか! そんな単純なところに答えがあったか!」と気付かされて(笑)。だから「EN」については完全に言葉のほうに振り切ってもいいかな、という作り方です。つまり「AVALANCHE」とかとは完全に真逆の発想で作ってますね。
──だからこそ、いわば両極端なものがアルバムの中に混在しているわけですね。その「EN」の歌詞は「あの日から突然 何もかもが変わってしまった」という始まり方をするわけですけど、今はどうしても「あの日」という言葉からはコロナ禍の始まりが連想されます。実際、そう捉えていいんでしょうか?
そうですね。僕、実は「あの日」という言葉自体にちょっとした思い出があって。デビュー当時ぐらいの曲の歌詞で「あの日」って言葉を使ったときに、当時の偉い人が「『あの日』という言葉は弱くない? 『あの日』ってどの日なんだ、ということになるし」みたいなことを言ってきたんですね。「Colors of the Heart」のときだったかな。僕としては、いや、ここは「あの日」としか言いようがないでしょ、という気持ちだった。そうやって「あの日」にケチをつけられた過去があったんだけども(笑)、今、ここにきて、「あの日」という言葉が指す日がみんなの中で一致する状況があるわけじゃないですか。だからそこから書き始めていったし、そういう意味でもこの曲が持ってるパワーってすごいな、と自分でも思っていて。過去にも、奇跡的に自分の想像を遥かに超えた曲というのはあったんですね。「7日目の決意」とか「THE OVER」、「PRAYING RUN」とか「ALL ALONE」とか。どれも作り終わったときに「これ、俺が作ったん?」と思うぐらい自分自身に響いた曲なんです。「EN」も、完全にそういうものですね。
──しかもそんな曲の中で「俺達にとって音楽はビジネスなんかじゃねぇ! これが人生の全て!」とまで言っている。何年か前だったらこの言葉は決意表明みたいに聞こえたんじゃないかと思うんです。しかしここでは、実際にそういう気持ちで続けてきたということを歌っているわけですよね。しかもこれからもそれは変わらない。
うん。やっぱ同じワードでも、いつ、誰が歌うかって重要やなというのはここ十何年ずっと思い続けてきたことだし、そこにはきっともうみんなも気付いてると思うんですね。音楽をやってない人たちでさえも。そういった意味で言うと、こうしてUVERworldを20年やり続けてきて、なんかやっとこういう言葉を響かせるのに足るものを積み重ねてこられたのかな、と思うんです。