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映画「恋に至る病」公開記念! 木村承子監督×アーバンギャルド対談

それってアーバンギャルドじゃないですか!

──天馬さんの感想はどうでしたか?

松永 世界が人工的なんですよね。それって多分、1980年代以降に生まれた人の感性だと思うんですけど。生々しさが一切ないプラスチックな世界観だから、エロチックなはずのシーンもあまり卑猥な感じがしないですよ。

浜崎 あ! それ私も言おうと思ってたのに忘れてた! 私が言ったことにして!

松永 (無視して)それは映画的に言うと森田芳光監督の「ときめきに死す」や市川準監督の「ノーライフキング」のような、人間が物のように描かれる1980年代映画の作風に通じるなと思ったんです。10年後にビザール映画みたいな位置付けをされるタイプの作品かなって。音楽が8bitだというのも関連してますよね。音がリアルじゃなく人工的っていう。

木村 ああ。

松永 僕らが9月に出した「さよならサブカルチャー」ってシングルのロゴも、「恋に至る病」のロゴと同じくドットなんですけど。こういう、ファミコンとかプラスチックな世界に懐かしみを感じるのって我々の世代以降に生まれた人の感覚だと思うんです。監督のアートワークや、音楽を含めた全体的な世界観って、そういう「人工的な懐かしさ」をすごく刺激するんですよね。

木村 人工的にしたいって気持ちはありますね。わざと振り付けっぽい動きにしたり、デフォルメさせて生っぽさをなくしたり。生身が怖いのかな?

インタビュー写真

松永 男性器を触って「ピコーン」という音がするのは、心象風景と具象風景が混ざってるんだと思うんです。生々しさを排除した表現で生々しいものを描いてる。僕はこの映画、ロゴのデザインも相まって楳図かずおの「わたしは真悟」を思い出したんですよ。あのマンガで描かれた「ロボットが人間の愛を見出す過程」をちょっと思い起こしましたね。あと、全体的にテトリスみたいな四角い世界観なのに、登場人物は全員「円」を別の読み方にしたツブラ、マドカ(斉藤陽一郎演じる高校教師)、エン、マル(染谷将太演じる、エンに好意を持つクラスメイト)っていう名前だってことも、「わたしは真悟」でロボットがだんだん「丸」になろうと、地球になろうとするみたいな感じで。

──主人公・ツブラも生々しくない存在になりたがってますよね。

松永 防腐剤を飲んでね。でも実際は生々しい部分が出てる。

浜崎 そうそう。だから文章だけであらすじを読むと、ものすごく生々しい映画なのかなって思っちゃう。

──確かにストーリーだけ聞くとドロドロした話みたいだけど、実際に観るとポップで明るい印象なんですよね。

松永 それってアーバンギャルドじゃないですか! 歌詞だけ読むと救いようがない感じだけどメロディは明るいって、まさに「病的にポップ」のことじゃないですか!(笑)

性器を交換されたとき、人はどんな反応をするのか

インタビュー写真

木村 「ノーライフキング」は松永さんが去年オススメしてくださってから観て好きになりました。何が好きだったかって、塾にパソコンが並べられてるところがきれいに切り取られてたとこ。そういう法則があるものが好きなんですよね。例えば「恋に至る病」なら、テトリスやってるときに団地の外観が映るんですけど、ゲームっぽくなるように窓枠とかの四角形を意識して撮ったり。エンとマルが出てくるシーンはできるだけシンメトリーになるように撮ろうとか。日常にあるものをなるべく人工的に見せたかったんです。

浜崎 天馬もシンメトリー好きだよね。

松永 好きですね。いつもアルバムのジャケットは僕がデザインしてるんですけど、毎回シンメトリーじゃないと嫌なんです。だからアー写をジャケにするって嫌なんですよね。シンメトリーにならないから。

浜崎 写真撮影のときも必ず真正面から撮られるんですよ。だから「恋に至る病」のポスターも天馬が作ったのかと思った(笑)。

松永 僕はロシア正教の時代からロシア・アバンギャルドに至るまでロシア美術が好きなんですけど、「イコン」っていうキリスト教絵画が上下左右など、構図の均一さを大事にしてる傾向があって。

木村 私は「ZOO」が好きなんです。自分の中でルールを1個決めて、それに沿って作る。

松永 「ZOO」ってピーター・グリーナウェイの映画ですか? いいですよね。あの人も完全に絵画的に映画を作ってるというか、ストーリーよりも構造的な部分を優先してるところがありますね。たぶん木村監督は劇中の人間関係について「あの人に対してこの人はこういう話し方をする」って、カードゲームのルールのように緻密に作ってるんじゃないかな。僕も台本を書いたりしてたんですけど、あまり関係性を考えて作ることはないんですよ。でも「自分対他者」みたいな他者がたくさんいる状況って、さっきよこたんが話してたような女の子同士のグループの関係性に似てるなと思って。

木村 あー。

松永 あと「このシチュエーションにこういう人が入って来たらどういう動き方をするか」っていう考え方は、ある意味演劇的でもあると思います。

木村 そうなんですよ。「違う人が投入されたらどうなるか」って、同じシーンを2回繰り返すこととかすごく多いです。

松永 監督ってマンガも描かれてるじゃないですか。ひょっとしたらそれも関係あるのかなと思って。

木村 そうですね。カップリングをわかりやすく見せたいっていうか。

谷地村 確かに、キャラクターがものすごくデフォルメされてるからその関係性がわかりやすい。

松永 演技はしっかり付けたんですか? それとも自由に動かしたんですか?

木村 いっぱい話し合いました。特に性器を交換されたときにどんなリアクションするのかなんて誰も知らないんで。

松永 そりゃそうですね!(笑)

浜崎 やっぱり私だったら、まず最初に見るのかな?(笑)

木村承子監督作品 映画「恋に至る病」/ 2012年10月13日公開

  • 映画「恋に至る病」
「恋に至る病」ストーリー

高校の生物教師・マドカ(斉藤陽一郎)は極端に他人との接触を避けて生きている。授業中でも生徒の顔をまともに見られず、私語や居眠りさえ注意できない。そんな彼を教室の机からただ1人うっとりと見つめるのはツブラ(我妻三輪子)。"腐らない体"を手に入れるため、防腐剤入りの食物しか口にしない彼女は、死んだあとで誰からも忘れられてしまうことを恐れている。

マドカのことが大好きなツブラは彼の癖とその意味を観察してはノートにイラストで描きとめ、あまつさえマドカと性器を交換することまで妄想していた。「誰もいらない先生と、誰かが欲しいあたしが混じったら、きっと丁度いい」——。 ところがある日、マドカはツブラから強引に肉体関係を迫られ、その拍子にツブラにはマドカの男性器が、マドカにはツブラの女性器が付いてしまう。

パニックに陥ったマドカはツブラを連れて今は誰も住んでいない実家にとりあえず避難。そこへ密かにツブラを慕うクラスメイトのエン(佐津川愛美)と、彼女を追ってきたマル(染谷将太)も駆け付け、奇妙な共同生活が始まる。ツブラとマドカは元のカラダに戻れるのか、そして4人の恋の行方は……。

アーバンギャルド ニューアルバム「ガイガーカウンターカルチャー」/ 2012年10月24日発売 / UNIVERSAL J

アーバンギャルド ニューシングル「さよならサブカルチャー」/ 2012年9月19日発売 / 1260円 / UNIVERSAL J / UPCH-5769

アーバンギャルド

プロフィール画像

「トラウマテクノポップ」をコンセプトに掲げる5人組バンド。詩や演劇などの活動をしていた松永天馬(Vo)を中心に、ジャズや現代音楽を学んできた谷地村啓(Key)、メタルへの造詣が深い瀬々信(G)を迎えて結成され、2007年にシャンソン歌手だった浜崎容子(Vo)、2011年に鍵山喬一(Dr)が加入した。2009年3月に初の全国流通アルバム「少女は二度死ぬ」を発表し、2011年7月にはユニバーサルJからシングル「スカート革命」でメジャーデビュー。楽曲制作のみならずアートワークやビデオクリップ制作のほとんどを松永が自ら手がけ、ガーリーかつ病的な世界観を徹底的に貫いている。2012年には東京・SHIBUYA-AXでワンマンライブを敢行。「生まれてみたい」「病めるアイドル」「さよならサブカルチャー」という3枚のシングルを発表し、10月にはアルバム「ガイガーカウンターカルチャー」をリリースする。

木村承子(きむらしょうこ)

1986年生まれの映画監督。処女・童貞喪失を幻想的に描いた「普通の恋」を武蔵野美術大学在学中に制作し「PFFアワード2009」審査員特別賞を受賞。これにより獲得したスカラシップ(製作援助制度)で完成させた長編デビュー作「恋に至る病」は「第62回ベルリン国際映画祭」フォーラム部門に正式出品を果たし、「第36回香港国際映画祭」では審査員特別賞に輝いた。