話し合いとか一切ないです
──今年は「ユニコーン100周年」ですね。再始動から10年。現在のメンバー編成になったアルバム「服部」から30年、そして最後に川西さんの還暦!
まったく強引だよねえ。100年のうち、半分以上を俺が1人で占めているという。たしか2年くらい前からテッシーが言い出したんですよ。「足したら100になるぞ」って。「足すなよ!」って人にツッコまれたりもしましたけど。
──何か感慨みたいなものはありますか?
早いなあ、とは思いますね。ついこの間、「川西五〇数え唄」を出したばかりという気がする。ただ、実際にはこれといった変化は感じてないかな。若い頃は、自分がこの歳まで音楽を続けているとは想像してなかった。でも今は、それこそ僕より10歳上の矢沢永吉さんを筆頭に、バリバリ活動してる方がたくさんいらっしゃいますからね。長くバンドを続けられているのは幸せだなと。
──3月にリリースした「UC100V」に続き、今回の「UC100W」はなんと今年2枚目のオリジナルアルバムです。さすがに驚いたファンも多かったのでは?
僕も意外でしたよ(笑)。ただ、そのプランを聞いたときは、正直「あ、そう。やる?」くらいのテンションだった。
──へええ。
100周年ツアーの前半と後半の間が、ちょうど3か月くらいポッカリ空いていたし。でもメンバーの間で、夏フェスは暑いのでやめとこうって話になっていたので(笑)。じゃあレコーディングでもしますかと。
──7月4日の武道館ライブでのABEDONさんのMCによれば、その時点では「内容は、まだないよう」とのことでした。で、リリースが10月2日。ちょっと尋常じゃないスピード感ですね。
はははは(笑)。でもまあ、ウチは5人とも曲を書くので、言わばシングルを出す感覚でアルバムができるじゃないですか。2曲ずつ持ち寄れば、「×5」ですぐ10曲になる。だから、そんなにタイトなスケジュールとも感じなかったし。楽しく作業できました。今回むしろ、デザイナーさんとかスタッフのほうが大変だったと思います。アートワークとかもすべて、曲作りより前倒しで進めなきゃ間に合わなかったので。
──そうやって一気呵成にレコーディングした「UC100W」が、これぞユニコーンという楽しい仕上がりになっているところが、またすごいなと。
そうですね。3月に「UC100V」を出したときも、すごくいい内容になったと満足したんですけど、今回の「UC100W」も別の意味で面白いアルバムになったと思う。例えば、民生とテッシーが初めて合作した「7th Ave.」みたいな曲もあるし。作詞が僕で作曲がABEDONという「4EAE」と、その逆パターンの「GoodTimeバレンタイン」が両方入っていたりね。いろんなアプローチができている。
──「UC100V」との差別化について、一応、メンバー間で確認したりは?
いや、話し合いとか一切ないです。「UC100V」のときと同じで、メンバー行きつけの店を借り切って、それぞれ持ち寄ったデモ音源をランダムに聴いただけ。「次は誰々のいきます」みたいなアナウンスもなくて。メシ食って呑みながら適当に流して。ひと通りかけ終わったら「じゃっ!」って感じ(笑)。次にみんなが顔を合わせるのはスタジオ。
──曲選びとかは誰がするんですか?
それも全員で適当にね。そもそも曲を選んだりプリプロをしたりという段階が、今の僕らにはないので。とりあえず当日スタジオに行って、誰かが「この曲やりたいんだけど」と言うところから始まるんです。最近は、アンサンブルがシンプルにできているテッシーの曲から手を付けることが多いかな。そうやって1曲ずつ仕上げて、曲数を見ながら「この辺でやめとく?」という感じになって。最後に「じゃあ曲順は?」って話になる。
──それこそ「服部」とか、第1次ユニコーンの作り方とはかなり違う?
真逆ですね。コンセプチュアルな部分とか皆無だし(笑)。でもアルバムとしてはどこか1本、芯の通ったものになる。というのは5人が5人とも、「こういうデモを持っていけばこんな感じになるな」とか、「昨日こういう歌詞の曲を録ったから、こんな歌詞があっても面白いよね」とか、自然に考えられるようになったから。だからバラバラにデモを持ち寄っても、1つのカラーを出せるようになったんじゃないのかな。そこは再始動の前とはまったく違うところです。
──それって、この5人の関係性じゃないと成立しない作り方ですよね。
無理ですね。みんなけっこう歳なので、誰か1人でも欠けたらそこで終わるような気がする(笑)。ウチらがほかのバンドと違うのは、メンバーが楽器を演奏してるだけじゃないんですよ。それぞれにそれ以上の役割があるから、誰が欠けても穴を埋められない。どこかのパートが欠けたから、別の人を入れようという発想にはならない。
──メンバーが全員、いろんな楽器を演奏するマルチプレーヤーだということだけじゃなくて。5人が集まったときだけに生まれる何かがあると。
そうそう。だからもはや、バンドのプロフィールに担当パートが入っていないですから。例えば僕の場合、強いて表記するなら「川西(ドラムが一番上手に叩ける)幸一」くらいの感じで(笑)。ほかのみんなもそうだと思う。
死ぬまでバンドを続けることが大事
──5曲目「4EAE」は川西さんが作詞、ABEDONさんが作曲を担当した美しいバラードです。タイトルはどういう意味なんですか?
えっとね、これは「FOREVER AND EVER」の略なんです。歌詞の内容を表しているんですが、そのまま書くのは照れくさいなと思って。
──「いつも共に歩いていた」ですから大切な人に先立たれてしまった人の歌ですよね。
うん。いなくなったとしても、魂でつながっているからまたいつか会えるね、という。そういうのって、僕は大事だと思うんです。ここでは男女をイメージした詞にしてますけど、もしかしたら演者である僕らとお客さんの関係も同じかもしれない。普段はまるで離れているけれど、ライブの瞬間はつながって共感できるという意味ではね。
──歌詞と曲、どちらが先にあったんですか?
これは曲が先ですね。レコーディング中に言葉のイメージが湧いてきて、「ABEDON、これ僕に書かせて」と手を挙げました。ABEDONは、たぶん自分じゃこういうロマンチックな詞は乗せないですよね。それこそ照れちゃうから。でも僕が書けば「まあ、これは川西の世界観だからさ」って普通に歌える(笑)。
──なるほど。
逆に「GoodTimeバレンタイン」は、詞も自分で付けるつもりだったけれど、ABEDONが「俺に書かせて」と言ってきてくれました。ABEDONの詞って2タイプあると思うんです。すごく深遠なことを言ってるものと、思いきり言葉遊びに走ったものと。「GoodTimeバレンタイン」は完全に後者ですよね。僕が書いてたら、やっぱりこうはなっていない。すごく軽いタッチで歌えて、気持ちよかったです。
──川西さんがボーカルで、ほかのメンバーがドラムスという組み合わせもありますね。前作「UC100V」だと「気まぐれトラスティーNo.1」のABEDONさんでした。今回は6曲目の「BLUES」で、民生さんが作曲とドラムを担当しています。
2人ともドラム、うまいですからね。デモ音源の段階で、自分で叩いてきますし。だからこそ、逆に苦労する部分もあってですね。
──え、そうなんですか?
EBIくんとテッシーの曲はレコーディングに入ってからも楽なんです。打ち込みでリズムを入れてくるから、それを僕なりに解釈して叩けばいい。だけどABEDONと民生のドラムは、独自のグルーヴがすでにしっかりあるので。「このままでいいじゃん」と思うことが多々ある(笑)。もちろん2人とも、川西ならきっとこうするだろうなということも見越してデモを作ってくるので。その信号をある程度受け止めたうえで、当然デモを超えなきゃいけない。これはけっこう大変です。まあ結局は、メロディをしっかり体に入れたうえで、自分なりの感覚を出すってことに尽きるんですけど。
──作詞とボーカルに専念した「BLUES」はどのように?
あれは、民生がデモを持ってきた段階で「川西さん、歌詞書いて」と言ってきたんです。特に注文はなかったけれど、たぶんこれは還暦になる決意とか、そういうものを書けってことかなと僕なりに解釈して(笑)。それでこういう詞になりました。
──「猪突猛進 数えきれぬビートを刻んできたよ」「45年経って候(そうろう)」とか、独特の言い回しですね。なんでまた「候」なんですか?
僕、時代物が好きなんです。「おもしろきこともなき世をおもしろく」という高杉晋作の有名な辞世の句とか、すごくグッとくる。60歳の心境を表すのなら、そういう“侍魂”をしっかり入れようと思って。「候」を使ってみました(笑)。まあ、あと何年できるかはわからないけれど、死ぬまでバンドを続けることが大事だとは思っているので。そういう感じも滲ませられればいいかなと。
──日本の話芸とブルースやラップが混ざった独特な歌い回しですが、何かイメージしたものはあったんですか?
民生のデモを聴いたとき、左とん平さんの「とん平のヘイ・ユウ・ブルース」を思い出したんです。そこは多少、影響受けてるかもしれませんね。
ユニコーンは僕にとっては最高に楽しい働き方
──ちなみに川西さんは、現在のユニコーンの中で、ご自分がどんな役割を担っていると思いますか?
そうですねえ、自由奔放に生きる規範、みたいな感じじゃないですかね。まあ、60歳の川西がああなんだから、俺たちもこれでいいか、みたいな(笑)。
──ははは(笑)。最近のインタビューでは、「歌うのが楽しくて仕方ない」ともおっしゃってました。
楽しいですね。テクニックは置いておいて(笑)。昔は嫌いだったんですよ。ウチのバンド、歌がうまいのがゴロゴロいますから。でも7年くらい前にテッシーとEBIくんと電大というバンドを始めてから、否が応でも歌わなきゃいけなくなって。コーラスを入れたり、ハモったり3人でユニゾンしたりしてるうちに、すっごく楽しくなってきた(笑)。
──最後にもう1つ。「ユニコーン100周年」で掲げられている「働き方改楽 - なぜ俺たちは楽しいんだろう -」というスローガンは、もともとABEDONさんの口癖だそうですね。川西さんはなぜ、ユニコーンはこんなに楽しいんだと思いますか?
うーん……結局、みんないい加減じゃないからかな。ユニコーンというバンドの形態で表現してることって、傍目にはユルそうに見えるでしょう。だけど、そのユルさを出すのが実は難しい。5人ともすごく責任感があって、たぶん表に見えないけれど努力家なんです。だからこそ力が抜けないし、一緒にいると疲れるんですけど(笑)。そういうやつらとバンドができていることが、僕にとっては最高に楽しい働き方だなと。